新製品レビュー

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II

ニュースタンダードの標準ズームで新旧比較

OMデジタルソリューションズが3月25日に発売したマイクロフォーサーズレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II」は、35mm判換算で広角24mm相当から中望遠80mm相当までのポピュラーな画角をカバーする標準ズームだ。ズーム全域で開放F2.8固定。最短撮影距離も広角端・望遠端ともに0.2mとなっている。

このレンズは2013年に発売された「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」のリニューアル版となる。これはオリンパス(当時)が同時期に発売したフラッグシップ機「OLYMPUS OM-D E-M1」のキットレンズとしても設定されており、発売開始から現在まで8年以上もPROレンズシリーズにラインナップされている高画質タイプの大口径標準ズームレンズだ。

筆者も当時このレンズをE-M1と一緒に手に入れ、現在まで撮影の第一線で愛用しており、最新カメラの画質も十分に引き出せるレンズとして信頼できる一本だ。ただ特定の撮影シーンにおいて気になる点があったのも事実で、今回のリニューアルでどのように改善されているのかがとても気になった。

そこで今回は、両者の外観および画質の比較を行いながら、新しく発売されたM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIの実力を検証していくことにしよう。

外観

前モデルのデザインをそのまま踏襲した外観。鏡筒は金属外装で覆われており、ズームリングおよびフォーカスリングのローレットパターンは直接リングに刻まれている。このパターンはOM SYSTEMのPROレンズ共通のものであり高品位な印象。一般的なラバータイプのリングとは異なり、金属面に直接指で触れて回転させることから、ほどよく指の腹の表面で滑らせながらリングを操作できるのが特徴だ。このタイプは長時間の撮影でも指が痛くなりにくいため、筆者の好みだ。

また、このレンズには前モデル同様にAFとMFをリング操作で切り替えることができる「マニュアルフォーカスクラッチ機構」が搭載されているのも特徴だ。AFの状態からフォーカスリングを手前に引いてスライドすると瞬時にMFに切り替えることができ、マニュアルフォーカスを多用する人にとってはとても便利な機構である。

レンズのマウント部近くにはレンズファンクションボタン「L-Fn」を配置。カメラの設定メニューから好みの機能を割り当てられる。
金属マウントを採用し、その周囲にはゴムリングが嵌め込まれている。OM-1との組み合わせでは、IP53規格というとても強力な防塵防滴性能を発揮する設計。-10℃の耐低温性能もあり、OM-1と組み合わせることでこれまで以上に厳しい環境下での撮影にも耐えられるタフなレンズとなっている。
付属の専用フードLH-66Dを装着したところ。前モデル用のフードLH-66とは形状が異なり、ロック機構も変更された。LH-66では使用時と収納時でそれぞれ別個にロックボタンが設けられていたものが、LH-66Dではひとつのボタンでロック&解除が可能となった。
OM-1に装着したM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(手前)と、E-M1 Mark IIIに装着したM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO(奥)を並べて見比べる。その外観はほぼ同じだが、マウント部の焦点距離表記を大きな文字で読みやすくなるなど、細かな違いも見られる。

前モデルとの大きな違い:逆光耐性を比較

製品発表時にアナウンスされているとおり、本レンズは従来モデルのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROのレンズ構成を継承しており、鏡筒サイズの最大径69.9mm×全長84mm、フィルター径62mm、重量382gというのも寸分違わず同じ。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIでは、最新のOM SYSTEMレンズにならってレンズ表面にZEROコーティングと呼ばれる反射防止を施すと共に、レンズエレメントの製造精度を高めることで、レンズ表面における光の散乱を大きく抑制し、輝度差の大きいシーンでもレンズ鏡筒内で発生するフレアを最小限に抑えたという。

実はこれこそが筆者が待ち望んだこのレンズの改良点だ。前モデルでは暗い屋内での撮影などで画面内に明るい窓があると、その輝度差により画面内に光の滲みが発生することが時折あったのだが、本モデルではこの点に大きな改善が見られる。ここでは差がわかりやすいように、あえて輝度差が大きな被写体を選んで撮影したが、こうしたシチュエーションは珍しくないため改善の恩恵は大きいといえる。

シーン1

薄暗い駅舎の中から明るいホームに向かって撮影。前モデルは屋内、屋外、空の大きな輝度差により、木製の柵が白く滲むように写っている。一方、新モデルでは滲みもなくハイライトとシャドウがしっかり分離されていることがわかる。

前モデル(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO)
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新モデル(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II)
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シーン2

里山の奥深くにある素掘りのトンネル。かつて行われた道路の改良工事の際、元々あるトンネルの下にさらにトンネルを掘り下げたことで出口が上下二段にできてしまったという、世にも珍しい二段トンネル。撮影時に露出を仄かな明るさの蛍光灯しかないトンネル内に合わせていることから、上段出口の外の景色は数段分の露出オーバーとなっている。

前モデルで撮影した画像では、木々の間から差し込む明るい光がレンズフレアとなって白く広がり、トンネル内の暗部にも影響を及ぼしていることがわかる。一方、新モデルは同条件であってもレンズフレアがよく抑えられており、光が滲むこともない。トンネル内の暗部もしっかりとディティールが再現されている。

前モデル(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO)
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新モデル(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II)
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今回撮影した被写体のシチュエーションは比較的厳しい条件下でのものではあるが、これまでの筆者の経験上では同様の条件となることはさほど珍しくない。この輝度差の大きいシチュエーションでのフレア滲みが改善されたことだけでも、新型へと買い替える十分な理由となるはずだ。

実写作例

枝いっぱいに咲き誇る桜を広角端の12mm(35mm判換算24mm相当)で撮影。画面中心から周辺部まで解像力も高く、桜の花ひとつひとつ、枝の一本一本までクリアに描写されている。絞り開放のF2.8では、広角であっても浅い被写界深度により前ボケ後ボケを活かした表現ができる。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(12mm) 絞り優先AE(F2.8・1/2,500秒・+0.3EV) ISO 200

古刹に咲く桜。歴史ある仏堂に傾いた陽の光が差すなか、盛りを迎えた桜の花の淡い色と葉の緑を楽しむ。F5.6まで絞ることで画面全域での解像感を高めるとともに、ほどよい被写界深度を得られたことで背景となる仏堂の趣を引き出す。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(12mm) 絞り優先AE(F5.6・1/125秒) ISO 200

伝承が残る社にお詣りすると勇壮な狛犬が出迎えてくれた。広角端12mmで近づき社殿と共に画角に収める。石造りの狛犬の質感もしっかりと描写しておりハイライト部からシャドウ部へかけての階調も良好。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(12mm) 絞り優先AE(F4・1/400秒) ISO 200

その土地に暮らす人々を見守り続けるお稲荷様へご挨拶。立ち並ぶ赤いのぼりは五穀豊穣や商売繁盛などの祈りを込めて奉納されたもの。カメラを縦位置にし、ローアングルに構えバリアングルモニターで画角を確認しながら、24mm相当の強い遠近感を活かして撮影。F8まで絞り込み被写界深度を得ることで手前から奥までピントを合わせる。画面の周辺までしっかりと解像されていることがよくわかる。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(12mm) 絞り優先AE(F8・1/160秒・+0.7EV) ISO 200

境内に奉納された人々の願いが込められた絵馬。オリジナルの図柄は、この神社が海運の無事を祈願する神様であることを示す。本レンズは標準ズームレンズとしてかなり“寄れる”部類で、街歩きしながら目についたものを感覚的に捉えるスナップ撮影にはとても有利。最短撮影距離はズーム全域で約20cmとなっており、被写体に近づきすぎてピントが合わずに慌てるということはほぼない。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(18mm) 絞り優先AE(F2.8・1/1,000秒・+0.7EV) ISO 200

天へと伸びる銭湯の煙突の銀色の輝きと、路地裏の生垣に咲く大きな花に注ぐ陽の光に初夏の熱さを感じる。生垣の葉や花のクリアで立体的な存在感が引き立つ。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(19mm) 絞り優先AE(F5.6・1/640秒・+0.3EV) ISO 200

組紐で組まれ吊るされた球に近づいて撮影。絞りを開放F2.8にして近接撮影を行ったことで、浅い被写界深度を活かした立体的な写真とすることができた。ピントの合った箇所の解像感も高い。

OM-1  M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(30mm) 絞り優先AE(F2.8・1/400秒・+1.3EV) ISO 200

公園でのんびりと寛いでいた猫に、バリアングルモニターのアングル自由度を活かしてローアングルのままそっと近づき撮影。OM-1では被写体検出に犬・猫も加わったため、ノーファインダーでも猫の瞳にピントを合わせて撮影できる。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(31mm) 絞り優先AE(F5.6・1/80秒・+1.3EV) ISO 200

絞りを開放のF2.8にセットし、最短撮影距離の20cmまで桜の花に近づいて撮影。浅い被写界深度のなかにシャープでクリアなおしべめしべが浮かび上がる。

OM-1  M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(40mm) 絞り優先AE(F2.8・1/2,500秒・+0.7EV) ISO 200

海に面したレストランの室内。ワゴンに載せられた透明なグラスが、外光で光り輝くさまを撮影。前モデルが苦手としていた輝度差のあるシーンでも、画面内に滲みを発生させることなく光と影を明確に描き分けることができた。

OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(40mm) 絞り優先AE(F6.3・1/500秒・+2EV) ISO 200

まとめ:最新世代の技術で実現したニュースタンダード

今回は最新の標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II」を、OM SYSTEMの最新ミラーレスカメラ「OM SYSTEM OM-1」との組み合わせで検証した。その実力は実写で明らかになった通り、オリンパスブランドの時代を含めてもOM SYSTEMで過去最高の画質を持った標準ズームレンズであると確信できる。

またOM SYSTEM OM-1も、これまでの同社製品で最高の解像力を持つカメラであることから、その画質を活かすためには本レンズを組み合わせるのが最適な選択だといえる。

実写検証で驚いたのは、前モデルと基本設計は変わらぬまま、レンズコーティングの刷新と製造精度の向上といった、まさに「技術の磨き上げ」でここまで画質を高めることができるのだという事実だ。もちろん基本となる設計自体が優秀だったことも大きいはずだが、本レンズに見られる進化は目覚ましく、最新世代の技術で生まれ変わった、まさにニュースタンダードな標準ズームレンズといえるだろう。

女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。「人の営みが紡ぎだす日本の日常光景」をテーマに作品制作を行い全国で作品展を開催するとともに、撮影テクニックに関するセミナーへの出演やワークショップ等を開催する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。(公社)日本写真家協会正会員、EIZO公認ColorEdge Ambassador、プロ写真家としてツクモeX.computer写真編集用モデルパソコンを監修