新製品レビュー

Canon RF100mm F2.8 L MACRO IS USM

ボケ描写のコントロール機能を検証。さらに寄れるようになった定番マクロ

キヤノンから中望遠マクロRF100mm F2.8 L MACRO IS USMが発売された。EOS R用の100mmマクロは初めての登場となり、待望のレンズと言えるだろう。等倍撮影はもとより、1.4倍まで倍率をあげることができること、ボケの雰囲気を変えることができる機構を備えるなど、EOS Rシステム版の100mmマクロは表現の可能性も大きくひろがった。

最大倍率が向上し独自機構も搭載

キヤノンにはEFレンズ版の100mmマクロ「EF100mm F2.8Lマクロ IS USM」があり、EOS Rシリーズでもアダプター経由で運用することができる。一方で、やはりアダプターなしで、かつ現代の設計で100mmマクロが生まれ変わったのは、やはり嬉しい。マクロレンズといえば最大撮影倍率が等倍(1倍)のタイプが多いが、本RF版ではそれが1.4倍に。より被写体をアップにして撮ることができるようになった。しかもボケの雰囲気を変えることができる機構「SAコントロールリング」が搭載されるなど、ユニークな使い方ができるところもポイントだ。

最大撮影倍率1.4倍
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F5.6・1/13秒・-0.3EV) / ISO 200

100mmが使いやすいわけ

100mmのマクロレンズは花など小さいものを撮るとき、程よいボケが得られる焦点距離だ。60mmクラスの標準マクロではちょっとボケが物足りなく感じることがあり、逆に180mmクラス望遠マクロではすっきりとボケすぎるように感じることもある。中望遠マクロはその間をいく、背景の雰囲気をほんのりと残したボケが得られる。

また、中望遠マクロは被写体との距離も程よく、あまり離れず、近づきすぎずのワーキングディスタンスが使いやすい。そのため、標準マクロや望遠マクロに比べると、頻繁にリニューアルを重ねる、マクロレンズとして定番の焦点距離だ。

フードを装着した状態

本体特徴

フォーカスリングは幅が広くて使いやすく、マニュアルフォーカス使用時もピントが合わせやすかった。コントロールリングはフォーカスより先端側にあり、SAコントロールリングはピントリングより手前側に配置されている。インナーフォーカスなので鏡筒の長さが変わらず、遠景から近接までスムーズなピント合わせが可能だ。

手ブレ補正

EF100mm F2.8Lマクロ IS USMの手ブレ補正は強力だったが、このレンズもよく効いている。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/50秒・-0.7EV) / ISO 200
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/160秒・+0.3EV) / ISO 200

イルミネーションをクローズアップした次のカットは人が多いところで撮影したので三脚が使えなかった。そんなときも明るいレンズ、かつ手ブレ補正機能により、感度をISO 200に抑えつつ、手持ちでもシャープに撮ることができた。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/250秒・+0.3EV) / ISO 200

軽いボディでバリアングル液晶なので、ローアングル、ハイアングルともに手持ちでの撮影で使いやすかった。これは丈の短い草花の撮影にとても便利だ。

ローアングルでスイセンを画面におさめた
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/400秒・+1.0EV) / ISO 100

SAコントロールリング

新たに搭載されたSAコントロールリングはボケの描写を変えることができる。左に回すとマイナス側になり、ピント位置よりも後ろのボケの輪郭がやわらかくなり、手前は硬くなる。一方、右に回すとプラス側になり、ピント位置よりも後ろのボケの輪郭が硬くなり、手前はやわらかくなる。

撮影中動いてしまわないように中央で軽くストップする。全く使いたくないときは側面のスイッチでロックすると中央で固定できる。

ボケ描写については作例を見てもらうのがいちばんわかりやすいだろう。中央と最大にマイナス側とプラス側へ回して比較してみた。中央から外れるほど全体的にソフト効果がかかり、プラスとマイナスで前後のボケの雰囲気が変化する。また、マイナスで特に顕著に見られるように、プラス含め画角にも変化が発生していることがわかる。

中央位置にセットした状態
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/800秒・-0.3EV) / ISO 100
マイナス側に調整した状態。手前のボケが硬く、奥が柔らかな描写になる
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/1,000秒・-0.3EV) / ISO 100
プラスに調整した状態。手前のボケが柔らかく、奥が硬い描写になった
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/640秒・-0.3EV) / ISO 100

調整幅を実験

ピント面は建物のリボンで前ボケだけがあって後ろボケはないシーン。基準となる中央ではピント面はシャープで手前のチューリップも素直なボケになっている。SAコントロールリングを動かすと、プラス側、マイナス側ともに全体的にソフト効果がかかる。

ここでは手前のボケしかないので、プラスにすると少しボケがやわらかく感じられ、マイナスにすると手前のボケが硬くなるのだが、いちばん手前の大きな前ボケは僅かな差にとどまっている。距離の離れた画面中央付近のボケが硬くなっているのが大きな違いだろう。

中央
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+1.3EV) / ISO 100
マイナス
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+1.3EV) / ISO 100
プラス。手前のぼけが柔らかくなっている
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+1.3EV) / ISO 100

ピントを合わせた瞳部分の解像感がとてもシャープ。注目して欲しいのは絞り開放時のそれぞれの丸ボケの描写。四隅はレモン型になっているところ、プラス側では丸くなり、輪郭がはっきりしてくる。マイナスではより細身のレモン型になり、輪郭はやわらかだ。

中央
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+1.3EV) / ISO 100
マイナス。背景の丸ボケが柔らか
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+1.3EV) / ISO 100
プラス。背景の丸ボケがはっきり
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/100秒・+1.3EV) / ISO 100

光を反射しやすい被写体なのでボケは小さくてもプラスにするとボケが滑らかになり、またリングボケのように輪郭がはっきりとしてきた。

中央
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/400秒・+1.3EV) / ISO 100
プラス
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/640秒・+1.3EV) / ISO 100
マイナス
EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/320秒・+1.3EV) / ISO 100

作例

通常のレンズでは寄れないほどのクローズアップができるのがマクロレンズの魅力。丸みのある下部分だけを切り取った。左側のボケは手前の花をぼかした前ボケ。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/60秒・+1.3EV) / ISO 100

大きな葉に極楽鳥花と呼ばれる花の影が落ちていた。影を主役にしつつ、手前にボケのグラデーションを入れて、このマクロによるボケの美しさを見せた。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/160秒・+0.3EV) / ISO 200

夕暮れの光に染まるセージの花。この花自体がけばけばしていて、逆光で撮るとそれが輝いて美しい。拡大してみると、とてもシャープに写し出されている。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/250秒・-0.7EV) / ISO 100

水滴が付着していたハボタンをクローズアップ。撮影倍率が高めなので被写界深度が浅くなりすぎないようにF8まで絞っているが、それでも前後はほんのりとぼける。階調もよく再現されているし、水滴の表面の艶も感じられる。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F8・1/5秒・+1.3EV) / ISO 100

まとめ

絞り開放からシャープで、花の細部の描写、人物の瞳の描写は拡大してみると、あまりにも解像力が高くて驚かされた。今回はEOS R5との組み合わせで試用したが、階調もよく色再現に優れている1本だと感じた。まだまだ寒い時期が続くが、春先の色とりどりの花たちとの出会いが実に楽しみだ。

EOS R5 / RF100mm F2.8 L MACRO IS USM / 絞り優先AE(F2.8・1/100秒・+0.7EV) / ISO 1000
吉住志穂

1979年東京生まれ。高校入学後から本格的に撮影を始める。2001年日本写真芸術専門学校を卒業後、写真家の竹内敏信氏に師事。自然の「こころ」をテーマに、主に花のクローズアップを撮影している。2016年には和紙にプリントし、掛軸に仕立てた展示「花時間」を開催し、好評を博す。また各地での講演会や写真誌での執筆を行う。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。