特別企画
キヤノンEOS R5とRFレンズシステムで行く新潟路(前編)
RF100-500mmや85mmマクロなど、最新システムの使い心地を探る
2021年3月22日 00:00
キヤノンのEOS Rシステムが急激な速度で進化している。第2世代機たるEOS R5、R6と機を一にするようにして、100mmから500mmをカバーし、さらにテレコン装着にも対応した「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」が登場。マクロ撮影にも対応した「RF85mm F2 MACRO IS STM」も加わるなど、85mmレンズの選択肢は今や3本だ。続々とシステムが整いつつある最新EOS Rシステムを手に、個人的にも購入したEOS R5の完熟運転も兼ねて、東北へ撮影に向かった。長年キヤノンのEOSシステムを使用してきた筆者の視点から、最新システムのポイントについてもお伝えしていきたい。
RF100-500mmに関する印象
旅の舞台は新潟県。長岡から弥彦、そして柏崎へと進路を向けた。移動は主に車を使っているが、撮影場所へのアプローチは徒歩になる。キヤノンはRFマウント版の望遠ズームで積極的に沈胴機構を採用していて、耐久性や操作性の面で、このクラスのレンズで従来モデルからの使い勝手を変えてきたことに対して、一抹の不安を覚えていたことは確かだが、今回「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」を多用する中で、そんな不安は消し飛んだ。
やはりコンパクトになることは正義だ。バッグへの収まりも良く、これまでのシステム運用で、レンズ数本を追加できる余裕が生まれることも。使い勝手の面でも、高速なAFの手伝いもあって、すこぶる使い勝手はいい。何よりも慣れ親しんだEOS 5系の操作感は、EOS Rで感じていた不満部分を帳消しにしてくれるほどの出来。すっと手になじんだ。
ファーストカットは、秋深い北の郊外。川沿いのあちこちに黄色いセタカアワダチソウが咲き乱れている。それを盛り上げるようにしてススキの穂が光り輝いていた。超望遠500mmでの玉ボケが自然で優しい演出をしてくれた。
今回の撮影は晩秋から初冬にかけて実施。目の前に冬が迫る長岡市では、東京の12月と同じように銀杏並木の色が濃くなっていた。ボクも非常勤講師として招聘されている同地の大学キャンパスでは、黄色く染まる世界でスケッチブックに筆を走らせる学生の後ろ姿がみられる。もう40年も前のことになるが、自分自身の大学時代と、その姿がオバーラップする。今にして思えば、こうして500mmの超望遠レンズで手持ちスナップができるようになるなんて、とても想像できなかった。
雨の降る朝方、レースのカーテン越しにガラスについた雨粒にRF85mm F2 MACRO IS STMで寄ってみた。85mmという焦点距離はポートレートの王道だが、準マクロ的な撮影が出来る本レンズは、プラスしてクローズアップの世界も楽しめる。パーツアップで被写体の印象的な部分を切り出せるメリットは、様々に応用できそうだ。
RF85mm F2 MACRO IS STMならではの魅力は、やはり寄れること。最短撮影距離35cm付近での描写を確かめた。本レンズはAFの駆動系にステッピングモーターを使用している。この恩恵もあり、AFはきわめて速く、スムーズ。ミラーレスならではのメリットとともに、迷うことなく意図した位置にフォーカスが決まる。
雨上がりの芝生の間から伸びた小さな火星人たちの群像ポートレートを這いつくばって撮影していたら、学生たちからヘンな目で見られた(笑)。
RF15-35mm F2.8 L IS USMの望遠側35mmを絞り開放F2.8で樹木へ寄った。逆光での条件だが、コントラストの低下はほぼ見られない。ワイドズームながら絞り開放でも玉ボケの形状は文句なしだ。
長岡市から弥彦神社へ向かう郊外でみつけた小さな神社。ちょっと缶コーヒー休憩していたらポトッポトッと音がする。見上げると銀杏の実が落ちてきた。小さな祠の屋根の上にも独特の強烈な匂いを放ちながら転がっていたので、高い場所へ思いっきり腕を伸ばしてEOS R5のバリアングルモニターを利用して撮影。銀杏の実が人形のような印象になり、かわいくなった。
旧長岡市街から日本海側の町へ向かうためには峠道を越えていくことになるのだが、途中で面白い被写体に出会うことが多い。AFが苦手とする、こうした混みいったシチュエーションでもEOS R5とRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMの組合せは、迷うことなく思った所へフォーカスできた。手ブレ補正の効きもよく、像の安定性も良い。集中してファインダーを覗くためにも、重要なポイントだ。
弥彦エリアに広がる田園脇のガードレールにとまったアカトンボが神社までの道案内をしてくれた。焦点距離は400mmにして、やや離れた位置から狙った。
筆者は長岡を訪れる度に、少し遠出して弥彦神社にお詣りにするようにしている。今回はじめて訪れた時は、秋の初めの時期だったこともあり、遠くから見える広大な田園風景の中に小高い山が見えて、近づいていくと厳かな森に分け入る印象を抱いた。
昔ながらの造りが大好きなこの社には大きな飾り絵が奉られている。普段は休憩所として使われている場所だけれども、訪問時は菊祭りの準備で大忙し。少し大柄なレンズだけれども、ボディ側との協調制御が強力な手ブレ補正の助けをいかして、シャッタースピードが遅めになるように調整。建物はシャープに、人物をブラして表現してみた。
弥彦神社の狛犬様の頭部が人物と同じくらいなのでポートレート撮影の距離感で迫ってみた。木々の間からは美しい光が玉ボケをつくりだしている。怒った時の女性のような形相かゴジラみたいになったのはお愛嬌だ(笑)。
85mmといえばポートレート向けの焦点距離という理解が一般的だ。RF85mm F2 MACRO IS STMは、最大で0.5倍のマクロレンズとしても使うことができる。開放側のF値もF2と明るいため、印象的なボケ味をいかした作画も可能。風景撮影やスナップなど、様々な場面で活躍してくれる1本となっている。
絵馬の飾り紐にぐっと寄ってみた。先に説明したように、RF85mm F2 MACRO IS STMは接写もできる中望遠だ。このようなシチュエーションではボケがうるさくなりがちだが、手前の前ボケ、奥に向けてのボケ描写もともに繊細かつやさしい印象だ。
七五三のお詣りで親子連れが多い。超望遠ズームをとっさに構えたが素早いAF合焦で後ろ姿を捉えることができた。色のノリもよく、着物のハリ感再現も見事。人物の肌色再現も自然だ。
社殿造りの窓ガラスは現代的な平面ガラスではないようで、光の反射面が複雑だった。こうした古いガラスが使われている建造物も今や少なくなった。
ここでもRF85mm F2 MACRO IS STMの接写性能をいかして、グッと寄ってみる。絞りは開放のF2にセット。少し近づくと立体感が増してくる。秋の日射しは短い。釣瓶落としの斜光線が、どこかもの悲しい。
弥彦神社への参詣のあと日本海へ抜けて立ち寄った寺泊港にて。「普通、手前にフォーカス合わせるだろっ!!」と突っ込まれそうなところだが、あえて遠景の雲にフォーカスして、手前の烏賊釣り漁に使うランプで前ボケをチェック。輪郭描写がふんわりとした印象で、自然なボケ感に好感が持てる。
一度内陸へ入り、さらにゆるやかな山道を越えると重く垂れ込めた空の合間から金色に輝く夕陽が顔を見せてくれていた。走るクルマのフロントガラスから電柱と海景色を見た瞬間、画角は85mmだと決めていた。
3人の釣り人たちがこの場を立ち去るまで、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMのズーム域を何度も変えながら、カメラを構える腕が痺れてくるまでずっと狙っていたのだが、ボクの中で主役は釣り人ではなく、傾いた太陽からの斜光線と海。それを受けて金色に煌めく桟橋の水溜まりの美しさに魅せられたのだった。
今回の旅ではRF100-500mmF4.5-7.1 L IS USMをかなり多用することとなった。EFマウント時代の定番レンズ「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」も便利な1本だったが、RFマウント版は、焦点距離が100mm分加算されて、超望遠域に手が届くようになった。それでいて、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMよりも約200gほど軽量化されているところも嬉しいポイントだ。
いまや600mmに届く焦点距離のレンズも一般的になってきているが、ボクにとって、100mmから使えるレンズは、とても重要な1本。機材を多くしたくない旅撮影でもカバーできる焦点距離が幅広いことは、大きな利点となる。
さらに沈胴機構で全体にコンパクト化が図られている以外に、ボディ側との協調動作に対応した強力な手ブレ防止機構によって、手持ち撮影の幅もグッとひろがる。それでいて画質の良さも光る。まさに超望遠スナップショットの世界をひろげてくれる。
RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMで、空から海へと吸い込まれようとしている太陽を捉えた。この日の太陽はいつもよりも大きく感じられた。
日没直前の太陽と海面。レンズはRF15-35mm F2.8 L IS USMに持ち替えている。逆光条件だが、コントラストの低下は見られない。本レンズの絞り羽根は9枚の円形絞り。光芒の表現も美しい。
完全に水平線へ太陽が沈んだあとの海と空は徐々に静けさへ向かう。500mm側で撮影した後だと、望遠域の100mmでさえ広角レンズのように感じるくらい広がりがある。1本で多彩な表現が可能になったところも嬉しい。
空と海の色が薄らいで静かな風景へと変わる頃、灯台の灯りが点滅するタイミングに合わせてシャッターを切った。
後編へつづく
今回は新潟県の長岡市を拠点に日帰りが出来る範囲に位置する柏崎市、出雲崎町、弥彦村などを小範囲でまわった。新潟県北部に位置する村上市は初めて訪れる場所でもあった。後編では、この村上市で捉えた印象的なシーンも交えながら、今回の撮影で得られたEOS R5とRFレンズ群に関する総括をお伝えしたい。