交換レンズレビュー

M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO

高画質と汎用性のバランスが魅力 PROレンズの新たな方向性を感じる1本

OMデジタルソリューションズが2021年6月に発売した「オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO」は、マイクロフォーサーズ用の広角ズームレンズ。35mm判換算16mm相当の超広角域から50mm相当の標準域までおよそ3.1倍の焦点域をカバーしている。

高品位な“PROレンズ”として設計されているため高い画質と品質が期待でき、それでいて約411gと軽量であるなど、筆者も発売前から注目していた1本だ。そこで今回はこの新しい広角ズームレンズについて、実写検証を交えつつ立ち位置を考えてみたい。

OM-D E-M1 Mark IIIに装着したところ。金属鏡筒の外観はPROレンズに共通するデザインを採用。ズームリングおよびフォーカスリングには、アルミ削り出し加工による滑り止めのローレットパターンが並ぶ。
PROレンズらしく防塵・防滴・耐低温設計となっており、摺動部やマウント部外周には水滴や塵の侵入を防ぐゴムリングが組み込まれている。またレンズの前玉には、付着した水滴や汚れを拭いやすいフッ素コーティングがなされている。屋外でカメラを多用するユーザーには心強い仕様だ。

同社には既に広角ズームレンズとして「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6」の2本があり、本レンズはオリンパスとして3本目のマイクロフォーサーズ広角ズームレンズとなる。

レンズ構成は、DSA(大偏肉両面非球面)レンズ1枚やEDA(特殊低分散非球面)レンズ2枚といった高度な硝材を含む10群16枚。最短撮影距離はズーム全域において0.23mで、最大撮影倍率は望遠端25mmにおいて0.21倍(35mm判換算0.42倍)と、とても被写体に寄れるレンズとなっている。

フォーカスリングを手前に引くとマニュアルフォーカスに切り替わるMFクラッチ機構を搭載。MFに切り替わると同時に、事前にマニュアルで合わせておいたフォーカス位置へ瞬時に移動させることもできる。
鏡筒の左手根元部分には各種機能を割り当てられる「L-Fn」ボタン。例えば事前にカメラ設定でAF/MF切り替えを割り当てておけば、L-Fnボタンを押すことでファインダーを覗きながらでもワンタッチでAF/MF設定を切り替えられる。

本レンズはオリンパスのPROレンズシリーズとして初めて、鏡筒の沈胴機構を採用している。撮影していない移動時などには鏡筒の長さを短くしておけるので、肩や首からカメラを提げているときはもちろん、カメラバッグに収納する時などにも嵩張らずに済む。

収納時
広角端8mm時
望遠端25mm時

使用時にはいったんズームリングを左手方向に回転させ8mmの位置まで回し、さらに回転させることで任意の焦点距離に設定する。なお沈胴機構にロックボタンなどは設けられていないが、8mmの位置にはほどよいクリック感があるため、撮影しながら不用意に収納位置まで回してしまうようなことはない。収納位置から左手を回すだけで撮影状態へ移行できるのはスムーズで扱いやすい。

M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(右)は、レンズ前玉が大きなドーム型であるM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO(左)とは異なり、レンズ前面に直接フィルターを装着できる。
レンズ前枠に72mm径のフィルターを直接装着可能。フィルターをよく使う人にとっては歓迎したいポイントだ。
付属のフードを装着したところ。M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROでは鏡筒一体型であったが、このM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROでは取り外し式となった。不用意に外れないためのロック付き。収納時は逆さ向きでの装着も可能。
OM-D E-M1Xに装着したところ。OM-Dのなかではいちばん大柄なE-M1Xとの組み合わせでも、手にした時のバランスは良い。

解像力をチェック

OM-D E-M1 Mark IIIと組み合わせて、広角端8mmおよび望遠端25mmにて撮影してレンズの解像力を確認した。絞り開放のF4から最小のF22までひと絞りずつ撮影している。

結果、広角端、望遠端いずれも開放絞りから驚くほど解像力が高いことがわかる。特に広角端においては画面全体から描写の高さが伝わってくる。ただしF16以上では小絞りの影響も出てくるため、そもそも被写界深度が深めになるという広角レンズの特性からも、絞り過ぎずに撮影するのがよいだろう。

広角端8mm(16mm相当)

F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

F4からF5.6まで、画面全体で非常に解像力が高い。近景から遠景までピントが合っているようにさえ見えるほどだ。F16以上に絞ると小絞りの影響が出て解像力が低下するので、選択の余地があればF11程度までで撮影すると良いだろう。

望遠端25mm(50mm相当)

F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

開放絞りのF4からF5.6までが解像力のピーク。さらに絞るとF16までは安定した解像力の画像となるが、F22となると流石に小絞りの影響で解像力が低下する。こちらも近景から遠景までの描写を安定させるにはF8からF11程度での撮影が良いだろう。

作品

港の沖にある島の公園に架かる人道橋を望遠端の50mm相当で撮影。開放から1段絞っただけの状態だが、マイクロフォーサーズ特有の深い被写界深度とこのレンズの解像力の高さにより、橋の欄干の手前から奥に至るまで鮮明に描写していることがわかる。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(25mm) 絞り優先AE(F5.6・1/1,250秒・±0EV) ISO 200

橋の下をくぐるボートを上から覗き込むように広角端の16mm相当で撮影。航跡の飛沫や海面の細かい波紋の様子がクリアに描写されていることが判る。また水平線に近い太陽により強烈に輝く海面を画面に入れているが、ゴーストも見られずフレアも最小限に留まっていることから、逆光への耐性が高いことがわかる。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(8mm) 絞り優先AE(F4・1/1,250秒・±0EV) ISO 200

人道橋へと続く斜路から橋梁部をフェンス越しに撮影。8mm広角端での撮影のため大きな前ボケとはならないが、フェンスのアウトフォーカス部からインフォーカス部へのなだらかなボケの遷移はとても自然だ。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(8mm) 絞り優先AE(F4・1/600秒・±0EV) ISO 200

千葉港を巡るクルーズ船に乗船して工場夜景を撮影。揺れる船の上だがE-M1 Mark IIIの手ブレ補正機能と合わせ、輝く海面の表情を0.3秒のスローシャッターでも大きくブレることなく撮影。キレのある解像力のおかげで、心象的でありながら力強さのある写真とすることができた。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(25mm) 絞り優先AE(F4・0.3秒・+0.3EV) ISO 1600

港を離れ沖に向かう船の上から撮影。35mm判換算16mm相当の画角を縦位置にしてフルに使うことで、自身が乗る船と港の灯りを同時に画角に収めた。超広角の特性から開放絞りにも関わらず船から港の様子までほぼピントが合っているように見える。また遠近感が誇張されることで、スローシャッターで流れる航跡が勢いのある水流として表現された。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(8mm) 絞り優先AE(F4・1/4秒・-0.3EV) ISO 3200

船上より工場の岸壁に接岸した貨物線を撮影。船を照らすクレーンの灯りが海面に反射して美しい。揺れる船上ではレンズ交換は非常に難しいため、超広角域から標準域まで自在に画角を調整できるズームレンズの存在は非常に心強い。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(23mm) 絞り優先AE(F4・1/20秒・-0.3EV) ISO 3200

東京湾に沈む夕日を岬に建つ展望台より望む。遮るもののない空に広がる夏の雲が夕日に赤く染まる。クリアで抜けの良い描写によりコントラストが高く、シャドウの締まった画像が得られた。

E-M1 Mark III M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(8mm) 絞り優先AE(F8・1/25秒・-0.3EV) ISO 400

円形フィルターを直接装着できる超広角レンズのメリットはとても大きい。C-PLフィルターを使用して空の青みをより深くすると同時に、稲穂の光の反射を抑えることで夏の自然の深い色彩を引き出す。

E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(8mm) 絞り優先AE(F8・1/200秒・+0.3EV) ISO 200 CPLフィルター使用

2本の広角ズームPROレンズ、あなたはどちらを選ぶ?

さて、このようにM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROは軽量かつコンパクトなサイズでありながら、十分に高い解像力と実戦力を持ち合わせたレンズであることは明確となった。そうなると悩ましいのは、以前よりラインナップされていたM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROとどちらを選ぶべきかということだ。

E-M5 Mark IIIに装着したM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO(右)とE-M5 Mark IIに装着したM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO(左)

M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROは非常に高画質なレンズと評価も高く、夜景や星景撮影のような低光量下での撮影ではF2.8の明るさが強みとなることから、筆者もことあるごとによく使用している。ただ、“出目金”とも呼ばれる大きなドーム状の前玉レンズを採用していることから、レンズ単体で534gとマイクロフォーサーズレンズとしては比較的重量級であったことや、その形状から円形フィルターを装着できないといった制約も感じていた。

そこに登場した本レンズは、軽量で嵩張らず、前面に円形フィルターを装着することもできるため、機材全体としてのコンパクトさが強みのマイクロフォーサーズ機を使用する人々にとって待望のレンズではないだろうか。

ただ、ここで気になるのが、広角側1mmの焦点距離の差と、1段分の開放絞り値の差だ。きっと、多くのマイクロフォーサーズユーザーがこれらの点でどちらのレンズを選ぶべきか迷ってしまうのではないだろうか。そこで、まずは画角の違いを比較するためのイメージ図作成してみたので見ていただきたい。

M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの広角端7mmで撮影した画像に、同じ場所にてM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROの広角端8mmで撮影した画像を重ねてその画角の違いを確認した。画像外枠の画角が7mm、内枠が8mmでの実際の画角となる。

このように実画像で比較すると、やはりM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの広角端7mm(35mm判換算14mm相当)という画角の広さは魅力的。実は広角域における焦点距離の差は、標準域や望遠域と比べてより大きくなるのだ。ただ、8mm(35mm判換算16mm相当)の画角も十分な“超広角”であり、よほど明確な目的がなければ十分過ぎるほどの広さであることも確かである。

ところで、もうひとつの判断材料である開放F値の違いだが、これはあくまでも筆者の個人的な考え方ではあるものの、露光量に関しては1絞り分程度であればISO感度を上げるかシャッター速度を遅くすれば補うこともできると考える。また、明るいレンズの特徴のひとつである大きなボケの表現に関してだが、私はこのレンズに関しては超広角域であることからその効果にはさほど期待をしていない。そもそも広角レンズで撮影する被写体では、被写界深度を深めるためにも1〜2段ほど絞って撮影することが多いからだ。

以上を踏まえて、広角側の画角差とズーム域の広さ、小型軽量さなどを天秤にかけると、私にとってはM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROを選択する方が、よりメリットを多く得られるという判断になった(というわけで買いました)。

購入からひと月以上、実際に現場で使用した感想としては「非常に満足している」の一言だ。風景撮影においては広がりのある画角と細密な解像を得られ、円形フィルターを併用できる手軽さも良い。1本で超広角から標準域までカバーできる点は、レンズ交換の手間が省ける。これは日常的なスナップ撮影などでは大きなメリットだ。

さらに軽量かつコンパクトなことから、E-M1シリーズより小型のE-M5 Mark IIIのようなカメラや、先日発売されたPEN E-P7のようなフラットスタイルのカメラとの相性も良いはずだ。まさにマイクロフォーサーズが目指す高画質と機動性を現実的に両立させた、PROシリーズレンズの新しい方向性の一つと言えるだろう。

取材協力:千葉ポートサービス 工場夜景クルーズ(http://www.chiba-port.com

女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。「人の営みが紡ぎだす日本の日常光景」をテーマに作品制作を行い全国で作品展を開催するとともに、撮影テクニックに関するセミナーへの出演やワークショップ等を開催する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。(公社)日本写真家協会正会員、EIZO公認ColorEdge Ambassador、プロ写真家としてツクモeX.computer写真編集用モデルパソコンを監修