カメラバカにつける薬 feat. EOS R System
キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS Rシステム」を改めて俯瞰してみる
初代EOS以来の大改革 4つのポイントを解説します
2020年12月24日 17:00
キヤノン初のフルサイズミラーレスカメラ「EOS R」が2018年の10月に登場してから2年強が経過した。その間にいわゆる入門機に相当する「EOS RP」が登場し、今年2020年には「EOS R5」と「EOS R6」が登場、計4機種にまで仲間を増やした。
長らく一眼レフカメラのトップを走りつづけきたキヤノン「EOS」。フルサイズミラーレスカメラ「EOS R」の登場は、つまり「EFマウント」からEOS Rの「RFマウント」へのマウントの変更を伴う、大きな変革でもあった。
今を遡ること30年以上前、1987年に初代EOSである「EOS 650」「EOS 620」が登場した。EFマウントが誕生した瞬間である。これが当時としてはかなりの話題を呼んだ。当たり前だったAFカプラーや絞りを連動させるための機構といった、メカ的要素が一切排除されていたからだ。
USM(UltrasonicMotor)に代表されるAF駆動系のモーターは全てレンズ側に搭載され、全てを電子的に制御するために8ピンという、これも当時としては多すぎる電子接点を備えていた。そして(やはり当時としては)大きなマウント径が異彩を放っていた。
マウントの変更はカメラメーカーにとって一大事である。しかし、キヤノンは当時のFDマウントから、EFマウントへと大きく舵を切る決断をした。その理由は真に有効なAFシステムの実現だ。それを踏まえつつ、真に光学的に優れたマウント規格とは何か、を検討したうえでの決断だった。
実際、EFマウントは30年間の長きにわたり通用しつづけた。当時のユーザーの多くが、始めは恐る恐る、やがては絶対的な信頼をよせて、EFマウントを使い続けることになる。
そして2018年、キヤノン「EOS R」の登場とともにRFマウントが発表された。そのRFマウントを軸に、EOS Rシステムに搭載された数々の技術が、今年発売された「EOS R5」「EOS R6」の飛躍的な性能の進化を支えている。
というわけでこのページでは、改めてEOS Rシステムの特徴を紐解いていく。当サイトでおなじみの「カメラバカにつける薬」のキャラクターたちにも手伝ってもらい、最先端のミラーレスカメラの世界を紹介したい。(漫画・イラスト:飯田ともき)
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目次
・POINT 1:大口径マウント/ショートフランジバック
・POINT 2:新マウント通信システム
・POINT 3:デュアルピクセルCMOS AF II
・POINT 4:RFレンズラインナップ
・まとめ
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POINT 1:大口径マウント/ショートフランジバック
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ミラーレスカメラの利点として語られるのが、小型軽量であることだ。その要因のひとつとして挙げられるのが、一眼レフカメラで必須のミラー機構を必要としないことだ。それにより、フランジバック(レンズマウント面から、撮像素子までの距離)の短縮化、ボディの小型化につながっている。
ただミラーが省略されただけで何を大げさに、と思われるかもしれないが、たったそれだけのことでレンズ設計の自由度は大きく広がり、ひいては描写性能の飛躍的な向上をもたらす可能性を秘めているのだ。
一眼レフカメラではミラーが開閉するだけの空間を必ず確保しなければならないため、どうしてもフランジバックを長く取らなければならない。レンズの後から撮像センサーまでの、長く何もない空間に、光を上手い具合に導く必要があるのだ。
ミラーをなくしてショートフランジバックが実現しても、それだけで理想的なレンズ設計は完成しない。デジタルカメラの撮像センサーは、その構造上、フィルムに比べて斜めからの入射光を取り込むことを苦手としている。レンズ後玉から届く光はなるべく真っ直ぐであることが望ましい(これを良好なテレセントリック性という)。そのためにはレンズ後玉が撮像センサーに対し十分なサイズを保てるだけのマウント径が必要となる。つまりは大口径マウントだ。
RFマウントのマウント径は54mm。実は、一眼レフEOSのEFマウントも同じ54mmである。1987年に新しくEFマウントが登場したとき、他のマウントに対して大きすぎる54mmに誰もが驚いたものだった。しかし時が経つにつれ、EFマウントはユーザーからの信頼を増していくことになる。
小さすぎればレンズ設計に制約ができ、大きすぎればボディデザインに支障をきたす。マウント径を決める上で難しいところだ。キヤノンはすでに30年以上も前にレンズマウントの口径として54mmを規定していたが、RFマウント設計にあたってゼロベースで検討した結果、やはり54mmが最適解であることが判明した。EFマウント登場の当時から、キヤノンは未来を見据えて設計されていたのだ。
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POINT 2:新マウント通信システム
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RFマウントのカメラとレンズは、どちらもCPUを内蔵しており、相互に通信をおこなっている。
具体的な通信速度は非公開となっているものの、初期のEFマウントの通信速度を人間の歩く程度の速さ程度と例えるならば、RFマウントの通信速度は新幹線に匹敵するほどの超高速になるという。もちろん、技術は進化するものなので、EFマウントでも後期になると初期よりは速くなっているが、それでも新幹線なRFマウントに比べたらスクーター程度の速さでしかないそうだ。
ボディとレンズを繋ぐ通信接点は、EFマウントでは8ピンだったところ、RFマウントは12ピンに増加されている。つまりRFマウントはEFマウントに比べて、より多くの情報を高速にやり取りできるのである。
これによって顕著に効果が現れているのが、カメラ(センサーシフト式)とレンズ(レンズシフト式)の手ブレ補正機構が連動して働く協調ISだろう。センサーシフト式の手ブレ補正機構は、キヤノンのカメラとしては、EOS R5およびEOS R6に初めて搭載された機構だ。
協調ISは互いが不得手な手ブレ補正を補い合うことで、単独で働いた場合よりも高い効果を発揮するというものだが、その補正効果は最大で8段分と実に驚異的である。この効果を得るためには、協調ISに対応したRFレンズの使用が必要である。
RFレンズの特徴のひとつ、コントロールリングの存在も忘れてはいけない。コントロールリングとは絞り値や露出補正などの機能を割り当てられるもの。レンズ一体型カメラに搭載される例はあったが、レンズ交換式のカメラで実現した例は珍しい。これもRFマウントの新マウント通信システムが可能にした機能だ。
AF制御の性能にしても、通信システムは太くて速い方がいいに決まっている。ミラーレスカメラであるEOS Rシリーズは、膨大な量の像面位相差の情報を処理しながら高精度にピント位置を制御している上に、カメラが検出した人物や犬、猫、鳥の形や瞳を捕捉し続けるだけの性能要求を満たしているのである。
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POINT 3:デュアルピクセルCMOS AF II
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そもそもキヤノンは合焦可能範囲を増やすために、測距点数を増やす方向で一眼レフカメラを進化させてきたメーカーだ。測距点が増えるほどピントの抜けは減るので、これは正しい進化といえるだろう。フィルム一眼レフカメラの「EOS-1V」「EOS-3」が登場したとき、高密度かつ位置自由度の高いAF機構に驚いたものである。
それが今、ほぼ全ての画素が測距点といえるまでの進化を遂げた。デュアルピクセルCMOS AFである。
写すための画素のひとつひとつで隙間なくピント位置を探り当てる。ピントの抜けなどは理論上ない。しかも測距点が像面にあるため、ミラー下などに位相差センサーを設けた一般的な一眼レフカメラに比べて高い精度が期待できる。
このデュアルピクセルCMOS AF、一眼レフEOSにもライブビューでの撮影をアシストする機能として搭載されているが、常時ライブビューであるミラーレスカメラこそ有用な機能だろう。
「EOS R5」「EOS R6」で搭載されたデュアルピクセルCMOS AF IIは、そのデュアルピクセルCMOS AFの進化版である。読み出し速度が高速になり、精度も高くなっているという。ディープラーニングを活用したアルゴリズム「EOS iTR AF X」を活用した結果、人物や動物など特定の被写体を検出し、捕捉し続ける能力が高くなったということである。
むろん包容力の大きな新マウントと新高速通信システム、これらがあったからこそ、デュアルピクセルCMOS AF IIが実現したともいえる。
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POINT 4:RFレンズラインナップ
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キヤノンのEFレンズラインナップのうち、標準ズームレンズの充実度には目を見張るものがる。そしてRFレンズにおいても同様だ。
「RF28-70mm F2 L USM」を皮切りに、2年の間に登場した標準ズームレンズは4本にもなる。一般的に、標準ズームレンズは使用頻度が高いレンズであり、それだけに需要や要望も大きなレンズであるため、いち早くスペックの異なる標準ズームレンズを複数ラインナップさせたところに、これまでと同じキヤノンのレンズラインナップ戦略が見て取れる。スペック次第で使いどころが異なってくるため、標準ズームレンズを一人で複数を所有していたとしても、それほど無駄になることがない。
なかでも、「RF24-70mm F2.8 L IS USM」は、多くのプロやハイアマチュアがシステムの中核として据えるレンズであるため、その存在価値は非常に大きい。超広角ズームレンズ「RF15-35mm F2.8 L IS USM」と、望遠ズームレンズ「RF70-200mm F2.8 L IS USM」を併せて揃えれば、いわゆる大三元ズームが完成する。
ミラーレスカメラもイメージセンサーが35mmフルサイズとなると、レンズ自体はなかなか小さくするのが難しいものである。
しかし、「RF15-35mm F2.8 L IS USM」は「EF16-35mm F2.8L II USM」よりもワイド端の焦点距離を1mm短い15mmとしたり、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」では望遠レンズの泣き所だった移動時の全長を短くするなど、魅力的なレンズとなっている。
レンズのマウント面を見てみると、フレアカッターが撮像センサー直前に配置されるように設計されている。これにより、有害光が画質に悪影響を与える状況を効果的に排除。ショートフランジバックを採用したRFマウントの良いところといえるだろう。
高級ラインの“L”が目立つRFレンズのラインナップであるが、きちんと普及クラスのレンズも用意してくれているところが嬉しい。
「RF50mm F1.8 STM」は、廉価で知られた歴代「EF 50mm F1.8」のRFレンズ版。F1.8と十分な大口径をもち、そのうえ軽く小さく画質も良好なのだから買わない手はない。
価格やサイズからEOS RP向けのレンズだと考える人も多いかも知れないが、そもそもEOS Rシリーズはいずれも大きくないミラーレスカメラなので、どのカメラとの組み合わせでも違和感なく使うことができる。
「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」も意欲的なレンズだ。概ね同格のEFレンズ「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」がテレ端400mmであるのに対し、本レンズは500mmまでをカバーする。それでいて質量は「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」よりも軽い。
開放F値が暗めだが、EOS Rシリーズは高感度特性が優れているため、それほど大きな問題ではないだろう。RFマウントならではの強力な手ブレ補正も活用できる。エクステンダー(RF1.4XおよびRF2X)が使えるところもポイントが高い。
望遠レンズといえば、「RF600mm F11 IS STM」と「RF800mm F11 IS STM」も見逃せない。この2本の“超望遠単焦点レンズ”は、ミラーレンズでもないのに絞りがF11固定という思い切った設計だ。当然、絞りを調整するための絞り羽根はない。
焦点距離600mmや800mmといった超望遠レンズは巨大であるのが当たり前だった。それが手持ちで誰もが振り回せるサイズ・重量に収まっている。
600mmや800mmはほとんどの人にとって見たことのない世界なのではないだろうか。エクステンダーを装着すれば、それぞれ最大で1,200mm、1,600mmでの撮影も可能である。
比較的素直なテレフォトタイプのレンズ構成であることを利用して、撮影時は長かった鏡筒を縮めて収納することができる。いうなれば沈胴式の望遠レンズだ。
それにしても、こんな楽しいギミックをもったレンズをまさかキヤノンが出すとは思っていなかった。それもこれもRFマウントで開かれた将来性が心地よい熱気を放っているからに違いない。
「RF85mm F1.2 L USM DS」は、DS(Defocus Smoothing)コーティングというキヤノン独自の特殊なコーティングがレンズに施されている。中心部から周辺に向け徐々に透過率を下げるDSコーティングによって、極めて輪郭の柔らかい理想的なボケ味を得ることができる。
類似の技術自体は初ではないが、RFレンズはそれを、ポートレートに最適なフルサイズ85mmで、F1.2という大口径で、さらにはAFで動作できるようにしたところがスゴイのである。また、DSコーティングなしの「RF85mm F1.2 L USM」も用意されており、好みに合わせて選べる。
RFマウントが登場してからわずか2年で、17本ものRFレンズがラインナップされた。そしてその中には、EFレンズどころか他のブランドのレンズにも見られない独創的な製品が創出されている。RFレンズを取り巻く今後の展開も楽しみになってくる。
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まとめ
EFマウントが登場したのは1987年のこと、しかしそれは、他社のAF一眼レフカメラがヒットしてから、すでに2年が経過してのことだった。EFマウントのデビューは、決して華々しいものではなかったのだ。
だがキヤノンはその2年間、何もしていなかったわけではない。当時は初の試みだった完全電子マウントを完成させ、結果的にライバルを凌駕しその後の地位を築いた。
EFマウント誕生を取り巻く当時の状況は、RFマウントが登場した現在と大きくは変わらない。フルサイズミラーレスカメラとして後発となったキヤノンだが、コロナ禍の中での「EOS R5」「EOS R6」のヒットには目を見張るものがあった。30年後、我々はEOS Rシステムとどう向き合っているのだろうか。
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社