特別企画

風景写真家・木村琢磨さんに聞く「秋の自然撮影」/紅葉や星空など作品のポイント解説

OM SYSTEM OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO/82mm(35mm判換算)/(1/200秒・F8.0)/ISO 200

9月に入り、まだ暑さは残りつつもどことなく“秋の気配”が感じられるようになってきました。屋外での写真撮影もしやすくなる季節です。今年はどこに出かけて写真を撮ろうかと、計画を立てている最中の読者も多いことと思います。

今回、岡山県を中心に風景写真を撮影する写真家・木村琢磨さんに、「秋の自然風景撮影」をテーマにインタビューしました。紅葉など、秋ならではの被写体も多い季節。木村さんの作品をみながら、そのポイントについて解説していただきます。この記事を読んで、「よし、写真を撮りに行こう!」と思っていただけると幸いです。

木村琢磨

1984年、岡山県生まれ。写真・映像制作スタジオ はち株式会社代表。地元広告写真スタジオで経験を積んだのち独立。主に地元岡山県を被写体に「写真」の言葉にとらわれない写真表現を追求。カメラ雑誌への寄稿やフォトツアーやイベントでの写真講師も務める。

風景写真家にとっての“秋”とは?

——9月に入りこれから季節が変わっていくところですが、風景写真家の木村琢磨さんにとって「秋」とはどんな季節でしょうか?

ぱっと見でわかりやすいのは色の変化ですよね。個人的に赤や黄色といった好きな色味が「秋」にはあります。春と同じように思われがちですが、植物の表情の変化も大きいため私は秋の方が好きなんです。

春と違って、秋は葉っぱが木から落ちていく。そうして徐々に見えるようになってくる木のディテールが好き。色味や植物の変化など、わかりやすく“鮮やかな写真”を撮れるのが秋だと思っています。

あとは気候。夏の撮影ももちろん楽しいのですが、長時間撮影しているとやはり体力的に消耗は激しくなります。秋は行楽シーズンともいわれますが、外出するのにちょうどいい、適温で撮影を続けられるという意味でも一番撮影しやすい季節だと思います。

——星景撮影などはしやすい季節なのでしょうか?

たとえば天の川といえば夏のイメージがありますが、実際には秋にも見えているんです。夏と比べて気温が下がってくるので、空気のコンディション的にも秋の方が撮りやすくなってきます。

私が活動している岡山県は星の綺麗なスポットが多く、天文大国と呼ばれることもあります。秋から冬にかけて撮りやすく、そして星がきれいに見えるようになっていきます。アプリなどを使わなくても、肉眼で十分良くわかるくらいに星が見えるんですよ。

風景撮影にマイクロフォーサーズ

——木村さんは風景撮影にマイクロフォーサーズ機を愛用しているとお聞きしました。どんな点が気に入っていますか?

一番大きなメリットは「小さくて軽い」ということ。撮影する場所は必ずしもアクセスのよい場所ではありません。カメラが小さくなるだけで身体の負担が軽減でき、例えばそれによって移動時の負担も減らせるため、撮影地に到着した時の余力の残り方も変わってくるのです。

私の場合は、撮影地で歩きながら気になったものを撮っていくというスタイル。そうなると、画素数であったり、被写界深度であったり、高感度耐性といったことよりも、軽快にシャッターが切れるということが重要になってきます。マイクロフォーサーズ機は、景色を楽しみながら撮影できる機材だと思っています。

広告撮影の仕事だと他のセンサーサイズのカメラを使用することもありますが、趣味の撮影であったり、自然を楽しみながら撮りたいといったときに、機材が負担になってしまうと意味がありません。かといって画質が悪いかというと全然そんなことはなくて、マイクロフォーサーズ機でも、写真を楽しむという意味ではオーバースペックといえるほどの実力があると思っています。

作品①:彩度を調整して“記憶色”を再現

OM SYSTEM OM-5/M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6Ⅱ/18mm(35mm判換算)/(1/6秒・F5.6)/ISO 200

——こちらはどこで撮影した写真でしょうか。

豪渓という場所です。紅葉の名所の1つになっています。撮影時期としては紅葉の終わり頃。本当であればもっと前のピーク時に撮影に来る人が多いと思いますが、私はどちらかというと、逆に他の人が見なくなった時期に撮りに行くことが多いです。

冬の兆しが見えているシーズンが好きですね。葉が落ちることによって、紅葉が上から下に、足元へと変化していく。それから先ほど話したように木のディテールがシャープになってくる。私にとっていいとこどりの季節なのです。

この写真を撮ったときの天気は雨や曇りでした。ピーカンだとハイライトが強すぎて色が飛んでしまう。僕の場合はなるべくピーカンよりかは日が傾いている、もしくは完全に曇りか雨の日に撮影に行くことが多いです。

あと私の作風の特徴でもあるのですが、画面に空を入れないようにしています。曇りの日に空を入れると、白が目立ってしまう。最近は空を全部切ってしまって、画面の中に隅々まで被写体を埋めたいというブームが自分の中で来ています。そうなるとパンフォーカスとの相性がよい。曇りの日はシャッタースピード遅くなりがちですが、マイクロフォーサーズだと大きなF値でも被写界深度が深いのでシャッタースピードを稼げるという利点もあります。

——赤色が濃くはっきりとしていて印象的です。

OM SYSTEMを使う理由の1つでもあるのですが、アートフィルターという機能が付いています。風景写真で使う人は少ないのですが、私は撮影のうち半分くらいは使っているんです。

その中でポップアートというフィルターをよく使っています。単純に言うと彩度をあげて撮影する機能です。本当は目で見るとここまで赤くはないけれど、目で見たものをそのまま撮りたいというよりは、記憶色として「自分はこのくらい強く見えました」というのを再現したいと思いました。

彩度を上げていくと起こりうる問題として、色の飽和があげられます。OM SYSTEMのポップアートは、ぎりぎり飽和しないレベルで赤を再現してくれています。ぱっと見でやりすぎかな、と見えることもありますが、データでみるとちゃんと情報として色が収まる限界を攻めてくれるチューニングになっていて、風景写真との相性もいいと思っています。特に秋は、黄色とか赤色の発色がよくなるので、この季節にぴったりのアートフィルターだと思います。

作品②:観光地で意識すること

OM SYSTEM OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO/132mm(35mm判換算)/(1/500秒・F5.6)/ISO 200

——次は街中の光景でしょうか。

倉敷の美観地区で、観光地としても定番の位置から撮影しています。これもポップアートを使いました。12月に撮影したものでして、例年より紅葉のシーズンが遅かった年でした。

観光地でこういう光景を切り取るときには、一般の人がなるべく映らないように意識しています。なるべく無人になるタイミングを狙っていますが、なかなかそうもいかないことがあります。例えばこの写真も、実は人がいるんだけれども、柳の葉っぱで隠したりと目立たないように工夫しています。

まず一番に何を撮りたいか。この場合は船。船のシャッターチャンスがベストのタイミングを狙っていて、その中でもなるべく人が目立たない瞬間を切り抜く。そうした時、シャッターラグの少ないカメラであれば、より自分の意図したタイミングでシャッターを切りやすくなりますね。

——先ほどの写真とは違い、黄色が印象的です。

黄色をさらに引き立てるためにポップアートを使いました。これを例えばサードパーティの現像ソフトで彩度を立ち上げようとすると、色のコントラストがなくなってきやすく、べったりとした黄色になってしまう場合があります。ポップアートは諧調を残しながら彩度をあげられる。そういった部分も気に入っている理由です。

ただし、本来は人が入っているときに使うと顔が真っ赤になってしまうことがあります。ギリギリのところでそうならないように、ホワイトバランスを微調整したり、露出を若干ハイキーにして色を飛ばしたりしています。

例えば先ほどの1枚目の写真では、露出をアンダーにすることで色ノリが良くなって赤が引き立っている。ちょっとした露出の変化で、同じ赤でも色味が全然変わってきます。風景撮影だとシャッターチャンスに余裕があることが多いので、色々と露出を変えながら撮影してみると良いと思います。

作品③:色で奥行きを表現

OM SYSTEM OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO/68mm(35mm判換算)/(1/640秒・F5.6)/ISO 200
※手持ちハイレゾで撮影

——次は縦構図で滝を写し取った写真です。

これは神庭の滝というところです。ここは紅葉のピークの時には人も多く、日当たりの時間が限られているなど、意外と撮影しにくい場所だったりします。この写真についても右下には影が掛かっている状態です。完全に日があたっている状態だとべったりしすぎてしまうし、かといって斜光で狙えるような場所でもなく、立体感を出すのが難しいスポットなのです。

そうした時に私が考えるのは、「色で立体感を出せないかな」ということ。あえて一番目立つ黄色が滝の手前に、赤が奥側にある部分を切り取って、色で奥行きを出すという工夫をしています。

この撮影時は紅葉のピークを過ぎた時期で、周りはけっこう葉が落ちた状態でした。それが逆に黄色と赤を目立たせ、立体感を演出できたと思います。これもポップアートを使って色を鮮やかな印象にしています。

——機材はOM SYSTEM OM-1とM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROの組み合わせですね。

このボディとレンズを組み合わせた協調制御による手ブレ補正は非常に強力で、これがあれば何でも撮れるなと思っています。この写真は「手持ちハイレゾ」で撮影しています。

滝がすごい流れて見えますが、シャッタースピードで言うと1/640秒なので、本当ならここまで流れません。しかし12枚の写真を合成する手持ちハイレゾでは、常に動いている滝が残像のように写ることで、スローシャッターのように描写できるのです。

手持ちハイレゾはダイナミックレンジが通常の撮影より広くなったり、ノイズが出にくくなったりとけっこうメリットが大きいのです。手持ちハイレゾで5,000万画素、三脚ハイレゾで8,000万画素まで増やせるので、風景写真では非常に有用です。被写体が風で揺らめくときなど、カメラ側でうまく合成できず失敗することもあるのですが、合成する前のRAWのシングルデータが記録されているというのはありがたいポイントです。

作品④:星を流して…

OM SYSTEM OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO/16mm(35mm判換算)/(60秒・F4.0)/ISO 400
※ライブコンポジットで撮影

——次は星空の写真です。

ここは美星天文台というところで、星空スポットとして全国的にも有名な場所です。夜は灯りを空に向けないようにしようと町で取り組んでいる場所でもあります。それこそ肉眼で天の川が見れてしまうくらいなので星空も撮りやすく、初心者の方でも、まずはここで撮影してみてほしいなというくらいの場所です。

天文台の上の画面中央部に、斜めに天の川が走っています。わざと星を少しだけ流すように撮影することで、ぱっと見で星がわかりやすくなるようにしています。

シャッタースピードは60秒。OM SYSTEM OM-1の「ライブコンポジット」機能を使い、複数枚の画像をカメラ内で合成しているので、実際には60秒×5カット、計5分くらいの星の流れ方になっています。

——星の流れに引き込まれそうになります。

北極星を右側に配置しているので、星の流れの軸が画面の右端にあるという状態になっています。なので画面周辺の方が星の流れが大きい。天文台のドームと、星の流れ方の重なりが面白くなりそうだなと思い、構図を調整しました。

画面中央にある天の川に吸い込まれていくような、そんな感覚が得られる写真になったと思います。これより流しすぎると天の川がわかりにくくなってしまいます。

レンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROで、そこまで明るいレンズというわけではありません。星を流す場合は、実は明るいレンズは必要なくて、キットレンズでも星空は撮れるのだということを、こういう写真を見て感じてもらえたらよいなと思います。

作品⑤:星をぼかす表現

OM SYSTEM OM-5/M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO/40mm(35mm判換算)/(20秒・F1.4)/ISO 1600

——続けてもう1枚、星の写真です。こちらは少し違った描写になってます。

こちらはうかん常山公園です。手前に見えるのは石の風車というもので、風が吹いていると回るんです。それにフォーカスを合わせて、背景に天の川を入れこんだという1枚です。

先ほどとは違い、このようにくっきりと点の星を撮るときには、明るいレンズの方がよかったりします。ここで組み合わせているのはM.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROです。絞りをF4にして感度をISO 1600にすることで、シャッタースピードを20秒に抑えています。

この作品では手前に被写体を置いたことで、背景の星を少しぼかしています。それによって星をいい感じに膨らませることが出来ました。

——石にあたっている赤色は何ですか?

街灯が当たっているんです。これもポップアートで撮影していて、そのため赤色が面白い印象になったと思います。

よく見ると、星の1つ1つもいろんな色をしているんです。この写真では天の川を引き立たせるため、若干青に寄せるようにホワイトバランスを調整しています。それに対してポップアートを組み合わせたことで、赤・白・青と綺麗に色が残ってくれたなと思います。

岡山の魅力とは?

——ところで、木村さんは岡山県のご出身ですよね。撮影地としての“岡山の魅力”はどんなところにありますか?

元々は旅行が好きで、実はあまり地元には興味がなかったんです。写真を始めた時は、京都などの観光地ばかりを撮りに行っていました。で、広告写真の会社に勤めていた時、一年間を通じて岡山県を撮るという仕事を担当しました。ほぼ365日、岡山県を撮る仕事です。

いざ地元に目を向けると、「岡山県、スゴイいいところいっぱいあるじゃん!」と驚きました。海があって山もあり、雪も降る。滝の数も多いし、雲海だって見られる。岡山から出なくても、風景写真がいくらでも撮れるのだと気が付きました。実際に西日本の中ではいいポジションに位置していると思います。

それからは岡山県をメインに撮影しているのですが、もう十何年撮っていてもまだ底が見えない。いつか撮り切れるのだろうか。私の場合県外でも多く撮影をしてきましたので、他を知れば知るほど地元の良さがわかって来たような気がします。地元を好きになると自分の知らなかった岡山の姿が次から次へと見えてくる。写真家として、そこに自己表現を投影していけば面白い作品になるのではないかと思い、撮り続けています。



今回、「秋の自然風景撮影」についてお話を聞かせてくれた、木村琢磨さんが講師を務めるフォトツアーが開催されます。

イベント情報:“写真家とめぐる美宙の星空フォトツアー”

開催日

①2024年10月5日(土)~10月6日(日)
②2024年10月19日(土)~10月20日(日)
③2024年11月16日(土)~11月17日(日)
※旅程はいずれも1泊2日

参加費

3万円
※新大阪駅発着、大人1名1室

本誌:宮本義朗