特別企画

航空祭へ行こう!超望遠ズーム&高倍率ズームで航空機の撮影に挑戦

タムロン 150-600mm G2と18-400mm、それぞれの使い勝手は?

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/1,250秒 / F10 / 600mm / ISO 200

以前より撮影ファンから熱い支持を受けているイベントが「航空祭」だ。最近は女性やファミリーでの来場も増え、新たに撮影に挑戦する人も増えている。

今年の航空祭シーズンも後半戦に入り、すでに遠征を繰り返している読者もいるかと思う。その一方で、航空祭に興味はあっても、まだ未経験の読者も多いだろう。被写体の性質上、超望遠レンズが必要とあって、二の足を踏んでいる方もいるはずだ。

そこでフォトグラファーの井上六郎さんに、中上級者向けのレンズ(タムロン SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2)と、初心者向けのレンズ(タムロン 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD)の2本を使用し、航空祭での作例を撮ってもらった。

未経験者には敷居が高いと感じる航空祭の撮影だが、現場ではスマートフォンから超望遠レンズまで、様々な機材で撮影を楽しむ来場者の姿が見られる。特に今回は初心者向けとして、“超望遠”高倍率ズームレンズでの作例も交えたので参考にしてほしい。(編集部)

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航空祭とは?

航空隊が配備された自衛隊基地や駐屯地、米軍基地で、飛行機がデモンストレーションするなどの基地公開イベントがある。それが一般的に「航空祭」と呼ばれるものだ。

陸上自衛隊では主にヘリコプター、海上自衛隊では中型の哨戒機やヘリコプター、航空自衛隊や米軍基地では戦闘機の機動飛行や曲技飛行チーム「ブルーインパルス」の展示飛行を見ることができる。

基本的に入場は無料。展示飛行だけでなく、航空機などの地上展示や、地元食材を使った屋台などが並ぶ。各基地ごとに特色があり、文字通りお祭り的な雰囲気も味わえる。

今回撮影に赴いた航空祭は、毎年11月3日に催される埼玉県・航空自衛隊入間基地の「入間航空祭」だ。今年も雲ひとつない晴天に恵まれ、首都圏の交通の便もあって21万人(基地発表)の来場者があった。

予備の取材として、10月26日に百里基地で行われた航空観閲式事前練習を撮影していたので、こちらもあわせてご覧頂く。

基地内での撮影場所にもよるが、飛び回る航空機を画面いっぱいに写したいのであれば、400mm以上を備える超望遠レンズが欲しいところだ。

一昔前まで500mmや600mmといえば、明るいながらも大きく重いものが主流で、値段からもおいそれと手に出せない代物だったが、今回メインとして使ったレンズをはじめ、いまや手の届きやすい存在となっている。

航空祭で頼りになる1本「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」

航空祭で欲しい画角をカバーできるのが、このタムロン SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2。

35mm判フルサイズのイメージサークルに対応し、焦点距離150mmから600mmをカバーする。大型旅客機から小型の戦闘機まで、同じポイントからでも1本で済ませられる便利なズームレンズである。

APS-Cサイズ相当のイメージセンサーを搭載するデジタルカメラで使えば、35mm判換算で焦点距離225-900mm相当(ニコンカメラ使用時1.5倍換算、以下同)と、さらに望遠寄りの画角になる。

超望遠レンズとしては比較的小さいので、F値は若干暗い。その分、比較的軽量で取り回しの良さがある。画角だけでなく扱いやすさから、頭上近くを高速で飛び回るような航空祭の撮影には打って付け、というわけだ。

先代のモデルA011から光学系を改良して画質が向上。制御回路・AFアルゴリズムも改良され、AF性能も高まっている。さらに手ブレ補正機構を改良したことで、手ブレ補正レンズの応答性が向上した。手ブレ補正は4.5段分だ。タムロン自慢のeBANDコーティングも、ヌケのよいクリアな画像を提供するとのこと。

別売アクセサリー「TAMRON TAP-in Console」に対応し、AFの合焦位置、距離リミッターやフルタイムマニュアル設定、手ブレ補正の挙動方式などがカスタマイズできる。

そのほか、ズーム作動環に任意の位置で固定できるロック機構を備え、不意の繰り出しを防止できたり、三脚座がアルカスイス互換となるなど、気の利いた施しが随所に見られる、タムロンの自信作だ。

このレンズで撮影した作品をさっそく見て欲しい。

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地元入間基地所属・航空総隊のT-4がデモフライトへと出発する。タキシングを開始するパイロットが地上整備員へ敬礼をする瞬間を、ファインダーを覗きながらじっと待ってシャッターを切った。

APS-Cフォーマットのカメラでの撮影で35mmフルサイズ換算675mm相当であったが、手ブレ補正機構VCが効くので安定したフレーミングが可能であった。

D500 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/320秒 / F6.3 / 450mm(675mm相当。ニコンカメラ使用時。以下同じ) / ISO 100

そのT-4が見せたデモフライト。機体を垂直に横転させつつ会場上空を円を描くように一周するスティープターンだ。第一線の戦闘機部隊で活躍していたパイロット達が多く所属する隊とあって、練習機ながら切れのある機動を見せていた。

これもAPS-C機での撮影だが、向かって左から右へと抜ける際でも取り回しの良さから、機体への追随フレーミングが無理なくできた。

D500 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/1,250秒 / F7.1 / 600mm(900mm相当) / ISO 200

入間基地所属のC-1輸送機。傘型の5機編隊で飛ぶC-1のうち、圧縮効果を狙って3機のみを画面に収める。

航空祭ぐらいでしか見られない中型機の編隊飛行シーンだが、仰ぎ見るアングルよりも、やや遠めで飛ぶ編隊を望遠レンズで捉える方が迫力がでてくる。

D500 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/800秒 / F8.0 / 500mm(750mm相当) / ISO 100

地上の航空援助設備に対し、機能チェックを任務とする飛行点検隊のYS-11。機体前部から後方までの胴体が同一径となるように撮影できるのも超望遠レンズならでは。

機番12-1160は機齢46年ながら現役のターボプロップ機。戦後初の国産旅客機YS-11もここ入間に来ればまだまだ飛んでいる。

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/400秒 / F6.3 / 600mm / ISO 64

航空祭のハイライトがブルーインパルスの展示。パイロット達の整列、そしてウォークダウンと呼ばれる搭乗が、午後1時ごろから始まった。

肉眼でやっと見渡せるパイロット達までの距離は300〜400mmほど。手ブレ補正機構がレンズを向ける気にさせてくれるが、地上からの陽炎が壮大に出る状況だった。

D500 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/500秒 / F7.1/ 600mm(900mm相当) / ISO 100

ブルーインパルス4機が離陸後にダイヤモンド隊形を編み、挨拶代わりにゆっくりと低空をフライパス。これから始まるクイックでシャープな演目とは対照的なスローパスは、撮影する立場からもウォームアップとなってくれる。

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/1,000秒 / F9.0 / 600mm / ISO 160

5機が密集の傘型隊形となって宙返りを行うワイドトゥデルタループ。空が一番深い青を彩るところで背面飛行となり、続いて降下を開始する瞬間。照らし出される機体と尾を引くスモークの立体感は、アンダー目の露出で再現させる。

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/1,600秒 / F8.0 / 600mm / ISO 200

傘型の6機がやや間隔を開けて捻りを行うフェニックスロール。デルタループと同じく空の青さが深まるところで機体とスモークが立体感を見せる。白いスモークを基準に露出判定を行えばおのずと全体的にアンダーの結果となるはずだ。

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/1,600秒 / F9.0 / 600mm / ISO 200

アフターバーナーを点けて離陸するF-2戦闘機。百里基地で行われる予定だった航空観閲式の練習時に基地外周から撮影した。離陸機を追いかけるようにズーミングしながら撮ったのだが、少し安定しないアングルとなってしまった。ズームレンズとはいえ、任意の画角に固定してフレーミングを安定させて臨む方が、締まった画面構成になるだろう。

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/1,250秒 / F6.0 / 450mm / ISO 100

背中のエアブレーキを立てて着陸するF-15戦闘機。こちらも百里基地での撮影だ。背景を流すべく1/250秒と若干シャッタースピードを落とし、メインギア接地の瞬間を狙う。スローシャッターで背景を流す場合、手ブレ補正を効かせるのであればモードスイッチを2(流し撮り専用モード)にすることを忘れないでおこう。

D850 / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 1/250秒 / F6.0 / 260mm / ISO 64

編隊飛行から機体単独まで逃さない「18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD」

今回の撮影では、APS-Cフォーマット用の新レンズ、タムロン 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLDも使ってみた。タムロンの代名詞でもある高倍率ズームレンズだが、最新レンズはついに35mmフルサイズ換算で27-600mm相当(ニコンカメラ使用時、以下同)、約22倍ズームでの撮影が可能になった。特に望遠側の焦点距離600mm相当はこれまでにないもので、タムロンでは「超望遠高倍率ズームレンズ」と表現している。それでいて一般的な高倍率ズームレンズに近いサイズには驚かされる。カメラに付けっ放しのままでいい、そんな超便利ズームの機動力を航空祭で試してみた。

APS-Cカメラで使った場合の望遠端は、前述のSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2を35mmフルサイズカメラで使ったときと同じ画角(ニコンカメラ使用時)、同じ開放F値である。手ブレ補正機構VCは2.5段分。近接撮影にも強く、最大撮影倍率1:2.9での撮影が行える。

前述のTAMRON TAP-in Consoleにも対応し、AF時の合焦位置、手ブレ補正の挙動方式をカスタマイズ可能。また、広角端で携行時にズームの繰り出しを防ぐロック機構も付くなど、こちらも盛り沢山の内容だ。

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デモフライトを終えてエプロンの駐機場に戻ってくるT-4。18-400mmレンズのコンパクトな外見から、それが35mmフルサイズ換算で600mm相当まで届くレンズであることを忘れてしまうぐらいだ。手ブレ補正の効き具合からスローシャッターにも挑戦したくなるが、被写体ブレにつながる機体の動きに気をつけることは、お忘れなく……。

D7200 / 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD / 1/160秒 / F14 / 240mm(360mm相当) / ISO 100

動きの無いメカニカルな物の描写を試してみようと駐機中のT-4機のノーズギアを撮影する。白い支柱にある油汚れやタイヤ側面のロゴマークなども確認できるほど、キッチリと解像しているのが判る。遠景では陽炎が出ていたので、近めの被写体を選んだ。

D7200 / 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD / 1/500秒 / F11 / 400mm(600mm相当) / ISO 100

ブルーインパルスが誇る、オリジナル演目のキューピッド。スモークを炊いた2機がハートマークを描き、1機がその真ん中を射抜く。望遠レンズだけでは全体像を写し出せないが、広角からカバーできる高倍率ズームレンズが1本あれば心配要らない。

D7200 / 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD / 1/500秒 / F8 / 18mm(27mm相当) / ISO 100

戦術着陸の一つであるコンバットブレイク方式(飛行場へ低空進入し滑走路上空で上昇)で飛行するC-1輸送機。半逆光の光線が機体表面の質感を描写した。結構なスピードが出ていたが、AFでの追随は難なく行えていた。

D7200 / 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD / 1/1,250秒 / F7.1 / 400mm(600mm相当) / ISO 200

垂直上昇の後に編隊がブレイクする。35mmフルサイズ換算600mm相当でも機体がこの大きさなので、高度は4,000〜5,000フィートというところだろうか。それほど激しい動きをしない演目とあって、シャッタースピードを落とし、絞りをもう少し絞った方が、描写はさらに締まったことだろう。

D7200 / 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD / 1/1,600秒 / F7.1 / 400mm(600mm相当) / ISO 200

F-15戦闘機が離陸へ向け滑走路をタキシーバックする。まだ余裕の300mm(換算450mm相当)での撮影。コンパクトにまとめられた高倍率ズームレンズなので、気負わず気軽に撮影したつもりだったが、その描写性能には関心させられる。

D7200 / 18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD / 1/1,600秒 / F8.0 / 300mm(450mm相当) / ISO 200

まとめ:技術の進歩で「航空祭」レンズに選択肢が増えた

数年前まで500mm、600mmといった超望遠域で撮影するなら、純正の大きく明るい単焦点を用いては手持ちでもぶん回していた。今でも明るさがどうしても必要な場合はそれらの単焦点レンズを用いているが、重さと大きさゆえの扱いにくさには閉口してしまう。

そこに登場した「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」は、明るさが多少犠牲になるものの、小型ゆえの取り回しの良さと各焦点域をカバーできる利便性を持ち合わせていた。入手してすぐさまメインレンズとも呼べるまでの常用望遠レンズとなった。

移動に自家用車を使うことが多い私だが、鉄道や飛行機での移動でも、いつも持ち歩くカメラバッグに押し込める移動時の携行性も魅力となった。

航空祭会場などの人が密集するエリアにあっては、周りの人にそれほど気兼ねすることなく撮影できるのも大きい。しかも、それが手ごろな値段で手に入るとなれば御の字だ。

そして今夏に登場した「18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD」は、飛行機を撮ろうとするAPS-Cフォーマットカメラの使用者に、頼もしい選択肢が一つ増えたといえる。普段使いの一眼レフカメラでも、いざとなればかなりのアップで航空機を狙えるのは、交換レンズを持ち歩くことが困難な場合には絶対的に有利だろう。AFスピードなどで「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」に敵わない部分はあるものの、それでもさらに小型軽量なため、女性でも気軽に扱えるだろう。

航空祭シーズンもたけなわなこの時期に、持って来いのレンズだ。

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新レンズ「100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USD」が正式発表!

今回紹介した「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」の弟分ともいえるズームレンズがタムロンから登場する。クラス最軽量を謳う「100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USD」がそれだ。

より軽量でコンパクトなサイズながら、4段分の手ブレ補正機構VCや、手ブレ補正処理用のMPUを独立させたデュアルMPU仕様を採用。タムロンのテレコンバーター(1.4xおよび2.0x)も装着できるため、さらに焦点距離を伸ばすことができる。

ニコン用、キヤノン用ともに発売は11月16日。希望小売価格は9万円(税別)。

じっくり三脚を使って望遠撮影を楽しみたいときのために、別売の三脚座も用意されている。

タムロンの製品情報ページには、このページの撮影と執筆をお願いした井上六郎さんの作品もあるので参考にしてほしい。

井上六郎

(いのうえろくろう)1971年東京生まれ。写真家アシスタントを経て、出版社のカメラマンとして自転車、モーターサイクルシーンなどに接する。後、出版社を退社しフリーランスに。マラソンなどスポーツイベント公式カメラマンも務める。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。