新製品レビュー

Canon RF28-70mm F2 L USM

唯一無二のフルサイズ用全域F2ズームレンズ

RF28-70mm F2 L USMはキヤノンが2018年に発表したEOS Rシステム(RFマウント)に対応する4本の初期レンズの中の1つだ。35mm判フルサイズ用の“標準ズームレンズで大口径”といえば開放F2.8というのが今までの常識であったが、本レンズはそれより1段明るいF2通しの超大口径標準ズームレンズである。

RFレンズは「大口径」「ショートバックフォーカス」という2つのメリットを打ち出し、これにより従来レンズにくらべて「小型化」「高画質化」「ハイスペック化」のいずれかを実現するとしている。本レンズは高画質を維持しながらこれまでにないF2通し標準ズームレンズというハイスペック化を実現している、RFレンズを象徴する1本と言えよう。

単焦点4本を常につけているイメージ

RF28-70mm F2 L USMは広角側こそ24mmではなく28mmスタートとなっているが、望遠側は一般的な標準ズームと同じ70mm。それでいてズーム全域で開放F2を使えるのだから、28mm、35mm、50mm、70mmの4本のF1.8単焦点を1つにまとめたレンズという感覚で使用できてしまう。画質も単焦点なみであり、今までのズームレンズとはちょっと次元の違うレンズと言える。

実用的な焦点距離がF2から使用できるため、ジャンルによってはこのレンズ1本でほとんどの撮影をこなせてしまうというカメラマンもいることだろう。

ちなみに、本レンズの「28-70mm F2」というスペックを実現できたのはRFマウントが従来のEFマウントと同じ大口径を維持しながらフランジバック(センサー面からマウント面までの距離)を短縮したことでレンズ設計の自由度が大幅に増したためである。キヤノンの技術者いわく、EFマウントで同じ「28-70mm F2」というスペックを実現しようとした場合、レンズが巨大になりすぎてとても現実的なサイズにはならなかったらしい。

ライバル

35mm判フルサイズ用のF2ズームレンズでは2015年発売のSIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Artが先駆者となるが、24-35mmという狭い焦点距離域に留まり、本レンズのように広角から中望遠までをカバーするズームレンズで開放F2というレンズは他に類を見ない。現時点では直接的なライバルは不在といっていい。

開放F値で比較するならF1.8の単焦点レンズが競合製品となってくるが、このクラスのレンズはコストや小型化も重視されるため開放時の画質ではRF28-70mm F2 L USMが勝ることが多いはずだ。

今後キヤノンからはRF24-70mm F2.8 L IS USMの投入も予定されているため、レンズの選択にあたっては開放F値が小さく1本でなんでもこなせてしまう本レンズか、または1段分の暗さ(といってもF2.8の大口径だが)+手ブレ補正の利便性を享受するか、はたまた単焦点レンズ数本の組み合わせとするか、どれが自分のスタイルに合っているかを考える必要がでてくるだろう。

仕様と特徴

細かな仕様の前に触れておきたいのはそのサイズだ。フィルター径は95mmであり、大口径ズームレンズで一般的な82mmと比べるとかなり大きい。フィルターは82mm径までのラインナップになっているものも多く、フィルターワークを楽しみたい場合は注意が必要だ。

重さはEF24-70mm F2.8L II USMの約805gに対し1,430gであり、全長も約27mm長い超重量級のレンズである。

EOS Rに取り付けるとボディよりもレンズの存在感が増していることがよく分かる。径が大きくずんぐりした形状のためカメラバッグへの収まりについても注意しておきたいところだ。

レンズ構成は13群19枚で、そのうち非球面レンズ4枚(研削非球面レンズ含む)、スーパーUD、UDレンズが3枚という贅沢な構成。反射防止用の特殊コーティングはASCとSWCの2種類が使われている。

ミラーレス機はセンサーとレンズ後玉の距離(バックフォーカス)が短く、従来ミラーボックスに逃がしていたフレアなどの有害光線を逃がすことができない場合がある。そのためミラーレス用レンズは一眼レフカメラ用レンズよりもフレアが出やすいというデメリットが生じることがあるが、本レンズでは反射防止コーティングを適切に使用することでフレアやゴーストの発生を大きく抑制している。

メーカーでは開放時の描写がプロカメラマンやハイアマチュア御用達のEF24-70mm F2.8L II USMの開放画質と同等か上回る設計と謳っている。

最短撮影距離は39cmとEF24-70mm F2.8L II USM(38cm)とほぼ同じであり、ある程度寄って撮影することも可能だ。絞りは9枚の円形絞りであり美しくなめらかなボケが期待できる。

外観はLレンズを象徴する赤いライン装飾が施されているほか、マウント側は金属光沢のあるリングが見え、他のRFレンズと同じ統一感のあるデザインだ。操作系はズームリング、フォーカスリングに加え、先端部にコントロールリングも備え、カメラ側で絞りや露出補正などのカスタム機能を割り当てることが可能だ。

コントロールリング表面はローレット加工が施され、ズーム、フォーカスリングはピッチの異なるライン状の加工だけでなく、異なる段に配置されているため指先の感覚だけでブラインド操作ができるように工夫されているのも実用性を重視した特徴と言える。もちろん操作感は良好だ。

スイッチ類はMF/AF切換用スイッチとズームロックスイッチの2つであり、防塵防滴機能も備える。ただし、手ブレ補正機構(IS)が付いていないことには注意しておきたい。花形の専用フードも付属する。

本レンズはズーミング時に鏡筒が伸びるタイプであり、巨大で重量級のレンズ前群を安全に保持するためにダンパーによる衝撃吸収機構も備えている。前玉部分を指で押し込むと鏡筒が数mm沈み込むことが分かる。これにより不意の落下や激しい使用でもダメージを最小限に抑える耐久性を実現しているというわけだ。画質だけでなく操作性や耐久性にも高いレベルが求められるLレンズならではの設計である。

焦点距離ごとの描写:28mm

それでは実際にEOS RとRF28-70mm F2 L USMで撮影した作例を紹介していきたい。

まずは28mm、35mm、50mm、70mmの各焦点距離で撮影したポートレートを中心に紹介していこう。

広角側の28mmはスマートフォンのカメラと同程度の画角で足を使いながら距離感を調整する事で背景の情報を多く取り入れたり、パースを活用するなど様々なシーンで使用できる。

開放F2で撮影してもまつ毛の1本まで完璧に描写できていることが分かる。背景ボケも広角側にありがちなザワつきを感じられず非常に滑らかで上品だ。ズームレンズの広角側でもこれだけボケが得られるのはとても使い勝手が良い。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 28mm / 絞り優先AE(1/800秒、F2、-0.7EV) / ISO 100

F2.8、F4の作例も載せたので違いを見ていただきたい。

F2.8
F4

少しローアングルで撮影し、広角ならではのパースを使った。階段や右の壁が奥の赤いのれんに収束していくことを意識しながら、足を少し手前に出してもらい脚の長さも強調して撮影。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 28mm / 絞り優先AE(1/1,250秒、F2、±0EV) / ISO 100

焦点距離ごとの描写:35mm

35mm付近はモデルとの対話をしながら撮れる程よい距離感だ。

35mmでこのくらい離れて撮影するとあまり大きなボケは期待できないが、F2はF2.8と比べて特に大きな画面で見てみると被写界深度の違いからくるフワリとした空気感を感じられる。実にズームっぽくない写りをするのだ。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 35mm / 絞り優先AE(1/640秒、F2、±0EV) / ISO 100
F2.8
F4

このくらいまで寄ると被写界深度もかなり浅くなってくる。右側のブロック塀を見ると前ボケから後ろボケまで滑らかに繋がっていく様子がよく分かる。背景の玉ボケやコントラストの高い部分のボケも違和感なく上質な写りだ。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 35mm / 絞り優先AE(1/640秒、F2、±0EV) / ISO 100

あじさいを大きく前ボケに取り入れてみた。質の低いレンズだと白いボケと暗めの背景の境界付近に違和感を感じることもあるが本レンズでは全くそのような違和感は感じない。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 35mm / 絞り優先AE(1/1,000秒、F2、±0EV) / ISO 100

焦点距離ごとの描写:50mm

50mmではさらに大きなボケを有効に使うことが可能になる。寄っても良し、引いても良しだ。

大きくボケた白い手すりを手前に入れ、視線がモデルへ誘導されるように撮影した。背景の枝葉のボケも色にじみがまったく見られずどこをとっても破綻しているポイントが見られない。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 50mm / 絞り優先AE(1/1,250秒、F2、-0.7EV) / ISO 100
F2.8
F4

光沢のある壁に顔を近づけてもらい、うっすらと映り込みを出しながら撮影。このようなシーンでは浅い被写界深度が被写体の印象をより強めることができる。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 50mm / 絞り優先AE(1/250秒、F2、-0.7EV) / ISO 100

焦点距離ごとの描写:70mm

70mmとなると得られるボケはとても大きくなり、圧縮効果とともに画面がギュッと詰まったイメージを得られる。ただ、あまりボケを大きくしすぎるとうるさく感じてしまうこともあるのでF値の選択は慎重に行いたい。

細い通りを圧縮効果を効かせながら大きな前ボケと共に緑のトンネルをイメージしながら撮影した。前ボケには存在感はあるもののうまく背景に溶けるように馴染んでくれた。F4くらいになると前ボケと背景の馴染み方が弱くなってしまう。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 70mm / 絞り優先AE(1/1,000秒、F2、-0.3EV) / ISO 100
F2.8
F4

望遠端でもピント面は極めてシャープだ。紫陽花を覗き込むモデルのまつ毛までしっかり描写してくれる。背景の淡い前ボケの形も良く、口径食の影響が小さいことも分かる。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 70mm / 絞り優先AE(1/250秒、F2、-0.7EV) / ISO 100

離れた場所から人物を風景の一部として切り取るといった場合には大きなボケは使いにくいが、このように前ボケを入れるとアクセントとして活用できる。奥の日陰に対して、日なたの前ボケを入れることで輝度のアクセントとしても使う事ができた。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 70mm / 絞り優先AE(1/800秒、F2、±0EV) / ISO 100

動体への対応と瞳AF

本レンズはかなり巨大でフォーカスレンズ群も重いと予想されるが、AF動作は非常にスムーズだ。超高速とまでは言えないが、ほとんどの状況で全く問題なく使用することができた。試しにモデルと一緒に走りながらEOS Rのサーボ瞳AFを使って撮影してみた。

結果ほとんどのカットできちんとピントが来ており、絶えず不規則に距離感が変わるような状況でもきっちりAFが追従してくれている事も分かった。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 28mm / 絞り優先AE(1/1,250秒、F2、±0EV) / ISO 100

最短撮影距離

本レンズの最短撮影距離は39cmで最大撮影倍率は0.18倍だ。ポートレートでは十分な距離であるが花や小物をとる場合はあと数cm寄れればと思うシーンはあるかも知れない。

70mmで紫陽花を最短撮影距離で撮影した。しべの部分まで非常にシャープに描写しているが、シーンによってはもう少し寄って撮影したいと思う場面はありそうだ。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 70mm / 絞り優先AE(1/320秒、F2、±0EV) / ISO 100

ボディ内補正

EFレンズでボディ内デジタルレンズオプティマイザ(DLO)を使う場合はあらかじめボディ側にレンズ情報を入れておかなければならなかったが、EOS RシステムではRFレンズ側に補正情報を格納しており、レンズをボディに装着することで直ちに補正情報がボディ側に伝わる仕組みになっている。

本レンズはF11くらいから回折によるボケの影響がよく見えてくるが、ボディ内DLOをオンにしておけば回折現象が良好に補正されたJPEGを簡単に得られる。JPEG撮って出しでも良好な画質の写真が得られるので便利だ(今回の作例はすべてボディ内DLOオンのJPEGだ)。

F16/DLOオン
Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 28mm / 絞り優先AE(1/320秒、F16、±0EV) / ISO 250
F16/DLOオフ
Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 28mm / 絞り優先AE(1/250秒、F16、±0EV) / ISO 200

逆光への耐性

ASCとSWCの2つの反射防止コーティングがなされている本レンズを厳しい逆光で試してみた。このように太陽を直接入れるような厳しいシーンでは多少のゴーストは出るものの、目障りになるほどではない。

Canon EOS R / RF28-70mm F2 L USM / 70mm / 絞り優先AE(1/500秒、F11、±0EV) / ISO 100

まとめ

以上、ポートレートを中心にRF28-70mm F2 L USMのインプレッションを紹介した。キヤノンLレンズらしくしっかりとした色が乗り、シャープでボケにも不自然さがなくなめらかという上質な写りを体感出来るレンズだった。ズーム全域で単焦点並みの写りと言って良く、EOS Rの約3,030万画素では本レンズの性能をすべて生かし切れないのではと感じたほどだ。

一方で弱点となるのがサイズと重量、そして手ブレ補正が搭載されていない点だ。冒頭にも紹介したがフィルター径95mm、重量1,430gというサイズ感は標準ズームレンズとしてはかなり大きく重いため、撮影者のスタイルによって感じ方は大きく変わってくるはずだ。

私の個人的な感想で言えばグリップが大きくしっかりしているEOS Rで使う分には重さはそれほど気にならなかった。重量はあるものの望遠レンズほど長くはないため重心もボディ側に近く1日使ってもそれほど疲労感は感じない。また、レンズ交換をほとんどしないで撮影できるというのも大きなポイントだと思う。

今回の撮影は日中で天気も良くシャッター速度を稼げる良い条件であったため手ブレの心配はほとんんどしなくて良かったが、夕方や夜、室内の撮影で本レンズの描写力をフルに発揮したい場合には手ブレにも十分注意して撮影しておきたい。

EF24-70mm F2.8L II USMなど手ブレ補正が搭載されていないEFレンズは多いため、本レンズにISが搭載されていないことが特段の弱点になるとはいえないが、ミラーレス機ではボディ内手ブレ補正が主流となってきている昨今、本レンズの良さを活かすためにも手ブレ補正が付いたボディの登場にも期待したいところだ。

RF28-70mm F2 L USMはズームレンズの利便性と上質な写りを得られる優れたレンズだが、それを享受するにはこれを使いこなす覚悟が必要となるレンズだ。この重量級のサイズと価格を受け入れる事ができれば最高の相棒になってくれるに違いない。

モデル:日南理紗

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。