ミニレポート

写真史にも親しめる、銀塩フィルムの仕上がり再現ソフト「DxO FilmPack 6」

作品づくりに取り入れるコツを解説

DxOは、データ解析を得意とする非常に個性的なフランスのソフトメーカーだ。例えばレンズの各収差を解析して画像を最適化するソフトや、カメラや光学機器のテスト用のソフトもある。

代表的なソフトのひとつに、各レンズの特性などの解析データに基づき、収差や周辺減光などが自動で補正されるRAW現像ソフトの「DxO PhotoLab 5」がある。最新版が10月に発売された。

また、お馴染みの方も多そうなプラグイン集「Nik Collection」も現在はDxOが扱っている。先のDxO PhotoLab 5のほかに、AdobeのPhotoshop CCやLightroom Classicと使えるプラグインソフトで、U Pointテクノロジー(コントロールポイント)による部分調整が特徴だ。

今回の主役となるDxO FilmPack 6は、「Film」の名が付く通り、フィルム写真のような仕上がりが再現できるソフトだ。Nik Collectionと同様にプラグインソフトにもなるが、単体でも使える。ここではフル機能版のELITEを単体で試用した。

本物のフィルムを解析するDxO。さっそく効果を試してみる

編集する写真を選ぶ画面。

フィルム調の仕上がりを意識したソフトやレタッチ方法はいろいろあるが、DxOの特徴は“本物のフィルムを解析してデータ化していること”だ。

FilmPackは、撮影した各フィルムをパリとニューヨークのプロラボで現像し、その結果を解析して開発されている。コダックポートラ400やフジクロームPROVIA100、コダックトライX400など現在でもお馴染みのフィルムから、アグファウルトラ100、コダクローム64など、すでに製造を終えたフィルムも備えている。中にはロモグラフィーのような個性的なフィルムから、ポラロイド690や富士フイルムinstax(チェキ)などインスタントフィルムまである。FilmPack 6のフィルムフィルタは、カラーネガフィルム17種類、カラーリバーサルフィルム29種類、モノクロフィルム38種類から選択可能だ。

プリセット選択画面。「フィルタ」のタブから各フィルムの表示を選択する。ここではカラーフィルムを表示させている。

それぞれは階調や色調が再現できるだけでなく、粒状感も加わる。私は以前から自分の作品制作にFilmPackを使っているが、その大きな理由がこの粒状感だ。デジタルカメラで撮影した写真のツルっとした仕上がりは、不思議と人工的な印象になることがあり、わずかに粒状がある方が自然に感じやすい。

Photoshopのノイズ機能を使って粒状感を加えることもできるが、FilmPackは実際のフィルムをデータ化している。その粒状は均一にノイズを乗せる機能とは明らかに異なり、カラーでも色素を思わせるような粒子が得られる。これはFilmPackならではだ。

カラーフィルムの描写を試した写真(オリジナル状態)
「Fuji Superia Reala100」を選択。日本ではISO 100のカラーネガフィルム、フジカラーREALAとして発売されていた。画面左にはメーカーや製造終了年、解説が表示され、どんなフィルムなのか確認できる。
Reala100を選択した画像。オリジナルより柔らかい雰囲気になった。
かつて多くのプロが愛用したカラーリバーサル(カラーポジ)フィルム、コダクローム64だ。
Kodachrome64を選択した画像。とてもコントラストが高く、くっきりした仕上がりだ。また色調はややマゼンタ寄りになった。
愛用者が多い現行フィルム、コダックポートラ400。
シャドウの階調もよく出ているが、Reala100よりメリハリのある仕上がりだ。
カラーネガフィルムをリバーサル現像する、またはリバーサルフィルムをネガ現像する、いわゆるクロス処理(クロス現像)のプリセットもある。これはフジカラーSUPERIA200をクロス現像したプリセット。
まるでタングステンフィルムを屋外で使用したような、真っ青な仕上がりだ。コダックのリバーサルフィルムElite100をネガ現像したプリセットも選べる。
モノクロフィルムは38種類。アグファの低感度微粒子フィルム、APX25を選択。
アグファAPX25。微粒子フィルムだけあって、滑らかな階調の仕上がりだ。
モノクロフィルムの描写を試した写真(オリジナル状態)
今も多くのファンを持つ、モノクロフィルムの定番中の定番、コダックTri-X 400(トライX400)。
ISO 400のトライX400は、ややコントラストが高く、粒子も目立つ。モノクロフィルムらしさを感じる描写だ。
カラーネガ現像するモノクロフィルム、イルフォードXP2 Super 400。
同じISO 400のフィルムでも、トライXと比べるとコントラストが低い。色素による粒子もよく再現されている。

ただ、画作りをフィルム的にしたくても、必ずしもFilmPackのプリセットがそのまま好みの仕上がりなるとは限らない。例えばフジクロームVelvia 50を選んでも「あれ? 自分がイメージするVelviaとは違うな」と感じることもあり得る。

そんな時は、フィルムのレンダリングや粒状感の調整をはじめ、明るさやコントラストなど、レタッチソフト並みのコントロールができるので、自分がイメージする仕上がりに追い込める。

私自身もコダクローム64が好きだったので、それをイメージして作品を作ることもあるが、FilmPackで再現されたものは効果が強すぎるように感じることが多い。レンダリングを弱めたり、色調や階調はPhotoshopで調整して、FilmPackは粒状感を加えるためだけに使用することもある。

単純にプリセットを選ぶだけでなく、そこからカスタマイズもできる。ここでは富士フイルムのカラーネガフィルム、Pro400Hを選んだ。
Pro400Hを選択してJPEGに保存した画像。
画面右側のコントロールパネルにあるサムネイルをダブルクリック、もしくは上部ツールバー「変更」の右端のアイコンをクリックすると調整画面が表示される。
「レンダリング」「粒状感」は、それぞれスライダーで強さの調節ができる。ここではレンダリングの強さを100から50に弱め、粒状感の強さは100から180に強めた。
「フィルム」の「レンダリング」から、別のフィルムが選択できる。しかし粒状感など他はPro400Hのままだ。
Pro400Hのレンダリングを50、粒状感を180に設定してJPEG保存した画像。元データの雰囲気が強くなり、粒子も目立っている。
同様に「粒状感」も別のフィルムの粒状に変更できる。
粒状は35mm判の24×36がベースだが、中判や大判も選べる。さらにカスタムフォーマットは「強さ」と「粒子サイズ」がスライダーで調整できる。
Pro400Hをベースに色相を調整。デフォルトよりレトロな雰囲気になった。好みの設定が得られたら、オリジナルのプリセットとして保存できる。
「調色処理」から色相や彩度などの調整も可能。トーンカーブも備えている。色相や彩度はハイライト側、シャドウ側、それぞれコントロールできる。
「グラフィック効果」で画面の上下(または左右)にパーフォレーションのグラフィックを入れたり、光線漏れのような効果を追加できる。また「レンズ効果」で全体に色を付けたり、周辺光量の調整、ソフトフォーカス効果なども可能だ。

時代や作風のプリセット。富士フイルムXの「フィルムシミュレーション」風も

DxOが独自で雰囲気重視にカスタマイズした「デザイナーズ・プリセット」。39種類から選択できる。こちらも自分好みに調整もできる。

さて、実在のフィルムが選べるFilmPackだが、それ以外にも39種類の「デザイナーズ・プリセット」を搭載し、あらかじめカスタマイズされたプリセットが選択できる。こちらはフィルム名ではなく、「60年代の写真」や「インスタントカメラ風」、さらに「屋根裏で見つけた」や「郷愁」など、仕上がりをイメージして作られたプリセットだ。実在するフィルムとは異なるイメージ重視の作品に向いていて、こちらも自分好みにカスタマイズ可能だ。

オリジナルのJPEG画像
デザイナーズ・プリセット「ドリーミー」を使用した。淡い色調と画面周辺はソフト効果が加わっていて、優しい雰囲気の仕上がりになった。

そしてFilmPack 6で搭載された新機能のひとつが「デジタルフィルム」だ。これは富士フイルムのXシリーズに搭載されている画作り機能「フィルムシミュレーション」に近い仕上がりが得られる。FilmPack 6から富士フイルムXシリーズのRAWデータにも対応したが、デジタルフィルムは他社のRAWやJPEG、TIFFデータでも使用可能だ。種類は7つ。しかも、なぜかクラシッククロームが通常と強い効果の2つがある。

実際に富士フイルムX-E4のクラシックネガで撮影したJPEGと、同時記録したRAWからFilmPack 6のクラシックネガを割り当てて現像したJPEGを比べると、全く同じではないものの、雰囲気は伝わる仕上がりだ。フィルムシミュレーションのような仕上がりを、富士フイルム以外のRAWでも楽しみたい人におすすめと感じた。

富士フイルムのフィルムシミュレーションをイメージした「デジタルフィルム」。クラシックネガに近い「富士Classic Negative」を選んでいる。
調整画面の「レンダリング」も、フィルム名ではなくフィルムシミュレーション名になっている。
富士フイルムX-E4のクラシックネガで撮影したオリジナルのJPEG画像。
FilmPack 6のクラシックネガ。同じではないが、雰囲気はよく再現されている。他社のRAWやJPEG、TIFFからも設定できるので、富士フイルムユーザー以外もクラシックネガ調の仕上がりが楽しめる。

二つ目の新機能が「映画フィルム」だ。映画調の仕上がりは、SIGMA fpに「ティール&オレンジ」という画作りが搭載されてから、急激に注目されているように感じる。プリセットは6種類。もちろんティール&オレンジも搭載している。「ムードのある深緑」や「秋」など、独特の名前が付いているものもある。

「映画フィルム」は6種類。動画編集のカラーグレーディング感覚で仕上がりの選択ができる。
オリジナルのJPEG画像
「ティールとオレンジ」を選択。いわゆるティール&オレンジだ。青空と木の葉の色調が大きく変わっている。

新搭載:14の時代を写真史と巡る「タイムマシン」機能

コントロールパネルの「タイムマシン」をクリックすると、写真の歴史やその時代の出来事がプリセットになったタイムマシンが表示される。

そしてFilmPack 6最大の目玉機能といえるのが「タイムマシン」だ。19世紀にニセフォール・ニエプスが写真術を発明し、1827年に部屋の窓から撮影した写真から、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前の時代になった2020年まで、写真のスタイルを14の時代に分けている。

それぞれの時代の写真や大きな出来事について収録されており、クリックすると、その出来事の解説も表示される。写真編集ソフトの中で、写真を中心にした歴史まで学べるのは面白い。さらにそれらをイメージしたプリセットが78種類も登録されている。「リンドバーグ」「JFK」といった歴史上の人物から、「Dデイ」「コンコルド」など、その時代を象徴する出来事の名前が付いたプリセットもある。

画面左の説明画面をクリックすると、その部分が拡大される。これは世界最古の写真、1827年にフランスのニセフォール・ニエプスが窓から見た景色を撮った写真だ。説明文もあり、写真の歴史が学べる。
1927年に大西洋単独無着陸横断飛行に成功した、チャールズ・リンドバーグ。それを意識したプリセットだ。写真とその当時の時代も知ることができる。説明画面から直接そのプリセットを反映させることも可能だ。
1960年代から、徐々にカラー写真の時代になっていく。カラーによるファッション写真が発展したのもこの時代からだ。
2000年代といえばiPhoneの発売だ。ここから今のスマートフォンの時代へと繋がる。
オリジナルのJPEG画像
「1827年-ニエプス」に設定。
「1927年-リンドバーグ」に設定。
「映画『欲望』、ファッション写真とEktachrome」のプリセット「1967年-BU」に設定。
「AppleのiPhone発売開始」のプリセット「Agfa Precisa 100」に設定。

まとめ:作品制作に更なる深みを

FilmPack 6のスタンドアローン(単体起動)版はRAWにも対応し、RAWとJPEGが同時記録で混在している場合はRAWが表示される。明るさやコントラストの調整をはじめ、色相や彩度などはチャンネルごとに調整できるなど、非常に高機能だ。すると一見、RAW現像ソフトとして使えるように感じるが、意外とできないことも多い。ホワイトバランスの調整はなく、色空間はカメラ側の設定のみで変更ができない。例えばカメラ側でAdobe RGBに設定したら、FilmPackではsRGBにできない。やはりRAW現像ソフトではなく、作品を自分のイメージに追い込むためのソフトという印象だ。

とはいえ手軽にRAWデータから作業を始められるので、ある程度カメラ側で設定を決めておけば、いきなりFilmPackで処理することも実用的ではある。ただ本格的に作り込んでいくには、やはりDxO PhotoLab 5やPhotoshop CC、Lightroom Classicからプラグインとして起動させる方が使いやすい。

同じDxOのRAW現像ソフト「PhotoLab 5」から、FilmPack 6をプラグインとして起動したところ。Photoshop CCやLightroom Classicのプラグインとしても使用できる。

フィルムをイメージさせる写真から、個性の強い表現まで幅広く作り込めるFilmPack 6。漠然とフィルター的な変化を楽しむだけではもったいない、よりクリエイティブで深みのある作品制作に活用したいソフトだ。

タイムマシン機能を使った作品例

「1963年-JFK」。ご存知ジョン・F・ケネディの名が付いたプリセット。やや青みが強く、古いカラープリントのようだ。カラーでレトロな雰囲気を表現するのに向いている。
「1920年-エリス島」。映画「チャップリンの移民」の舞台になったエリス島。コントラストが高く、強い粒状感で力強い仕上がりだ。
「1930年-デルタ」。メキシコの画家フリーダ・カーロとディエゴ・リベラをイメージしたプリセット。メリハリがあり、空の雲がくっきり再現された。
「1994年-ルワンダ」。フツ族とツチ族で起こったルワンダ虐殺。こうした国際的な出来事の名が付いたプリセットも入っている。コントラストはあまり強くなく、クラシカルな雰囲気だ。
「1942年-AA」。“AA”とは、黒から白までの階調を段階(ゾーン)に区切って最適な露出と現像結果を得る「ゾーンシステム」を考案したアメリカの風景写真の大家、アンセル・アダムスのことだ。適度なコントラストで壁に映る影もしっかり表現できた。
「1856年-ナダール」。まだ写真術が発明されて間もない、19世紀後半に活躍したフランスの写真家、ナダールのプリセット。セピア調の色と浅いシャドウがレトロ感を強調している。また古いガラス板を思わせるテクスチャも特徴だ。
「1995年-パパラッチ」。ダイアナ元妃を追いかけるカメラマンを通じて広く知られた“パパラッチ”という言葉。コントラストが高く、光と影を一層強調する仕上がりだ。
「1880年-日下部金兵衛2」。カラー写真がない19世紀、日本ではプリントに着色してカラーにする技法が流行した。その着色を手掛けていたのが日下部金兵衛だ。コントラストが低く、絵具を思わせる色調。当時は鶏卵紙にプリントしていたので、紙のテクスチャが入っている。

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。