ニュース

キヤノンに聞いた「EOS R5」「EOS R6」一問一答(その3)

同時発表の新RFレンズについて 600mm/800mm F11の"DOレンズ"とは?など

ミラーレスカメラ「EOS R5」「EOS R6」と同時に詳細発表された新しい交換レンズについて、キヤノンへの追加取材に基づくQ&Aをお届けする。カメラ本体の話題については、先に掲載した「その1」「その2」をご覧いただきたい。

※7月13日15時40分追記:「RF85mm F2 MACRO IS STM」の手ブレ補正に関して、EOS R5使用時、EOS R使用時のそれぞれについての詳しい回答を得たため、該当部分に追記しました。

RF600mm F11 IS STM/RF800mm F11 IS STM

——どのようなコンセプトで企画されたレンズですか?

高嶺の花で手が届かなかった超望遠撮影の楽しみを幅広いユーザーに提供する、新コンセプトの超望遠単焦点レンズです。DOレンズや開放F値11の固定絞り構造の採用、樹脂部材の積極的な活用等により、超望遠レンズながら手頃な価格と小型・軽量設計を実現し、高い機動性と携帯性を備えることで、野生動物や航空機、スポーツなどの超望遠撮影を楽しむことができます。"超望遠レンズは高額で大きく重たい"という固定観念を払拭し、新たな需要の創出を目指します。

——開放F値11のレンズを製品化した背景は何ですか?

デュアルピクセルCMOS AFにより、よりF値が暗くてもAFができるようになりました。加えて、レンズから入った光をそのまま覗く光学ファインダーと違い、EVFでは明るく見えやすい状態で像を確認できます。

またカメラの進化により、高い感度の設定でもノイズの少ない写真が撮れるようになりました。このような技術進化を背景とし、開放F11でも快適な撮影を可能とする超望遠レンズが実現できました。

——想定している撮影シーンは何ですか?

晴天時など明るい環境下での撮影がおすすめです。超望遠レンズながら小型・軽量であるため、野生動物や航空機、スポーツなどの超望遠撮影における手持ち撮影も手軽に楽しんでいただけるかと考えています。

EOS R5+RF800mm F11 IS STM

——F11という暗さにデメリットはないのでしょうか?

小型軽量などの大きなメリットがある一方で、その特性上、いくつかのデメリットもありますので撮影の際にはご注意ください。

・カメラの測距可能エリアは撮像面の横:約40%、縦:約60%に制限されます。
・暗い環境下や室内光では、合焦しづらい場合があります。
・サーボAF連写時に、他のレンズよりも明るい環境においても、コマ速が低下することがあります。
・低コントラストの被写体に合焦しづらい場合があります。
・絞り数値の変更ができないため、被写界深度を調整したり、露出補正を絞り値で調整することはできません。

——F11固定ということは、絞り羽根そのものがないのですか?

はい。本レンズは絞りがF11固定のため、絞り機構はございません。円形開口のマスクを使用しているため、ボケの形状は円形絞りと同等レベルを実現しています。

——DOとはどんな光学材料ですか?

回折光学素子(Diffractive Optical element)を用いたレンズのことです。

光には障害物の端を通過するとき、障害物の裏側に回り込む「回折」という性質があります。この現象を利用して光の進路をコントロールするのがDOレンズです。球面ガラスレンズと特殊な樹脂製の回折格子を持つ回折光学素子で構成されています。回折格子の厚みは数マイクロメートル、格子の周期は数ミリメートルから数十マイクロメートルと、その製造には微細かつ高精度な技術が必要です。

DOレンズは、色収差補正効果と非球面レンズの性質を併せ持ちます。色収差をはじめとする諸収差抑制と、1枚で複数の光学特長を持つため、レンズ枚数の削減に寄与します。これにより高画質と小型・軽量を実現しています。

RF600mm F11 IS STM
RF800mm F11 IS STM

デメリットとしては、回折光学素子の特性上、DOレンズ採用の従来機種同様に、画面内外に光源があると、撮影条件によっては光源を中心に色つきのフレアが発生する場合があります。光源が画面外にある場合は、画面に写り込まない位置に手のひらや板、傘などを置いて光源を遮ると、この現象の軽減や防止ができます。

——これまでのEFレンズに採用されているDOレンズと同じものですか?

EF400mm F4 DO IS II USMのDOレンズと同様、密着2層型回折光学素子を採用しています。 加えて本レンズでは回折光学素子に新規材料を使用し、DOレンズのローコスト化を実現しました。

——これまで採用していたDOレンズと性能的に違いはありますか?

DOレンズによる色つきのフレア(回折フレア)を従来機種より大幅に軽減したEF400mm F4 DO IS II USMと比べると、回折フレアは発生しやすく、色もつきやすくなっており、EF70-300mm F4.5-5.6 DO IS USMやEF400mm F4 DO IS USMと同等レベルです。回折光学素子に新規材料を使用し、DOレンズのローコスト化を実現していることが背景にあります。

本レンズでは、新たに超望遠レンズに挑戦したい幅広いユーザーに手に取っていただけるような手頃な価格を実現するため、バランスを合わせて検討し、こちらの性能としています。

——密着2層型回折光学素子とは何ですか?

回折光学素子とは微細な格子構造(回折格子)を持つ光学素子のことで、同心円状に格子を形成することで、回折現象を利用して光の進行方法を変化させることができ、UDレンズなどの異常分散レンズを超える色収差補正能力と非球面の光学特性を併せ持ちます。

密着2層型回折光学とは、2つの回折格子部を空気層を挟まない密着の素子構成にした回折光学素子のことです。ちなみに、積層型回折光学素子は、回折格子部が空気層を挟んで対向配置されたものです。

——レンズ名に「DO」と入れなかったのは何故ですか?

最近はレンズの種類を名称に入れないことが多くなってきています。例えばBRレンズ/UDレンズ/スーパーUDレンズなどは、レンズの商品名称に記載していません。その流れを受けて、以前は「DO」を商品名称に入れていましたが、このレンズでは含めないこととしました。

——EF600mm F4などのクラスのレンズとの違いは何ですか?

EF600mm F4L IS III USMといった超望遠レンズは、プロフォトグラファーの方々をメインターゲットとし、スポーツ、報道、風景などのプロの撮影ニーズに応えるため、描写性能や堅牢性などで最高水準の性能を追求した「L(Luxury)レンズ」の超望遠レンズです。

一方で、本レンズは、開放F値11やDOレンズ、樹脂部材の積極的な活用により、ハイアマチュアの方を中心に、新たに超望遠撮影に挑戦したいユーザーの方にとって、お求めやすい価格と小型・軽量設計を実現した新コンセプトの超望遠レンズとなります。

RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMとエクステンダー

——RF100-500mmがEFの100-400mmと大きく違うところはどこですか? また、どうやって焦点域を100mm拡大しましたか?

望遠端を100mm延ばしながら、200g(1,570g→1,370g)の軽量化を達成した点です。ボディとの組み合わせにより機動力のある撮影システムを実現しました。

焦点域の拡大は、Rマウントの特長である、大口径マウントとショートバックフォーカスの採用により、レンズ設計の自由度が高まったことを生かして実現しました。このレンズにおいてもRF70-200mm F2.8 L IS USMで大幅な小型・軽量化を実現したのと同じ設計思想を採用しています。

——想定するユーザーや撮影ジャンルは何ですか?

報道・スポーツをはじめとする分野のプロフォトグラファーおよびハイアマチュアユーザーをターゲットとしています。

——ワイド側でエクステンダーが使えない理由は何ですか?

機動力を重視した設計を優先した結果です。このレンズはワイド側において、レンズの後方にレンズを配置することで設計自由度を増して軽量化を実現しています。そのままでは、エクステンダー装着時に後方レンズとエクステンダーが干渉するため、使用不可となっています。テレ側では、レンズ後方のレンズが前方に移動するためエクステンダーを装着するスペースが生じ、使用可能となっています。

——今回の新しいエクステンダーの特徴は何ですか?

最新の高屈折力低分散硝材で像面湾曲と倍率色収差を抑制した点、コーティングの適正化と3枚接合レンズの採用により、可能な限り空気との接触面を減らしてゴーストを低減した点です。

加えて、プロおよびハイアマチュアユーザーに配慮した信頼性や耐久性を備えた設計(耐振動衝撃構造、防塵防滴)や、外観への遮熱塗装の採用があります。

左から、エクステンダーRF1.4x、同RF2x

——エクステンダー装着でAF測距可能エリアが狭まるのは何故ですか?

EOS RとエクステンダーRF2xの組み合わせでは、測距に必要な光量を確保できずエリアが狭まりましたが、新エンジンの採用により、EOS R5装着時には広いエリアでの測距が可能となりました。

RF85mm F2 MACRO IS STM

——このレンズの見どころを教えてください。

本レンズは、EOS Rシステムの特長である大口径マウントとショートバックフォーカスを生かし、ポートレートに適した小型軽量の85mm単焦点レンズです。UDレンズおよびショートバックフォーカス構造を活用した大口径の後玉を採用することで、画面全体の高画質化を実現しています。

85mmという中望遠の焦点距離は、被写体に圧迫感を与えない距離を取った上でのバストアップ撮影などに向いており、ポートレート撮影に人気の焦点距離です。このポートレート撮影に人気のレンズを求めやすい価格で導入することで、EOS Rシステムの更なる普及に貢献します。IS協調制御による手ブレ補正の向上を図るなど、ハイアマチュアユーザーの皆さまにもご満足いただけることを意識しています。

——このレンズをEOS R5に装着した場合、静止画の手ブレ補正効果はどれぐらいですか?(7月13日追記)

8.0段(EOS R5装着時。CIPA基準)です。協調ISは、対応レンズとEOS R5との組み合わせで広角側から望遠側まで最適な5軸手ブレ補正を行います。カメラとレンズの機構が協調して補正を行うことにより、本レンズでは8.0段の補正効果を実現しました。

——このレンズをEOS Rに装着した場合の手ブレ補正効果5段分は、どのように実現していますか?(7月13日追記)

最新のマイクロプロセッサーの搭載により今まで以上に制御精度が高まったことに加え、デュアルセンシングISにより、レンズのジャイロで捉えた手ブレ量と、カメラの撮像面で捉えた被写体移動量を比較することにより、ジャイロのブレ検出誤差をキャンセルし、検出精度を高めることができたためです。

——F1.8ではなくF2の理由は何ですか?

F1.8のためには、更なる大口径が必要となります。全体サイズとのバランスを考慮した結果、F2を選択しました。

本誌:鈴木誠