新製品レビュー
M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO
コンパクトな“OM SYSTEM”を体現する準標準レンズ
2022年2月3日 09:00
OMデジタルソリューションズが2021年12月に発売した「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」は、マイクロフォーサーズ規格に準拠した単焦点レンズだ。画角は35mm判換算40mm相当で、開放F1.4という単焦点レンズならではの明るさを持つ。
そしてこのレンズは、オリンパスから分かれて別会社となったOMデジタルソリューションズが、新ブランド名『OM SYSTEM』を掲げたのちに発売された最初のレンズでもある。今回はこの「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」を実際の撮影に投入した作品を基に、その特徴と描写についての考察をお送りしたいと思う。
外観
M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROの鏡筒は最大径63.4mm、全長61.7mm、フィルターサイズ58mmと非常にコンパクト。手のひらに収まるサイズ感だ。レンズ単体の質量は247g。レンズ構成は10枚11群(スーパーEDレンズ1枚、スーパーHRレンズ2枚、非球面レンズ2枚を含む)。ZEROコーティングで内面反射を抑えてゴースト・フレアを軽減し、レンズ前玉の表面にはフッ素コーティングを施してメンテナンス性にも配慮している。
またレンズ前玉周辺にはレンズ名などの白文字が書かれていないので、近接撮影時の被写体への文字映り込みの心配もない。
絞り値による変化(ボケ)
大口径レンズならではの浅い被写界深度とボケ味を確認してみた。PEN E-P7との組み合わせで最短撮影距離0.25m近くまで近づいて海辺の小さな花を撮影。F1.4、F2.8、F5.6のそれぞれで背景のボケ方とボケ味を見る。
まずはF2.8で撮影した画像をみると、フォーカスが合った箇所はとても解像感が高く花の細かい部分まで描写していることがわかる。またその前後の花のボケ方もとても自然だ。これを基準とする。
次に絞り開放のF1.4で撮影した画像を見ると、ピント位置の前後のボケが大きくなり、背景の岩や海が溶け合っていることが判る。またフォーカスが合った花の描写をよく見ると、芯の解像感はあるものの像の輪郭が柔らかく滲んでいる。
そしてF5.6まで絞って撮影した画像では、フォーカスを合わせた花を中心に解像力も均一になりつつ、背景にもディティールが生まれてきていることがわかる。
OMデジタルソリューションズによると、ボケの周辺に現れる滲みこそがこのレンズの特徴であるという。これまでにも高い解像力を誇ったレンズは多く存在してきたが、このレンズではあえて結像した像の周辺部に滲みが発生するような味付けとすることで、より柔らかな印象の画像を得ることができるようになっているとのことだ。上記の結果は最短撮影距離での撮影であるため効果が極端に現れていることを考慮しても、このレンズは絞り値によって撮影者が望むように描写をコントロールできるものだと言えるだろう。
作品
沖縄県の石垣島にて撮影。35mm判換算40mm相当の焦点距離は、人の目が普段捉える画角に近いとされ、実際にその場で目にした光景に近い画像が得られるレンズでもある。ここでは絞りをF4に合わせて画面全体の解像感を均一に近づけることで、近景の草木から遠景の青い海までを傍観している。
島の公園に植樹されていたアダンの実。あまりの立体感に思わずシャッターを押してしまった。絞りF4での撮影がほどよい立体感を醸し出していると思う。
沖縄離島の主な産業のひとつであるサトウキビ栽培は、年末から年初にかけて収穫時期を迎える。南の島の力強い太陽の光を浴びたサトウキビは人の丈を大きく超えて育つ。ここではあえて雲間に顔を出した太陽を直接画面に入れて強い逆光にて撮影を行なったが、このレンズではZEROコーティングの効果により強いゴーストも発生せず、画像のコントラスト低下も最小限に抑えた状態で撮影ができた。
島の彼方此方で見かける放牧された羊たち。のどかな風景のなかで草を食む姿にとても癒される。人に慣れているからか、カメラを覗きながら近づいても逃げることなく視線を投げかけてくれたので、羊ポートレートを存分に堪能することができた。
波照間島を訪れ、日本の有人離島最南端の地にて撮影。最南端の碑の脇には島の人々による平和への祈りを象徴した、石積みによる祈念造形物「蛇の道」が設けられている。ここでは、この場所の状況を精緻に伝えるべく、F5.6に絞ることで被写界深度を深めると同時に解像感を高めている。
沖縄離島では冬季でも太陽が顔を出すと一気に空と海の青さが深まる。この気持ちよさを引き出すためにもクリアな描写のレンズは欠かせない。
絞りをF1.8に合わせて女性ポートレート撮影。目元にフォーカスを合わせつつ背景も活かせる構図を探しながら撮影。40mm相当の自然な画角でボケすぎない背景を演出できるため、自然な距離感で人物を捉えられる。
E-M5 Mark IIIのフォーカスモードを顔認識AFにセット。AFはカメラに任せて、バリアングル式の背面モニターを開いた状態で後ろに歩きながら、歩く女性をローアングルにて撮影。浅い被写界深度での撮影でも顔認識AFがしっかりとフォーカスを合わせ続けてくれた。
カメラを砂浜ギリギリの高さに下げて、縦位置でバリアングルモニターを見ながら撮影。絞りをF2に合わせた状態で、フォーカスを女性の目元に合わせつつ、同時につま先にもフォーカスが合う角度を探る。
与那国島を訪れ、日本の有人離島最西端の岬に建つ西崎灯台を星空の下で撮影。F1.4という明るいレンズのおかげでISO感度を上げることなく星を点像で撮影できた。灯台の強い光によりフレアおよびゴーストが発生してはいるが、この厳しい条件下での撮影にしては非常によく抑えられていると言える。
島で人気のカフェにてランチ。瑞々しさを引き出すために最短撮影距離まで近づき撮影。繊細な透明感が美味しさを引き立ててくれる。
穏やかな島の風を受けて揺れる葉。その隙間から振り返った女性を撮影。柔らかな葉の前ボケが優しい印象のポートレートとしてくれた。
画質に妥協なく持ち運べることこそ、最大の強み
今回の実写作例は、沖縄の離島を巡る旅で撮影した作品からピックアップした。これまで高画質かつ明るいレンズとなると、どうしても大きく重い製品となってしまい、持ち運ぶ機材の量に制限がある旅行などでは持っていくかどうか躊躇ってしまうことが多かったが、このM.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROは高い画質をもちながらも非常にコンパクトかつ軽量であることから、撮影旅行のような場合でも積極的に選択することができるレンズといえる。どんなに良い機材であっても結果的に撮影に使う機会が減ってしまっては意味がないからだ。
本レンズの登場は、ブランド名がOLYMPUSからOM SYSTEMに変わっても、マイクロフォーサーズの理念を変わらず継承するという意思表示と捉えて良いだろう。画質に妥協なく、いつでも持ち運べる撮影機材。これこそが写真表現の自由度を高めるアドバンテージではないだろうか。
モデル:夏弥
協力:竹富町世界遺産推進室 / 与那国町観光協会