新製品レビュー
ライカS3
6,400万画素CMOS搭載 ライカ最高峰の中判一眼レフ
2020年8月28日 09:00
ライカSシリーズは、ライカのカメラにおける最上位システムとして2009年から販売されている、プロ向けの中判一眼レフカメラシステムだ。当時の中判デジタルカメラは、マガジン式の中判カメラに取り付ける"デジタルバック"と呼ばれるタイプが主流で、スタジオでパソコンとセットで使用し、外に持ち出しやすいものではなかった。
そんな時に発売されたライカS2は、彼らが"ライカプロフォーマット"と呼ぶ45×30mmという大型センサーを採用し、かつ35mm判カメラのような機動性を持つことが特徴とされた。それはライカの哲学に則りつつ、他にないスタイルのものとして際立っていた。現在はシリーズ発売から10年を経て、10本を超えるSレンズとアクセサリー、プロ向けの特別なサポートを受けられる体制が整えられている。
そのシリーズ最新モデルがライカS3である。基本となるボディ構造こそ前モデルの「ライカS」(Typ007)から変わらないものの、CMOSセンサーは3,750万画素から6,400万画素センサーに一新。2018年のフォトキナでの発表から発売が待たれていたが、ついに2020年春より販売開始となったため、テスト機で撮影を試みた。
外観そのまま、内部を一新
ライカカメラ社では「好評だった従来機種ライカSのボディを継承した」とアナウンスしているライカS3だが、ライカSシリーズはこれまでも進化モデル、派生モデルはありつつ基本的には同じスタイリングで、2009年のライカS2からライカS(Typ007)を経て最新のライカS3まで、外観をほぼ変えていない。ひとつのスタイルを熟成させていくのは、フィルムカメラ時代のスタイルをそのままデジタルカメラにまで進化させたM型ライカにも通じていて、まさにライカの手法だ。
確かに大型センサーを搭載する中判デジタルカメラでありながら、光学ファインダー式の一眼レフカメラとしても、うまくパッケージされている。重心バランスが良く持ちやすく、手の中で収まりがいい。よく考えられたデザインであることが伝わってくる。
ライカS3は中判一眼レフカメラとはいえ、超弩級の大きさではない。ボディは35mmカメラのプロ機と同じくらいのサイズ・重量だ。決して小さくはないが、それほど身構えなくてもいい。ただし45×30mmのフォーマットのため、装着するレンズは大きめとなる。
ミラーレスカメラが全盛のいま、一眼レフカメラであるライカS3の光学式ファインダーは、なんとも心地良い。それは広大な視野のファインダーを通じて優秀なライカレンズを通った光がそのまま目に届くわけで、このカメラの最大の魅力となっている。
ファインダーを覗き、ミラーが上がり、シャッターが切れて被写体を捉えていく一連の手応えは、ミラーレスカメラとは大きく異なる。ゆえに、「これでなくては」というプロカメラマンの存在には納得がいく。最新テクノロジーを追求するのであればライカSL2を選べば良いわけで、ライカS3は唯一無二のカメラである。
そんな達人たちの道具となるべく、防塵防滴といった堅牢な作りを継承している。緻密に組み上げられたダイヤルやリングを動かせば、そのタッチはまごう事なくライカである。どのライカにも共通なクリック感、操作の節度がこのライカS3にも感じられるが、ライカを知らずとも、その仕上げや重厚感からは"上等なドイツ製品"を感じられるだろう。
描写の印象は?
中判デジタルらしく、これまでのライカSシリーズの作例はスタジオで撮られたものが多い。オートフォーカスの速度もそれほどではないためスポーツを撮ったりするものでもない。そこで今回は手持ちカメラらしく、もっとカジュアルなスタイルを試みた。ちょうど撮影を行ったのは外出自粛の期間中だったため、長崎の自宅周辺で撮れるものを撮ってみることにした。
ライカSシリーズは手ブレ補正機構がない高解像の中判カメラであるため、手持ちでの低速シャッター撮影が難しいのは、これまでのライカSシリーズに触れてきた経験で良く分かっている。ただ、CMOSセンサーの採用以後は高感度でもノイズが低減されて良好な画像が得られることを確認し、感度を上げ、絞りもほとんど開放付近を使い、速めのシャッター速度を選択し、室内でも撮影をした。
以前のモデルから圧倒的な高解像には驚いたものだが、今回もその印象は変わらない。厚みを感じる画像はどこまででも拡大できそうで、そのまま立体感にもつながっている。画素数もさることながら、レンズが見せる解像力の味わいとも言えるだろう。カメラ側の絵作りはコントラストが低めで、影をつけて立体的に見せるというよりも、グラデーションの多さで丸みを感じる描写だ。
今回はズームレンズ1本、単焦点レンズ2本の計3本を試した。Sシリーズの発売当初は単焦点レンズ4本から始まり、今や超広角24mmから180mmまで10種の焦点距離と、スタジオでのフラッシュ撮影を意識したセントラルシャッター(CS。いわゆるレンズシャッター)を組み込んだものがそれぞれラインナップされている。
以前は単焦点の標準レンズ「ズマリットS F2.5/70mm ASPH.」を装着し、カメラを持った自分が前後して被写体の入る大きさを決めていたが、標準ズームの「バリオ・エルマーS F3.5-5.6/30-90mm ASPH.」(35mm判換算24-72mm相当)もラインナップに存在する。広角端でも周辺部の描写は整っており、ズーム全域においてシャープで端正な描写のレンズだ。レンズ交換をせずスピーディーな撮影をこなすことができたが、少し大柄なのと、100万円を超える価格には驚いた。
"クリーミーシャープ"を実感できるレンズ
今回の撮影で多用した「ズミクロンS F2/100mm ASPH.」は35mm判換算80mm相当と少し望遠寄りのレンズだが、開放F2でもボケすぎず、ピントの幅もあり使いやすい。それでいてシャープでボケの自然さに感心した。昨年、各国の写真家たちとウェッツラーのライカ本社で交流した際、彼らが口にしていたライカレンズの特徴を表す"クリーミーシャープ"という言葉は、まさにこのレンズのことだと言える。
時代への親和とクラシックさを兼ね備える1台
約10年前のSシリーズ登場から徐々にシステムも拡充され、ライカS3では他のライカと共通の操作性に統一するアップデートも施された。また、最新のライカカメラと同じようにスマートフォンに画像を転送することもできるほど、時代に親和するカメラでもある。
しかしその仕立ては変わらず、クラシカルなクイックリターンミラーを備えた大きな一眼レフカメラである。だからこそ、これしかない! というファンがいるのだろう。ライカMのようなクラシックなレンジファインダーカメラのシステムも支持されているのだから納得だ。
今回は中判デジタルカメラに対する「スタジオでのブツ撮りやモデルのポートレート撮影用」という枠を外して撮影スタジオを飛び出し、日常のシーンで普段使いができないかとチャレンジしてみた。
さらに動画機能も試したが、中判デジタルらしいボケの美しさや立体感のある様子を、背面の大型モニターで見ながら撮影できるのは楽しい。映画レンズも手がけるライカである。美しいレンズ描写の動画もぜひ見てほしい。
街であまり見かけることもなく馴染みの薄い、トップオブライカのSシリーズ。もし手にする機会があれば、まずは撮った画像を見てほしい。その圧倒的なクオリティに驚くはずだ。前モデルのライカS(Typ007)でさえ、いまだ素晴らしくてため息が出るほどで、本音を言えばライカS3が出ても色褪せない。クラシックとはこういうものなのだろう。何より、"他とは違うライカで撮った!"という手応えがSシリーズにはある。目立たない存在だが、ライカの最高峰は凄い。