交換レンズレビュー

SONY FE 12-24mm F4 G

強烈なデフォルメ効果を実感できる超広角レンズ

ソニーのEマウント用レンズがこの夏、2本立て続けに発売される。いずれも超広角ズームだが、まず最初に発売されるのは、ワイド端で12mmという驚きの画角をもつFE 12-24mm F4 Gだ。

12mmというスペックはEマウントレンズとしては最広角であり、従来までは捉えきれなかった場面を表現することができるレンズとして、否応なし期待は高まる。「もっと広角側が欲しい」と望んでいたユーザーにとっては、注目に値するレンズの1本になるはずだ。

発売日:2017年7月7日
希望小売価格:税別22万円
マウント:ソニーE
最短撮影距離:0.28m
フィルター径:装着不可
外形寸法:87×117.4mm
重量:約565g

デザインと操作性

本レンズは、α7などフルサイズのモデルに装着すると表記の焦点距離どおりの画角で撮れる。なんといってもワイド端の12mmという数字が衝撃的だ。「超広角ズーム」と言えば、16mmスタートあたりが一般的で、実際16mm前後があれば十分にワイド感は楽しめるし、パースペクティブも強い。

ところが本レンズは、そういった従来の感覚を打ち破るような画角を獲得してしまった。場合によっては扱いにくいと感じてしまう可能性がないとは言えないが、使い込んでいけばスムーズにフレーミングができるようになるはずだし、超広角使いのユーザーならむしろすぐに慣れてしまうしまうかもしれない。

12mmという超広角域を持つため前玉が前方へせり出しており、ねじ込み式のフィルターは装着できない。フードは花形で、鏡筒と一体にデザインされている。とはいっても、レンズの構造上、固定式の花形フードが効果的にハレ切りをしてくれることは期待しないほうがよい。

逆光時はもとより、斜めからの光でもあっさりとレンズ内に侵入するので、そういう覚悟を持ってこのレンズは使わなくてはいけない。また、有害光が入ってきたからといって、手をかざしてハレ切りをしようとすると、手が画面内にはいってしまうことも多々ある。

また三脚にカメラを固定したとき、少しアングルを下げただけでも三脚の脚が画面内に入ることもある。それくらい12mmという画角は広く、そういう意味では厄介な面はあるが、同時にこれほど面白いレンズはないと思える。

鏡筒にはフォーカスホールドボタンが装備されているが、これはフォーカスのホールド機能だけでなく、カスタマイズして使うことも可能だ。カメラ側の選択肢に依存してしまうが、たとえばドライブモードやフォーカスモードを表示したり、AF-ON機能を割り当てることもできる。

またこのボタンを使ってAFとMFの切り替えを行うことも可能。自分の撮影スタイルに合わせた機能を割り当てれば、撮影をスムーズに行うことができるようになる。

本レンズは13群17枚構成の光学系を持つが、そこには非球面レンズ4枚を含む新しい光学設計が用いられている。さらにED(特殊低分散)ガラスを3枚、スーパーEDガラスを1枚使用するなどして、結果として高い解像力を獲得し、色収差は良好に補正している。

加えてナノARコーティングを採用しているため、広角系のレンズに発生しがちなフレアやゴーストもかなり抑えることに成功していて、すっきりとした描写が楽しめる。今回、逆光での撮影を積極的に行ってみたが、強いゴーストは少ないと感じたし、ヌケのよさも味わえた。

12mmの焦点距離を持つというと、かなり大柄なレンズを想像すると思う。もちろん、ある程度の大きさではあるが、それでも今回使用したコンパクトなα7R IIに装着したときに、バランスを欠いてしまうほどのサイズではない。

先に触れたが、新しい光学設計を採用したことによって鏡筒長の小型化と前玉の小径化を実現することができ、その結果、質量としては約565gという軽量化を達成した。「超広角レンズ=大きい」という図式は、本レンズに限って言えば成り立たないのである。

静かな自然の中で撮影するときAFの音がうるさいと気に障るが、本レンズはDDSSM(ダイレクトドライブSSM)を採用しているため、非常に静かだ。自然に浸りながら、心静かに撮影できるのは嬉しい。AFの精度が高いことは撮影者にとってありがたいことだが、同時に静粛でいてくれることも、大切な性能なのである。

アウトドアで使うことも考慮して、防塵防滴には配慮された設計となっている。悪天下で使うことも可能なので、雨や雪を利用した表現に挑戦する楽しみもある。ただし、完全に水の浸入を防ぐものではないので、その点は過信しないようにしたい。

作品

日が差してくると、自分の影が手前の緑にかぶってしまうので、曇った瞬間を狙って撮影。比較的小さな渓流だが、12mm域で撮影するとワイド感たっぷりに表現することができる。画面全体の解像感もよく、α7R IIとの相性は高い。画面の四隅を着目すると、やや像が甘くなっていることに気づく。

α7R II / 1/2.5秒 / F11 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 12mm

森に繁茂していたシダ。綺麗に葉を広げている個体にぐっと近づいてフレーミングをしている。画面中央部の葉の質感や解像感の高さに注目してほしい。リアルな表情が読み取れると思う。画面の左上あたりを見ると色ずれの確認ができるが、表現上問題になるレベルではない。

α7R II / 1/20秒 / F11 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 12mm

レンズの最短撮影距離は28cmで最大撮影倍率は0.14倍となっている。12mm側を使って、精一杯近寄って撮影してみたが、カラマツの小枝と葉はこの程度の大きさに写すことができ、背景はダイナミックに取り込める。ピントはあくまでもシャープで、等倍で観察してもリアルそのもの。

α7R II / 1/400秒 / F4 / +2.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / 12mm

木に巻きついた蔓にピントを合わせて撮影している。木に身体をあずけるようにして蔦に近づき、最短撮影距離付近になるように心がけた。12mmの画角でこの程度まで近づければ、強いデフォルメ効果が得られて、興味を引く表現を行うことができる。

α7R II / 1/30秒 / F4 / +2.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / 12mm

田んぼの畦で咲いていたジャーマンアイリスに近寄り、開放絞りで撮影。画面の四隅を見ると、それほど周辺光量は落ちていないことに気づくと思う。ちなみに1段程度絞れば、周辺光量は回復して、画面全体が均一な明るさになる。また開放F値を使っても、ピントが合った部分は極めてシャープであることにも着目して欲しい。

α7R II / 1/320秒 / F4 / +0.3EV / ISO160 / 絞り優先AE / 12mm

木の脇からチラッと太陽を見せるようにして撮影。画像を拡大すると、周辺に小さなゴーストは確認できるが、大勢に影響を与えるようなものではない。画面全体としては非常にクリアでヌケがよい。F11で撮影しているが、光条も綺麗な形が出現していて、画面のポイントとして活用できる。

α7R II / 1/20秒 / F11 / +0.7EV / ISO640 / 絞り優先AE / 12mm

太陽をストレートに画面に取り入れると、対角線方向にゴーストが発生した。太陽を画面のポイントとして使いたい場合は、上の写真のように何かの脇から見せるようにするとよい。

α7R II / 1/60秒 / F16 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 12mm

まとめ

風景写真のようなジャンルで使う場合は、やはりフィルターが使えないことはデメリットになってしまう。水面や葉の反射を取り除いて本来の色を出したり、あるいはNDフィルターを使ってスローシャッターを使うことができないからだ。

ただ、12mmという画角は、場合によってはそういったデメリットを受け入れても、使う価値があるものだ。強烈なデフォルメ効果やパンフォーカス効果は12mmでしか成しえない世界観である。とくに広角側の目を持っているユーザにとっては、興味深いレンズになるはずだ。

この夏、ソニーからは「FE 16-35mm F2.8 GM」という超広角ズームも発売される。広角好きにとっては、どちらを選ぶのか、悩ましい季節となるはず。相当に思い切った表現にチャレンジしてみたいというなら、選ぶレンズは自ずと決まってくるだろう。

メーカー希望小売価格は22万円。決して安いレンズではないし、むしろ高額の部類だと思うが、唯一無二の表現が楽しめるレンズとして考えた場合、どう映るだろうか。デジタルの時代になっても、レンズは長く使えるアイテムだ。とくに「Gレンズ」として登場した本レンズは最新のカメラに対応した設計である。そのあたりはぜひ考慮しておきたいポイントだ。

萩原史郎

(はぎはら しろう)1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、株式会社新日本企画で「季刊風景写真」(※現在は隔月刊) の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後はフリーの風景写真家に転向。著書多数。日本風景写真家協会(JSPA)会員。カメラグランプリ選考委員。Webサイトはhttp://hagihara-photo.art.coocan.jp/