交換レンズレビュー

タムロン 20-40mm F/2.8 Di III VXD(Model A062)

小型軽量&高画質が魅力の広角ズームレンズ

2022年10月に発売された、タムロンの「20-40mm F/2.8 Di III VXD」は、20mmから40mmというちょっと変わったズーム域のレンズ。F2.8通しの大口径ズームながらも、クラス最小最軽量という携帯性の良さが特徴です。

それにしても、超広角域では使いやすい画角の20mmと、標準域としては人の視覚に近く自然な画角の40mmを、1本の両端に配したズームレンズというのは珍しい。超広角と標準を多用するタイプのスナップ撮影などでは、いちいちレンズ交換をしなくて済みます。個人的には「こんなレンズが欲しかった!」となってしまいます。

携帯性に優れた20mmスタート しかも大口径!

本レンズの、最大径×長さは74.4×86.5mmで、質量は365gとなっています。このサイズ、この重さ、20mm F1.8クラスの単焦点レンズと同等といったところです。2倍ズームとはいえ、F2.8通しの大口径ズームレンズの重さとは思えない小型軽量性です。

これまでのタムロンのミラーレス用レンズの、凹凸が少なくスマートなデザインと違って、フォーカスリングやズームリングの前後に、適度なクビレや段差があってカッコイイ。曲線がイイ感じで取り入れられているためか、美しさすら感じます。

などと感心していたのですけど、本レンズには「これからのタムロンレンズを象徴する新デザイン」が採用されているのだそうです。なるほどですね。

20mmにすると、鏡筒が少し伸長します。インナーズームではありませんが、伸縮量はわずかですので、カメラを構えながらズーミングしても、バランスの変化はほとんど感じません。操作性についてもよく考えられているようですね。

フィルター径は、他のタムロン製ミラーレスカメラ用レンズの多くと同じく、67mmとなっています。フィルター径が統一されているので、PLフィルターなどのフィルターを使いまわすことができます。なにしろフィルターは高価ですからね、優しい仕様です。

レンズ本体にUSB Type-C端子を搭載。専用ソフトウェア「TAMRON Lens Utility」をインストールしたPCと接続することで、フォーカスリングのカスタマイズやファームウェアアップデートなどが可能です。

標準付属品の花形フードを装着したイメージ。ごく一般的な樹脂製のフードではありますが、特に超広角域では、ゴーストやフレアが発生しやすい有害光を拾いやすいため、積極的に装着するようにしたいところです。

開放から驚きの高画質

小型軽量化に注力して、しかも大口径ズームとなると、やっぱり解像性能をはじめとした画質はある程度あきらめなければかな? と心配していましたが、結果から言うと、それはまったくの杞憂で、大変素晴らしい高画質を見せてくれました。

まず、広角端20mmの絞り開放F2.8で撮影したのが下の画像。非常に鮮鋭で細部まで細かく描写しており、それが中心だけでなく画面周辺でも維持されています。とても本レンズのようなコンパクトなズームレンズの絞り開放で撮影したとは思えません。

20mm/F2.8
α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/20mm/絞り優先AE(F2.8、1/400秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

つづいて、同じく広角端20mmで絞り値をF5.6にして撮影したのが下の画像。F2.8で撮影したときと変わらず、非常に鮮鋭で細部まで細かく描写していることが分かります。

20mm/F5.6
α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/20mm/絞り優先AE(F5.6、1/100秒、-0.3EV)/ISO 100/WB:オート

というより、フルサイズの場合、F5.6からF8ほどで、レンズの解像性能がMaxになるのが普通ですので、F5.6で撮っておきながら「F2.8で撮影したとき変わらず云々」と表現しなければならないのが不自然なくらい。これは本当に驚きの高画質です。

ワイド端だけでなく、望遠端でも状況は同じでした。望遠端40mmの絞り開放F2.8で撮影したのが下の画像。

40mm/F2.8
α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/40mm/絞り優先AE(F2.8、1/500秒、-0.3EV)/ISO 100/WB:オート

そして、同じく望遠端40mmで絞り値をF5.6にして撮影したのが下の画像です。本当に解像感に対して絞り値の差がなく、あるのは被写界深度の違いで駅舎の前後のボケ量に違いがある程度。「もしかして絞り値を誤って撮影した?」といささか混乱してしまうレベルでした。

40mm/F5.6
α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/40mm/絞り優先AE(F5.6、1/125秒、-0.3EV)/ISO 100/WB:オート

20~40mmと、ズーム比に無理がないこともあるかもしれませんが、それにしても素晴らしい結果であることは間違いありません。まさに単焦点レンズ並みの高画質を実現したレンズと言っていいと思います。軽くて小さなレンズなのにこれはスゴイ。これだけの解像性能があれば、風景写真など緻密な描写を求められる撮影でも、十分即戦力になると思います。

タムロンらしい“寄れる”近距離撮影性能

タムロンのミラーレスカメラ用レンズと言えば、最短撮影距離が短いことも特徴のひとつになっています。本レンズもご多分に漏れず、広角端での最短撮影距離が0.17mと、とてもよく寄れるのが特徴です。

広角端20mmの最短撮影距離(0.17m)で撮影したのが下の画像。レンズ先端からの距離は、10cm以内ですので、感覚的には被写体とレンズが衝突するのではないかと思わせるほどです。最大撮影倍率も約0.26倍で、1/4マクロ以上となりますので、背景を広く入れつつ被写体を大きく写すといった、本格的なワイドマクロ撮影を楽しむことができます。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/20mm/絞り優先AE(F2.8、1/1,000秒、+0.7EV)/ISO 100/WB:オート

一方で、望遠端40mmの最短撮影距離は0.29mで、最大撮影倍率も約0.2倍と、広角端に比べるとやや控えめ。ですが、標準域の焦点距離で30cm以上に寄れるというのは、近接撮影能力としては、かなり優秀と言って問題がありません。小物を印象的に写したいような、テーブルフォトなどでも重宝することでしょう。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/40mm/絞り優先AE(F2.8、1/500秒、+1.0EV)/ISO 100/WB:オート

その他 作例を交えながら

人の視覚に近い自然な画角の40mmということから、室内での人物やペットの写真がとても撮りやすいです。大口径で近接撮影性能も高いことから、料理や小物をアップで写すテーブルフォトにも便利です。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/40mm/絞り優先AE(F2.8、1/100秒、+0.7EV)/ISO 100/WB:オート

個人的には最も推したい、スナップ撮影での使用です。これも望遠端40mmという自然な画角を活かしたいからこそ。望遠端が中望遠まで届く、一般的な標準ズームだとなかなか設定しにくい焦点距離ですが、本レンズは40mmでストップするので苦労はありません。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/40mm/絞り優先AE(F5.6、1/250秒、-0.7EV)/ISO 400/WB:オート

描写性能はすでに述べている通り非常に優秀ですので、風景写真など解像性能を求められる分野でも十分通用します。風景写真の場合、広角側の広さが求められることも多いため、20mmまで広げられる本レンズのズーム域は頼もしいです。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/20mm/絞り優先AE(F5.6、1/40秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

逆光性能も非常に高く、滅多なことで、ゴーストやフレアが発生することはありませんでした。広角域ではどうしても太陽が画面内に入ることが多いので、この逆光性能の高さは嬉しい。真逆光に負けることなく、ヌケの良いスッキリとした画が得られます。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/21mm/絞り優先AE(F2.8、1/2,500秒、+0.3EV)/ISO 100/WB:オート

広角端20mmというのはスナップ撮影でもよく使う画角。16mmや17mmよりも(ましてや11mmや12mmよりも)画面内の情報をまとめやすいので、超広角の画角に慣れるのにもってこいだと思います。それでいて標準ズームの広角端である24mmよりもハッキリとした「超広角効果」が得られるところが嬉しいところです。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/20mm/絞り優先AE(F5.6、1/40秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

そうは言っても、広角端20mmや望遠端40mmでは、いまひとつシックリと画角が合わない被写体も多くあります。そんな時に、ズーミングしながら「気持ちのいい画角」を自分で探すことができるのが、ズームレンズのイイところですね。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/31mm/絞り優先AE(F2.8、1/250秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

小型軽量なズームレンズでありながら、F2.8通しの大口径なので、暗所での撮影もシャッター速度が遅くなりすぎることなく撮影できます。それ以上に暗いシーンであっても、カメラボディ側の手ブレ補正機構が使えるので安心。ソニー製カメラの補正機能をちゃんと使えるよう、通信関連の性能も整えられています。

α7 IV/20-40mm F/2.8 Di III VXD/39mm/絞り優先(F2.8、1/80秒、-0.7EV)/ISO 400/WB:オート

動画撮影で使いたくなる仕様

以上は、静止画での本レンズの活用について話してきましたが、20~40mmのズーム域となると、動画撮影での活用、特にVlogも注目したいところです。Vlogこそ、20mmの広い画角から、40mmまでの標準的な画角を1本でシームレスに使い分けていきたいところです。

ただ、手持ちで動画撮影をすることの多いVlogでは、手ブレ補正機能を使うことが多く、その場合、ソニーαシリーズの動画手振れ補正機能「スタンダード」(ボディ内手ブレ補正だけを使用)なら問題ありませんが、「アクティブ」(ボディ内手ブレ補正と電子手ブレ補正を併用)だと、画面がクロップされてしまうのが問題になります。

ということで、本レンズを使用して、「スタンダード」と「アクティブ」の画角変化を比べてしました。

やはり「アクティブ」だと、わりと分かりやすく画角がクロップされていますが、20mmほど広ければクロップされた状態でもかなり広く写せることが分かると思います。これが一般的な標準ズームの24mmだとちょっと難しい。

タムロンとしては、本レンズを企画するに際して、静止画だけでなく動画撮影のこともシッカリと視野に入れていたということだと思います。

また、動画の末尾にAF駆動音のことも入れてありますが、ご視聴の通り、AF駆動音はほとんど気にする必要がないくらい静かです。採用されているAFモーターの「VXD」はとても優秀なのですね。

まとめ

静止画に使うにしても、動画で使うにしても、気軽に持ち出せる小型軽量なズームレンズでありながら、F2.8通しという大口径を実現した本レンズ、実写で得た感想としては「すごく魅力的なレンズ!」でありました。

なにしろ、その見た目から想像できないくらい描写性能が高い。本文ではちょっと派手なくらい誉めていますが、本当に素晴らしい実写結果だったのだから仕方がありません。純正レンズの高性能ラインに匹敵するくらいと言っても差し支えないのではないでしょうか。

しかし、高倍率ズームを得意とするタムロンが、ズーム比2倍程度のレンズを出すとは意外でした。ユーザーの要望を汲み取ってのこととは思いますが、それにしても大胆です。その大胆な挑戦の結果は、驚くほどの高画質と使い勝手の良さとして成功しています。なかなか馴染みのないズーム域ではありますが、使ってみればきっと本レンズがもつ本質に魅了されることになるのではないかと思います。

【2023年3月14日】本文中の「先鋭」を「鮮鋭」に改めました。
【2023年3月14日】本文中の「人の視角に近い自然な画角の40mm」を「人間の視覚に近い自然な遠近感表現をする40mm」に改めました。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。