新製品レビュー
SONY FE 12-24mm F2.8 GM
“当代一級の超広角ズーム” ボケ描写や点像再現まで徹底検証
2020年11月16日 00:00
いわゆる大三元レンズとして、これまで純正のEマウント用広角ズームの任を担っていたのは「FE 16-35mm F2.8 GM」であった。広角側16mmのレンズだが、これをさらに超広角としたのが本レンズ「FE 12-24mm F2.8 GM」である。12mmの対角線画角は122度、16mmでは107度である。数値上ではわずか15度の違いだが、そこから導き出される絵は大きく違うものだ。FE 16-35mm F2.8 GMのフィルターの使いやすさや大きさをとるか、FE 12-24mm F2.8 GMが描き出す胸のすくような広い画角をとるかは、今αユーザーの悩ましくも嬉しい選択肢となっていることだろう。
外観
外観は他のG Masterレンズ同様シンプルさを基調としたもので、冗漫な装飾がない点も好ましい。だからこそG Masterの銘板がアクセントとして活かされている。この色も渋みの効いた赤であり、落ち着きのあるアクセントだ。外装はフード基部を除き樹脂製であるが、上質なアルミ梨地仕上げのように感じられ、チープさは感じられない。手にしたときに冷たさを感じない分、優しい印象だ。
カメラを持って左手側、G Masterの銘板下にフォーカスホールドボタン、フォーカスモードスイッチが並ぶ。双方ともに節度ある操作感で好ましい感触だ。フォーカスモードスイッチはスライド式スイッチであるが、遊びが大きいと途端に操作しにくくなる。丁寧に作り込まれた感触は高級感を感じさせるに十分だ。
ズームリング(カメラ側)とフォーカスリング(レンズ前側)は、ともにレンズ相応の大きな外径となっているが、そのサイズが確保できているためか、微小な動きもスムーズに操作できる。ズームリングは機械式、フォーカスリングはバイワイヤ式となっているが、どちらの操作感も方式の違いを感じさせないつくりとなっている。
本レンズはレンズ前面が突出した形状の、いわゆる出目金レンズである。そのためレンズ前面にフィルターを装着することはできない。ではどこに装着するのかというと、マウント側にフィルターホルダーが装備されているので、ここにアセテートフィルターなど、市販のシートタイプのフィルターをカットして取りつけるのだ。シートタイプのフィルターにはNDフィルターなどもある。
レンズを前面側から覗き込んだときの第一印象は「黒い」である。本レンズには新開発の低反射コーティング「ナノARコーティングII」が採用されているが、それのみではなく、丁寧な作り込みがなされていることがわかる。
ボディにつけてみると、α7R IVの小ささが際立つ印象だが、バランス自体は悪くない。全長が短いためだろう。本レンズの重さは847gとかなり重く、ボディ装着時の重心は前寄りになる。それゆえ、自然と左手でレンズをしっかりとホールドすることになる。α7R IV世代のボディはグリップがより持ちやすさに配慮した形状に改善されているが、やはりカメラは片手ではなく両手で持つものだと改めて認識させられる。何よりその方が、AFも手ブレ補正も精度良く収まるのだ。
以降、本レンズの描写性能を見ていく。基本的にテレ端、ワイド端、中間の3つの焦点距離で比較を実施しているが、一部ないものもある。また撮影はRAWで行い、PhotoshopのCamera RAWで現像したものを掲載している。RAW現像の際には、同時撮影のJPGデータを参照しつつ、レンズの描写に影響を与えない範囲で、明るさとトーンの補正を行っている。
ゴースト
コーティング技術の進歩に伴い、現代レンズではゴーストは激減したといえる。そうした中でも本レンズのゴーストの少なさは別格で、もはや間違い探しゲームの様相を呈すると言って良いくらい、発生はみられなかった。前記したとおり、第一印象の「黒い」が、そのままゴーストの少なさにつながっている。作例では太陽を上部に置き、ゴーストが発生する位置が木の影に来るようにして、ゴーストを確認しやすくした。
12mm
全体としてゴーストの大きさも程度も些小であり、判別しにくい。F2.8、F4では木の直下にグリーンの小さなゴーストが発生している。F5.6とF8ではゴーストは皆無。F11からF22では木の下部が部分補正をしたかのように明るくなっていて、輪郭のはっきりしないゴーストが発生していることがわかる。しかし、F11のそれは、わかっていて探さないと気づかないレベルであり、実用上はゴーストがないものとして扱える。どの絞り値におけるゴーストも、発生箇所が明るい被写体の上であれば気づかないレベルである。
代表作例はF22のものであるが、太陽の周りに白点がみられる。これはレンズ第一面についたホコリである。F16では発生しない。実用上、F4からF11までの絞りでいかなる環境であってもゴーストが邪魔になることはない。
16mm
F2.8とF4で、木の影の中に明るい小さな点としてゴーストが認められる。またその下部には、うっすらと少し大きなゴーストが発生している。F5.6、F8では、下部の薄いゴーストが消え、小さな明るい点だけが残る。F11では小さな明るい点が消え、下部の薄いゴーストが確認できる。F16、F22では下部の薄いゴーストが輪郭を帯び始める印象だ。もっともゴーストが目立たないのはF8とF11である。
解像力
解像力をみていく。作例はゴーストの発生について検証したものと同じものを使用した。それぞれの焦点距離で中心部と周辺部の解像力を見ていく。
12mm・中心部
中心部の解像力は絞り開放から見事なものである。石の表面のディテールは高周波にあたり、やや甘さがあるものの周波数が低くなる葉の輪郭などは絞った画像同様にしっかりしている。
F4にすると高周波の甘さがなくなり極めてシャープになる。F4とF5.6は甲乙つけ難く、中心部に関してはF4で最高解像度に達していると考えられる。F8では小絞りボケにより高周波の解像力が失われ始め、低周波も同様にF16までは少しずつ甘くなっていくが、F22ではやや急激に甘くなる。
12mm・周辺部
F2.8ではやや画像が放射方向に流れたような描写になる。コマ収差による影響も考えられるが、超広角であるが故の広角歪みに起因する像の流れの方が大きいように思う。この点は物理現象であって収差ではない。
絞ることで高周波は改善するがF5.6の時に最良で、F2.8にした時の中心部ほどの解像力となる。画面全体がもっとも均質になるのはF8。以降は均質さを保ちながら小絞りボケの影響を受ける。以上から本レンズで全画面にわたって解像力を求めるのならば、F5.6が最良の選択となる。
16mm・周辺部
周辺部は開放から均質感がよく、また流れたような描写でないことから広角歪みの影響もあまり受けていない。周辺部もF4以降F8まで十分なシャープさとなっており、F11以降で小絞りボケの影響を受ける。これらから、16mmの時に全画面でシャープな描写とするには、F4からF8の範囲で絞りを選べば良い。
ボケ
超広角レンズではボケ描写は無縁のように思われるかもしれないが、大口径とシャープな描写が揃うと十分にボケを活かした作画を考えることができる。作例では、およそ50cmほどのワーキングディスタンスとなる部分でピントを合わせている。
12mm
代表画像全体でわかるように周辺部は放射状に流れたような印象を受ける描写になる。これは超広角レンズであるが故の描写であり、作画上考慮する必要があることを念頭にボケの性状を見ていく。
開放時のボケは輪線ボケもごくわずかで柔らかいボケだ。特筆すべきはボケの推移の穏やかさで、距離に応じた自然なボケ感となっている。この特性は絞っても変わらないもので、好印象である。
最短撮影距離
本レンズの最短撮影距離は28cmである。12mmの広い画角を考えると少し物足りない面もあるが、地表から見上げるような構図ではその広い画角を生かして清々しい絵を作ることができ、超広角の良さを活かせることだろう。
12mm
撮影時の状況は風が強かったこともあり、F22は除いた。F4でも少しブレが見られる。しかしながらF2.8〜F8までの広い範囲で低周波、高周波ともに高い解像力を示した。また、その解像感はF2.8〜F8まであまり変化はなく、絞り開放時から最高解像度に近い印象だ。最短撮影距離近辺での作画では、後ろボケに注力して絞りを選べば良いという結果である。
周辺光量
本レンズの開口効率は大変素晴らしく、各焦点距離での落ち込み量はほぼ同じ。しかも絞りごとの差は、あっても1/3段〜2/3段ほどでしかなく、その差はほとんど感じられないだろう程度に抑えられている。
点像再現性
本レンズは点像の再現性においても素晴らしい結果を得た。中心部の比較では、開放でも色収差を感じることなくF4とF5.6で、ほぼ遜色のない結果となっている。
驚くべきは周辺部の描写で、F2.8でほぼ点像である。F4、F5.6では放射方向に星が伸びているが、これも広角歪みに起因するもの。本レンズの絞り開放での点像再現性は、星景写真でも威力を発揮する性能を有していることが見てとれる。
歪曲
歪曲収差に関してはごく標準的な量といえる。12mmでは一見樽型に見えるわずかな陣笠型、15mmはほぼ歪曲がなく、24mm時に糸巻き型となる。いずれの歪曲もRAW現像時に問題なく解決できるものであり、使いこなしにおいて特段注意が必要なものではない。
フリー作例
高台から見下ろす夜景。周辺まで精緻な解像を求めてF5.6とした。
砂浜の長く続く感じを求めてF5.6とし、適度なボケを得た。
光条を出し夕日を強く表現するためにF16とした。
浜辺のオニユリを浮き立たせるためにF2.8を選択した。
高原の爽やかさを表現するため、光と影が入るよう15mmにした
滝の流れを表現するためにF11として、シャープさとの両立を図った。
高原によくあるオオカサモチと背景を適度に収めるためにF4とした。
夕闇の高原をシャープに描写するため、F5.6とした。