新製品レビュー
Canon RF85mmF1.2 L USM
絞りの変化で様々な表情を引き出せるポートレートに最適な1本
2019年10月2日 12:00
RF85mmF1.2 L USMは、6月に発売されたRFマウント用の交換レンズ。35mm判フルサイズミラーレス「EOS R」シリーズの登場時から数えて、同マウント対応レンズとしては5本目となる(※現在は8本が発売済み)。RFマウントでF1.2の明るさをもつレンズとしては、50mmに次いで2本目。中望遠の焦点距離でみると、EOS Rシステム初の大口径単焦点という位置付づけとなるレンズだ。
RFマウント初の中望遠単焦点
キヤノンの大口径中望遠単焦点レンズとしては現行EFのマウントにはEF85mmF1.2 L Ⅱ USMとEF85mmF1.4 L IS USMの2種類が存在している。
昨年登場した35mmフルサイズミラーレスの新しいEOS Rシステム(RFマウント)においては大口径標準ズームレンズとしてRF28-70mmF2 L USM、単焦点大口径標準レンズとしてのRF50mmF1.2 L USMがある。この中で開放F値F1.2の大口径の2本目として登場した本レンズは、85mmという焦点距離であることから、RFマウントにおける初のポートレート向きの中望遠レンズだとも言える。
EOS Rや EOS RPなど、RFマウントカメラのユーザーの中には前述の2種類のEF85mmレンズをマウントアダプターを介してEOS Rや EOS RPに装着して撮影してきたユーザーも多いと思うが、このほど発売された本レンズによってRFマウントの利点がいかせるようになった、というわけだ。
デザインと操作性
F1.2という開放F値を誇る大口径レンズなだけあって、85mmという中望遠域の単焦点ながらフィルター径は82mmで、質量では1,195gともなる、がっしりした造りのヘビー級レンズである。
今回使用したEOS R(ボディ単体・バッテリー込みで660g)との組合せでは、やや前倒し気味のバランスになる。バッテリーグリップなどを使用すればホールディング性能や縦位置撮影時の操作もさらに良くなることだろう。レンズ前面にはフッ素コーティングが施されているのでメンテナンス性にも優れていて、防塵・防滴にも対応した設計となっている。
AF性能であるが、AFスピードは極めて速くて正確だ。明るい開放F値の大きなレンズ筐体だと、たいていの場合は明るさや描写性能と引き換えにAFの合焦スピードが遅かったりしがちだが、本レンズには高トルクのリングUSMが搭載されているため、大きくて重たいフォーカスレンズ群を高精度で駆動させることが可能となっている。
撮影中も大口径レンズによくある“行って来いジーコ現象”のストレスはまったく感じることがなく、また近接撮影時の極めて浅い被写界深度においてもAFの精度は正確であった。
撮影機能の割り当てなどが可能なコントロールリングを搭載。僅かなクリックを刻みながらのリングの動きは滑らかである。キヤノン伝統のLレンズの象徴である赤いラインのデザインはここにもある。
作品
逆光撮影におけるフレアやゴーストの発生は、85mmを含む大口径の中望遠レンズにとっては弱点ともいえる課題だった。だが、本レンズではそうした逆光耐性の高いレンズ設計やコーティングが採り入れられている。
次の作例は太陽がほぼ直上にある状態で木々のあいだからこぼれる光とともに撮影したカットだ。なお、ホワイトバランスについては基本的にオートで撮影した。設定を変えている場合は、撮影データ欄に変更内容を記載している。
自然な前ボケと9枚羽根の円形絞りの相乗効果で、背景に人が歩いているシーンだったが、それらが美しい玉ボケとなった。
手前側にあった白っぽい布が風に煽られて画面に入った。前ボケのやわらかさがよくわかる。
モデルには自由に動いてもらい、背景を入れ込んで撮影。思い切ってF8まで絞ってみた。背景のディテール描写も優れており、気になるような歪みもみられない。
葉の間から光線が見え隠れする状況を背景にして、葉の緑が輝く様子とともに撮影した。絞り開放でも不自然さは感じられない。
今シーズン最後になるかもしれないビーチで水と戯れてもらった。開放F1.2のレンズにとっては撮影条件は生憎の晴天(笑)だったが、煌めく水の描写で「白」の再現性能で色収差などが改善されていることを実感した。
日陰の中での白と黒の再現性も良好だ。
背景に路面電車が走るシチュエーションで撮影した。中望遠の命というべき背景のボケ味も自然で美しい。空気感の表現も中望遠レンズを用いたポートレート撮影で大事な要素となってくるが、本レンズは中判カメラに迫るような空気感まで再現されている気がする。
港に移動してきた。太陽がじょじょに傾きかけてきている状況でのカット。F2.8で撮影したが、フレアも極めて少なく、85mmとしては逆光にかなり強いレンズだということがわかる。
上のカットと同じ状況でF1.2で撮影した。逆光でも描写に破綻はなく、ボケ味以外にも絞り開放とは思えない解像感がでている。
近接描写を試みたが、強い逆光の中でも肌色のトーン描写や髪の毛の質感などもクリアである。
画面の奥と手前の両方がボケる設定での撮影。前ボケも後ろのボケも自然な描写となった。
開放絞りF1.2で3m半くらいの距離から撮影した。ずっと奥に見えるトンネルから入る強い光線もゴーストやフレアのない、きれいなボケ表現とともに奥行きが感じられる描写だ。
色温度を“曇り”の設定にした以外は露出補正をあえて設定しないままで撮影。F8まで絞って漁船とモデルを半分シルエットになるよう表現してみたが、色の滲みも少なく逆光耐性の優秀さを感じる。
3〜4mくらいの距離でも絞り開放での撮影だと、もっと焦点距離の長いレンズで撮ったような望遠効果を得られる。
モデルの位置と背景にかなり明暗差がある状況で撮影。コントラストも良好だ。
太陽が沈んだばかりの海を背景に。白いシャツと白い波、そして白地に薄いピンクがグラデーションになった空という、全体的にやわらかいトーンの描写も美しい。
日没後の街路を背景に撮影。暗い中でも人物の肌描写は鮮明に、走行車のヘッドライトや外灯は9枚羽根の円形絞りらしくやわらかいボケ味で描写している。
夜景も手持ちで撮影可能なのは、開放F値F1.2ならではの強みでもある。
F1.2とF2.8の比較
F1.2とF2.8でのボケ描写を見た。F1.2での撮影では瞳にフォーカスしている。ボケ量は多く肩の辺りさえもボケているが、画面全体の解像感も絞り開放と思えないほど優秀だ。
ここからF2.8まで絞ると衣装や二の腕にも合焦範囲がひろがり、背景のボケが無くなるのと同時に解像感がグッと増してくる。
まとめ
F1.2という大口径であることから、はっきりいって筐体は大きくて重量もあるのだが、撮影時にしっかりとホールディングすれば期待に応えてくれる描写は、間違いなく素晴らしいものだった。
様々なポートレート向けのレンズを代々使用してきた筆者がとくに感動したのが耐逆光性能の驚くべき向上だった。ポートレート撮影などではボケ味の美しさや人物のやわらかい肌描写などを優先的に見据えた設計のためか、逆光時のフレアやゴーストの抑制にはいささかの問題を抱えていることが多い印象だったのだが、本レンズではキヤノンが独自開発したBRレンズや研削非球面レンズなどを採用したことによって絞り開放時から優れた解像力が発揮されており、逆光を含むたくさんの厳しい撮影条件での作例撮影となった今回も、ほとんど問題ないレベルで、テスト条件をクリアしたといえる。
“ポートレートに最適な”と評したが、この明るさや絞り開放時の描写の美しさを活かした撮影ジャンルはいくつでもあるので、ポートレートだけじゃなく、街スナップや旅写真、風景撮影などでもおおいに活躍の場があるレンズだ。
開放F値から解像する画質性能と美しいボケ味、そして逆光をものともしないフレアに強いレンズ設計は流石だ。
昨年のRFマウントを中核とするEOS Rシステムが登場してすぐの頃はもの足りなかったレンズシステムだったが、このところ続々と発売されるRFレンズを見ているとキヤノンの今後の追加ラインナップの本気度にも期待が膨らむ。
本レンズの光学系をそのままにボケ像のエッジをやららかくする技術Defocus Smoothingが採り入れられた「RF85mm F1.2 L USM DS」も開発が報じられている。こうしたバリエーション展開についても今後の展開が楽しみになるテスト結果となった。
モデル:吉村美咲