新製品レビュー
FUJIFILM X100VI
ついにボディ内手ブレ補正を搭載 第5世代センサー&エンジンでAFも快適に
2024年2月23日 07:00
X Summit TOKYO 2024でX100VIが発表された。本機は2011年3月に登場した初代X100から、13年の時を経て6世代目へと進化したモデルだ。
“単焦点レンズ固定式のデジタルカメラ”というエンスージアムな機種が、干支がひと周りする以上の時間をかけて存在し続けている。前モデルとなるX100V登場時のレビュー記事でも触れているが、この事実はX100シリーズがファンの心を掴んでいること、メーカーとしても開発リソースを投入するだけの価値があるモデルだと認識されていることの証明だろう。
大幅に強化されたスペック
本機のハイライトは、X-H2やX-T5と同じ裏面照射型約4,020万画素イメージセンサー「X-Trans CMOS 5 HR」と最新世代の画像処理エンジン「X-Processor 5」の組み合わせを採用する点と、X100シリーズで初めてボディ内手ブレ補正機構(以下、IBIS)を搭載したことだ。IBISの効果は5軸・最大6.0段とされている。
X-Processor 5搭載で期待される、ディープラーニングを用いたAIによる被写体検出AFについても搭載されているし、X-T5などと同様に、電子シャッター時には最高1/180,000秒のシャッター速度が選択できる(単写設定時)。
またGFX100 IIで初採用した新フィルムシミュレーション「REALA ACE」も搭載された。これについては、X-Processor 5搭載機種であるX-H2S/X-H2/X-T5/X-S20に順次拡大(2024年夏頃)されることがアナウンスされた。
レンズについてはX100Vと同じものが引き続き採用されている。これは、X100V登場時に「40MPに対応するレンズ」であることが明かされているので、本機の登場が答え合わせとなった。
このようにスペックが大幅に強化されたが、その代償として質量は43g増量の521g(バッテリー、 メモリーカード含む)に。とは言え、わずか43gのエクストラでIBISが搭載できるのだからお見事と言う他ない。
また、富士フイルム創業90周年を迎えたことを記念して、X100VIの90周年記念限定モデル“Limited Edition”を全世界1,934台限定で発売する。カメラ本体に創業当時のコーポレートブランドロゴとユニークシリアルナンバーの刻印が施され、限定ストラップやソフトレリーズボタン等が同梱される。国内での販売は公式サイトの「フジフイルムモール」での抽選販売となる。
外観と操作性
外観は、X100Fから刷新された(と言ってもリファインに留まるが)X100Vとほぼ同等。全体に操作ボタンの少ないシンプルな意匠が踏襲されている。質感はX100Vと同様に高品位だが、市場想定価格は税込28万1,600円前後との事(Limited Editionは同35万900円前後)。この28万円というプライスタグからするとギリギリ納得出来るかどうか、という気持ちは否めない。
従来機と同様に、AF時にはしっかりと駆動音がする。価格帯からするとやや興醒め、というのが正直な印象だ。ポジティブな見方をすると、AF-CではAFモーターが頑張っている様子が分かり微笑ましい。
直接比較確認したわけではないが、外観上のX100Vとの相違点は背面モニタの上部に配置されているDRIVE/DELETEボタンの位置が右方向に移動したことと、背面右下にあるDISP/BACKボタンにBTマークが追記されたことくらいの様に見える。
OVFとEVFを切り替え可能な「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」は引き続き採用されており、ドット数はX100Vと同じ約369万ドットとなる。
X-Pro3やX100Vと同様に、EVF時にはマスクがせり上がりひと目で「EVFモード」と分かる。効率性で本機構が優れるのかも知れないが、美しさという点ではスポイルされているように感じられた。
実写
テストした個体は製品版ではないので、あくまでもベータ機での感想となる。
撮影時の感触は非常に良く、触れているだけでも高揚感がある。新エンジンとセンサーによるAFの快適性については、X-T5などとほぼ同等。トラッキングもまずまず強力に追従してくれるので実用的だったため、今回はAF-Cでワイド/トラッキングを常用した。
AF速度はレンズ側のAFモーターの実力になるので、例えばXF23mmF2 R WRなどの方が快適だが、ベータ機の段階でも必要十分以上の性能があった。
咄嗟に構えて一気押しで撮影するようなシーンでのAF結果も良く、従来機のようにAFミスなどの偶然性を楽しみたい場合には、運用上の工夫が必要かも知れない。性能が良いことは大変喜ばしいことだが、写真を楽しむという観点においては、失敗からの学びを愛でる機会が減ってしまうという事でもあるので、X100シリーズのように趣味性の高い機種が成長していく様子には複雑な気持ちもある。
IBISの効果はかなり強力。試しにOFFにしてみたが、一度体験してしまうともうIBIS無しの生活には戻れないと感じてしまうくらいには効きが良く、スペックからの期待に応える十分な実力がある。
描写については、正直な意見としてはX100Vと変わらずの印象。基本的にシャープでコントラストも高く、ビシッと写る。絞りや撮影距離による描写変化も少なく「優秀な高性能レンズ」である。近接時にX100Fのような、まるでオールドレンズのような味わいのある描写とはならないところもX100Vと同様だ。センサーが40MPになったからと言って劇的に何かが変化した様子はない。
40MPの恩恵で最も大きいと感じたのは、デジタルテレコンの使い勝手が非常に良くなったこと。というのも1.4倍でも約20MPで記録できるので、精神衛生上の健康を保ったままデジタルテレコンを使用できる。
IBIS搭載ももちろん大きな意義を持つが、デジタルテレコンの使い勝手に魅力を感じる従来機ユーザーは多いのでは? と思う。
フィルムシミュレーションのREALA ACEについて。初搭載となったGFX100 IIのレビュー記事でも簡単に紹介しているので併せて確認してほしい。
PROVIA / スタンダードと比較してみた。空の表現が若干異なることと、シャドー側のトーンが軟調でややウォームトーン。ハイライト側についてもPROVIAよりわずかに明るい表現。明度のコントラストはやや軟調気味ながら、色はメリハリがある印象。
全体的には、PROVIAやProNeg.Stdと比較しなければ明確な違いは分からないけれど、何か良い感じがすることと、癖が少なく常用出来そうである点もGFX100 IIでの印象と一致している。
まとめ
X100VIを使ってみて驚かされたのは、実はバッテリーの持ちである。
バッテリーは従来機と同一のNP-W126Sだ。撮影性能の向上とIBIS搭載などによって、必要とする電力は少なからず増えているだろうけれど、新エンジンの省エネ性能によって、善処して従来機同等くらいと予想していた。
背面モニタとEVFとOVFをおおよそ6:3:1の割合で、電源はコマメにOFF、消費電力設定はエコノミー、単写のみというやり方で何日間か撮影してみた結果は予想を大きく上回り、600ショットしてもバッテリー残量が40%を下回ることはなかった。スマホと接続していないことが効いているのかも知れないが、素晴らしい結果に驚かされた。
筆者のメモにある過去に試用したX100Vでの記録と比べても20%近く改善されている。システム全体で省エネ性能が大きく進化していることが実感出来たし、同じバッテリーを使う私物のX-Pro2での2023年度の実績では平均して300ショットでLowBattになるので、この結果には感慨深いものがあった。