特別企画

40mm単焦点レンズの素晴らしさを伝えたい!【第7回】

リコー「GR IIIx」編

GR IIIx。実勢価格は14万円前後(税込)

「40mm単焦点レンズの素晴らしさを伝えたい!」というわけで始まった本連載。最終回はリコーの高級コンパクトデジタルカメラ「GR IIIx」をお届けします。GRと言えば何と言っても焦点距離28mm(相当)なのですが、「x」を冠する本モデルの焦点距離(26.1mm)は、35mm判換算で40mm相当。

近年ではちょっと下火になっていた、40mm人気を再び呼び起こしてくれた存在が本機であると言えるかもしれません。

外観・仕様

「GR IIIx」は、2021年10月に発売された、APS-Cサイズセンサー搭載のコンパクトデジタルカメラになります。ちなみに、GRシリーズとしては標準的な焦点距離とされる28mm相当を搭載した「GR III」は、2019年3月に発売されています。

レンズの開放絞り値はF2.8と、ミラーレスカメラ用の交換式40mm(相当)単焦点レンズと比べると暗めですが、コンパクトデジタルカメラに内蔵された単焦点レンズとしては、十分に明るく大口径と言って良いでしょう。

ここまで紹介してきた40mm単焦点レンズとは、交換レンズ式ではない時点で随分と意味合いが異なりますが、焦点距離28mm(相当)で名高いGRシリーズに、スナップ撮影の得意な画角をもつ40mm相当の単焦点レンズを敢えて採用したところに、大きな意味があるのだと思います。

作例

足元に集まっていた枯葉をスナップ。ポケットに収まるくらい小柄なためでしょうか? 心なしか普段よりも被写体を探す眼にも余裕ができるような気がします。レンズ構成は5群7枚で沈胴式。「よく収まるもんだな」と思えるくらいコンパクトなレンズですが、固定式の専用レンズですので、写りの良さは間違いありません。画面の隅々まで端正に被写体を描き出してくれます。

GR IIIx/絞り優先AE(1/50秒、F4.0、−0.3EV)/ISO 200

公園にある遊具をシンプルに配置して構成してみました。何気なく撮ってみただけでしたが、青いゾウが何とも言えない優しい立体感で表現されていて、写真に奥深さを与えてくれました。個人的には、GRシリーズに40mm(相当)単焦点レンズを採用した本機が登場したおかげで、より肩の力を抜いて撮影を楽しめるようになった気がします。

GR IIIx/絞り優先AE(1/640秒、F2.8、−0.3EV)/ISO 100

カメラ本体のボタンを押すことでマクロモードとなり、近接撮影も可能になります。最短撮影距離は12cmと、最大撮影倍率こそ公表されていませんが、本連載で紹介してきたどの40mm相当単焦点レンズよりも被写体に寄ることができます。被写体に近づくことで大きくなった背景のボケ味も良好ですので、いままで気づいていなかった被写体の魅力を表現できそうです。

GR IIIx/絞り優先AE(1/400秒、F2.8、−0.3EV)/ISO 100

仕上り調整機能であるイメージコントロールを「ハイコントラスト白黒」に設定し、自分の影を写しこみながら小路の光景を広角レンズ風にまとめてみました。焦点距離40mm(相当)の画角は、パースや圧縮効果が弱くクセがないことが特徴ですが、クセがない分、使い方を工夫することによって、広角レンズ的な、あるいは逆に望遠レンズ的な効果を出すことができて楽しめます。

GR IIIx/絞り優先AE(1/160秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 200

まとめ

コンパクトデジタルカメラということもあって、レンズ自体にはリング類やボタン類などの操作系は備えられていません。その意味では、これまでに紹介してきたミラーレスカメラ用の交換レンズに比べ、撮影の自由度という点で一歩譲ることになります。

しかし、高性能な専用レンズを内蔵したカメラをまとめて買えるのですから、実は大変お得感の高い40mm(相当)単焦点レンズだと考えることもできます。筆者も、40mm単焦点レンズ選びで迷っている知人がいれば、本機を紹介することがよくあります。


さて、7回にわたってお届けした40mm単焦点レンズ特集、いかがでしたでしょうか? 40mm単焦点レンズを使ったことがない人も、すでにその良さを知り愛用している人も、それぞれの受け止め方で楽しんでいただけたのなら嬉しく思います。

40mm単焦点レンズ好きの筆者としても、今回の連載ほど短期間のうちに同じ画角のレンズでまとめて使ったのは初めてです。そうしたなかで、改めて40mmの魅力を再確認し、同じ40mmでもレンズによって異なる個性があることを知ることができました。地味で目立たない40mm単焦点ですが、使うほどに奥深い味わいを感じることができるレンズです。

本連載では、AF機能をもったミラーレスカメラ用のレンズを中心に紹介してきましたが、40mm(あるいはその前後)単焦点レンズには他にも、一眼レフカメラ用のものや、AF機能をもたないマニュアルフォーカスのレンズも多くあります。ぜひ、自分の撮影スタイルにあった40mm単焦点レンズを見つけてください。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。