ミニレポート

「クラシックネガ」を自分好みにカスタム(FUJIFILM X-E4)

これから挑戦したい人向けに、各パラメーターを解説

夏過ぎ、富士フイルムのカメラを手に入れた。小型軽量の「FUJIFILM X-E4」だ。レンズは「XF35mm F2 R WR」。これまで富士フイルムXシリーズは、カメラ雑誌の新機種テストのために何度も借りたことはあったが、購入したのは初めて。そこで、まずはフィルムシミュレーションの機能を自由に楽しんでみることにした。今回は私なりに設定方法を紹介するので、まだこの機能をあまり使い込んでいない方や、同じく富士フイルムのカメラを買ったばかりの方の参考になれば幸いだ。

私の場合、カラーネガの雰囲気を持ちながら、現代的な仕上がりも欲しかったので、試行錯誤の結果以下のような設定に辿り着いた。その過程は後半で解説する。

今回見つけた好みの設定(クラシックネガ)

・グレイン・エフェクト:弱・小
・カラークローム・エフェクト:強
・カラークローム・ブルー:通常オフ、青を強調したいときだけ強
・トーンカーブ:ハイライト+0.5、シャドウ+0.5
・カラー:+1
・シャープネス:0
・明瞭度:0

今回の設定で撮影した作品(1)
窓越しにビンに入った花を撮った。クラシックネガは、露出を明るめにするとカラーネガの雰囲気が増すように感じる。それでいて色がしっかり乗っているのは、カラーをプラスにしているせいもあるだろう。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF2)ISO 160
今回の設定で撮影した作品(2)
トーンカーブで少しコントラストを強めているため、金属の質感が強調されている。またグレイン・エフェクトのおかげで、立体感もある写真になった。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF2)ISO 160
今回の設定で撮影した作品(3)
同じカラーネガ系のPRO Neg.HiやPRO Neg.Stdが柔らかく、しっとりした仕上がりなのに対し、クラシックネガはコントラストが高く、色調も個性が強い。しかもパラメーターでさらにコントラストを強めにしている。あえて明暗差のあるシーンで撮影すると、機械焼きのサービスサイズプリントを思わせる写真になった。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF8)ISO 160

思えば今回X-E4を購入するまでは、フィルムシミュレーションを活用したことはほとんどなかった。多くはレビュー記事でカメラの性能を見るためのテスト撮影だったので、基本はスタンダードのPROVIAに固定。あとは機種ごとに新搭載されたフィルムシミュレーションや機能をいくつか試す程度。しかも設定もデフォルトのままで、トーンカーブ等のパラメーターをいじることもなかった。

今回選んだのは、X-Pro3以降の機種に備わっている「クラシックネガ」だ。X-Trans CMOS 4とX-Processor 4を搭載したX-E4では、白黒のACROSやモノクロのフィルター効果も含めて18種類ものフィルムシミュレーションが選択できる。

X-E4に搭載されているフィルムシミュレーション
PROVIA/スタンダード
Velvia/ビビッド
ASTIA/ソフト
クラシッククローム
PRO Neg.Hi
PRO Neg.Std
クラシックネガ
ETERNA
ETERNAブリーチバイパス
ACROS
ACROS+Yeフィルター
ACROS+Rフィルター
ACROS+フィルター
モノクロ
モノクロ+Yeフィルター
モノクロ+Rフィルター
モノクロ+Gフィルター
セピア

クラシックネガを選んだ理由は、フィルムシミュレーションの中で新しいということもあるが、若い人を中心に人気のフィルムカメラは、カラーネガフィルムを使用する人が多いので、カラーネガ好きの人たちの参考にもなればと思ったからだ。私自身は「クラシッククローム」が最も好みなのだが、あえてクラシックネガを試すことで、異なる表現も見つけたいという意図もある。

今回は「クラシックネガ」で好みのパラメータを探っていく

——各パラメーターの使い方を解説

クラシックネガの特徴は、彩度は抑えながらコントラストは高め。カラーネガで撮影された古い写真を見ているような、ノスタルジックな雰囲気の仕上がりになる。それは1960〜70年代にアメリカで広まったカラーによる表現、「ニューカラー(アメリカン・ニューカラー)」をイメージさせる。ウィリアム・エグルストンやジョエル・マイロウィッツなど、ニューカラーの作品が好きな人にとっても、クラシックネガの風合いは注目だ。

テストでは、色温度で色味が変わらないようにWBを太陽マークの晴れに固定。また自然光では時間帯や雲の状態で光や色温度が変わってしまうため、屋内でストロボを使用している。露出も固定だ。ISOはベース感度のISO 160だ。

カラーでも使える「グレイン・エフェクト」

メニュー画面を下にスクロールしていくと、まず現れるパラメーターがグレイン・エフェクトだ。グレイン・エフェクトはフィルムのような粒状効果を加える。リコー、パナソニック、オリンパス(現OM SYSTEM)にも粒状機能を持った機種はあるが、それらはモノクロのみ。カラーでも粒状効果を備えているのは富士フイルムだけだ。

粒状効果は、フィルムっぽさを出すのに向いているのはもちろんだが、不思議なことに粒状感がゼロだと、どこか人工的でいかにもデジタルな印象(いわゆるデジタル臭さ)を受けやすい。そこでさり気なく粒状を加えると、そのデジタルな印象が和らぐように感じる。また私自身の印象だが、粒状を加えた方がハイライトの階調の繋がりが自然に見える。グレイン・エフェクトは強度が弱と強の2種類、粒度が小と大の2種類が選べる。

グレイン・エフェクトの適用例
強度 弱 粒度 小
強度 弱 粒度 大
強度 大 粒度 小
強度 大 粒度 大
グレイン・エフェクト オフ

色飽和を抑える「カラークローム・エフェクト」

続いてカラークローム・エフェクトだ。鮮やかな被写体を撮影すると、陰影の少ないのっぺりした仕上がりになりやすい。そこで色飽和をさせずに深みと立体感を出すのがこの機能だ。設定は弱と強。比べてみると、赤や黄色などビビッドな色の被写体の陰影が強くなっているのがわかる。

カラークローム・エフェクト オフ
カラークローム・エフェクト 弱
カラークローム・エフェクト 強

空や海の青を強調できる「カラークローム・ブルー」

カラークローム・ブルーは、青色だけコントロールする機能だ。こちらもカラークローム・エフェクトと同じく効果は弱と強。オフと比べると、スニーカーやペンの軸の青のみが濃くなり、深みが増していく。快晴の空や海など青を強調させたい場合に適している。

カラークローム・ブルー オフ
カラークローム・ブルー 弱
カラークローム・ブルー 強

ハイライト/シャドウの調子を操る「トーンカーブ」

トーンカーブはパソコンでレタッチやRAW現像をしている人にはお馴染みの機能だろう。ラインを上げれば明るく、下げれば暗くなる。富士フイルムのパラメーターでは、ハイライトもシャドウも0.5刻みで-2〜+4まで設定できる。

ここで紛らわしいのが、ハイライトはプラスにするとラインが上がり、マイナスは下がるのだが、シャドウは反対に、プラスはラインが下がり、マイナスは上がる。シャドウもハイライトと同じくマイナスで下がる方が感覚的に掴みやすいように感じるのだが、なぜこの仕様にしたのか不思議だ。なお作例では、0.5刻みだと細かすぎるため、1段ずつで撮影した。

ハイライト +1
ハイライト +2
ハイライト +3
ハイライト +4
ハイライト −1
ハイライト −2
シャドウ +1
シャドウ +2
シャドウ +3
シャドウ +4
シャドウ −1
シャドウ −2
トーンカーブ なし

鮮やかさや落ち着きを与えられる「カラー」

カラーは色の濃さだ。設定範囲は±4段階。色は濃い方が綺麗に感じやすいが、マイナスに設定して落ち着いた雰囲気に仕上げるのも面白い。

カラー +1
カラー +2
カラー +3
カラー +4
カラー −1
カラー −2
カラー −3
カラー −4
カラー 0

被写体の輪郭を強調する「シャープネス」

シャープネスは被写体の輪郭を強調、あるいは弱めるのに使うパラメーター。設定範囲はカラーと同じ±4段階。シャープネスは強くするとキリッとした仕上がりになるものの、強すぎるとガチガチで不自然さを感じてしまう。柔らかい描写のレンズではプラス側、解像力の高いレンズはマイナス側、と使い分けても良さそうだ。

シャープネス +1
シャープネス +2
シャープネス +3
シャープネス +4
シャープネス −1
シャープネス −2
シャープネス −3
シャープネス −4
シャープネス 0

シャープネスとは似て非なる「明瞭度」

明瞭度はシャープネスと似ているが、被写体の質感再現の強弱に使用する。設定範囲は±5段階。プラスが強いほど被写体の質感が強調され、力強い印象だ。マイナスにすると被写体をきちんと解像しつつ、柔らかさも持つ仕上がりが得られる。

明瞭度 +1s
明瞭度 +2
明瞭度 +3
明瞭度 +4
明瞭度 +5
明瞭度 −1
明瞭度 −2
明瞭度 −3
明瞭度 −4
明瞭度 −5
明瞭度 0

以上、クラシックネガをベースに、7つのパラメーターを試してみた。ここから自分の好みの設定をしていく。

今回見つかった、好みのパラメーター設定
好みのパラメーターで撮影

好みの設定を探しているときは、まるで車やバイクのレーシングマシンをセッティングしているようだ。何度も設定を変えては試し撮りをして、自分に合った写りを探していく。迷ったら一度デフォルトに戻して、パラメーターをメニュー画面の順番に設定するのが確実だ。好みの設定にできたら、カスタム登録しておこう。

実は私自身も、他社のカメラも含めてここまで詳細にパラメーターを試したことはあまりなかった。理由としては、これまでレビュー記事用以外にはRAWで撮影し、現像時にパソコンで調整することが多かったからだ。しかし富士フイルムのカメラにはせっかくのフィルムシミュレーションがあるので、有効に生かしたいと考えた。フィルムシミュレーションを選ぶだけでなく、パラメーターも活用することで、自分らしい個性を持った仕上がりが楽しめる。

——作品

建物に強い光が当たり、壁に映る樹木の影に惹かれた。クラシックネガは彩度が低めで独特の色調だ。青空は入っているが、カラークローム・ブルーはオフの状態。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF8)ISO 160
懐かしい昭和の広告が貼られた壁。彩度は低くても地味にはならない。またカラーを+1にしているため、色のメリハリもある。トーンカーブでデフォルトよりわずかにコントラストを上げたおかげでインパクトのある仕上がりになった。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF5.6)ISO 160
WBはすべて太陽マークの晴れに固定している。日陰では、このように青っぽくなるが、それもデーライトタイプのフィルムを使っている感覚で楽しい。カラークローム・エフェクトで薔薇に深みが出た。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF2.8)ISO 160
クラシックネガでもカラーネガのような仕上がりにならないこともある。自転車の前輪がシャープなのを見ると、やはり現代のデジタルカメラらしい写りだ。必ずしもカラーネガをトレースしていないところに、フィルムシミュレーションの個性を感じる。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF2.8)ISO 160
緑が多い公園を歩いていたら、木々の隙間から太陽の光が差し込んできた。クラシックネガはこのシーンをドラマチックに再現した。自分用にカスタマイズしたパラメーターも思い通りの仕上がりになった。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF5.6)ISO 800
空を見上げたら雲が流れてくるのを見つけた。空の青を強調するために、カラークローム・ブルーを強に設定。動く雲と建物とのバランスと意識しながらシャッターを切った。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF5.6)ISO 160
小型軽量のX-E4とクラシックネガで撮影していると、実際はAFで巻き上げもないが、かつてのレンジファインダー機にカラーネガフィルムを装填しているような気分になる。軽快に撮り歩けて、街のスナップがとても楽しい。
X-E4 XF35mm F2 R WR(絞りF2)ISO 160

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。