特別企画
「ライカM10」実写レポート
発表イベントにジョエル・マイロウィッツ氏が登壇
2017年4月14日 07:00
1月末、ドイツ・ウェッツラーのライカカメラ本社にて「A Celebration of Photography」 と名付けられたイベントが催された。写真家やライカファンをはじめとするライカファミリーとともに、写真界の功績を讃えようというものだ。今回は写真家のジョエル・マイロウィッツ氏をフィーチャーするとのことで、私も大変楽しみにイベントへ向かった。
ジョエル・マイロウィッツ(Joel Meyerowitz)氏は、1938年ニューヨーク生まれで、1980年代に「ニューカラー」と呼ばれる写真のスタイルで作品を発表しており、アメリカを代表する写真家の1人でもある。そんな氏は御年78才。当日の対談相手だった40代の写真家を向こうに、張りのある声、大きなジェスチャーで完全に優っていたように見えた。
そんなレジェンドに付き添う写真のご婦人は、 世界のライカギャラリーを統括するアートディレクターのカリン・レン・カウフマン氏。ライカカメラ社主であるアンドレアス・カウフマン氏の奥様だ。社をあげて祝いの場を盛り立て、式典はさらに華やかなものになっていく。
マイロウィッツ氏の写真集を学生時代に手にし、学んだ私にとっては、まさに神に会った心地。ステージを降りる氏におそるおそる声をかけると、殿堂入りの副賞として贈られた氏のサインが刻印されたライカM10を誇らしげに見せてくれ、感激してしまった。
続くイベントでは、すでに報じられている新型機「ライカM10」をアンベール。その新たなカメラは、幾多の歴史的な作品を撮られたライカと同じような操作性とフィーリングをもたらし、今も変わらないライカそのものだった。
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帰国後、日本での実写レポート
デジタル世代のライカMは、フィルム時代に比べていくぶん厚みを増したことで昔と雰囲気を異にしていたが、新しいライカM10は古くからのライカファンも「これなら!」と思える姿になった。私の馴染みの場所、熊本で撮影した実写を紹介したい。
熊本阿蘇、草千里から阿蘇中岳を望む。穏やかな早春の阿蘇だが、ひとたび活動が活発になれば恐るる火山ともなる。朝日に向かい、太陽を取り込んだ構図は、シャドーに合わせた露出でハイライトまでを再現している。
阿蘇大観峰。大空へ向かうパラセーラーを、広角レンズで大きな空間の中に置くように撮った。あまり絞らず、速めのシャッタースピードを意識している。明るさが変わっても露出が対応できるように、シャッターダイヤル「A」で絞り優先オートにしている。
九州は魚が美味で、魚屋をついついのぞいてしまう。少し暗い軒下の魚たちをF1.4開放でぼかしつつ、奥行きを感じるように、と撮った。この日常的なシーンに興味が湧き、高価なレンズを向けるのは私らしいと微笑みながら。
熊本三角西港、世界遺産にも指定された明治期に建てられた古い建物の扉は、当時へ誘うかのよう。ズミクロン28mmはシャープで歪みのない線を再現し、早春の柔らかな陰影を浮かび上がらせている。
天草崎津の民家。クリスマスの時に貼ったのだろうか、可愛いその窓にレンズを寄せた。近距離撮影が苦手なレンジファインダー機だが、ライブビューならシビアな構図確認も、ピントを見ながらの撮影も可能。良いボケ感の背景が「ここは熊本だ」と言っている。
塀のクロスの奥に見えるのは、天草崎津教会の聖堂。美しいゴシック様式の教会は晴天の陽に照らされていたのだが、この塀のデザイナーの意図に従って撮ることに。28mmでもF2の開放値。ボケが作りやすく、狙い通りの写真になった。
天草崎津の漁港。湾の船溜りでは、深く暗い海に船体が美しい。この穏やかさを表現したく、少しでもボケを得たいと開放絞りにセット。ISO100で1/3,000秒となり、シャッター速度の限界内に収まる。画像周辺の光量落ちも雰囲気に合っている。
御輿来海岸は、夕日と干潮が重なる日には多くのカメラマンを集める、熊本で人気の撮影ポイント。これは大きな三脚にカメラを据えた人達に手持ち撮影で混じり、気軽に撮った1枚。こうしたシーンでもシャープで広階調な描写が活き、美しい風景を切り取れる。
彩り豊かなちらし寿司には、海の幸キビナゴがのる。思わずスマホを取り出したが、ライカM10にはWi-Fiが内蔵されたのでスマホ接続が可能。ライカはSNS写真にまで活躍の場を広げる。ズミルックス50mmの質感描写は魅力的で、特にF1.4開放の柔らかな描写は好ましい。
こちらを見てくれと言わんばかりに、滝沿いの木に光が当たっていた。目にも立体感のある光景に、レンズで再現しようと意欲をそそられた。構図は、主体よりも背景を意識して整えた。ズミルックスらしいボケがある。
ここも人気の鍋ヶ滝。低速シャッターで流すように撮るのが定番だ。しかしフィルム時代ならいざ知らず、ここではシャッター速度を1/3,000秒にセット。流れを雫として止める。ライカM10はISO3200程度なら画質低下も全く気にならず。
鍋ヶ滝は滝の裏側にも入れる。滝の奥でしぶきが飛ぶ中、人が通過する際にサッとカメラを出した。人物は影になるよう背景に明るさを合わせ、少し被写界深度が深い28mmレンズはラフなピント合わせでも合焦している。
空のグラデーションに目を奪われ、空を多めの構図で撮影。ライカM10はシンプルな操作だからこそ、自分の心と向き合うことができる。私の記憶を残していくライカM10。その頭文字のMは私にとってメモリーのMだと、旅のお供につぶやいた。
試写を終えて
ライカM10の基本操作はほぼ手動。フルオートのカメラに慣れた身には、少々面倒とさえ感じる。しかしこれが、偉大なライカ使いの写真家とも共有できる感覚なのかと思うと、嬉しくもある。被写体に近づき、ピントの位置を探り、集中力を高めながら撮影するのは、昔ながらのシンプルなライカならではと気づかされる。
とはいえ現代のライカM10は、最新のデジタルカメラらしくライブビューなども便利になっていて、しかもWi-Fi搭載機。このフレンドリーさから若いユーザーも増えそうだが、古くからのライカファンにも手にしてほしいと感じる。フィルム時代のサイズ感で、ボディの質感は昔と変わらぬ重厚さ。また改めて、ライカにときめきを感じさせるものだった。