新製品レビュー

キヤノンのリチウムイオンバッテリー採用ストロボ「SPEEDLITE EL-1」

発光間隔が大幅に短縮 微小発光で手持ちの夜景ポートレートに

キヤノンがクリップオンストロボの最上位モデル「SPEEDLITE EL-1」を2月に発売した(直販サイトでの販売価格は税込14万800円)。新たにプロ写真家の声を反映して大幅な機能向上を果たしたとのことで、どのような進化を遂げているのか探ってみたい。

EOS R5に装着したところ
Lレンズ同様の“赤鉢巻”が入った

リチウムイオン充電池を新採用

本機の最大の特徴はなんといっても、キヤノンのストロボで初めてとなるリチウムイオンバッテリーの採用だろう。これまで同社製クリップオンストロボは単3電池駆動となっていた。単3電池は入手性が良いなど手軽な一方、チャージ速度が比較的遅く、また残量もわからないといった問題があった。

今回、専用のリチウムイオンバッテリー(7.2V、1,920mAh)を採用することで、フル発光時の発光間隔が0.9秒に縮まった。これまで最上位モデルだった「SPEEDLITE 600EX II-RT」では3.5秒ほどだったので、かなり迅速にシャッターを切ることができるようになった。

新型バッテリーの「LP-EL」を採用。カメラとの互換性はない

併せて電池の残量表示にも対応。交換タイミングが明確にわかるようになっている。単3電池よりリチウムイオンバッテリーのほうが素早く電池交換できるのもポイントだろう。仕様表によれば、フル充電でのフル発光は約335回となっている。

1%単位の残量、発光回数、電池の劣化度がわかるようになった

ガイドナンバーはGN60(照射角200mm時、ISO100・m)と600EX II-RTから変わっていないが、連続発光回数は従来モデルの「60回以上」から「160回以上」と大幅に増えている。これはキセノン管を新設計にしたことと、冷却ファンの内蔵によって実現したものだ。フル発光を繰り返すとオーバーヒートで止まってしまうという不満が、ある程度解消されたとみてとれる。

冷却ファンはON/OFFの設定も可能

冷却ファンの内蔵といった理由もあると思うが、手にしてみると従来機よりも一回り大きくなっていて驚いた。特に発光部が大型化しているので、この部分に装着するアクセサリーを使っている人は対応に注意したい。

EOS R5と並べたところ

操作性も向上

操作面では新たにジョイスティックが背面に実装され、モードやメニュー操作が格段にしやすくなった。またダイヤルに関しても、従来モデルよりも立体的になって回しやすくなった印象だ。

ダイヤルの中央に4方向のジョイスティックを装備

液晶パネルは黒に白抜きで表示される、いわゆる反転液晶タイプ。写真からもわかる通り、明るい屋外で非常に視認性が良かった。もちろんバックライトも必要に応じて点灯できる。

これは晴天の屋外で撮影したもの。コントラストが高く見やすい

「FEメモリー機能」も今回から加わった仕組みだ。これはE-TTLモードでの出力値をそのままマニュアルモードに移せる機能。まずE-TTLで撮影して標準的な発光量を割り出し、マニュアルモードでそこからさらに調整して撮影できるというもの。マニュアル主体で使う際、最初にどれくらいパワーを出すか見当をつけるのに便利な機能となっている。

FEメモリー機能はデフォルトでOFFなので、使う場合はONに設定する

ワイヤレス機能も充実しており、専用のトランスミッターや本機を送信機にしての多灯制御が可能だ。なお、現行のトランスミッター「ST-E3-RT」では、EL-1のワイヤレス後幕シンクロ、微小発光機能、FEメモリー機能は使用できない。これらに対応するのは5月下旬発売の新型トランスミッター「ST-E3-RT(Ver.2)」になるので注意したい。新型トランスミッターが間に合わなかったため、今回のオフカメラストロボ撮影ではシンクロのみ行う汎用のトランスミッターを使用している。

ワイヤレス機能も充実

光の当たり方を定常光で確認できるモデリングランプも搭載している。発光量と色温度をそれぞれ5段階で調整可能となっており、ちょっとした動画撮影時の照明にも使えそうだ。

モデリングランプの設定画面。上が明るさで下が色温度
色温度を最も高くしたとき
色温度を最も低くしたとき

発光部に装着するアタッチメントは3種類が付属する。オレンジのフィルターが濃淡それぞれ。そして白いのがバウンスアダプターだ。オレンジ色のフィルターは、主に環境光が電球色の場所で色温度を合わせるために使われる。バウンスアダプターは天井バウンスなどのときに光を拡散させて反射面を広くし、被写体の影を少なくするためのものだ。どれも着脱は容易だった。

同梱のアタッチメント
オレンジフィルターの装着例

シーン1 「フル発光で直射」

まずはフル発光の直射を行い、チャージスピードと光の質を確認した。ハイパワーが必要になる撮影の1つに逆光での日中シンクロがある。特に背景の露出を落としてドラマチックに写す手法では絞り込む必要があり、大光量が必要とされる。ここでは環境光の露出を抑えるため、シンクロ速度上限の1/250秒、F8とした。

撮影時の状況

ほぼ1秒間隔でどんどんレリーズできるので、モデルにポーズを変えて動いてもらいながら、リズムを崩さずに撮影を進めることが可能だ。ポートレートなら短時間で多くのバリエーションが撮れる。単3電池のストロボだと撮影者やモデルが数秒のチャージタイムを待つ必要があるので、なかなかこうは撮れないと思う。

EOS R5 / RF24-105mm F4 L IS USM / マニュアル露出(F8・1/250秒) / ISO 100
このように、様々なポーズを短時間に撮影できた

筆者も経験があるが、単3電池のストロボでチャージ時間を短縮するために、やむなく1/2や1/4にパワーを落として使っていたケースがあった。EL-1は、必要なら最大の出力が常に活かせるということだ。

一方、ストロボを評価する際に重要なのが光の質だ。特に一般的なクリップオンストロボは発光部やキセノン管の形状により、直射時に筋状にムラが出てしまう製品もかつてあった。だが、その点EL-1は心配なさそうだ。衣装に注目してみると均一に照らされており、光のムラは見当たらなかった。作品づくりにも十分対応できる光質を備えていると言えそうだ。

シーン2 「フル発光でソフトボックスを使用」

続いてはシーン1と同じ場所で、ソフトボックスを使ってみた。ソフトボックスを使うと光が柔らかくなる反面、光量は大幅にロスする。日中シンクロで背景を落としたければ、最低でもEL-1のようにガイドナンバー60クラスのストロボを使いたいところだ。

カメラの露出設定はシーン1と同じで、EL-1はフル発光とした。ソフトボックスによる光量ロスを補うため、ストロボを被写体に近づけている。この撮影を行った日は空一面の曇り空という比較的暗い状況だった。それでも、このような絵を撮ろうと思うとフル発光にしなければ難しいということだ。

撮影時の状況

このシーンでも被写体に動いてもらいながら撮影しているが、とにかくチャージが速いので、筆者もほとんどストレスを感じること無くシャッターを切れた。シーン1同様、スピーディーに多くのカットを押さえられるのは大きなメリットである。

EOS R5 / RF24-105mm F4 L IS USM / マニュアル露出(F8・1/250秒) / ISO 100
このシーンもポーズを変えながら連続的に撮影できた

シーン3 「ハイスピードシンクロ」

次は草むらでハイスピードシンクロを試した。絞りを開けたい場合には、背景が白トビしないようにシャッター速度を上げるが、シンクロ速度を超えるとストロボは同調しない。

詳しい原理は割愛するが、シンクロ速度を超えたシャッター速度でも同調するのがハイスピードシンクロ機能だ。ただし、ハイスピードシンクロは光量に大きなロスが生じるのでハイパワーが必要になる。この点で、リチウムイオンバッテリーを使ったEL-1に優位性が生まれている。

このシーンでは草を大きなボケとして活かしたかったので、F1.2という絞り値を選んだ。すると背景がちょうどよい露出となるシャッタースピードは1/640秒となった。ここでは、カメラのホットシューにEL-1を装着して直接照射してみた。直射なので少々光は固めだが、やはり均質に照射されておりきれいに仕上がったと思う。

EOS R5 / RF85mm F1.2 L USM DS / マニュアル露出(F1.2・1/640秒) / ISO 100

ハイスピードシンクロなのでそれなりに大きな発光量になっているはずだが、ここでも短いサイクルで連続的に撮影ができた。

シーン4 「微小発光」

EL-1の大きな特徴の1つに微小発光機能がある。マニュアル撮影で発光量を最小まで絞ってもなお露出オーバーになって困るという場面は筆者も経験があるが、同様に感じている人も多かっただろう。

従来モデルのマニュアルモードでの最小発光は1/128までだったが、EL-1ではなんと1/8,192での発光が可能になった。ちなみにフル発光から1/128の間が7段だが、1/8,192は1/128から6段も下ということだ。言い換えると、1/8,192は1/128に対して1/64という正に微小な光となる。

マニュアルモードで1/8,192の出力にしたところ

こうした微小発光がどういうときに役立つかといえば、1つは「手持ち夜景ポートレート」が挙げられるだろう。手持ちで夜景を写すために高感度に設定して、被写体はストロボ光で明るくするというものだ。

三脚不要なので手軽だが、ISO感度を高くしているためストロボ光を最小にしても露出オーバーになってしまう場合がある。被写体からストロボを離すことでも減光できるが、そうすると光が固くなってしまう。またカメラにストロボを付けていると、そもそもストロボだけを動かすことはできない。

今回は、日が落ちて真っ暗に近いときに遠くの夜景とともに人物を写すケースで微小発光を検証した。ここでは夜景を青く表現したかったので、同梱のオレンジフィルターの濃い方を装着し、WBを2,800Kに設定している。

撮影時の状況

カメラの露出設定としては、夜景はボカしたいのでF1.4に設定。シャッター速度はなるべく遅くしたいが、被写体ブレの防止も考慮して1/125秒とした。これで夜景がちょうどよくなる感度はISO 6400だった。

ストロボ非発光の状態
EOS R5 / RF85mm F1.2 L USM DS / マニュアル露出(F1.4・1/125秒) / ISO 6400

この状態で、従来機の下限であった1/128で発光させたのが下の写真。人物がかなり露出オーバーになってしまった。

1/128での発光
EOS R5 / RF85mm F1.2 L USM DS / マニュアル露出(F1.4・1/125秒) / ISO 6400

そして微小発光で撮影したのが下の写真。発光量を変えて何枚か試して、1/4,096がここでは合っていた。淡い夜景のイメージに合う露出で人物を撮影できた。

1/4,096での発光
EOS R5 / RF85mm F1.2 L USM DS / マニュアル露出(F1.4・1/125秒) / ISO 6400

オレンジのフィルターとソフトボックスを組み合わせているため、直射に対しておそらく2段分以上は光量をロスしているはずだが、それでもここまで光量を絞らないとダメだということがわかった。

昔はここまでの高感度でポートレートを撮るということは筆者はあまりなく、こうしたケースでは三脚を使ったスローシンクロの手法を使っていた。ただ今回使ったEOS R5もそうだが、昨今のデジタルカメラの高感度画質がめっぽうきれいになり、どんどん超高感度で手持ち撮影ができるようになった。そうした背景を考えると、EL-1の微小発光機能はまさに現代のデジタルカメラにマッチした進化なのだと感じた。

全部入りの新世代モデル

クリップオンストロボのリチウムイオンバッテリー化はカメラメーカー以外での採用が先行しており、各カメラメーカーの対応が待たれていた。そうした中で登場したEL-1は後発の感もあるものの、他社では珍しい、対応カメラと合わせての防塵防滴機能や、微小発光機能などが盛り込まれているのがポイントだろう。

今回はマニュアル発光を主に使ったが、キヤノンの自動調光機能である「E-TTL II」も搭載している。これならカメラをフルオートにしておいてシャッターだけを押しても、まず失敗なく撮影できるという懐の深さも持っている。

TTLモードのEL-1をホットシューに装着し、EOS R5の全自動モードである「シーンインテリジェントオート」で撮影。問題ない仕上がりに
EOS R5 / RF24-105mm F4 L IS USM / オート(F4.5・1/250秒) / ISO 800

実勢価格は税込14万円ほどで、クリップオンストロボとしては高価な部類だ。ただ、カメラメーカー純正という安心感と、クリップオンストロボの「全部入り」とも言える満載の機能を考えると、プロやハイアマチュアの高度な使い方にも応える申し分ないスペックと言える。EL-1の登場は、クリップオンストロボの新世代が訪れたことを感じさせてくれるものだった。

モデル:羽田彩音(https://twitter.com/ayane_haneda

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。