新製品レビュー

スマホから交換レンズをコントロールできる「TAMRON Lens Utility Mobile」を試す

レンズとスマートフォンを接続したところ

スマートフォンからレンズをカスタマイズできるアプリ「TAMRON Lens Utility Mobile」が11月29日に登場した。今回は本アプリによるコントロールの例を紹介したい。

もともと、PCからレンズをカスタマイズするソフト「TAMRON Lens Utility」が2021年10月に公開されていたが、今回のTAMRON Lens Utility Mobileはそのスマホ版に当たる。スマホでカスタマイズなどができるため、撮影現場にPCを持ち込まなくてもその場でカスタマイズができるようになった。ユーザーの要望が大きかったことから、タムロンがスマホアプリで実現した。

アプリ版でできることは、ほぼPC版と同じだが、動画撮影時のフォーカス移動をレンズのフォーカスセットボタンを押さずに、スマホから動かせるようになるなど一部の機能が向上している。

アプリはAndroid版のみで、無料でダウンロード可能。Android 6〜12に対応している。対応レンズは「28-75mm F/2.8 Di III VXD G2(Model A063)」「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Model A058)」「20-40mm F/2.8 Di III VXD(Model A062)」。今後「50-400mm F/4.5-6.3 Di Ⅲ VC VXD(Model A067)」にも対応予定となっている。

今回は20-40mm F/2.8 Di III VXD(Model A062)で試した
鏡胴にUSB Type-Cコネクタがある

スマホとレンズの接続は、オプションのケーブル「TAMRON Connection Cable(CC-350)」の使用が推奨されている。両端がUSB Type-Cで、長さは1.5m。

TAMRON Connection Cable(CC-350)

レンズに触れないのでブレずに録画可能

従来は、フォーカス移動の際にフォーカスセットボタンを押さなければならず、押した時のわずかなブレが動画に記録されてしまうことがあった。アプリ版ではスマホがリモコンになるため、レンズに触れずにフォーカス移動の指示ができるようになった。これが大きな進化ポイントになっている。

レンズとスマホをケーブルで接続し、アプリを起動させてカメラの電源を入れるとアプリからレンズが認識される。画面下の「リモート」を押すとフォーカスコントロールの画面になる。

アプリを起動したところ

リモートを押すと「リモートセットボタン」が表示され、それを押すとフォーカス移動が始まる。割り当てられるのは「A-Bフォーカス」と「フォーカスプリセット」の2つ。前者は被写体から別の被写体にフォーカスを移動させるもので、後者は任意のフォーカス位置からあらかじめ決めたピント位置にフォーカスを移動させる機能となっている。

リモートセットボタンは3つあって、最大3つのパターンをプリセットできる。1番に機能を割り当てるには、その上の歯車アイコンを押して設定したい機能と動作時間を指定する。時間は0-99.9秒の間で指定でき、その時間をかけてフォーカスが移動する。

リモートの画面。各リモートセットボタンの設定内容も表示される
リモートセットボタンの設定画面。時間は0.1秒単位で設定可能

まずA-Bフォーカスを試す。AFでもFMでも良いがまずA地点にピントを合わせ、リモートセットボタンを長押しするとそのピント位置が記録される。次いでピントを移動させたい地点にピントを合わせ、再度フォーカスセットボタンを長押しするとB地点が記録される。これでセット完了となる。

あとは、1番のボタンを押す度にA地点とB地点を行ったり来たりできる。フォーカス移動中は画面に進行状況がグラフで表示されるので分かりやすい。

フォーカス移動中の画面

なおPC版では時間指定まではできず、スピードを8段階から選ぶだけだったので、この点も機能が向上している。

下の動画は5秒のA-Bフォーカスを試したもの。レンズに触れていないので全くブレが起きていない。

もう一つのフォーカスプリセットはA-Bフォーカスと似た機能だが、その時の任意のピント位置から指定の位置にピントを移動できる。例えばA-BフォーカスでB地点に移動したピント位置を、2番のリモートセットボタンに設定したフォーカスプリセットで、さらに別のピント位置に移動させるということも可能だ。

以下の動画は応用編で、1番にA-Bフォーカス、2番と3番にそれぞれ別のフォーカスプリセットを設定したもの。フォーカスプリセットボタンを順番に押していくことで、次々にフォーカスを移動していくことができる。

PC版では、レンズのフォーカスセットボタンに1つの動作を割り当てるだけだったので、このような複数の組み合わせはアプリ版で初めて実現できたということだ。

いずれの作例も、α7 IIIに20-40mm F/2.8 Di III VXDを装着して行っている。PC版と異なり、本レンズのようにフォーカスセットボタン非搭載レンズでもこれらの機能が使えるようになっているのもポイントだ。

レンズのカスタマイズも現場でできる

レンズのカスタム機能は基本的にPC版と同様で、レンズのカスタムスイッチまたはフォーカスセットボタンに下記の設定が可能となる(設定できる機能はレンズによって異なる)。

・カメラボディ機能割り当て(カメラで割り当てた機能をフォーカスセットボタンで使用)
・フォーカス/絞りリング機能切り替え(フォーカスセットボタンで、フォーカスリングを絞りリングに切り換える)
・フォーカスリミッター(合焦範囲を制限)
・AF/MF切り換え(フォーカスセットボタンでAFとFMを切り換え)
・設定なし

またフォーカスリングのカスタマイズとして、回転方向の反転、リニアとノンリニアの切り換え、回転角(90-360度)設定が可能となっている。

例えば写真と動画を両方撮る際、動画の時はフォーカスリングの回転角を広くするといったことが現場でできるのはありがたい。

レンズ機能のカスタマイズ画面(フォーカスリング設定の例)
フォーカスリング回転角の設定画面

今後のアップデートも楽しみなシステム

フォーカス送りは魅力的な表現方法だが、ピント位置が行き過ぎたりスピードにムラが出たりと、なかなか難易度が高い。このシステムを使うと、止まっている被写体であれば、スムーズにピントを移動して止められるのでハードルは低くなった。

加えて、スマホ一つで設定ができるようになったことで、遥かに使い勝手が高まった。PCを傍らに置きながらでは機動性が損なわれるからだ。レンズのフォーカスセットボタン押下時のブレが記録される問題も解消され、プロの撮影でも本格的に使えるようになったのではないかという印象だ。タムロンによると、フォーカス送りを可変速で行うなど機能拡張も検討しているそうだ。

現状ではリモートセットボタンは3つだけだが、もっと増えると色々なところにフォーカスを移動できてさらに良いかもしれない。もっと言えば、ユーザーが複数のフォーカスセットボタンを簡易的にプログラムし、連続的に動作させるようなことができると面白そうだ。例えば1番が実行された後に指定した時間待って、2番が実行されると言う具合だ。カメラからバラバラの距離にいる人物の顔に、決めた順番で次々にピントが移動していく、といったことができるかもしれない。

実現の可能性はともかく、スマホによるレンズコントロールは大きな可能性を秘めており、今後一層発展していって欲しいテクノロジーである。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。