ミニレポート
写真史にも親しめる、銀塩フィルムの仕上がり再現ソフト「DxO FilmPack 6」
作品づくりに取り入れるコツを解説
2022年1月12日 09:00
DxOは、データ解析を得意とする非常に個性的なフランスのソフトメーカーだ。例えばレンズの各収差を解析して画像を最適化するソフトや、カメラや光学機器のテスト用のソフトもある。
代表的なソフトのひとつに、各レンズの特性などの解析データに基づき、収差や周辺減光などが自動で補正されるRAW現像ソフトの「DxO PhotoLab 5」がある。最新版が10月に発売された。
また、お馴染みの方も多そうなプラグイン集「Nik Collection」も現在はDxOが扱っている。先のDxO PhotoLab 5のほかに、AdobeのPhotoshop CCやLightroom Classicと使えるプラグインソフトで、U Pointテクノロジー(コントロールポイント)による部分調整が特徴だ。
今回の主役となるDxO FilmPack 6は、「Film」の名が付く通り、フィルム写真のような仕上がりが再現できるソフトだ。Nik Collectionと同様にプラグインソフトにもなるが、単体でも使える。ここではフル機能版のELITEを単体で試用した。
本物のフィルムを解析するDxO。さっそく効果を試してみる
フィルム調の仕上がりを意識したソフトやレタッチ方法はいろいろあるが、DxOの特徴は“本物のフィルムを解析してデータ化していること”だ。
FilmPackは、撮影した各フィルムをパリとニューヨークのプロラボで現像し、その結果を解析して開発されている。コダックポートラ400やフジクロームPROVIA100、コダックトライX400など現在でもお馴染みのフィルムから、アグファウルトラ100、コダクローム64など、すでに製造を終えたフィルムも備えている。中にはロモグラフィーのような個性的なフィルムから、ポラロイド690や富士フイルムinstax(チェキ)などインスタントフィルムまである。FilmPack 6のフィルムフィルタは、カラーネガフィルム17種類、カラーリバーサルフィルム29種類、モノクロフィルム38種類から選択可能だ。
それぞれは階調や色調が再現できるだけでなく、粒状感も加わる。私は以前から自分の作品制作にFilmPackを使っているが、その大きな理由がこの粒状感だ。デジタルカメラで撮影した写真のツルっとした仕上がりは、不思議と人工的な印象になることがあり、わずかに粒状がある方が自然に感じやすい。
Photoshopのノイズ機能を使って粒状感を加えることもできるが、FilmPackは実際のフィルムをデータ化している。その粒状は均一にノイズを乗せる機能とは明らかに異なり、カラーでも色素を思わせるような粒子が得られる。これはFilmPackならではだ。
ただ、画作りをフィルム的にしたくても、必ずしもFilmPackのプリセットがそのまま好みの仕上がりなるとは限らない。例えばフジクロームVelvia 50を選んでも「あれ? 自分がイメージするVelviaとは違うな」と感じることもあり得る。
そんな時は、フィルムのレンダリングや粒状感の調整をはじめ、明るさやコントラストなど、レタッチソフト並みのコントロールができるので、自分がイメージする仕上がりに追い込める。
私自身もコダクローム64が好きだったので、それをイメージして作品を作ることもあるが、FilmPackで再現されたものは効果が強すぎるように感じることが多い。レンダリングを弱めたり、色調や階調はPhotoshopで調整して、FilmPackは粒状感を加えるためだけに使用することもある。
時代や作風のプリセット。富士フイルムXの「フィルムシミュレーション」風も
さて、実在のフィルムが選べるFilmPackだが、それ以外にも39種類の「デザイナーズ・プリセット」を搭載し、あらかじめカスタマイズされたプリセットが選択できる。こちらはフィルム名ではなく、「60年代の写真」や「インスタントカメラ風」、さらに「屋根裏で見つけた」や「郷愁」など、仕上がりをイメージして作られたプリセットだ。実在するフィルムとは異なるイメージ重視の作品に向いていて、こちらも自分好みにカスタマイズ可能だ。
そしてFilmPack 6で搭載された新機能のひとつが「デジタルフィルム」だ。これは富士フイルムのXシリーズに搭載されている画作り機能「フィルムシミュレーション」に近い仕上がりが得られる。FilmPack 6から富士フイルムXシリーズのRAWデータにも対応したが、デジタルフィルムは他社のRAWやJPEG、TIFFデータでも使用可能だ。種類は7つ。しかも、なぜかクラシッククロームが通常と強い効果の2つがある。
実際に富士フイルムX-E4のクラシックネガで撮影したJPEGと、同時記録したRAWからFilmPack 6のクラシックネガを割り当てて現像したJPEGを比べると、全く同じではないものの、雰囲気は伝わる仕上がりだ。フィルムシミュレーションのような仕上がりを、富士フイルム以外のRAWでも楽しみたい人におすすめと感じた。
二つ目の新機能が「映画フィルム」だ。映画調の仕上がりは、SIGMA fpに「ティール&オレンジ」という画作りが搭載されてから、急激に注目されているように感じる。プリセットは6種類。もちろんティール&オレンジも搭載している。「ムードのある深緑」や「秋」など、独特の名前が付いているものもある。
新搭載:14の時代を写真史と巡る「タイムマシン」機能
そしてFilmPack 6最大の目玉機能といえるのが「タイムマシン」だ。19世紀にニセフォール・ニエプスが写真術を発明し、1827年に部屋の窓から撮影した写真から、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前の時代になった2020年まで、写真のスタイルを14の時代に分けている。
それぞれの時代の写真や大きな出来事について収録されており、クリックすると、その出来事の解説も表示される。写真編集ソフトの中で、写真を中心にした歴史まで学べるのは面白い。さらにそれらをイメージしたプリセットが78種類も登録されている。「リンドバーグ」「JFK」といった歴史上の人物から、「Dデイ」「コンコルド」など、その時代を象徴する出来事の名前が付いたプリセットもある。
まとめ:作品制作に更なる深みを
FilmPack 6のスタンドアローン(単体起動)版はRAWにも対応し、RAWとJPEGが同時記録で混在している場合はRAWが表示される。明るさやコントラストの調整をはじめ、色相や彩度などはチャンネルごとに調整できるなど、非常に高機能だ。すると一見、RAW現像ソフトとして使えるように感じるが、意外とできないことも多い。ホワイトバランスの調整はなく、色空間はカメラ側の設定のみで変更ができない。例えばカメラ側でAdobe RGBに設定したら、FilmPackではsRGBにできない。やはりRAW現像ソフトではなく、作品を自分のイメージに追い込むためのソフトという印象だ。
とはいえ手軽にRAWデータから作業を始められるので、ある程度カメラ側で設定を決めておけば、いきなりFilmPackで処理することも実用的ではある。ただ本格的に作り込んでいくには、やはりDxO PhotoLab 5やPhotoshop CC、Lightroom Classicからプラグインとして起動させる方が使いやすい。
フィルムをイメージさせる写真から、個性の強い表現まで幅広く作り込めるFilmPack 6。漠然とフィルター的な変化を楽しむだけではもったいない、よりクリエイティブで深みのある作品制作に活用したいソフトだ。