新製品レビュー

Nikon NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S

ポートレートで検証 抜群の解像感と自然なボケ

ニコンのZマウントレンズ「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」が8月28日、ついに発売となった。当初2月の発売が予定されていた本レンズだが、首を長くして待ちわびていたZマウントユーザーも多いことだろう。最新の硝材やコーティング、マルチフォーカスの採用による解像性能やAF速度の確保など、ニコン最新鋭の技術が惜しみなく投入されている本レンズ。その描写性能について、ポートレートの立場からインプレッションをお伝えしていきたい。

外観と機能

本レンズは、ボディと同様に任意の機能をアサインできるファンクションボタンのほか、距離情報などを表示できるレンズ情報パネルや、絞り・ISO感度・露出補正のいずれかの機能を割り当てることができるコントロールリングを搭載している。レンズ側の機能としては、同じくF2.8の大口径標準ズーム「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」をイメージしてもらえればいいと思う。

レンズ鏡筒は、Fマウントのそれに近いイメージだ。このサイズ感をいかして、各種ボタンや操作リングの幅が操作感を損なうことなく配置されている。

まず、ファンクションボタンだが、配置数は計5つ。レンズ情報パネルの近傍に1つ(L-Fn)と、ズームリング手前側に鏡筒に沿うかたちで4箇所(L-Fn2)設けられている。コントロールリングはマウント側に。AFとMFの切り替えスイッチと、フォーカスリミッターも、マウント基部に配置されており、操作時の手の動きに心地よいデザインとなっている。

ファンクションボタンは、撮影シーンや用途に応じてレンズの使い勝手を自身のスタイルに寄せることができる。今回の撮影では、L-Fnには格子線表示を、L-Fn2では拡大画面の切り替え(100%)をアサインして使用した。

以上の設定とした理由を説明すると、グリップをしっかり握らないと微ブレにつながる可能性があるからだ。拡大画面との切り替えはボディ側のFn1にも設定しているが、レンズをしっかりとホールドしつつ確認できるようになることで、ホールド状態を維持しながらのピントチェックがシームレスに行えるようになる。こうしたカスタマイズ幅のひろさは歓迎すべきポイントだし、撮影ジャンルや好みに応じて自分ルールを作る楽しみでもある。ぜひ、使いこなしのポイントとして覚えておきたい。

レンズ情報パネルには、焦点距離や絞り値などを表示できる。

レンズ情報パネルは、ZEISSのBatisシリーズのような電子表示式だ

ところで、前記したように本レンズはFマウント版の70-200mm F2.8と比べても、それほど大きさの違いはない。だが、ミラーレス機の利点がないのでは? と考えるのは早計だ。重量バランスであったり、操作リングの幅、扱いやすい位置に配されたファンクションボタンなど、この大きさであることのメリットも多い。

また、本レンズは、発売済みのNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S同様、従来のナノクリスタルコートに加え、アルネオコートという反射防止コーティングが施されている。ファインダーを覗いた際にもクリアーな被写体像が得られるため、逆光条件が多くなるシーン以外でもメリットは多い。Zシリーズのファインダーの見やすさと相まって、覗いて撮る楽しさや被写体の掴みやすさを実感することができるはずだ。

フードを装着した状態。装着しているボディはZ 6。三脚座を基点に前後で重心のバランスがとれていることからも分かるとおり、扱いやすい重量バランスとなっている

作例

今回は盛夏での撮影ということで、山中での実施となった。林道脇で撮影したカットからご覧いただきたい。このカットでは、自然でなだらかな奥行き感をボケで表現できるかをチェックしている。焦点距離はズーム中間の105mmにして、絞りは1段絞った。モデルの解像感やヌケが良く、画面奥に向かって実になだらかで自然な再現が得られている。画質の第一印象は実に好印象だ。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(105mm) / マニュアル露出(F4.0・1/80秒) / ISO 400

続けて135mm付近で絞りを開放F2.8にして撮影した。このあたりになると背景の玉ボケなども大きく表現されてくるが、ボケの形状も自然で、年輪ボケ(玉ねぎボケ)も見当たらず、とても美しい。ピント面のシャープさも絞り開放から素晴らしい。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(130mm) / マニュアル露出(F2.8・1/320秒) / ISO 400

廃墟を背景に撮影してみた。目で見ただけだと背景からはかなりうるさい印象を受けるが、状況に応じた背景処理という点でもズームレンズはこうしたロケではとても便利だと感じる。ここでは105mmを選択。僕は焦点距離を決めてからフレーミングを決めていくようにしている。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(105mm) / マニュアル露出(F2.8・1/400秒・+0.7EV) / ISO 100

やや顔に角度をつけ、手前の目と奥の目のボケ感を意識して構成した。135mmでこのボケ方は嬉しい。また瞳の涙に映るレフの輝きを見て欲しい。涙の水分や透明感を見た目以上に美しく再現してくれた。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(135mm) / マニュアル露出(F2.8・1/400秒・+0.7EV) / ISO 100

日傘で日影をつくることでコントラストを下げて撮影したが、解像感はどんな光でも抜群だ。こうしたシーンでは色乗りが悪い場合が多いが、満足出来る色が得られた。背景のブルーもしっかりと乗っている。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(105mm) / マニュアル露出(F2.8・1/400秒・+0.7EV) / ISO 100

モデルの背景奥側にある、ざわつきそうな木を入れて、ボケの形状を試した。絞りは開放にして撮影している。しかし見事なボケだ。シャドーとなっているモデルの肌の質感も濁ることなく、ヌケと立体感のバランスがいい。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(110mm) / マニュアル露出(F2.8・1/500秒・+0.7EV) / ISO 100

モデルの動きに合わせてレンズを振り回すのに手ブレ補正は非常に有効で、とっさの動きでも綺麗に静止した絵づくりができた。焦点距離が200mmとなると、シャッター速度が1/400秒でも油断すると手ブレは発生する。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(200mm) / マニュアル露出(F2.8・1/400秒・+0.7EV) / ISO 100

このカットも動きのバリエーションでまとめていったカットの一枚だが、コントラストのバランスが良く、肌の質感と水の輝きをうまく表現できた。カメラに向かうしぶきや玉ボケなども、とても綺麗で清涼感を感じる。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(97mm) / マニュアル露出(F2.8・1/800秒・+0.7EV) / ISO 100

正午に近いトップライトの状況は、コントラストが強くなりすぎるため、あまりポートレートには向かない、というのは正直なところだ。少しレフ板を入れてバランスをとっているが、その光はモデルにとってもまぶしいものとなる。厳しい条件が複数重なった状況でのカットだが、肌の透明感を損なうことなく再現できた。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(200mm) / マニュアル露出(F2.8・1/800秒・+0.7EV) / ISO 100

本レンズの最短撮影距離は50cmだ。焦点距離200mmで、この最短付近でモデルにぐいっと寄った。スイングしながらピントを微調整しつつ撮影してみたが、ヤバいくらいのシャープさと透明感には驚いた。ニコンによれば、マルチフォーカス方式を採用することで至近距離でも収差を効果的に抑制していると説明しているが、これもそうした恩恵の賜物なのだろう。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(200mm) / マニュアル露出(F2.8・1/400秒・+0.7EV) / ISO 100

トップライトに近い逆光の光線状態では髪のハイライト周辺にパープルフリンジが発生する場合が多いのだが、このレンズではフリンジの発生は確認できなかった。ポートレートでは髪のフリンジが取りきれないこともあるので、とても嬉しい。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(200mm) / マニュアル露出(F2.8・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

遠目から105mmの画角でスナップすると背景との見え方が自然に見える。地面の雑草の色が飛ぶこともなく、画面全体に色に残した懐かしい雰囲気を表現できた。レンズのテスト的にはこちらも髪のハイライトの観察が目的だ。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(105mm) / マニュアル露出(F2.8・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

今回は個人的に気に入った写真が色々あり、普段より多く掲載しているのだが、ポートレートではどの焦点距離でも絞り開放が通用しそうなポテンシャルだ。絞り開放でレンズ焦点距離とモデルとの距離の調整だけで撮影してみるのも面白い。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(155mm) / マニュアル露出(F2.8・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

肌の色乗りやコントラストなど、コーティングの質の高さもあってこそのクオリティーだと思うが、本当に美しい肌の階調やキメの再現性能が得られる。髪や肌にわずかに触れる光、丸みを表現する影など、現場の光や空気感を余すところなく本レンズは捉えてくれる。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(92mm) / マニュアル露出(F2.8・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

少し意地悪なテスト。前ボケが汚くなりそうな植物を、ディテールが出やすい見え方で配置してその形状を確認した。かなりうるさめにも関わらず前ボケも健闘している。画像のコントラストについては、フードなしで撮影しても良好。ナノクリスタルコートが効いているようだ。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(175mm) / マニュアル露出(F2.8・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

焦点距離別の描写

ファインダーで観察する限り、欠点らしい欠点は見つけられない本レンズ。背景が複雑なシチュエーションだとボケがうるさくなったりしてしまうレンズもあるが、本レンズではどうだろうか。もしかしたら、ネガティブな注目ポイントが見つかるかもしれない(笑)。そんな思いも抱きつつ、意地悪を承知で撮影してみた。

しかし結果はご覧の通りで、いずれの焦点距離でも素直なボケ描写で、焦点距離が長くなるほどに大きなボケとなり、画面の深みが増す。その質感は、まるで中判用のレンズを使っているようなエレガントな雰囲気だと感じた。

70mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/500秒) / ISO 400
85mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/500秒) / ISO 400
105mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/500秒) / ISO 400
135mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/500秒) / ISO 400
200mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/500秒) / ISO 400

絞り別の描写

画角を135mmに固定し、横位置のスナップフレームで作画して絞り別の描写の違いをみていった。

絞りはプライベートな作品撮影でもよく使う開放F2.8から、仕事で使用する際の上限値と考えているF8の4段だ。ボケ感全体の印象は絞りのステップに応じた自然な描写で、気になるクセがない。つまりこの4段の絞りについては、どのくらいの被写界深度で撮影すべきかなど、狙いに応じてどの絞りでも質の高い描写を得られるとみていいだろう。

また、この距離での人物メインの撮影では絞り開放で撮影しても全く問題なく、ピント面のシャープさなども十分。芯がありながら軟らかい描写で撮影できるので積極的に使いたい解像感だ。もちろん絞るほど画面は締まるため、よりシャープな描写となる。「絵が立つ」という印象だ。

「業務などで第三者に提供する作品は?」と仮定すると、画面全体の情報量と背景ボケのバランスからみて、筆者であればF5.6を選択するだろうなと、モデルの描写と、モデル向かって右側あたりのボケのグラデーションの変化から感じた。

Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S(135mm) / マニュアル露出(F2.8〜F8・1/800秒〜1/100秒) / ISO 800
F2.8
F4
F5.6
F8

中央と周辺部の描写

絞りをF2.8にした場合の周辺描写をワイド端とテレ端でみていった。

まずは70mm側から。実はISO 2000と高感度設定で撮影して、画面比率に対してやや小さめにモデルを配している。ピントを合わせた中央部のモデルの描写は、絞り開放にもかかわらず解像感が非常に高い。ほぼ同じピント位置にある画面左側の木の根の描写も同様で、像の流れなども一切確認出来ない。画面右のアウトフォーカスとなる滝や、その周辺部の描写についても素晴らしく、開放から使用できることを実証できたように感じる。

70mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/200秒・-0.3EV) / ISO 2000

70mmのカットを撮影した立ち位置で、そのまま200mmにズーム。200mmの画角による絞りを開放にした撮影は、ポートレートでも可能性の高い組み合わせなので慎重に観察したが、中央部のモデル像は顔から足元に至るまでナチュラルな写り。髪はもちろん、肌の質感まで解像している。周辺部の描写をみても大きな画質の劣化は感じられない。ボケも芯を残さない軟らかさがあり、好印象だ。

200mm
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S / マニュアル露出(F2.8・1/200秒・-0.3EV) / ISO 2000

まとめ

普段は単焦点をメインに105mmまでで絵づくりをすることが多いが、今回のテストでニコンの新しい大三元の望遠域を担う本レンズのクオリティーやポテンシャルの高さを見せつけられた。

このテストではアルネオコートの存在感を示す絵づくりはしなかったが(太陽が山に隠れてしまった。汗)。経験上NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sで実証されているようにアルネオコートとナノクリスタルコートの組み合わせで逆光系撮影をすれば最高のパフォーマンスを発揮することは、僕には容易に想像できる。今まで70-200mm F2.8はお守りのように殆ど出番のないレンズだったが、本レンズは、どんどん使い倒して望遠系の焦点距離をもっと楽しんでみようと心に決めることができた。

モデル:青山明日香(プラチナムプロダクション)

河野英喜

こうのひでき:島根県浜田市出身。中学の頃に友人の持つカメラに強く惹かれカメラを手にして独自にポートレートを習得する。人物撮影のジャンルでは媒体を問わず幅広く活躍している。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

https://www.konohideki.com