特別企画

40mm単焦点レンズの素晴らしさを伝えたい!【第5回】

OM SYSTEM「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」編

「40mm単焦点レンズの素晴らしさを伝えたい!」というわけで始まった本連載。今回はOM SYSTEMのの20mm単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」のレビューをお届けします。

本レンズはマイクロフォーサーズシステム規格に準拠しており、焦点距離20mmを35mm判に換算すると40mm相当に。「PRO」の名がつくとおり、試写していると「おおっ!」となるほど、気合の入った40mm相当の単焦点レンズでした。

外観・仕様

「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」は、2021年12月に発売されたマイクロフォーサーズ規格の20mm(40mm相当)単焦点レンズ。

特徴的なのは、本レンズが開放絞り値F1.4の大口径レンズであり、その仕様を満たすためでしょう、ある程度の本体サイズを許容しているところにあると思います。とは言っても、OM SYSTEMですので、仕様から考えれば、存外に小型・軽量に仕上がっています。いずれにしても、紹介してきた40mm(相当)単焦点レンズのなかでは、最も明るいレンズになります。

また、本レンズは同社の高性能ラインであるM.ZUIKO PROシリーズに属するレンズでもあります。日常使いに最適な気軽な40mm(相当)単焦点レンズでありながら、高性能ラインの高い描写性能が与えられ、それでいて使いやすいサイズ感(と価格)に抑えてくれているという、大変ありがたいレンズなのです。

操作系・使用感

本レンズの最大径×長さは63.4mm×61.7mm、質量は247gとなっています。第6回までいろいろな40mm単焦点レンズを見てきましたが、高性能な大口径レンズというワリにはそれほど大きなサイズ感の違いはない印象です。パンケーキスタイルのレンズは別モノとしても、大口径F1.4でこのサイズ感はかなり小さく軽いと言えるのではないかと思います。

実際のところ、試用していても、大口径レンズを使っていることを特に意識する必要がないくらいに、軽快な使い勝手でした。それでいて、低ISO感度でより高速なシャッター速度を得られますし、被写界深度の深いマイクロフォーサーズシステム規格では弱点とされがちな大きな背景ボケを得られるのですから、素晴らしいの一言です。

ただ、M.ZUIKO PROシリーズとしては少数派になるかと思いますが、AFからフォーカスリングをスライドさせるだけで、即座にメカニカルなMFに移行できるマニュアルフォーカス(MF)クラッチ機構が省略されているのは残念なところかもしれません。

MFクラッチ機構がないだけに、操作系はやはり非常にシンプルです。幅広で微妙な操作のできるフォーカスリングが備えられている以外に、他のスイッチ類やボタン類はまったく搭載されていません。しかし、他の40mm(相当)単焦点レンズの多くも同じようにシンプルな操作系を採用しているだけに、これが40mm(相当)単焦点レンズの操作系として最適解であるのかもと、考え直してみたりしないでもないです。

花型のレンズフードが同梱します。わりと素朴な造りのレンズフードですが、遮光効果は高いので、積極的に装着して使っていきたいと思います。

作例

オリンパスの系譜をそのまま受け継ぐOM SYSTEMのPROシリーズレンズだけに、切れ込み過ぎではないかと思えるほどの鋭い解像感が持ち味。なのですが、大口径らしい大きく柔らかなボケ味が加味されて独特の臨場感が産み出されるところが本レンズの描写傾向だと感じました。「OM-1」の階調再現性により、本レンズの持ち味が一層引き立てられています。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO/絞り優先AE(1/8,000秒、F2.8、−0.7EV)/ISO 200

道路に面した趣のある土蔵を撮ってみました。絞り値はF4.0ですが、マイクロフォーサーズ規格ですので、これで35mm判換算にしてF8.0相当の絞り効果が得られます。おかげで古い建物の細部までを高精細に捉えることができ、不思議と建物が醸し出す歴史までも写し撮れたかのような、得した気分になりました。何気にシャッターを押しただけなのに、妙に満足感が高いのは、本レンズの描写性能と40mm(相当)の画角が、上手い具合にマッチしたからなのかも知れないです。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO/絞り優先AE(1/200秒、F4.0、−1.3EV)/ISO 200

撮影に出かけた神社で催される「難追い神事」で、厄を封じた布の端を奉納しているそうです。実は筆者が子供のころから見ていた馴染みある風物詩なのですが、それが思い出を汚さず素直に撮れたのですからなんだかジンときました。やっぱり40mm(相当)単焦点レンズの画角はいい!逆光をものともせずに、端正な光景を印象的に切り撮ってくれた本レンズの高性能にも感謝したいところです。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO/絞り優先AE(1/5,000秒、F2.0、±0.0EV)/ISO 200

開放絞り値の作例がない、なるべく撮ろうと努めていたネコの作例がない、というわけでうち愛猫を撮らせてもらいました。OM SYSTEMのレンズは、開放絞り値からの描写性能の変化が少ないことに定評がありますが、本レンズの場合、それがF1.4という大口径から実施されるのですから驚きです。「美しくにじむボケ」というのはOM SYSTEMが謳っているところですが、それにたがわず本当に滲むように溶け込んでいくボケ味に、思わず惚れてしまいそうになります。40mm(相当)単焦点レンズで最も明るい開放絞り値をもつレンズの実力は本物です。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO/絞り優先AE(1/60秒、F1.4、±0.3EV)/ISO 640

まとめ

基本的な描写性能の高さは、もともと定評のあるOM SYSTEMのレンズのなかでも特に高性能で、なおかつ独特の深い味わいがあるレンズだというのが実写した実感でした。それでいて、OM SYSTEMが大切にする機動性の高さ(分かりやすく言うと小型・軽量)を堅持しているのはサスガです。

開放絞り値がF1.4というのは、現行ミラーレスカメラ用40mm単焦点レンズのなかで、最も明るい大口径レンズになります。高性能ラインに属するレンズですので、さぞやお高いお値段かと思いきや、意外にも手の届きやすい価格だったりするのですから、うっかりポチッと逝きそうになります。というより、逝ったらかなり幸せになれるレンズだと思いますよ。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。