特別企画

ドイツ本社で行われた「ライカSL2」研修&実写レポート

スタジオと屋外でテスト撮影 資料室には貴重な品々も

ドイツ・ウェッツラーにあるライカカメラ本社。ライカSL2で手持ち1秒。
LEICA SL2 VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(26mm) ISO 50 F10 1.0秒

11月末に発売されたミラーレスカメラ「ライカSL2」。その登場に先駆けて、ライカSL2とライカについての理解を深めるミーティングがドイツのライカカメラ本社で催された。そこにはヨーロッパ、アジアから各国1名ずつ合計10名の写真家が参加。日本からは私が機会を得て赴いた。

ライカSL2と対面。

初日は新型機の概要と、そこに込められたライカの思想を聞く。ライカSL2はライカの歴史の延長線上にあるカメラであることが強調されていた。デザイン、感触、使用感、信頼性。従来のライカSLから受け継ぐことはもちろん、歴史を遡ったモデルとも近似する何かを見いだせる、と。

フィルム一眼レフカメラのライカR6.2と、ライカSL2。マウント部周囲のいわゆる"エプロン"的な造形は、ライカR4などがモチーフだという。
ライカSL2のトップカバーは、左のアルミインゴットから右のように削り出している。

スタイリングには、古いライカを受け継ぐモチーフを取り入れている。組み立てには長年の経験をもつ作業者が携わり、古い機種と同様の使用感を保つ。そこにはライカなりのチャレンジがあるとのことだった。

最新ミラーレス用のLマウントレンズは、クラシカルなレンジファインダーカメラ用のMマウントレンズと異なり、設計において「より新しいことができる」とレンズ担当者が嬉しそうに話してくれる。示された作例の素晴らしい写りには参加者全員が納得し、レンズを作る人々の喜びを感じた。これはライカレンズを使う私達にとっても嬉しく感じられるものだった。

各国から集まったフォトグラファーが、ライカの製品担当者とディスカッションした。

スタジオでテスト撮影

スタジオ撮影の様子。

インストラクターに従い、モデルを前にスムースに撮影を進めていく参加者たち。定評ある電子ビューファインダーは暗い環境でも明るく見渡せ、ピントのピークもよく分かり、使いやすい。

スタジオ用の大型ストロボを使う撮影だが、最近の機材らしく無線のコマンダーを使うため、シンクロ端子がなくなったライカSL2でも特に困らない。

繊細な線を描き、コントラストも正しく再現されることをモニターで確認しつつ、最新のレンズから古いライカの一眼レフ用レンズまでを試した。

実写:スタジオ編

LEICA SL2 VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(62mm) ISO 50 F6.3 1/250秒
LEICA SL2 SUMMILUX-R F1.4/35mm ISO 100 F1.4 1/80秒

ライカレンズの新たな合言葉「クリーミー&シャープ」

ライカカメラ社と同じ敷地内に置かれたエルンスト・ライツ・ウェッツラー社が生み出す映画用レンズは、ライツ・シネレンズと呼ばれる。"ライツ"という旧社名のモチーフに歴史を感じるファンも多いだろう。担当者は「我々のレンズは映画用で名高いツァイスやアンジェニューといったレンズに肩を並べ、ライツでなくては撮れないと言われるものにしたい」と語る。

エルンスト・ライツ・ウェッツラー社の入口には、懐かしい「Leitz」のマーク。

ライツ・シネレンズを使う映画撮影現場では、「ライツで撮るとクリーミーでシャープな絵になる」という声を聞くそうだ。画像評価では聞き慣れない"クリーミー"という表現について質問すると、昨年アカデミー賞を受賞した「グリーンブック」を見れば分かると説明を受けた。

私は以前に観た映画だが、確認のために再度見直すと、確かに少し柔らかくコントラストも低めな写り。ドキュメンタリー映画ならシャープ一辺倒でもいいだろうが、ライツ・シネレンズが必要な映画もあるのだと実感した。

近隣の町でテスト撮影。

再びライカSL2を携え、近隣の町を歩きながらテスト撮影。すると私が日本から持参した古いM型ライカ用レンズ(非球面化以前のズミルックスM F1.4/35mmと、ズミルックスM F1.4/75mm)の描写を見た参加者が、「これが先ほどの"クリーミー&シャープ"ではないか?」と盛り上がった。40年近く前に作られたレンズに答えを見出すとは面白い。ともかく私は、思いがけずして即席のレンズレンタル屋さんとなった。

実写:ライカSL2+オールドライカレンズ

LEICA SL2 SUMMILUX-M F1.4/35mm ISO 100 F2.4 1/200秒
LEICA SL2 SUMMILUX-M F1.4/35mm ISO 100 F2 1/640秒
LEICA SL2 SUMMILUX-M F1.4/35mm ISO 500 F2.8 1/125秒

こうしたオールドレンズを最新のライカSL2で使用することに違和感はなく、むしろ電子ビューファインダーでフレアやゴースト、ライカレンズの味わい(クリーミーさというなら、それも)を感じつつ撮影できる。これこそ最新のカメラだと思った。

最後に、ライカ本社内の資料室を見学。まさに"ライカ漬け"の日々を過ごした。

貴重な資料が眠るアーカイブ内を見学。
収蔵品に夢中の参加者たち。
"カメラが銃弾を受けて命拾いした"と話には聞くが、そんなライカM4の現物が保存されている。
セバスチャン・サルガドの使ったライカR6は、油田を撮影した後の油汚れがついたまま。
強烈にレアな品々が収まる。
ライカM3の巨大模型にテンションUPの筆者。

実写:屋外編

ライカ本社からバスで1時間ほどのマールブルクで屋外撮影実習に臨む。古い街並みが残る美しい都市だ。前モデルよりダイナミックレンジが広がったことで、コントラストの高い場面でも再現性が良くなり、雨上がりの路面もみずみずしく写る。

LEICA SL2 VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(24mm) ISO 800 F5 1/8,000秒

カメラの背面モニターを使ったローアングル撮影。教会の屋根が見える路地の先に子供達が歩く。手前の落ち葉を自然なボケにして、冬の始まりのドイツを表す。ズミルックスSL F1.4/50mmは、シャープだが優しく美しい。

LEICA SL2 SUMMILUX-SL F1.4/50mm ASPH. ISO 320 F5 1/125秒

最新作アポ・ズミクロンSL F2/35mmは、遠景から近景、そして画面の隅々まで冴え渡るシャープさ。レンズ担当者からどれほど素晴らしいレンズなのかを詳しく聞き、撮影して理解を得た。正確無比な再現ではあるが、どことなく優しさもある。

LEICA SL2 APO-SUMMICRON-SL F2/35mm ASPH. ISO 125 F5.6 1/125秒

ライカカメラ社の工場前にあるラウンドアバウト。通過する車両の形もわからない、シャッタースピード1.3秒で手持ち撮影した。ライカ初の5軸手ブレ補正機構は強力な撮影の味方。動画機としても期待されるライカSL2には大切なことだ。

LEICA SL2 VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(31mm)ISO 100 F18 1.3秒

左はホテル、中央はエルンスト・ライツ・ミュージアムとライカストア、右はエルンスト・ライツ・ウェッツラーのシネレンズ工場。ここに4泊も滞在できたことは感慨深く、出発日に撮った1枚には、ライカの聖地がさらにフォトジェニックに浮かび上がっていた。

LEICA SL2 VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(30mm) ISO 2000 F3 1/125秒

斎藤巧一郎

1968年鹿児島県生まれ。日大芸術学部写真学科卒。企業広告等の広告写真撮影から写真講座講師などを務めている。特に各地の文化、食に興味を持ちカメラと共に旅に出ながら撮影している。