特別企画

ニコン Z 50の“クリエイティブピクチャーコントロール”に気持ちをのせて(後編)

自分の中の無意識を探る 組写真にまとめるコツも

ニコンZ 50を通じて、感情や雰囲気を一枚の写真に表現する手段として「クリエイティブピクチャーコントロール」(以下、クリピク。撮影データはCPと表記)の活用を伝えてきましたが、後半となる今回は、このクリピクを使いこなして、一体どんな楽しみ方ができるのか? をお伝えしたいと思います。

クリピクで組写真をつくってみよう

写真は感情を表現できる、をテーマでクリピクの使いこなしをご案内しましたが、単に撮って終わりにするのではなく、今度はその撮った作品を是非並べてみてください。難しく考えて撮っていないだけに、自分の視点、癖、色、構図がよく見えてくるでしょう。

そこからひとつの案として組写真を構成してみるのも楽しいことですよ。

今回、私は3日間クリピク撮影をしました。その時の気持ち、雰囲気を感じるままに撮ってみました。

使用した機材「ニコンZ 50」

でも、ここで終わってしまうのではもったいないです。感情のままに撮影してまとめたものから、今度は3枚組や4枚組など、組写真を構成してみてはいかがでしょうか。

私が選んだ組写真はこちらです。

組写真1

懐かしさのラベンダー。人気の無い神社の鳥居。思い出の人形。

昨年行ったニース〜プロヴァンス、シーズンではなかったがラベンダー畑が観光地になっていて、お土産にもラベンダーに関するものが多かった。プロヴァンスを思い出して育て始めたこのラベンダー。懐かしい感じがしたので「トイ」に。

緊急事態宣言で人が街にいない。たまたま車で通りがかった神社から見えた夕日が綺麗だったから降りてみた。結果、被写体となったのは、散り始めた桜と鳥居。

随分前に家人がパリで買ってきたという人形。懐かしそうに見つめる家人から思い出話しを聞く。人形の憂いがメランコリックな色味に合う。

3枚からのイメージは、意味なく切ない気持ち。横並びにしてみると、鳥居が=(イコール)で結びつけているような? 遊びの感覚です。

ベランダで育てているラベンダー。背景に目隠し用のガラスシールの模様を入れて。周りに余計なものが写ると画にならないので、出来るだけ主になるラベンダーだけを入れて撮影。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(26mm:39mm相当) / マニュアル露出(F4.5・1/160秒・+0.7EV) / ISO 100 / WBオート / CP:トイ
近所の神社と桜。人のいない神社。なんとなく寂しそうな桜と鳥居を構図に入れてみた。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(25mm:37mm相当) / マニュアル露出(F5.6・1/250秒・+0.7EV) / ISO 320 / WBオート / CP:メランコリック50
パリで買った人形。柔らかい質感と色あせたドレスとを下からのライトで浮き立たせて撮影。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(47mm:70mm相当) / マニュアル露出(F6・1/125秒・+0.7EV) / ISO 640 / WBオート / CP:メランコリック50

組写真2

撮りたい写真を目一杯撮れないストレス。それでも自然は何事もないように生きている。夕方の空、雲、光が綺麗だった。希望にも見えた光をキリッとさせたくて「サンデー」。

たまにひとけのない近場をカメラを持って歩いてみるが、気がつくと光を求めている。路面の光が1本の線に見え撮影した。3枚とも光への視点をスポット的に表現している。

癒しのひとつでもあるガーデニング。そのまま綺麗な花を撮りたくなかった捻くれた感情。下からライトを当てることで出来た色味。気に入った。

家の窓から見た夕方。雲や光の加減が美しいと感じた。キリッと撮したかった。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F6.3・1/400秒・+0.7EV) / ISO 400 / WBオート / CP:サンデー
車で通った見知らぬ住宅地。手前にある2本の木が主に見えるが、その先の路面を主として、光1本の線に見えるように撮影した。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(17.5mm:26mm相当) / マニュアル露出(F7.1・1/400秒・+0.7EV) / ISO 160 / WBオート / CP:デニム
ベランダで咲いている花。下からライトを当てることで独特な雰囲気を作り上げたかった。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(26mm:39mm相当) / マニュアル露出(F4.5・1/160秒・+0.7EV) / ISO 100 / WBオート / CP:トイ

組写真3

季節は変わる、時間が経つことは、景色も変わる。変わらないのはビールの美味しさだけ、などとくだらない? 組み方も面白いかも。色合いで選んだ3枚。スカッとした色合い、ビールでもスカッとしたい、との思いで締めくくり。

着々と進む建設現場。建物ができたらこの光景も懐かしく思うのだろう。
ニコンZ 6+NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(24mm) / マニュアル露出(F7.1・1/320秒) / ISO 400 / WBオート / CP:ポップ
枯れ始めた桜。それでも桜は美しい。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(31.5mm:47mm相当) / マニュアル露出(F5.0・1/640秒・+0.7EV) / ISO 320 / WBオート / CP:ポップ
誰がどう見てもビールとわかる。今日もお疲れ様。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(50mm:75mm相当) / マニュアル露出(F6.3・1/100秒・+0.7EV) / ISO 640 / WBオート / CP:ポップ

組写真4

詩的なイメージ。同じ空間での4枚。時間差はほとんどないが、光の違い、場所の違いで、当たり前だがクリピクも違うと全く別の世界ができる。4枚の繋がりは、同じ空間。全てが違う世界観。

ランプのある部屋。基本暗い部屋。光の動きで変化するこの部屋をランプをアクセントに。どこかへタイムスリップする気がした。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(19mm:28mm相当) / マニュアル露出(F4.5・1/320秒・+1.7EV) / ISO 640 / WBオート / CP:トイ50
カーテンと窓。午後のいい光を感じた。柔らかい光、柔らかい色。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(26mm:39mm相当) / マニュアル露出(F9・1/125秒・+0.7EV) / ISO 200 / WBオート / CP:ドリーム80
その窓のすぐ下にある造花。造花は生物でないことが無音の世界を作り出す。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(19.5mm:29mm相当) / マニュアル露出(F5.6・1/160秒・+1.7EV) / ISO 125 / WBオート / CP:サイレンス
古びた椅子。その長椅子は疲れきっていた。光が存在を浮き立たせている。
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(19mm:28mm相当) / マニュアル露出(F9・1/125秒・+0.7EV) / ISO 200 / WBオート / CP:グラファイト

このように組写真で構成してみることで自分の写真を良く見返し分析することも面白いと思いますよ。またここからひとつのテーマを作り、じっくりと作品制作へ繋がることもあるでしょう。今までとは違った新鮮な視点を見出すきっかけにもなると思います。

モノクロ編

さて、このクリピクには4種類のモノクロがあります。このモノクロ、使い方で随分と楽しめるんです。単にモノクロというだけでなく、それぞれの特徴をぜひ、使いこなしてみてください。

クリピク(モノクロ)の種類

・チャコール
・グラファイト
・バイナリー
・カーボン

チャコールは軟調な仕上がり。幻想的なイメージを演出するのに最高です。またポートレートで女性の肌を綺麗に表現するには、とてもいい効果。曇天、晴天でも揺るがない表現力を作り上げてくれます。

グラファイトは、逆に硬調な仕上がり。きっと私って写真上手? と思わせてくれる写真に出来上がるかも(笑)。光の表現をより誇張して魅せてくれます。風景はもちろん、建造物なども面白く写し出されるでしょう。

またバイナリーはそのまま使うということよりは濃度を変えることで、モノクロともカラーとも言えない不思議な仕上がりになります。またこのバイナリーはマイクロフィルムをイメージさせ、文字などを被写体にした時はそのインパクトはかなりのもの。

バイナリー濃度20
ニコンZ 7+NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(53mm) / マニュアル露出(F4.0・1/160秒) / ISO 400

ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F8.0・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100
バイナリー濃度30
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F8.0・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

カーボンは暗いモノクロな仕上がりですが、イメージとして昔のモノクロ映画の世界観を感じさせます。適用度を30にしてみると面白い仕上がりに。

カーボン濃度30
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR(64mm:96mm相当) / マニュアル露出(F9.0・1/250秒) / ISO 100

チャコールも濃度30にしてみると、白の域の表現をカラーでも上手く使える効果になるでしょう。

チャコール濃度30
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F4.0・1/800秒・+0.7EV) / ISO 200
ポップ濃度100
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F4.0・1/800秒・+0.7EV) / ISO 200

この写真はそれぞれ、チャコールとグラファイトでの見え方の違い。

さほど日差しは強くはないが青空に雲が動いていたこの日。スカイツリーを見上げた写真。雲の見せ方がそれぞれでだいぶ違いが出ますね。チャコールはどこか印象的なシーンに感じられ、グラファイトは被写体をより主張する1枚となりました。

またこちらの写真はぱきっとした太陽の出ている日。海辺での1枚。水面での光写り込みが綺麗で撮影。これだけ光が強いシーンでしたら、私はグラファイトをオススメします。

チャコール
ニコンZ 6+NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(40mm) / マニュアル露出(F5.0・1/1,600秒・+2.0EV) / ISO 125
グラファイト
ニコンZ 6+NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(40mm) / マニュアル露出(F5.0・1/1,600秒・+2.0EV) / ISO 125
チャコール
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F9・1/1,600秒・+0.7EV) / ISO 320
グラファイト
ニコンZ 50+NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR(16mm:24mm相当) / マニュアル露出(F9・1/1,600秒・+0.7EV) / ISO 320

おまけ:Capture NX-Dをもっと活用する

RAWデータであれば後からCapture NX-Dでクリピクへ編集ができることを前回もお伝えしましたが、これはカメラがニコンZだけに限りません。過去にNEFで記録されたデータも、全てこのCapture NX-Dで編集できます。

ニコンD800で2012年に撮影したデータをクリピクに編集してみました。

使用方法ですが、今まで通り編集したいデータをCapture NX-Dで開きます。

編集したいデータをセレクトして、ピクチャーコントロール下にある「カメラの相互」をクリックしますと「Creative Picture Control」の項目が出てきます。これをセレクト。

セレクトしますと図の様にクリピク「ドリーム」から始まります。「ドリーム」をクリックして、クリピクの中のどれに編集するかを選びましょう。

私はデニムをセレクトしました。あとは前回でもお伝えした通り、右上のファイル交換で選択した大きさをフォルダー内に保存します。

できました写真を編集前とくらべてみます。

編集前
D800+AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR(70mm) / マニュアル露出(F11・1/100秒) / ISO 200
編集後(デニムを適用)
D800+AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR(70mm) / マニュアル露出(F11・1/100秒) / ISO 200

クリピクを通じて自分の中の無意識を探る

「写真は感情を表現できる」をコンセプトにつくられたクリピク。今回は、本当にその感情を“まんま表現してみる”ことに挑戦していきました。

とはいえ、実は思いっきり直感のみで撮影するということは意外と出来ないもの。仕事上、作品を作る上でも、やはり無意識の中に意識をして撮影しています。当たり前のことですが……。

今回はその無意識の中の意識を、あえて“直感”に集中して撮影してみました。もちろん、その都度クリピクで表現しています。前回もお伝えいたしましたが、このクリピク機能に慣れますと、簡単に撮影時にその場面に合わせて設定や調整項目を変えることがスムーズになってきます。

皆さんもぜひ、クリピクに慣れて撮影を楽しんでみてください。

佐藤倫子

東京都出身。東京工芸大学短期大学部 写真技術科卒業。株式会社資生堂 宣伝部入社。退社後フリーランスに。写真家として都内中心に個展・グループ展を開催。企画からイベント、講座やセミナーなどへも活動。主に化粧品などの広告写真を撮り続けてきたことが基本となり、作品にも「美」のある写真をつくり続けている。また内面からの美しさも追求しており、太極拳のインストラクターの資格も取得。写真集に「HOPSCOTCHINGS」「知のフラグメンツ」。公益社団法人 日本広告写真家協会(APA)正会員。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。ニッコールクラブ顧問。