新製品レビュー

M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO

コンパクトな“OM SYSTEM”を体現する準標準レンズ

OMデジタルソリューションズが2021年12月に発売した「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」は、マイクロフォーサーズ規格に準拠した単焦点レンズだ。画角は35mm判換算40mm相当で、開放F1.4という単焦点レンズならではの明るさを持つ。

そしてこのレンズは、オリンパスから分かれて別会社となったOMデジタルソリューションズが、新ブランド名『OM SYSTEM』を掲げたのちに発売された最初のレンズでもある。今回はこの「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」を実際の撮影に投入した作品を基に、その特徴と描写についての考察をお送りしたいと思う。

外観

M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROの鏡筒は最大径63.4mm、全長61.7mm、フィルターサイズ58mmと非常にコンパクト。手のひらに収まるサイズ感だ。レンズ単体の質量は247g。レンズ構成は10枚11群(スーパーEDレンズ1枚、スーパーHRレンズ2枚、非球面レンズ2枚を含む)。ZEROコーティングで内面反射を抑えてゴースト・フレアを軽減し、レンズ前玉の表面にはフッ素コーティングを施してメンテナンス性にも配慮している。

またレンズ前玉周辺にはレンズ名などの白文字が書かれていないので、近接撮影時の被写体への文字映り込みの心配もない。

プロユースを想定した「PROレンズシリーズ」に属する本レンズ。外装は金属だ。幅広いフォーカスリングは適度な回転トルクを持ち、MF操作も快適。なお、フォーカスリングを前後させることでAF/MFを瞬時に切り替えられる「MFクラッチ機構」は本レンズにはない。
マウント部。耐久性の高い金属マウントを採用。対応カメラとの組み合わせで高い防塵防滴性能を発揮するため、マウント外周に水滴や埃の侵入を防ぐゴムリングが設けられている。
OM-D E-M5 MarkIIIとの組み合わせ。かつての銀塩一眼レフカメラを彷彿させる姿となる。この状態での重さは実測で約675g。IPX1相当の防塵防滴性能も活かせる、非常に軽量な組み合わせだ。
PEN E-P7との組み合わせ。コンパクトでフラットなデザインのE-P7との組み合わせでも、カメラの高さ(68.5mm)からはみ出さない鏡筒の太さ(63.4mm)なので、見た目的にも収まりが良い。重さは実測で約590g。
PEN E-P7との組み合わせを女性に手にしてもらった。PROレンズのなかでは細身かつ軽量コンパクトなレンズであることから、PENとの組み合わせでもスマートな印象となる。女性の手のサイズでも持て余すことはないだろう。
同梱のレンズフード「LH-61G」を装着。鏡筒のサイズから考えると比較的大きめなイメージとなる。取り付け部にロック機構はない。本製品からブランド名がOLYMPUSからOM SYSTEMに変更されており、レンズ鏡筒だけでなく、フードやキャップのロゴも刷新されている。

絞り値による変化(ボケ)

大口径レンズならではの浅い被写界深度とボケ味を確認してみた。PEN E-P7との組み合わせで最短撮影距離0.25m近くまで近づいて海辺の小さな花を撮影。F1.4、F2.8、F5.6のそれぞれで背景のボケ方とボケ味を見る。

まずはF2.8で撮影した画像をみると、フォーカスが合った箇所はとても解像感が高く花の細かい部分まで描写していることがわかる。またその前後の花のボケ方もとても自然だ。これを基準とする。

F2.8で撮影

次に絞り開放のF1.4で撮影した画像を見ると、ピント位置の前後のボケが大きくなり、背景の岩や海が溶け合っていることが判る。またフォーカスが合った花の描写をよく見ると、芯の解像感はあるものの像の輪郭が柔らかく滲んでいる。

F1.4で撮影

そしてF5.6まで絞って撮影した画像では、フォーカスを合わせた花を中心に解像力も均一になりつつ、背景にもディティールが生まれてきていることがわかる。

F5.6で撮影

OMデジタルソリューションズによると、ボケの周辺に現れる滲みこそがこのレンズの特徴であるという。これまでにも高い解像力を誇ったレンズは多く存在してきたが、このレンズではあえて結像した像の周辺部に滲みが発生するような味付けとすることで、より柔らかな印象の画像を得ることができるようになっているとのことだ。上記の結果は最短撮影距離での撮影であるため効果が極端に現れていることを考慮しても、このレンズは絞り値によって撮影者が望むように描写をコントロールできるものだと言えるだろう。

作品

沖縄県の石垣島にて撮影。35mm判換算40mm相当の焦点距離は、人の目が普段捉える画角に近いとされ、実際にその場で目にした光景に近い画像が得られるレンズでもある。ここでは絞りをF4に合わせて画面全体の解像感を均一に近づけることで、近景の草木から遠景の青い海までを傍観している。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F4・1/2,500秒・+0.3EV) ISO 200

島の公園に植樹されていたアダンの実。あまりの立体感に思わずシャッターを押してしまった。絞りF4での撮影がほどよい立体感を醸し出していると思う。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F4・1/500秒・+1EV) ISO 400

沖縄離島の主な産業のひとつであるサトウキビ栽培は、年末から年初にかけて収穫時期を迎える。南の島の力強い太陽の光を浴びたサトウキビは人の丈を大きく超えて育つ。ここではあえて雲間に顔を出した太陽を直接画面に入れて強い逆光にて撮影を行なったが、このレンズではZEROコーティングの効果により強いゴーストも発生せず、画像のコントラスト低下も最小限に抑えた状態で撮影ができた。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F2.8・1/6,400秒・+1.3EV) ISO 200

島の彼方此方で見かける放牧された羊たち。のどかな風景のなかで草を食む姿にとても癒される。人に慣れているからか、カメラを覗きながら近づいても逃げることなく視線を投げかけてくれたので、羊ポートレートを存分に堪能することができた。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F2.8・1/1,250秒・+1EV) ISO 200

波照間島を訪れ、日本の有人離島最南端の地にて撮影。最南端の碑の脇には島の人々による平和への祈りを象徴した、石積みによる祈念造形物「蛇の道」が設けられている。ここでは、この場所の状況を精緻に伝えるべく、F5.6に絞ることで被写界深度を深めると同時に解像感を高めている。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F5.6・1/200秒・+1.3EV) ISO 200

沖縄離島では冬季でも太陽が顔を出すと一気に空と海の青さが深まる。この気持ちよさを引き出すためにもクリアな描写のレンズは欠かせない。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F5.6・1/1,600秒・+0.7EV) ISO 200

絞りをF1.8に合わせて女性ポートレート撮影。目元にフォーカスを合わせつつ背景も活かせる構図を探しながら撮影。40mm相当の自然な画角でボケすぎない背景を演出できるため、自然な距離感で人物を捉えられる。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F1.8・1/8,000秒・+0.7EV) ISO 200

E-M5 Mark IIIのフォーカスモードを顔認識AFにセット。AFはカメラに任せて、バリアングル式の背面モニターを開いた状態で後ろに歩きながら、歩く女性をローアングルにて撮影。浅い被写界深度での撮影でも顔認識AFがしっかりとフォーカスを合わせ続けてくれた。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F1.8・1/5,000秒・+0.7EV) ISO 200

カメラを砂浜ギリギリの高さに下げて、縦位置でバリアングルモニターを見ながら撮影。絞りをF2に合わせた状態で、フォーカスを女性の目元に合わせつつ、同時につま先にもフォーカスが合う角度を探る。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F2.0・1/2,000秒・+1.3EV) ISO 200

与那国島を訪れ、日本の有人離島最西端の岬に建つ西崎灯台を星空の下で撮影。F1.4という明るいレンズのおかげでISO感度を上げることなく星を点像で撮影できた。灯台の強い光によりフレアおよびゴーストが発生してはいるが、この厳しい条件下での撮影にしては非常によく抑えられていると言える。

E-M1X M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO マニュアル露出(F1.4・15秒) ISO 200

島で人気のカフェにてランチ。瑞々しさを引き出すために最短撮影距離まで近づき撮影。繊細な透明感が美味しさを引き立ててくれる。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F4.0・1/50秒・+1.0EV) ISO 200

穏やかな島の風を受けて揺れる葉。その隙間から振り返った女性を撮影。柔らかな葉の前ボケが優しい印象のポートレートとしてくれた。

E-M5 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO 絞り優先AE(F2.0・1/5,000秒・+0.3EV) ISO 200

画質に妥協なく持ち運べることこそ、最大の強み

今回の実写作例は、沖縄の離島を巡る旅で撮影した作品からピックアップした。これまで高画質かつ明るいレンズとなると、どうしても大きく重い製品となってしまい、持ち運ぶ機材の量に制限がある旅行などでは持っていくかどうか躊躇ってしまうことが多かったが、このM.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROは高い画質をもちながらも非常にコンパクトかつ軽量であることから、撮影旅行のような場合でも積極的に選択することができるレンズといえる。どんなに良い機材であっても結果的に撮影に使う機会が減ってしまっては意味がないからだ。

本レンズの登場は、ブランド名がOLYMPUSからOM SYSTEMに変わっても、マイクロフォーサーズの理念を変わらず継承するという意思表示と捉えて良いだろう。画質に妥協なく、いつでも持ち運べる撮影機材。これこそが写真表現の自由度を高めるアドバンテージではないだろうか。

モデル:夏弥
協力:竹富町世界遺産推進室 / 与那国町観光協会

女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。「人の営みが紡ぎだす日本の日常光景」をテーマに作品制作を行い全国で作品展を開催するとともに、撮影テクニックに関するセミナーへの出演やワークショップ等を開催する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。(公社)日本写真家協会正会員、EIZO公認ColorEdge Ambassador、プロ写真家としてツクモeX.computer写真編集用モデルパソコンを監修