新製品レビュー

Canon RF70-200mm F2.8 L IS USM

RFマウントへの本気度が伝わる新世代レンズ

このレンズの登場で安心したキヤノンユーザーはきっと多いだろうと思う。何故ならキヤノンには本気でミラーレスカメラのジャンルに踏み込んでくるのか、今一不透明な面があったからだ。ボディーの開発姿勢にも見られるが、マウントアダプターでお茶を濁しているように見えてしまっていた部分も少なからずあった。

しかし、各メーカーが持てる技術力の全てを注ぎ込む焦点域「70-200mm F2.8」のレンズに、Lレンズとして新製品が投入された事で、キヤノンの本気度が理解できたように思う。それだけ重要な位置づけのレンズであり、みんなが望んでいたレンズなのだ。そんなレンズを持って晩秋から初冬に移り変わるフィールドへ撮影に出掛けてきた。

外観・機能・特長

本レンズを手にした際におそらく多くの方が感じる事だと思うが、沈胴機構の採用により、そのサイズはEF70-200mm F2.8L IS III USMに比べてかなり小さく、また軽くなっている。キヤノンの製品Webページを見てみると、その内訳としてEF70-200mm F2.8L IS III USM比でレンズの全長で27%、重量では28%もスリムになったと報じている。これは驚異的なダイエットといえるだろう。

EOS Rとならべたところ

しかし、このジャンルのレンズにとってサイズは必ずしも“小さければ良い”というものではない。それは構えた時のバランスが重要だからだ。本レンズの製品Webページなどでは、そうした小型化に伴うバランスのとり方として、全長が変わるズーム方式を採用しているとの説明がある。が、ぶっちゃけ話、これだけ軽くなっていれば全長が伸びようが伸びまいが実際の使用には関係なく、使いやすくなっているというのが僕の感想だ。

70mm時
200mm時

それよりも気になっていたのがズームリングとピントリングのレイアウトだ。本レンズの配置は小型化しながらも、EF70-200mm F2.8L IS III USMと同じレイアウトになっている。ここは流石プロ仕様である。

三脚座も骨太で安心感がある。なんと言っても最短撮影距離が70cmまで縮小されているのは驚きである。F2.8のボケ味と撮影距離から作り出されるボケのダブル効果で今まで以上にボケ撮影を楽しめた。

また、風景撮影においてPLフィルターは使用頻度が高く、レンズフードとの相性が問題となることが多いが、本レンズではフードに開閉式のスライド窓が設けられており、実用上の問題はない。

中央部の描写

今年は雪が少ない。地域によってはスキー場がオープンできないところもあるようだ。そんな時は思い切って北の果てまで飛んで行けば良いのだが、まとまった時間を作ることが出来ず我が故郷の長野県に出掛ける事にした。車を走らせていると標高の高い場所にあるゴルフ場に霧氷を発見。早速ハンドルをゴルフ場に向けた。

霧氷は枝に付いた霜の塊だ。細かい白い素材の中にギザギザがあるのでハイライトの中の解像感を確認するのにもってこいの素材である。強い日差しが画面に差しこむ意地悪な条件のもとで撮影してみたが、ご覧の通り白の中のディティールが、しっかりとトーンが乗った白として描き出されている。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 187mm / 絞り優先AE(F11・1/200秒・+0.3EV) / ISO 400

周辺部の描写

レンズが手元に届いたのは師走のバタバタなタイミング。今年は季節の進みが遅く僕の得意なフィールドに雪は降らないし紅葉は終わっている端境期だ。しかし、この新しいレンズを使ってみたい! このレンズだったら良いことあるかも? と言う期待感が僕を駆り立てた。

アルプスは綿帽子を被り快晴で良く見えた。アルプスと釣り合う近景はないかと探し回って見つけたのが残り柿。柿の木は枝先が細くテカテカして画質のチェックには持ってこいの素材である。柿の実のオレンジも色が飽和する事の多い嫌な素材である。それを画面の隅になるようにフレーミング。見事な枝の描写と柿の実の中のトーンが写し出された。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 200mm / 絞り優先AE(F8・1/160秒・±0EV) / ISO 200

絞り開放時の描写

ファインダーを覗きピントリングを回したときに「ハッ!」とした。僕は前ボケを入れて撮影するときにマニュアルフォーカスでピントを合わせる。こういった状況では、たぶん多くの人がMFで撮影すると思うのだが、ピントの山を探る作業は至難の業である。

しかしEOS Rとの組み合わせで試用したところ、簡単にピントの芯を見ることが出来たのだ。拡大表示をするわけでもなく素直に、それが見える。これは新鮮な驚きだった。ボケは言うまでもないが、絞り開放のF2.8で焦点距離は200mm、そして今回のレンズの核心とも言える1mを切る最短撮影距離(スペックシートでは0.7m)から作り出されるボケは絶品だ。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 200mm / 絞り優先AE(F2.8・1/400秒・-0.7EV) / ISO 200

逆光時の描写

キヤノンのEFレンズとはフィルム時代からのお付き合いで、朝日夕陽の撮影ではよく泣かされてきた。何故かと言うと二重フレア(僕がそう呼んでいるだけである)が出るからだ。太陽が二重になったり稜線が二重になったりする現象だ。

RFマウント版で、はたして改善はなされているだろうか。それを確かめに正月からダイヤモンド富士が見られる竜ヶ岳へ登ってみた。コースタイム2時間ほどの低山である。

日の出狙いではあるが、あわよくば星空も撮影したいので朝4時前に駐車場を出発した。山頂は登山者もまばらで、やたらテンションが高く騒いでいるカップル以外は目立つ人も居らず平和な感じがしてホッとしたが、ダイヤモンド富士になる7時40分頃にはどこからこんなに人が湧き出てきたのかというくらいの賑わいになっていた。この日は山頂に雲が掛かってしまってダイヤモンド富士にはならなかったが、雲間に見える太陽に二重フレアが出る事もなく、理想的な撮影結果を作り出すことができた。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 200mm / 絞り優先AE(F32・1/640秒・-0.3EV) / ISO 200

別の日に再チャレンジしたが雲が掛かってしまって思うようにならなかった。しかし、二重フレアは発生せず大満足の撮影行が出来た。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 200mm / 絞り優先AE(F32・1/1,000秒・-1.0EV) / ISO 200

ヌケの良さとは?

レンズの評価でしばしば目にする言葉として「ヌケが良い」という表現があるが、そもそもヌケが良いとはどのような現象を示しているのだろうか? 一般的には霞などでモヤりそうなシーンでハッキリ写るとか、コントラストが高いレンズを示す言葉として使われている。そんな豆知識を枕詞にして、気温があがり遠景の山々が霞んでくる時間帯に撮影を試みてみた。

今シーズンの冬は本当に暖かく雪が降らない。キリッと締まった空気がなく、山々は霞の中である。少し運動をしたらシャツすら脱ぎたくなるような小春日和に撮影をした。結果は良好で山々はハッキリ写り、まさに“ヌケが良い”シーンを撮影することができた。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 128mm / 絞り優先AE(F11・1/320秒・-0.7EV) / ISO 200

ボケ味

絞り開放時の描写について触れた際にもお伝えしていることだが、本レンズのボケは今までの同じ焦点距離のレンズとは一味違うといえる。それは最短撮影距離が劇的に短くなったことから、使える被写界深度の領域が異次元になったからだ。しかも、ヌケの良さが抜群で葉の輪郭がキリッと写し出される。淡い単色のボケの中に輪郭が浮かび上がる描写はボケを活かす作風の写真家には絶対必要なレンズの登場と言って良い仕上がり具合だ。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 200mm / 絞り優先AE(F2.8・1/40秒・+1.0EV) / ISO 400

回折

デジタル時代になって殊に取りだたされるようになったのことのひとつに回折現象がある。僕の作風では絞り込み、被写界深度を深くして作品づくりをしているいので、気になるポイントのひとつだった。

ところで、なぜ絞り込むのか、と疑問に思われる方もいることだろう。その答えは被写界深度が増すことで肉眼で見たときのようにボケのない空間演出ができるからだ。そしてもう1点メリットがある。質感描写が得られることだ。しかし、絞り込むことで生まれるデメリットもある。回折現象が発生しピントが甘くなるというものだ。この問題はデジタルカメラや最新のレンズ製品だから起こる現象ではなく、フィルムの頃から存在していた。デジタルデータではこれが顕著にあらわれるし、簡単に等倍表示、さらに拡大しての表示ができるため、より認識されやすくなり騒がれるようになった。

キヤノンはこの問題に対して、ソフト側の力をもちいることで修正に成功している。EOS 5D Mark IVからはカメラ内に回折補正のメニューを追加することで、もっと簡単に補正機能を扱うことができるようになった。もちろん今回の撮影でもデジタルレンズオプティマイザーをONにし、回折補正を入れて撮影しているので、絞り込んだとしても解像が甘くなることのないカットが得られた。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 135mm / 絞り優先AE(F32・1/80秒・±0EV) / ISO 200

グラデーションの伸び

ダイヤモンド富士の撮影に竜ヶ岳に登った話を、逆光の作例をとりあげた際にお伝えしていたが、僕は日の出を撮影するときは日の出時刻の1時間前には撮影ポイントでスタンバイするようにしている。星を狙う目的もあるが、黎明のグラデーションがたまらなく好きだからだ。

この季節は凍えるほどの冷気に耐える必要があるのだが東の空が段々白んでくる様子は何とも言いがたい美しさがある。今回は2時間ほどの山登りをするので汗をかく。汗冷えは耐えがたいものがあるので撮影ポイントに付いたらアンダーシャツを着替えた。脱いだシャツが瞬間的にゴワゴワに凍り始めるくらい冷え込みが厳しかった。冷えれば冷えるほど黎明のトーンは美しさが増すので良い兆候だった。

カメラの性能にも左右されるがコントラストの高いレンズはグラデーションの伸びが心配になる。だが、撮影結果を見てみると、本レンズにはそうした心配は杞憂であった。次に挙げるように、美しいグラデーションを撮影することができて満足できた。しかし、この後山頂に雲が掛かりダイヤモンド富士の撮影は不発に終わってしまうのだが(笑)。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 70mm / 絞り優先AE(F32・0.8秒・-0.3EV) / ISO 200

自由作例

12月初旬、高気圧に覆われた日本列島は雪の気配すらない。ここ車山も例外ではなく晩秋の姿を引きずったままの景色が広がっていた。それでも里の暖かい空気に慣れている僕の身体には寒いと感じる気温であるのだが。

小笠原沖を小さな低気圧が通過して行くようだが、その影響は殆どないだろう。大掃除をするには今日はいい天気だ。そんな事を考えながら撮影した1枚。大掃除といいながら、掃除をする家を留守にしている罪悪感が撮影をしたいけど雪がない状況と相まって複雑な気持ちになる。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 89mm / 絞り優先AE(F11・1/60秒・-1.3EV) / ISO 200

冬至を迎えようとする年の瀬は日が暮れるのが早い。これは撮影時間が短くなることを意味しておりモタモタしていられない。夏ならば18時ころの光線状態なのだが15時で林に斜めの陽が差し込んでいた。焦る自分を少し楽しみながら被写体を探す。このレンズなら何か良い事があるかも? と期待も膨らむ。困ったときの影頼み、そんな言葉があるかどうかは知らないが樹間を抜けてくる光線が芝に薄く積もった雪面に影を描き綺麗だった。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 135mm / 絞り優先AE(F11・1/400秒・+0.3EV) / ISO 400

故郷に伝承される霜月祭は夜の神事である。その撮影を終えて東京へ車を走らせるのだが、空を見ると焼けてきそうな気配が垣間見えた。眠い目を擦りながら展望のいいお気に入りの場所にハンドルを切る。

南信地方は天竜川が創り出した河岸段丘が特長だ。地形の影響なのか、よく霧が出る。あわよくば霧が谷底に溜まり雲海になればラッキーと言う打算も働き心が弾む。結果は普通の早朝の風景であったが紫色に染まる景色はいつ見ても美しい。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 142mm / 絞り優先AE(F11・30秒・-0.3EV) / ISO 400

雪がない時の神頼み。志賀高原にやって来た。辛うじて近隣のスキー場はオープンしていたが満足のいく雪景色ではなかった。早朝に小笠原沖に居た低気圧が少し力を付けて本州に近づいて来たようだ。

天気は下り坂、しかし雪を降らせるだけのパワーはないようだ。フラットな光の曇天で霧や霧氷などの気象変化から生まれる被写体にも出会えそうもない天気図だ。空には満月を次の日に迎えるお月様が登り始めていた。それを木立と一緒に撮影させてもらった。EOS Rのファインダーもあいまって撮影は快適であった。

Canon EOS R / RF70-200mm F2.8 L IS USM / 200mm / 絞り優先AE(F4・1/6秒・-0.7EV) / ISO 400

まとめ

アシスタント時代からキヤノンのEOSシステムに慣れ親しんで来た僕だが、EOS RシステムやRFレンズの登場には実のところそこまで魅力を感じていなかった。しかし、今回レビューをお伝えしているRF70-200mm F2.8 L IS USMは、使ってみたいと熱望したレンズだった。なぜなら“70-200mm F2.8のレンズ”はメーカーの看板となる製品であり、どのメーカーも持てる技術や思想の全てを注ぎ込んで開発している焦点域だからだ。このレンズがもし中途半端なものであれば、キヤノンに未来はないと判断できる。そんな位置づけのレンズなのだ。だからこそ使ってみたい。それだけの期待と厳しい目で試用を進めていった。

そして、使ってみて安心した。キヤノンは本気である。画質の良さは勿論だが、今までのシステムの使い勝手をいかしながらブラッシュアップしている姿を、本レンズに見ることができた。それはリングのレイアウトだったり、スイッチの位置であったり、レンズの口径だったり、と様々だ。いずれもEFマウントレンズと遜色ない使い勝手であることなどからもキヤノンが本レンズにかける力の入れ方がわかるようだった。カメラバッグに1本忍ばせたいレンズであった。

秦達夫

1970年長野県飯田市(旧南信濃村)生まれ。自動車販売会社・バイクショップに勤務。後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め写真に自分の可能性を感じ写真家を志す。写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。