特別企画

キヤノンの1/8192発光対応フラッグシップストロボ「スピードライト EL-1」はどのようにつくられたのか

開発者に問う開発の苦労と“これからのストロボ”

インビューに応えてくれた開発メンバー(敬称略。左から順に)
周 隆之(ICB統括第三開発センター 主任研究員)
宮川俊樹(ICB統括第三開発センター 室長)
横山美奈(ICB事業統括部門)
仲野正雄(ICB開発統括部門 専任主任)

開発の経緯

――今回、皆さんにお話をお伺いする前段階として、スピードライトEL-1をEOS R5と組み合わせて試用しました。第一印象として、まず性能的に素晴らしい製品であると感じましたが、同時に大きな疑問も抱きました。

まず、カメラの高感度性能が向上したことでストロボの市場は縮小しつつあると考えています。内蔵ストロボを採用するカメラは業界全体として減っていますし、またサードパーティ製でコストパフォーマンスに優れるクリップオンストロボも沢山登場しています。こうした状況を踏まえると、メーカー純正の、しかも高価格帯に属するストロボ製品というのは持続的に数が売れるものではないとも思います。

しかしそうした状況下でもカメラメーカーが、こうした大型のクリップオンストロボを投入してきたこと自体は歓迎すべきことだと思っています。ですが、やはり商売として考えていくと今回の製品は実に思い切った決断をした、という印象がどうしても拭えませんでした。個人的な興味という側面が強いのですが、EL-1を開発した経緯について教えて下さい。

仲野 :キヤノンはEOS Rシステムの立ち上げに際して、そのキャッチフレーズに「撮影領域の拡大」というコンセプトを掲げました。スピードライト EL-1は、それ自体がミラーレス専用のストロボというワケではありませんが、EOS Rシステムの思想を実現し、新しい領域の撮影が出来る製品、新しい時代を見据えるためのフラッグシップモデルを、ということで企画した製品になります。製品名に「1(ワン)」を冠している理由には、そうした背景があるワケです。

そして、この撮影領域の拡大の為に、という気持ちを込めて沢山の技術も投入しています。その分大きく高価な製品になっていますが、システムとしての可能性を示す製品だということです。

――それで赤いラインがデザインされている、というワケですね?

仲野 :まさに、その通りです。

――従来機には赤いラインはありませんでしたよね?

横山 :はい、ストロボ製品では初めて赤いラインを施しています。想定ユーザー像はプロやハイアマチュアを中心に考えていますので、プロ・ハイアマチュアユーザーにLレンズと共に使っていただきたいという気持ちと、プロが選ぶ赤ラインの信頼性を、このスピードライト EL-1でも感じて頂きたいという気持ちを込めています。

「プロが選ぶ」ということで、今回は防塵防滴性能もEOS-1D X系と同等のレベルを適用していますので、EOS-1D X系と組み合わせて、防塵防滴が必須なタフなシーンでも問題なく使える仕様になっています。

EOS-1D X系の最新モデル「EOS-1D X Mark III」

――プロが選ぶ、という言葉が出てきましたが、私の友人カメラマン、ウェディングやファミリーフォトに携わる写真館、取材等で実際に業務でキヤノンのクリップオンストロボを使用している人たちにスピードライト EL-1についてどう思う? と意見を募ってみました。返ってきた答えは「魅力的な性能もあるけれど、どうにも報道特化に思えるし、自分達の用途で使うには大きすぎる。それに値段も高過ぎる」という意見が大多数でした。

私のまわりの意見という限られた条件ではありますが、それでも報道以外のプロにとっては意外と訴求力が弱いようにも思います。想定ユーザーにはプロやハイアマチュアを中心に考えている、とのことでしたが、具体的にはどのようなユーザーを想定した製品なのでしょうか?

横山 :連続発光回数や最大発光量のスペックから「報道向けなのでは」という意見があることは認識していますが、本製品のバラつきの少ない安定した発光性能や発光回数の増加、長時間使用による熱に対する耐久性、多灯、リチウムイオンバッテリーによるバッテリーの持続性・ストロボチャージ時間が短いこと、電池残量が確認できることなどは報道シーン以外の撮影領域——例えばウェディングやポートレートシーンでも重要な性能を提供できていると考えています。また、長時間の撮影ではストロボの発熱によって制限が掛かることもありますので、スピードライト EL-1独自のクーリングシステムは撮影をより円滑にすることにもつながるものと思っています。

スポーツや報道以外のプロの方にとってはもちろん、それ以外にも趣味でポートレート撮影を楽しまれているユーザーの皆さまにとっても、使い勝手の良い製品であるとの考えで企画しています。

仲野 :確かにサードパーティ製のように、比較的安価かつ性能的に素晴らしい製品もありますので、本製品の価格設定に厳しいものがあることも承知しています。しかし我々は安心感や安定感についても追求して開発しております。持ち運べる機材が限られていて、なおかつ失敗が許されない状況であったり、小規模でマルチライティングを行うような条件では信頼性が最優先で求められます。そうしたシーンで使っていただくメリットは十分にあるだろうと考えています。

また視点を変えてみますと、クリップオンストロボを多数組み合わせてフルマニュアルで多灯ライティングを行ったり、いつものセッティングでストロボは指示通り光るだけ、というようなシーンでは必ずしも本製品が真価を発揮できるわけではないとも思います。本製品を1台導入するコストで、例えばサードパーティ製のクリップオンストロボを3台とセンダー(トランスミッター)まで導入できるということは直視しなければなりません。コストパフォーマンスという点では、他社の製品のほうが導入メリットが高くなるシーンも当然ありますので、それらを踏まえた上で、信頼性や生産性がより重視される場面で、納得して本製品を選んでいただければ、と考えています。

放熱性について

――実際にスピードライト EL-1に触れてみて最も驚いたことから質問します。トレーシングペーパーを発光部のすぐそばに寄せたり、黒ケント紙で小さなスヌートやスリットを作って装着しバシバシ焚くという状況を想定して、手で蓋をしてフル発光で連写してみたのですが、いままでに経験したことがないくらい温度が上がりませんでした。これは発光管そのものが熱をあまり発しない設計になっているのでしょうか?

宮川 :確かにスピードライト EL-1では低発熱を実現していますが、発光部付近にモノを置いたり発光部を塞いだりしますと、従来機と同様に熱によるダメージなどがありますので、メーカーとしては出来ればそのようなことは避けて欲しいと考えています。

さて、低発熱の実現についてですね。今回、スピードライト EL-1では新たに開発したキセノン管を採用していますが、それによって発光管自体が特別に低発熱の設計になっているという事ではないのです。

新規で開発されたキセノン管

実は放熱方法を新しくすることで、温度上昇を効果的に抑えることが出来ました。具体的には、まずクーリングファンを内蔵しました。これに加えて、ズームによってワイド配光側になった際に発光管とフレネルレンズが接近しますが、この距離をできるだけ離すように、反射傘ですとかフレネルレンズの形状を工夫しました。これら2点の新しい放熱方法により、より発光面に熱が伝わりにくい構造になりました。

――フレネルレンズと発光面の第一面の間などに空間があるように見えますね。そもそも従来機にはこういった隙間がなかったように思います。

宮川 :ご指摘のとおり、従来機にはこのような隙間はありません。スピードライト EL-1では、ここに隙間を設け空気層により熱の伝達を抑え発光面の第一面の温度上昇を抑制しています。さらにフレネルレンズの内側にガラスパネルが配置してあり、その間が空気の通り道になるように設計しています。

ヘッド部の空気循環の流れ

――なるほど。こうした設計の工夫で発光部の熱が伝わりにくくなっている、というワケですね。スヌートのように発光部を塞いでしまうような、熱のこもりやすい状況でフル発光を繰り返し行うシーンでもフレネルレンズの焼けというか変色のような劣化についても抑えられているのでしょうか?

宮川 :はい、改善されています。

――どのような経緯でクーリングに注力したのでしょうか?

宮川 :市場からの要望に応えたかたちです。フル発光での連続発光回数を伸ばして欲しい、という意見をいただいていたのですが、そうした仕様を実現するためには、放熱対策が耐久性の観点からも重要となってきます。そのため、特に熱対策について注力していきました。

――「連続発光回数を増やしてほしい」というユーザーからの要望があったとのことですが、連続発光回数と放熱の両立について、苦労したところを教えて下さい。

宮川 :連続発光回数そのもの、というよりもフル発光での連続発光回数をいかにして向上させるか? に関する内容となります。発光時の熱を筐体内に分散させつつ、熱の集中個所——ヒートスポットと呼んでいますが、そうした場所を効率的に冷やすことを目的とした冷却システムの構築に苦労しました。

ストロボでの熱源はキセノン管となりますが、繰り返し発光しますと当然、熱量が高くなります。この部分を効率的に冷やす必要がありますので、ファンの設置を検討していきました。

大変だったのは、ファンを設置するにしても限られたスペースに配置することになりますので、どのようなエアフローをつくれば効果的に冷やすことが出来るのか? ということでした。また、クーリングシステムが発光管の光を遮ったり邪魔したりしない、ということも難しさのポイントでした。

そこで薄型のファンをご覧の場所に搭載し、空気の流路を発光部の下に設けました。これによって内部で空気が循環し、筐体内の温度ムラを無くすことで発光部全体から効率よく放熱しながら、フレネルレンズ中央のヒートスポットを冷却するというアイデアです。

ブロアファン
空気の流路

――ふと疑問に思ったのですが、EOS-1系同等の防塵防滴仕様とのことでしたよね。では、ファンで冷やすための外気はどのようにして給排気しているのでしょうか?

宮川 :スピードライト EL-1では外装のつなぎ目をシーリングすることで気密性を確保し、EOS-1D X系と同等の防塵防滴レベルを達成しています。この構造のため、疑問に思われたとおり基本的に内部空気の給排気は出来ません。つまり内部の空気の循環だけで冷却しているわけですが、これでどうやって効率的に冷却するか? という点が最も苦労したところになります。

――そうなんですね。お話を伺うまで防塵防滴仕様でどうやって外気を取り入れてファンでクーリングしているのか、ずっと疑問に思っていました。ヒートシンクを濡れても良い場所に露出させてそれをファンで冷やす、というような構造も想像したりもしていました。だとしたら相当大がかりな設計になっているのでは、とも。内部循環で十分なクーリング性能を達成させているとは驚きです。

宮川 :ファンを配置するとなると、やはり外気を吸ってファンで冷却する、という思考になってしまいますし、事実、熱交換の観点ではとても効果的なアプローチです。しかし防塵防滴のレベルを満たすという要件がありましたので、まず外気を取り入れることは出来ません。そのため、ファンの配置位置とヒートスポットを冷やすためのエアフローを、どう形にするのかが大きな課題でした。

――例えばの話になりますが、内部に特別なガスが満たされているということはあるのでしょうか?

宮川 :防塵防滴とはいえ100%完全に密閉されているワケではありませんので、通常の空気が入っています。

仲野 :スピードライト EL-1ではクーリングファンを内蔵したことで、そのトレードオフとしてヘッドが少し大きくなってしまいました。

配光の設計について

――ちょうどヘッドの話になりましたので、ヘッド周りについてお聞かせください。他社製品では発光面の形状が楕円形の製品もいくつかみられます。何となく、ではありますが丸型の方が配光特性に優れているようなイメージもあります。一方でスピードライト EL-1のヘッド形状は従来機同様に長方形です。この形状を採用した理由を教えて下さい。

宮川 :確かに楕円形の発光面には配光特性が良い、というイメージがあります。しかし、キヤノンでは従来と同様の形状でフラットな配光特性をもたせるよう設計していますので、あえて発光面を楕円形にしようとは考えませんでした。

仲野 :楕円形の発光面を持つストロボでは、直射した際にフラットな発光ではなく同心円状になだらかに減衰していく特性となっています。その性質があるために、画面の四隅は暗くなってしまいます。キヤノンでは画角に対応するズーム位置で照射した場合に、“レンズ画角内を均一な発光面にしたい”という方針があります。ですので、ねらいとしては特に四隅が暗くなったり、ムラっぽく見えたりすることがないよう、画角内に対して均一な配光となるように、という考え方になっているわけです。そのため、スピードライト EL-1ではヘッド部の形状を四角形としているのです。

――ヨイショ記事のような印象になってしまうのであまり言いたくなかったのですが、スピードライト EL-1は今までに私が経験したクリップオンストロボの中でも、最もフラットに配光出来ている製品だと感じました。これはフレネルレンズの形状が効いているのでしょうか?

宮川 :フレネルレンズの形状はかなり効いていますね。ご指摘のとおり、ここはかなり工夫して設計している部分です。と言いますのも、全ズーム領域で、かつワイドパネルやバウンスアダプター、カラーフィルターなどの装着も考慮に入れながら最大ガイドナンバーと配光特性の最適なバランスを模索しなければなりません。

フレネルレンズ以外では、新しいキセノン管も大きな役割を果たしています。アーク放電がとても安定していますので、発光そのもののムラが少ないのです。特に微小発光ではアークのゆらぎによって発光にもゆらぎが生じますので、そもそもアークが安定しないことにはきれいな配光が得られませんから。

――言われてみれば確かにストロボによっては小発光時に配光ムラが目立つ製品もありますね。

宮川 :はい。フラットな配光特性以外にも、画角外はなだらかに配光が減衰していく、という部分にも配慮して設計しています。これはオフカメラライティングでの使用を想定しているのですが、ストロボの配光角から外れた光が急激に減衰することなく、なだらかに落ちていくようにすることで、配光が自然な印象になるように調整しています。

――確かに、一般的なクリップオンストロボと違って、スポットライトのように急激に光が減衰し、影のように見える、ということがありませんでした。こうしたことは、例えばシミュレーションがより迅速かつ高精度になった、というような設計に使用するツールが進化していたりといった要因もあるのでしょうか?

宮川 :ツールの進化はもちろん重要なのですが、どちらかといえば解析や検証方法についてのノウハウの蓄積によって、より最適な形状を追求できるようになった、という事がより大きなファクターとなっています。

――均質性に優れる配光を達成しているストロボヘッドですが、ヘッドサイズには不満があります。純正品ではありませんが、クリップオンストロボ用の汎用ボックスライトのアダプタの多くには一筋縄では装着出来ませんでした。

仲野 :お手数をおかけして申し訳ありません。発光性能を最優先した結果、やむを得ない判断だったのですが、ご意見を真摯に受け止めさせていただきます。

安定した微小発光実現の裏側

――微小発光時のキセノン管のアークのゆらぎについて先程お話がありました。私の経験や知識の範疇ではありますが、最大発光量の大きなクリップオンストロボは、ある程度以上の発光になると安定した精度で発光させることが出来る一方で、発光管で放電し閃光発光するという特性から、やはり微小発光で安定した光を得ることは難しいという認識があります。
実際に内蔵ストロボと比べて、クリップオンストロボの制御可能な最小発光量は大きくなっています。アーク放電による発光現象はキセノン管内部の電極から放電して対岸の電極に電流が届くことで光を生じますが、微小発光では安定して放電させることが難しいからである、と理解しています。ですから、どうやって微小発光させているのか興味があります。

:これにつきましては新しいキセノン管が大きな役割を果たしています。ご理解の通り、発光量の大きなクリップオンストロボでは微小発光時に安定して放電を行うことが難しいのですが、この新しいキセノン管の特性に合わせて制御を洗練させています。設定された発光量に対し、実際の発光量を正しく補正できるシステムを構築したこと、またチャージ電圧についてもきめ細かく制御することなど、デバイスと制御の両面で工夫をしまして安定して微小発光を行える仕組みになっています。

キセノン管による発光のしくみ

――発光管の劣化度や連続発光による温度上昇など、そういった外乱要素があっても安定した発光が可能になっているのでしょうか?

:もちろん考慮された設計・制御になっています。

――キヤノンのクリップオンストロボは従来製品であっても他社製品と比べて最小発光側の制御を頑張っているという印象があります。今回は1/8192という、かなり攻めたスペックになっています。ここまで攻めた理由や背景とは何なのでしょうか?

:カメラ側のISO感度が上がったことで、ストロボの微小発光のニーズが高まっていました。

仲野 :ユーザーの皆さまから、もうちょっと低い光量で使いたいという要望がありました。具体的にはあと2段低い発光量が期待されていました。

例えば夜景シーンなどでは従来ですとスローシンクロなどシャッタースピードによる露出のコントロールが主体となっていました。しかし現在ではISO感度によるコントロールが主流になっています。今、周からもありました通り、カメラ側のISO感度性能が向上したことで余計に少ない発光量へのニーズが高まっていたことが背景にあります。

企画段階では、そうした背景や状況を踏まえて、まず従来機よりも2段低い最小発光を達成しようという目標が掲げられました。そうした中で、開発メンバーより「ただ発光量を下げるのではなく、安定して微小な発光制御を可能にすることで全体的な発光精度の底上げが可能になる」という声があがりました。技術的には大きなチャレンジだけれども、いちど出来るところまで頑張ってみたい、と。

――ということは当初から1/8192を目標に掲げて企画・設計した製品ではなかった、ということなのですね。

仲野 :はい、企画の初期段階では1/512か1/1024の発光が出来れば良いという方向性でした。1/8192というスペックは開発サイドのチャレンジが実を結んだ結果ということになります。

発光量を1/8192にセットした状態

――ロマンのある話で興奮します。1/1024ですら困難だろうと想像されますが、そこからさらに3段低い光量で安定して発光できるというのは驚きです。

宮川 :最小発光に最も寄与しているのが新しいキセノン管の採用となっています。豊田さんもご理解されている通り、ストロボはキセノンガスをアーク放電で励起して発光させています。

強く発光させる場合は問題になりませんが、微小発光時ではアーク放電が安定しないのでいかに安定させるかが重要です。従来機ですと、アーク放電の特性の問題から最小発光を1/128としていましたが、スピードライト EL-1で新たに採用したキセノン管ではその特性を改善することが出来たことが大きな要因となっています。

仲野 :最小発光側の特性を良くしようとした経緯につきましては、少し前までは考えられないことでしたが、現在ではISO 12800で夜景を撮る、という撮影方法が特別な事ではなくなっています。そういった撮影シーンで少し被写体を持ち上げたい、という状況を想像してみてください。こうしたニーズに対して従来のストロボでは最小発光の設定でも光量が大きくなりすぎてしまい、場合によっては露出オーバーになってしまうケースがありました。ISO感度が上がれば上がるほど、補助光的な発光は小さな光量が求められます。

また、高感度性能はISO10万の世界にすでに到達しています。常用できるできないという話ではなく、ISO10万という世界があり、高感度性能の今後の進化改善についても予測が出来るものとなっているという意味なのですが、そうした今後のカメラ側の進化を踏まえますと、ストロボに求められる微小発光性能の重要性が増してくると考えられます。そういった将来にも対応できる製品を作りたいという気持ちもありました。

――表現の幅を広げる素晴らしい技術だと思います。私も内蔵ストロボを持つカメラを使っていた時はレフ板や簡単な補助光代わりに、あえて内蔵ストロボを使っていました。ちなみに、ですが1/8192時のガイドナンバーはどのくらいになりますか?

:50mm時に0.4です。

――内蔵ストロボの最小発光量なみの数値ですね。最小発光性能にここまで私が食いついている理由が良く分からない読者さんも多いと思いますが、発光量の大きなストロボで安定して小さく発光させるというのは本当に凄いことなのです。巨大なショベルカーで小さじ1杯の量を掬うような離れワザです。そうした離れワザは、どちらかといえば技術のための技術という側面もありますが、今回の技術は写真愛好家にとって実はとてもメリットのある技術だと考えます。

ちなみに発光量に対する色温度変化については従来機のような特性となっているのでしょうか?

宮川 :従来機と同じような特性になっています。
一般的な話にはなりますが、キセノン管の特性として発光量が小さいほど色温度が高くなる(青くなる)という傾向が知られています。

スピードライト EL-1に限らず、閃光発光の色温度は発光量に応じて変化します。キヤノンでは発光時の色温度情報をカメラ側に送信していますので、カメラ側で自動的にWBが補正されます。

――これは従来機でもやっている制御になりますか?

宮川 :はい、従来機でも同様の制御を行っています。

――それはAWB時の制御になるのでしょうか? また発光量に応じて変化する色温度傾向の目安になるものは公開されていますか?

仲野 :AWBとプリセットWBのストロボの際に、発光量に対するWBの自動制御が行われます。色温度傾向については公開していませんが、WBの自動制御については使用説明書にも記載があります。

また従来機や過去製品との特性の整合性がとれるようストロボ光の調整もしております。

――付属カラーフィルターの色温度についても公表していない?

仲野 :ストロボ光の色温度がどの辺りになるのが正しいのか? という点で明確な正解が無いこと、従来機との整合性を合わせるということを重視するということが、具体的な数値を明示していない理由です。もちろん、付属のカラーフィルターを使用した際には、カラーフィルタ―の色温度に合わせてWBの自動制御が行われます。

リチウムイオンバッテリーが安定発光の鍵

――バッテリーがリチウムイオンタイプになっています。個人的にも素晴らしいアイデアだと思います。改めて採用の理由を教えて下さい。

宮川 :ストロボ製品へのリチウムイオンバッテリーの搭載は、かねてより考えていました。といいますのも、キヤノンは純正メーカーとしては電波通信ワイヤレスや光通信ワイヤレスなど他社に先駆けて採用してきたという自負があります。同様にリチウムイオンバッテリーの採用によって発光回数や最大発光量の改善を図りたいという気持ちがありました。

バッテリー容量は1,920mAh。サイズ自体はLP-E6シリーズよりもやや大きいものとなっている

――スピードライト EL-1は、フル発光でも0.8秒くらいの感覚でバシバシ連続発光が出来たので驚きました。1/4発光にすれば秒6コマくらいで永遠に発光するのでは? というくらいに連写が持続するので表彰台やビール掛けなどを撮るカメラマンにとって強い味方になりそうだという実感もあります。これはリチウムイオンバッテリーだから実現出来たことなのでしょうか?

宮川 :はい。リチウムイオンバッテリーだから、このサイズで達成出来た性能となります。またフル発光で約160回の連続発光に対応するというスペックですが、実際には約1秒から4秒までの発光間隔で通常時は制御されています。160回の連続発光とは、こういった条件でのスペックとなっています。また発光管の温度によっては最大で20秒の発光制限がかかります。

――160回までは制御されても最大で4秒間隔というのはかなり速いと思います。

宮川 :従来機「スピードライト600EX II-RT」では単三電池(アルカリ)の運用ですと、フル発光で最短4~5秒の間隔になっていました。こうした点でもリチウムイオンバッテリー採用の効果が如実にあらわれています。

――日中の表彰台などでスピードライト550EXやスピードライト580EXをフル発光で連写使用するとチャージ時間の問題だけでなく、温度上昇でしばらく発光不能となる事がありました。

宮川 :はい。従来機と比べてチャージ時間の短縮はもちろん、温度上昇で発光制限がかかるまでの発光回数も大きく伸びています。そうしたシビアなコンディションでも従来機と比べて撮影の流れを妨げることなく、かつ安定して発光させ続けることが可能となっていること。これこそがスピードライト EL-1の大きな進化ポイントになっています。

――外部電源の対応はどのようになっていますか?

宮川 :CP-E4Nに対応しています。CP-E4Nを装着しますと、スピードライト EL-1でも従来機と同じようにリサイクルタイムの短縮化が得られます。CP-E4Nとの組み合わせでは両方からチャージしますので、チャージがより早く、発光回数がより多くなります。

この説明ですと、リチウムイオンバッテリーの採用メリットが少なく感じられてしまうかもしれませんが、単体運用でもCP-E4N併用時に近いチャージサイクルと発光回数が得られていることが、大きなメリットとなっています。

――バッテリーのスペックと形状は異なりますが、カメラのバッテリーチャージャーと同じもので充電できる仕様というのは本当に素晴らしいと思いました。逆に、カメラのバッテリーを緊急時などにEL-1に使用することは出来るのでしょうか?

横山 :カメラで採用しているバッテリーとの共用についても、実は検討していました。が、カメラとストロボでは放電可能電流が異なりますので残念ながら共用化は実現できていません。しかし、ユーザーメリットを考慮して「できるだけ荷物を減らす事が出来るように」と、バッテリーチャージャーはカメラと同じものを使えるようにしたい、と企画段階から考えておりました。

カメラ用のバッテリーチャージャーに、スピードライト EL-1用のバッテリーを装着すると、どうしてもバッテリーの片側が飛び出してしまうというデメリットはありますが、そうしたデメリットよりも同じチャージャーを使用できるという事を必須事項に据えていました。

バッテリーの端子部形状はLP-E6タイプと同じ。チャージャーにはLC-E6、LC-E6Eが利用できる

仲野 :スピードライト EL-1に同梱されているチャージャーは、もちろんカメラのバッテリーチャージャーとしても使えます。全く同じものになっていますので、どちらのバッテリーにも安心して使っていただけます。

――一般的には専用設計することで開発の効率化を図りたくなるところだと思いますが、共通のチャージャーを採用したのは本当に英断だと思います。ところで複数のバッテリーを充電できるチャージャーは純正品としてはないのでしょうか?

横山 :今後の製品の展望に関わることはお答えできませんが、現時点では弊社では販売しておりません。

コンデンサーの大きさがサイズバランスを左右する

――製品Webページ上で、充電回路にはフライバック方式を採用しているとの説明がみられます。これは何か特別な回路なのでしょうか?

:フライバック回路は、家電などでも一般的に用いられる昇圧回路のひとつです。ですので、何か特別な事をやっているというワケではありません。バッテリーからの電力をこの回路によって300Vに昇圧してコンデンサーに溜める仕組みになっています。

――ちなみに、なのですが、クリップオンストロボを分解してみますと、どの製品もヘッドのバウンス可動部のスペースにおおよそ収まるコンデンサーが採用されています。このコンデンサーのサイズを大きくするとどのような効果が期待できるのでしょうか?

:コンデンサーのサイズが大きいということは、単純にそれだけ大きなエネルギーを蓄えられるという事を意味しています。従いまして、大きなコンデンサーを採用すると、単純にガイドナンバーを大きく出来るという関係があるわけです。もちろん大きなコンデンサーを搭載するとボディサイズも大きくなってしまいますし、コンデンサーへのチャージ時間もかかってしまいます。コンデンサーのサイズは、こうした全体のバランスを考慮して決定されています。

ピードライト EL-1の回路

――ジェネレーターを用いるストロボを使っていた時は電源を落とす際に捨て発光をしていました。コンデンサーに電気を蓄えたままにしておくのが良くない、という発想や、捨て発光をしておいた方がストロボが長持ちすると言われていたからです。そういったことはクリップオンストロボには当てはまらないのでしょうか?

:自然放電で全く問題がないように設計されていますし、そういった事も含めて信頼性を担保して作っておりますので、気にせずお使いいただけます。

宮川 :製品を長期保存される際には、バッテリー容量が50%程度の状態で保存して下さいとアナウンスしていますが、これはリチウムイオンバッテリーを過放電または過充電状態にしておくのは良くないという特性に配慮してのことです。コンデンサーについてはチャージしたまま電源を落としても全く問題はありません。

配光角設定の背景

――ズームレンズに対応した配光角について、このスペックはどのように決定されているのでしょうか?

仲野 :スピードライト EL-1では従来機スピードライト600EX II-RTと比べてワイド側のスペックが少し我慢したものになっています。

宮川 :確かに従来機ではワイドパネル無しでも、ワイド側は20mmに対応しています。対してスピードライト EL-1では24mmからの対応となっていますが、当然理由があります。

と言いますのも、ワイド側を24mmに抑えることでフレネルレンズと発光管の距離をとることができます。今回はフル発光での連続発光回数を向上させるというコンセプトを重視して、ワイド側を24mmからという仕様としています。熱対策でかなり有利になっています。

テレ側につきましては、スピードライト600EX II-RTが200mmでしたので、これに準じたものになっています。

仲野 :スピードライト600EX II-RTのテレ端が200mm対応となっている理由としましては、取材などで使用されているレンズの使用状況から、焦点距離200mmまでは使う頻度が高いだろう、という判断が背景となっています。

RF70-200mm F4 L IS USMを装着したEOS Rにオンカメラでセットした状態

――確かに取材シーンをイメージすると、70-200mmをつけてバシバシストロボを焚くという状況はすぐに想像出来ますね。

仲野 :それ以外にも、オフカメラライティングで使用する場合にスポットライト的に狭い範囲を照射させたいという要望もありまして、撮影の幅を広げたいという観点も、テレ端の対応焦点距離を200mmにしている理由となっています。

――スピードライト EL-1はオフカメラで子機としてライティングをする場合、電波通信のセンダーから配光角のズームを設定できるのでしょうか?

宮川 :出来ません。

――将来的に何とかなりませんか?

仲野 :今後の製品についての明言は出来ませんが、要望が多ければ意見が反映されることもあるかと思います。ご意見ご要望をお待ちしております。

オフカメラライティングでの使い勝手

――オフカメラライティングの話になります。光パルス通信の到達距離について教えて下さい。

宮川 :屋外では使用される状況によって変わってきますので一概に言えませんが、屋内では最短70cm、最長で15mになります。これは受光部とセンダーの発光面が向き合っているという条件での話です。

――光パルスでもかなり届きますね。ところで、通信用のパルス発光を本発光の前に割り込ませるという光パルス通信の構造上、電波通信と比べてレリーズタイムラグがあるかと思います。

宮川 :厳密に言えば光通信の方がタイムラグは大きくなります。しかしながら、それは1,000分の何秒というオーダーですので、使用者が違いを体感することは難しい次元となってきます。我々としては無視できる値と考えています。

――そういったタイムラグに対して、カメラ側では露光のタイミングを自動で調整したり、ということはやっているのでしょうか?

宮川 :はい。センダーとなるストロボはアクセサリーシューの接点でカメラとも通信を行っていますので自動で補正されます。

――スピードライト EL-1では電波通信時の後幕シンクロについてもアピールされていました。

仲野 :オフカメラでの電波通信時に本当の後幕シンクロが可能になっています。「本当の」というのは、実際に“後幕が走り始める直前に発光できる”という意味です。シャッターをバルブで発光させる際にレリーズを離すタイミングでストロボが光るのは純正ストロボの組み合わせだけだと思います。

――確かに他のストロボではシャッタースピードからタイミングを見計らって光っている擬似的な後幕シンクロもあります。今回の後幕シンクロでは後幕走行のタイミングをカメラから通信しているのでしょうか?

仲野 :はい。ですので、狙い通りの後幕シンクロが可能になっています。

――電波通信によるライティングや今回の電波通信ワイヤレス後幕シンクロはカメラ単体では出来ないのでしょうか? というのも、カメラにもWi-Fi機能があり、同じ2.4GHz帯を使っていますので「カメラ単体でもセンダーとして、光らせることが出来そうだ」という期待を持ってしまいます。

仲野 :キヤノンの電波通信によるシンクロは2.4GHz帯を使用していますが、Wi-Fiとは方式がことなります。(よって、センダーが必要となる)

仲野 :電波通信に対応したカメラであっても電波通信によるシンクロについてはセンダーが必要になります。機器の規格的な部分での出来る出来ないの話では「出来る」となりますが、「対応させる」となると開発の都合上、製品価格に反映されてしまいます。それが全てのユーザーにとってメリットのあることなのかを考慮したところ、現時点ではセンダーでの対応がベターであるという判断になりました。

また電波通信ワイヤレス後幕シンクロにつきましては、本機能に対応したスピードライトトランスミッター「ST-E3-RT(Ver.2)」が必要です。本製品は5月下旬に発売を予定しておりますので、もう少しだけお待ちいただくことになります。ボディ側につきましてはファームウェアのアップデートで電波通信後幕シンクロが使えるようになります。

――コストが反映されても許されるカメラであれば、カメラにその機能を搭載する、という見方もありますよね?

仲野 :当然そうなります。とはいえ現状では純正のストロボを楽しまれるお客様は全体の10%程度ですので、残りの90%のユーザーにとって負担になってしまいます。ご存知の通り製品開発ではユーザーメリットを考慮しつつも数円単位でコストをコントロールしますので、総合的にみて現状が最適解という判断になります。

――トランスミッター「ST-E3-RT」のVer.2投入についてなのですが、従来型のST-E3-RTのバージョンアップや改造対応などで電波通信後幕シンクロが出来るようになるなどの対応は検討されていますか?

横山 :はい、日本では有償アップグレードサービスを予定しています。詳細は決まり次第ホームぺージにてご案内いたします。

調光のテイストが選べるということ

――キヤノン独自の機能かと思いますが、調光のテイストが選択できる、というのはとても素晴らしいアイデアだと思いました。

仲野 :キヤノンの調光システムを簡単に説明しますと、ストロボ使用時に環境光の露出を1段程度下げて、ストロボで1段持ち上げて約1:1のバランスとなる状態をベースとして制御を行うことを基本としています。市場の要望として、バランスは良いけれど、バランスを簡単に変更したいという意見がありました。

例えばポートレートやパーティーシーンですと、ストロボの寄与率を下げ環境光のバランスを重視したい場面があります。逆に報道などのシーンではストロボをドンと焚いてバシッと分かりやすく撮りたいなど、様々な需要があります。

私個人もストロボ撮影をしますので、そうした要望には共感がありました。出来る出来ないの話をすれば、調光補正と露出補正を駆使すればそのバランスはコントロール出来ます。が、そういった事をもっと直感的に出来ないか? と考えて、この機能を搭載しました。

――よく分かります。メーカーによって調光のバランスが異なり得手不得手もあります。調光補正と露出補正を都度駆使するのは余裕がある状況や、暫くその状況が続く場合には良いですが、そうではない時もありますのでこうした機能は助かります。

仲野 :自動調光に関しまして、EOS 5D Mark IVやEOS-1D X Mark IIあたりから画面内に顔があるかどうかの検出がある程度できるようになり、調光に反映させています。EOS R5世代では、そうした被写体検出系の技術がさらに進化していますので、特にポートレートシーンでの調光性能が向上しています。

――FP発光時の光量が製品Webページ上で公開されています。閃光発光とFP発光では発光効率が異なり、持続的に連続してパルス発光のような事を行うFP発光としてはかなり光量が出ている、という印象を持ちました。が、正直な事を言えばまだ物足りないという気持ちがあります。将来的な話になりますが、今後グローバルシャッターが実用化された場合、グローバルシャッターという機能の概念として、フル発光でも全速同調が可能になるのでしょうか?

仲野 :グローバルシャッターにつきましては、概念として全速同調が可能になる流れである、という認識を私も持っています。

FPの光量については私個人のユーザー視点での話になりますが、同意見です。日中シンクロ時にFP発光で得られる光量でイケるのか、NDフィルターでシンクロスピードまでシャッタースピードを下げたほうが得なのか? といった悩みがありますが、グローバルシャッター搭載機の登場によってそういったシーンでの悩みが解消され、表現の世界がさらに広がるのでは、と期待しています。

サイズと価格をどう考えるべきか

――実際に説明を受け、その内容を知れば、スピードライト EL-1の価格とサイズは十分に理解できるだけの妥当性があるという印象をもちました。しかし、頭で理解してもなお、目から入ってくる価格とサイズのインパクトは大きく、どうしてもそのイメージに感情が引っ張られてしまいます。

仲野 :おっしゃるとおりです。また、サードパーティ製のストロボについて、ひと昔前までのような安かろう悪かろうという方向から良い製品を作ろうという姿勢が感じられるようになった、という業界の流れも一要因としてあると思います。

――私も不思議に思っていますし、使ってみても性能的に優れた製品が存在します。そういった状況にありますので、純正の高価格帯にあるストロボをどう紹介すれば良いのかが、今まで以上に難しくなってくるだろうと思っています。

キヤノンとしてはどのように魅力を伝え、大きい・高いというスピードライト EL-1の印象を挽回しようと考えていますか?

横山 :やはり価格とサイズについてはファーストインプレッションのインパクトが大きいということは理解しています。大きさについては、とても頭を悩ませた部分です。

防塵防滴性能を維持しなければ、小型化も実現できたかもしれません。しかし、報道カメラマンやオリンピック等の撮影を行うスポーツカメラマンの方々はもちろんのことストロボを用いた新しい表現や、クリエイティブな使い方をされる方にとっても、防塵防滴性能は必須だと考えています。

そのため、防塵防滴機能を備えながらアクティブクーリングシステムを搭載して、連続発光性能、発光回数の増加、発光の安定性を図ることが重要だと考えました。ですので、あらゆる部分について実際に使っていただけると納得していただける製品になっているとも考えています。

仲野 :例えばリチウムイオンバッテリーを採用したストロボというのは既に他社から登場しています。その容量と利便性についても周知の通りと思います。

一方でそのリチウムイオンバッテリーがどれだけ性能に寄与しているのか? という観点で見てみますと、スピードライト EL-1では連続100回程度のフル発光であっても安定したチャージ時間と発光量を維持し続けることが出来ています。

そうしたタフで繊細な発光量のコントロールが可能な電源を有している点がスピードライト EL-1のポイントです。またカメラと共通のチャージャーを使えるという点もメーカー純正ならではの強みです。現状で信頼性と生産性を両立し、またシステムとしての整合性を持っていることを評価して頂ければ、価格とサイズについては納得していただけるのでは、と期待しています。

もちろんストロボを理解しているユーザーが、サードパーティ製の機種を複数投入し、マニュアルで発光量を決定するようなシーンでは、コストの面からいってスピードライト EL-1はたちうち出来ません。しかし多灯ライティングでE-TTLとマニュアル発光を組み合わせて使うような状況で、安定して手早く結果を出したいというようなシーンではやはり純正ストロボにメリットがあります。

また予備のストロボやバッテリーを持ち込めない状況でも「必ず光る」という安心感を提供できます。それこそがキヤノンの品質でもありますから。

スピードライト EL-1がリードしているシーンは確実にありますし、そうした適材適所の運用で実際に使っていただければ、スペックには表れてこない部分を、大きなメリットとして実感していただけると思います。そうした点からも訴求していきたいと考えています。

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。