新製品レビュー
TAMRON 20mm F/2.8 Di III OSD M1:2
撮影の幅をひろげる近接能力が魅力
2020年2月3日 07:00
タムロンは、2019年末からソニーEマウント用の“寄れる広角単焦点レンズ”シリーズ3本(35mm/24mm/20mm)を順次発売してきた。今回レビューでとりあげる20mmは、先行する35mm、24mmに次ぐかたちでラスト1本として2020年1月30日に発売されたばかりの超広角レンズだ。
このシリーズは、いずれのレンズも共通して開放F値をF2.8に、最大径×全長も73×64mmで統一。重量も210〜220gと非常にコンパクトな造りとした製品群である。フィルター径も67mmに統一することによりPLフィルターやレンズキャップを共通化できる事も、本シリーズの特徴となっている。
本レンズはそのうちの1本。35mmと24mmが先行して発売されていたが、最も画角の広い20mmのモデルとして登場した超広角単焦点レンズだ。
外観と機能
24mmをレビューした際にもお伝えしていたことだが、本レンズも補正をカメラボディ側に委ねるという設計思想がある。そうした潔さもあって、外観デザインはいたってシンプルかつコンパクト(長さ64mm、重量は220g)にまとめられており、切替スイッチなども一切備えていない。
きわめてシンプルかつ潔いデザインのレンズだが、カメラ側の機能であるファストハイブリッドAFや瞳AF、ダイレクトマニュアルフォーカス(DMF)、カメラ内レンズ補正(周辺光量、倍率色収差、歪曲収差)にはしっかり対応している。
被写体までの最短撮影距離は11cmと、同時に発表された他の2本と同じく最大撮影倍率1:2まで寄れる設計なので、広角マクロ的な撮影も可能である。絞りは7枚羽根の円形絞りを採用。また簡易防滴構造と防汚コーティングを備えている。
また、フィルター径が67mmとなっているため、同社の標準ズームレンズ28-75mm F/2.8 Di III RXD(Model A036)や超広角ズーム17-28mm F/2.8 Di III RXD(Model A046)との組み合わせにも最適。タムロンはこうした共通化が撮影の幅を広げることにつながるとしており、意識的に統一化を図っていることを明言している。撮影者の便を考えた、非常にユーザーフレンドリーな工夫だといえるだろう。
作例
艶やかな朱色に塗られた門の角に輝く、金色の鬼飾りが眩しい午後の光線。境内の大木の影が落ちる時間帯には、建造物である門さえも人面のように見えるユーモラスさがあって好きだ。
竣工直後の高層ビルを高速道路の下から見上げてみる。真冬の青空は冷たく深いブルーだが、都会の新しいビルには良く似合う。超広角であるにもかかわらず、カメラ側のレンズ補正をオンにすれば歪みを殆ど感じさせない描写になる。
最短撮影距離が11cmという驚異的な接写設計によって、生まれたての小さな若葉であってもクローズアップ撮影が可能だ。
今回の作例のようにドーム型天井など高い場所を撮影する場合、首が疲れるのでα7R IVなどの場合は背面モニターを使って楽な姿勢からのアングルで撮影することが多い。軽くてコンパクトなレンズだとバランスの安定性が向上するので助かる。
数mにおよび延びて張っている根っこが地上にまで隆起している様子が静脈のようだ。手前の落ち葉にフォーカス合わせて、地面の土や苔の質感を表現するようにF11まで絞って撮影。
使い込まれたボールにピントを合わせて野球少年たちの後ろ姿を撮影していたら、コーチの男性に後方から「良いカメラですね」と声を掛けられた。しゃがみ込んでボール前数cmまで寄って撮影しているボクが余程怪しく見えたのだろう(笑)。
新しくなった渋谷駅の銀座線出口で、道行く人たちをスローシャッターでブラしながら撮影。このコンパクトなワイドレンズは、手ブレ補正を搭載するカメラとのセットなら夜間でも手持ちでもいけるので重宝する。
昭和40年くらいまで使われていた真鍮製の鍵。ボクの育った古い家もこのタイプだった。真鍮の錆びた部分に合焦させて日本庭園を背景にボカす。自然な描写の玉ボケだ。
緑色と朱色と白の、神社の通り道にある柵。手前の朱色の柵にフォーカスし背景が徐々にボケていくようにした。色のコントラストも美しい。
夜のビル群を背景に歩く人物たちをブラしたかったので、信号が変わる瞬間を何度も狙った中の1枚。実はアイレベルではなく手を伸ばして背面モニターでフレーミングしながらハイアングルで撮影した。
20世紀の住宅地には20世紀のクルマが良く似合う。
ご存じ、有名な日本映画シリーズの街並みを再現したミニチュアセット。軒先の頑固オヤジにフォーカスすると商店街がリアルに見えてくるのも、超近接撮影が可能なワイドレンズだからこその表現だ。
昔懐かしい駅の改札も。
美しいだけではなく広がりを感じさせる背景の玉ボケ。冬の椿の赤い色は、なぜか悲しい。
1992年の竣工から何度も撮影している西新宿の東京都庁舎。ここの撮影には最低でも20mmが必要だが、これが超広角レンズ用被写体の始まりだったのかもしれない。丹下先生ありがとうございます(笑)。
逆光でも色再現に問題は感じられない。
ひび割れたコンクリート壁の質感描写。陰影部分のトーンもリアルに再現。
たまに引いてみるが、良い結果が出たことのない御神籤。写真だけでもと、フォーカスはいちおう誕生日に合わせてみたが(笑)……。
曇天下のローコントラストでの撮影でも、微妙なトーンが忠実に再現されている。
暖かな冬の休日。郊外の土手を散策する人々を午後の太陽と一緒にカメラに収めた。僅かなフレア・ゴーストは見られるものの、暗部の解像性能や完全直射日光での耐逆光性がこれだけ確認できれば言うことナシだ。
まとめ
前回レポートした同シリーズの24mm同様、サイズ感や大まかなスペックはほぼ同じなので、ボディに装着した瞬間から以前からずっと使っていたかのように違和感なく、手にもスッと馴染むフィット感があったので、すぐに撮影に臨むことができた。3本の単焦点広角レンズシリーズの中では最も短い焦点距離である20mmとあって、ファインダーを覗いた時の画面の広がりを見て、はじめて“あっ超広角レンズだったんだ”、と気づかされたのも、きっとこのレンズの外観や重量から感じるコンパクトさ故なのだろう。
焦点距離何mmから先の短い数値を“超広角”と呼ぶのかは決められた定義があるわけではないのだが、ボクのイメージとしては20年くらい前までは24mmくらいでも超広角と呼んでいたように思うが、その後12mmとか10mmが出現してきた昨今では、この20mmあたりからかなぁ、という気がしている。
話を本題へ戻すと、超広角単焦点レンズといえばこれまでも各メーカーからも発売されてきているのだが、35mm判フルサイズ用のレンズはほとんどが「大きくて、重たい」という印象が強い。そこへ現れたタムロンのこのシリーズは、軽量コンパクトかつ準マクロ的に寄れるという、プラスアルファの要素を兼ね揃えている。筐体を共通化することによってコストも抑えられているのはユーザーとしても嬉しい。見た目のコンパクトさや価格を超えた高画質なレンズでもある。
このようなタイプのレンズが今までなかったのが不思議だが、コンパクト設計も大きなアドバンテージのひとつである35mm判フルサイズミラーレスカメラにとって、まさにエポックメイキングな相棒となるレンズシリーズではないだろうか。