新製品レビュー

Canon RF15-35mm F2.8 L IS USM

手ブレ補正搭載 フレア・ゴーストにも強い超広角ズーム

今回レビューをお伝えするのは、キヤノンのミラーレスカメラEOS Rシステム用の超広角ズームレンズ「RF15-35mm F2.8 L IS USM」だ。本レンズは、2019年2月14日に開発発表が報じられたRFマウントレンズのうちの1本。

今回は、先んじてお伝えしたRF70-200mm F2.8 L IS USMと一緒に携行して製品試用を進めていった。晩秋から初冬にかけて出掛けた先で出会った被写体で、このレンズと対話してみたいと思うのだが、描写性能や操作性について触れる前に、先ずは本レンズの登場にあたって僕が受けた衝撃からはじめたい。

RF70-200mm F2.8 L IS USMのレビュー記事はこちら

Canon RF70-200mm F2.8 L IS USM

IS付きとなったF2.8超広角ズーム

僕らも読者の皆さんと同じで、新しい機材に関する情報は、カメラ関係のWeb媒体や紙媒体がファーストコンタクトになる。そこで驚いたのが本レンズに冠された15-35mmのネーミングである。誤植?と思い、多方面の情報を検索してみたりした。が、間違いなく「RF15-35mm F2.8 L IS USM」で合っている。しかも「IS」(手ブレ補正機構)付き! 実は広角マニアである僕は密かに心が躍った。

レンズフードをとりつけてEOS Rに装着した状態

キヤノンはEFマウント用のF2.8超広角ズームレンズとして「EF16-35mm F2.8L III USM」をラインアップしている。焦点域と明るさ自体は大きく変わらないものの、RFマウントではISが搭載されている。もちろん、EFマウント版にもISつきのモデル「EF16-35mm F4L IS USM」があるものの、こちらは開放F値がF4のレンズとなっている。

このジャンルのレンズは、単に“広角ズームレンズ”とはいわず、“超広角ズームレンズ”と呼ばれている。このジャンルのレンズから生まれる遠近感は肉眼で見える世界とは全く異なり、写真ならではの世界を展開する事ができる。

そうした特異な画角がもたらす力ゆえに、最近は個性をなくした写真を目にすることが多い。が、通常の視覚を越えたところに表現がある事を体現しやすい焦点距離なのは間違いない。そしてISが搭載されているという事。この付加価値が撮影の幅や機動性を格段にアップしてくれることもまた、間違いないと期待を膨らませてくれた。

外観・機能・特徴

広角マニアの僕は、「EF11-24mm F4L USM」を使っていたので驚きはしなかったけれど、多くの場合、本レンズを箱から出したときに「デカいな~」と思うかもしれない。キヤノンはEOS Rシステムにおけるカメラのミラーレス化を“高画質への挑戦”である、と明言している。キヤノンは、この高画質化へのキーワードとしてショートフランジバックの効果を取りあげているけれども、画質を担保しつつレンズの小型化が可能なところ、逆にこの焦点距離でこの大きさにしてきたという事は、妥協なき開発の証。“高画質”への期待感が膨らむ大きさだと感じた。

レンズ自体は大ぶりだけれども、筆者を含めた男性陣にはこれくらいの太さが、かえって心地よいのではないだろうか。ズーミングはレンズ長が変化するタイプ。35mm側でレンズは最も短くなる。逆に15mm側はわずかに伸長する。

15mm時
35mm時

レンズの太さはちょうどいいと感じるものの、どうしてもコントロールリングがなじめない。望遠系ならば鏡胴が長いのでリングまわりのレイアウトに余裕があり操作性は良いのだが、このスペースに3つのリングは馴染めない。特に手袋をしての操作は鍛錬が必要となりそうだ。

レンズ先端側の菱目加工された部分がコントロールリング

本レンズのフィルター径は82mmとなっている。超広角ながらレンズ前面にネジ切りが設けられており、フィルターの取り付けが可能となっている点もポイントだ。

作例

広角レンズで気になるのは周辺画質である。四隅がどんな感じで写るのかを、街の明かりをフレームの端に構図し点光源を狙うという条件で確認してみた。写真は長野県飯田市の早朝風景だ。まだ薄暗い時間帯だが、車の軌跡が写るようにF13まで絞り込んでシャッター速度を遅くしている。点光源は流れることなく、建物の形も細部まで写し出されており、見事な描写だと感じる。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 35mm / シャッター優先AE(F13・30秒・-0.3EV) / ISO 200

最近は広角レンズを使った前ボケ写真が流行っていると聞いたのでチャレンジしてみた。撮影方法は他の前ボケ写真と同じで、前ボケになる前景被写体をレンズの目の前に配置して主題になる被写体を狙うだけ。EOS Rは画面全体にAFポイントがあるので撮影が行いやすい。

あらかじめ、AFポイントを左下1/3を意識した場所に配置して前景被写体の隙間に合わせた。前景をレンズに当たる位まで近づけるのがコツ。そもそもボケが鈍い広角レンズなのだが、開放F値F2.8で撮影すると、被写体の形をいかした前ボケを演出する事ができた。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 21mm / 絞り優先AE(F2.8・1/800秒・+1.3EV) / ISO 1600

F2.8と聞けば、ボケ味が気になるところだ。自然風景を撮影していると、特に玉ボケの写り具合のチェックが重要となる。この事を評価のポイントにして西日が差し込むサザンカを撮影してみた。サザンカの葉は陽が当たると強く光るので、花にピントを合わせると点光源が出やすく玉ボケを発生させやすい。意外とお手軽な被写体だ。

今回はレンズ側にISがついているので手持ち撮影も楽ちんで、気軽に撮影できた。葉の角度によってはボケの形状がレモン型になってしまう製品もあるが、本レンズでは殆どの玉ボケが丸い形状で写っており、フリンジなどの色収差やボケの二重線も目立たず良好な描写であった。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 35mm / 絞り優先AE(F2.8・1/125秒・+1.0EV) / ISO 1600

写真はシルエットで被写体を捉えていくと何でも絵になるという法則がある。何でもと言ってしまうと、少々語弊があるが、特徴的な形の被写体をシルエットで撮影するアイデアは、絶対にハズレがない表現方法だ。

そうした撮影をする上で気になるのは、描写よりもAFの動作である。カメラ本体の性能にも大きく左右されるので、一概にレンズ性能の話に含める事はできないけれども、シルエット写真は強烈な逆光の中での撮影になり、AFが苦手な撮影シーンだといえる。

慣れていないときは多点測距をお勧めするが、意図した場所にピントが合わない事が予想されるので、僕は1点AFで撮影している。コツはシルエットの縁にAFポイントをもっていくことである。この作例でいうと、屋根と空の境目にAFポイントを合わせた。狙い通り、AFは迷うことなく正確に意図したピント位置で合焦。思い通りの撮影結果となり、大満足である。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 22mm / 絞り優先AE(F8・1/8,000秒・-1.7EV) / ISO 250

RF70-200mm F2.8 L IS USMのレビューと並行して取材を行っていたので、今回もダイヤモンド富士を掲載したいと思う。

この日は山頂に雲が掛かってしまい望遠で山頂のアップ写真では「これぞダイヤモンド富士」というカットの撮影はできなかったが、広い画角のレンズを使って撮影すると意外とダイヤモンド富士の特徴を捉えたカットになった。興味のある方はRF70-200mm F2.8 L IS USMのレビュー記事もあわせて読んでみて欲しい。

通常、太陽を撮影する時は絞り込まないのが定説である。何故なら強い光源を絞り込んで撮影するとフレアやゴーストが目立てしまうからだ。しかしダイヤモンド富士の場合は、山頂から昇る“太陽の光の筋”を引き出すために絞り込んで撮影する。これはフレア&ゴーストが目立つことを前提で撮影するという事だ。しかし、結果を見て驚いた。フレア&ゴーストが殆ど見えないのである。これはコーティングを含めたレンズ設計の賜物だといえるだろう。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 35mm / 絞り優先AE(F22・1/800秒・-2.0EV) / ISO 200

“日の出60分前には撮影ポイントに立つこと”。これは早朝撮影の鉄則である。百歩譲って30分前なのだが、ところで何故60分前なのかご存じだろうか。その答えは黎明の空の中に星の瞬きを見ることができるからだ。

早起きして良かった、と思う瞬間でもある。ただし、この時期は寒い。超絶寒いので僕は早めに現場に行き着替えるようにしている。その為の60分前とも言える。この日は着替えたTシャツをザックの上に置いたら、あっという間にゴワゴワに凍ってしまった。今年は雪が降らない暖冬だと言われているが、標高が高いと冷え込みは厳しいようだ。

レンズの評価でしばしば耳にする言葉として“ヌケが良い”という表現がある。風景写真を例にとると、遠景の山並みの輪郭がハッキリ見える事が、この表現の内容としてマッチするといえようか。早朝の澄んだ空気の中での撮影なので、山の稜線がハッキリ写るのは当たり前であるが、それよりもシルエット内に雪が浮かび上がっている事に臨場感を感じた。黎明のグラデーションの中にあるシルエットだから、富士山がアンダーになるのはあたりまえなのだが、このダイナミックレンジの広さを最大限に引き出すレンズ側の高い性能は、表現の幅を拡げることに、そのままつながると思う。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 18mm / 絞り優先AE(F4・10秒・-1.0EV) / ISO 1600

キヤノン製レンズで用いられている「IS」とは、イメージスタビライザー(光学式の手ブレ補正機構)の略称として知られている。光学式の手ブレ補正機構はメーカーごとに微妙に違う言い方になる。

さて、本レンズに実装されたISの効力は、キヤノンによれば5段分の補正効果があるという。シャッター速度1/60秒から手ブレが発生すると仮定すれば、1/4秒相当まで手持ちでもぶらさずに撮影できるという計算になる。手ブレ補正は、ブレを防ぐ事に恩恵があるのだが、プロカメラマンは広角レンズならば1/2秒くらいのシャッター速度でも手持ちで撮影できるのが当たり前であって、その恩恵は一見希薄のように思える。とは言うものの、低速なシャッター速度で撮影するときはガッチリと身構えなければならず、とっさのチャンスには疎くなる。しかし、ISがつくことで余裕が生まれ、より積極的にシャッターチャンスを狙うことができるようになる。こうした意識の変化は、間違いなくISが撮影シーンの幅を広げているといえる。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 18mm / 絞り優先AE(F8・1/500秒・±0EV) / ISO 400

本レンズの最短撮影距離は28cmとなっており、性能面ではEF16-35mm F2.8L III USMと同等の性能だといえる。

僕が考える広角レンズの使いこなし術のひとつに「広角で狭く撮る」がある。簡単に言うと、被写体に近づいて撮るということだ。ある写真家が、“写真は空気の層が薄くなれば薄くなるほど被写体の力が伝わるようになる”と言っていたが、だからといって“被写体にぶつかるほど近づいて撮れ!”ということでは決してない。くれぐれも、そんな事を言ってもレンズには最短撮影距離というものがあって、それを無視して撮影してもピントが合わないじゃないか! なんて突っ込みはしないように(笑)。

でも、被写体に近づくことは大賛成である。広角レンズは近づくことで遠近感が強調され、臨場感が生まれる。その臨場感が「力」という事なのだと思う。もし本レンズで思うように撮影ができないと感じた読者がいるとしたら、ぜひ最短撮影距離28cmを意識的にいかして撮影してみて欲しい。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 17mm / 絞り優先AE(F5.6・1/320秒・-0.3EV) / ISO 400

僕の故郷は長野県南部にある遠山郷である。ここで伝承されている「霜月祭」は里人にとって重要な神事である。狭い境内の中での撮影は超広角でなければ捉えきれない。そして夜のお祭りなので現場は暗く、開放F値が明るいレンズが絶対条件なのである。つまり本レンズにとっては相性が抜群、絶好のレンズだという訳だ。

従来モデルのEF16-35mm F2.8L III USMよりも1mm画角が広くなった事で、よりワイドレンジをいかした撮影ができる点も嬉しい。“1mmだけでしょ”と言う声も聞こえてくるが、画角で言うと約2度広く写る。広角レンズの2度は非常に広い。益々、撮影が楽しくなるレンズの登場だ。

EOS R / RF15-35mm F2.8 L IS USM / 22mm / シャッター優先AE(F2.8・1/100秒・±0EV) / ISO 6400

まとめ

冒頭でもお伝えしているが、僕は広角大好き写真家のひとりである。その魅力はひと言では言い表すことが難しいが、遠近感の強調による臨場感を引き出しやすいことにあると思っている。

ところが、画角の広いレンズを使うと何でもかんでもフレーミング時に入ってきてしまうので、散漫な写真になってしまいがち。それでは折角の高性能レンズが勿体ない。今回は作例の解説中で撮り方のコツにも触れているので、超広角レンズの使いこなし術としても参考にして欲しい。

また、今回はRF70-200mm F2.8 L IS USMも一緒に携行した。特に2本ともフレア&ゴーストが減少しており、写真創作の幅が充分に広がった事を実感させられた。フランジバックのショート化がもたらす恩恵がここまで凄いとは思わなかった。軽量化ではなく高画質への挑戦と言い切った姿勢が、まさに反映されているレンズたちであった。一消費者としては販売価格に不満が残るのだが、この性能であれば致し方ないのかもしれない。

同時に携行したRF70-200mm F2.8 L IS USMとともに

RF70-200mm F2.8 L IS USMのレビューでもお伝えしていたが、本レンズの実力もまた、本物である。2018年にはじまったキヤノンにおける35mm判フルサイズ機のミラーレス化は出遅れ感があったが、その分、高画質にこだわったレンズ開発が高い水準で確実に進んでいる事を実感できる仕上がりになっている。カメラや写真に関する歴史の一角を築き上げてきたキヤノンの、これからの展開が益々楽しみ思えるレンズであった。

秦達夫

1970年長野県飯田市(旧南信濃村)生まれ。自動車販売会社・バイクショップに勤務。後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め写真に自分の可能性を感じ写真家を志す。写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。