新製品レビュー

キヤノン EOS R6 Mark II

「EOS 5D Mark IV」の解像性能を凌ぐスタンダードモデル

12月に発売されたキヤノンの「EOS R6 Mark II」は、35mmフルサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラで、2020年8月に発売された「EOS R6」の後継機にあたります。

同じキヤノンのフルサイズミラーレスカメラとしては、「EOS R3」と「EOS R5」が存在するため、中級機という位置づけになるかと思いますが、その実、決して侮れないほどの高い性能をもった最新機種です。いずれ登場するであろう上位機種の後継機を予測するうえでも注目のモデルと言えます。

※本稿は試作機で撮影したデータを掲載しています

大きくは変わらないオーソドックスなスタイル

「EOS R6 Mark II」の高さ×幅×奥行・質量(バッテリーとカード含む)は、約98.4×138.4×88.4mm・約670gとなっており、前モデル「EOS R6」の97.5×138.4×88.4mm・約680gとほとんど変わりありません。極々わずかな増加といったところでしょうか。

外観のデザインもほとんど変わらず、「Mark II」なのかそうでないのかパッと見では判断しづらいと思います。上位機種と異なり、一般的なモードダイヤルを備えたスタイルは、ある意味ひとつの完成形ですので、大きなデザイン変更がないのも当然と言えば当然でしょう。

随所に改良が施された操作系

しかし細部に目を移すと、最新型になっただけの変更が随所に見られます。まず、「EOS R6」で「電源スイッチ」だった、カメラ上部左側(カメラを構えた状態で左)の円形のスイッチは、「EOS R6 Mark II」になって「静止画撮影/動画撮影切り換えスイッチ」に変更。静止画と動画の切り換えを、モードダイヤルでなく、独立したスイッチやレバーに担当させるのは、昨今のミラーレスカメラ全体の流れですね。

「EOS R6 Mark II」の電源スイッチは右側に移動し、「サブ電子ダイヤル2」と同軸に設置されています。また、「EOS R6」では独立していた「LOCK(マルチ電子ロックボタン)」も、電源スイッチに統合されました。「LOCK」は、メイン/サブ電子ダイヤルやマルチコントローラーなどの操作を一時的に無効にする機能で、知らないうちに設定が変わってしまうといった誤操作を防止する機能です。

「EOS R3」と同様の「マルチアクセサリーシュー」を新搭載。ストロボのコントロールや音声のデジタル入力、高速データ通信や電源供給などの機能拡張に対応しています。
接点部は繊細なため、水滴や異物の侵入を防止するためにシューカバーが付属しています。

マルチコントローラーは形状が変更され、中央押しの操作がやりやすくなりました。中央押しのつもりが横方向へスライドしてしまうといった、誤操作が減って快適です。

背面のボタンやダイヤル類は大きな変更はありません。

ファインダーは、視野率100%、約369万ドット、約0.76倍と、これも「EOS R6」から変更はありません。
モニターも同じです。3.0型で約162万ドットのバリアングル式。

記録メディアスロットはSDメモリーカードのデュアルスロット。これも変更なしなのですが、「EOS R6」のときから両方のスロットともに、SDXC(UHS-I・UHS-II)に対応し、SDメモリーカードの性能を十分に活かせるという、なかなかの優れものだったので問題はないと思います。

バッテリーは「LP-E6NH」が1個付属します。「EOS R6」と同じですが、撮影可能枚数がファインダー撮影時で約380枚から約450枚に、モニター撮影時で約510枚から約760枚にアップしています。

といったように、大きな変更は電源スイッチの位置が変更になったくらいで、あとは小さな改善がいくつかされた程度です。基本的な操作系は同じですので、「EOS R6」から「EOS R6 Mark II」に乗り換えたとしても、迷うことなくカメラを使うことができると思います。

約2,420万画素のCMOSセンサーを新搭載

イメージセンサーはフルサイズの約2,420万画素CMOSセンサーを搭載。「EOS R6」は約2,010万画素だったので2割ほど増加したことになります。

キヤノンのアナウンスでは、この新センサーは約3,040万画素の同社デジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark IV」を凌ぐ解像性能を達成したとしています。より高画素のセンサーより解像性能が高いと言われると不思議な気持ちになりますが、これは新シャープネス処理によるものだそう。恐らくですが、画像処理エンジンが「DIGIC 6+」から最新の「DIGIC X」になったことも影響が大きいのではないでしょうか。

ISO 100
キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F5.6・2.5秒・64mm)ISO 100

その「EOS 5D Mark IV」と撮り比べたわけではないので絶対的なことは言えませんが、実写した画像を拡大してみると、本機「EOS R6 Mark II」の解像性能が非常に優れていることは良く分かります。シャープネス処理といっても線を刻んだようなギスギスしさはまったくなく、細部まで丁寧に描き分けた気持ちの良い高解像です。

画素数が増加した一方で、常用の最高感度はISO 102400と前モデル「EOS R6」と同等。

とは言っても、2,400万画素クラスのフルサイズデジタルカメラのなかで、常用ISO 102400というのはトップクラスの高感度性能。むしろ、画素数を増やしながら(その分画素ピッチは狭くなります)、高感度性能を維持したことを喜びたいところです。

ISO 102400
キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F5.6・1/400秒・64mm)ISO 102400

ボディー内手ブレ補正機構を搭載しており、手ブレ補正機構(IS)を搭載した対応RFレンズを使用した場合、協調制御によって最大8段の手ブレ補正効果を得ることができます。IS非搭載のレンズを使用した場合でも、ボディー内手ブレ補正によって手ブレ補正は効きます。

IS(手ブレ補正)ユニット

最大8段の手ブレ補正効果は一部レンズのみ対応とのことですが、今回使ったレンズ「RF24-70mm F2.8 L IS USM」は8段の手ぶれ補正効果を得ることができます。そのため1秒程度のシャッター速度なら比較的容易にブラすことなく写真を撮ることができました。

キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F5.6・1秒・24mm)ISO 400

進化した被写体検出とトラッキング

キヤノンのCMOSセンサーといえば、「デュアルピクセルCMOS AF II」を搭載していることが大きな特徴で、それはもちろん本機「EOS R6 Mark II」も採用しています。「デュアルピクセルCMOS AF」は全ての画素が撮像と位相差AFを兼ねるという優れもので、縦横最大約100%の全画面で被写体を追従することができます(対応レンズや設定により変わります)。

さらには、被写体検出機能も備えているため、「人物」、「動物優先」、「乗り物優先」といったように、特定の被写体を自動検出してトラッキングで捕捉し続けるということが可能です。これ自体は「EOS R6」も備えていた機能ですが、「EOS R6 Mark II」では対象の被写体をオートで検出できる「自動」と、従来は犬・猫・鳥が対象だった「動物優先」に「馬」が加わっています。

被写体を素早く検出し、激しい動きにもしっかり追従しつづけ、被写体の姿勢変化や明るさが変わっても安定して捕捉し続けるという、被写体検出+トラッキングの性能が大きく向上したという「EOS R6 Mark II」ですが、なかでも注目したいのが「人物」の瞳検出機能が向上したこと。

モニター画面を記録した動画になりますが、画面内に「人物」の「瞳」が現れると、素早く瞳を認識していることが分かると思います。いまや、人物の瞳AFは多くのミラーレスカメラで採用されてはいますが、「EOS R6 Mark II」の検出対象に対する速度と精度は、本当に素晴らしいものがあると思います。

途中でブラックアウトしているのは、シャッターを切り始めたところ。シャッターを押したところは、もちろんちゃんと静止画として記録されています。ピントもバッチリ。
キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/8,000秒・70mm)ISO 1600

人物像が画面全体となる場合でも、しっかり素早く人物を検出して、瞳が見えるときは瞳に、瞳が検出し難いときは顔に、それらが難しくても人物の全体像は常に捉えられるようトラッキングシステムが働いています。切り換わりの速さが尋常でなく速いところは見所ですね。

もちろん、メガネやマスクなど物ともせず、問題なく人物の瞳を認識してくれます。これは、ディープラーニング技術の活用により被写体の特徴情報を抽出する能力が向上したためとか。それにしても凄すぎる検出能力と言っていいでしょう。

また、瞳検出はあらかじめの設定で「右目優先」、「左目優先」、「自動」の設定ができるようになりました。

「自動」の場合でも、マルチコントローラーで左右どちらか、ピントを合わせたい方の瞳に簡単に切り替えることができますので便利です。

「EOS R6 Mark II」はどちらかというと中級機に位置するカメラですから、正直、「AF性能が進化」といわれてもそれほど期待していませんでしたが、「デュアルピクセルCMOS AF」+「トラッキング性能」+「被写体検出AF」の合わせ技によるAF性能の真価は素晴らしく高いものでした。素直に「これはスゴイ!」と思えるレベルに達しています。

「EOS R3」譲りの綺麗な動画画質

「EOS R6 Mark II」は、最大「4K 59.94p」の動画記録に対応します。この場合、フル充電のバッテリーパックLP-E6NHを使用して、最大約1時間20分の撮影が可能です。

「4K 59.94p」の動画記録は「EOS R6」でも可能ですが、本機は「EOS R3」と同じ、6Kオーバーサンプリングプロセッシングを採用しているところが進化点。5.1Kオーバーサンプリングの「EOS R6」より、高い解像感と優れた色再現性が得られます。

その他 作例を交えながら

被写体検出機能とトラッキング性能が素晴らしく向上したおかげでポートレート撮影はすこぶる楽になりました。ピントに神経を使うことなく構図や露出に集中することができます。さすが「EOS R3」のトラッキングシステムのコンセプトを継承しただけあります。

キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/200秒・70mm)ISO 100

もう1点ポートレートです。完全な横顔で、こうした状況だと瞳を検出しきれず前ピンになりがちですが、「EOS R6 Mark II」はキッチリと瞳を検出して正確にピントを合わせてくれました。

キヤノン EOS R6 Mark II  RF70-200mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/320秒・200mm)ISO 100

人物だけでなく動物の瞳検出も大変優秀でした。毛に瞳が隠されているため「さすがに無理かな?」と思いましたが、鼻ではなくちゃんと瞳にピントが来ています。ファインダー表示には検出枠も表示されていたので安心でした。

キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/200秒・59mm)ISO 800

「EOS 5D Mark IV」を超えるとされる高画質だけに、風景写真などでも大いに活躍してくれます。細かい葉の一枚一枚が綺麗に分離して描かれている様は感動もの。意味もなく画像を拡大して眺めまわしてみたくなってしまいます。ハイライト付近の階調性も秀逸。

キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/125秒・42mm)ISO 100

本機に限らずキヤノンのカメラは、全般的にオート露出が安定しているなと感じます。特に意図してアンダーやオーバーにしようとしなければ、ほとんどの場合が好ましい適正露出なので、明るさを調整する手間が少なくて済みます。

キヤノン EOS R6 Mark II  RF24-70mm F2.8 L IS USM(F2.8・1/250秒・50mm)ISO 100

まとめ

誰もが安心して使えるそつのない良いカメラ、というのが本機「EOS R6 Mark II」で試写したうえでの印象でした。とびぬけてハイスペックというわけではありませんが、ひとつひとつの機能が高い次元でまとまった優等生といったところでしょう。

例えば画素数は約2420万画素と決して高画素と呼べるものではないものの、得られる写真の画質は分かりやすいほど高画質になっています。また、デュアルピクセルCMOS AF IIは他モデルも採用していますが、性能が向上しているうえに、被写体検出能力とトラッキング性能が抜群に高いため、大口径レンズや望遠レンズを使ってもピントを外すようなことはあまりありません。また、本文では触れきれなかったのですが、電子シャッターなら最高約40コマ/秒の高速連続撮影が可能と、実はスピード性能もかなり高いカメラです。

こうしたカメラは、初心者が使っても安心して撮影できますし、上級者が使っても高い満足感を得られると思います。誰もが安心して使えるそつのない良いカメラ、というのはそうした意味の感想です。

ただ、カメラの出来が良い分、導入するにあたって、なかなかの覚悟が必要な値段になっています。その意味では初心者向けとは言いづらい面もあります。こうなってくると、いずれ登場するだろう“EOS R5 Mark II”が楽しみでもあり、恐ろしくもあります。

モデル:Arly

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。