特別企画

富士フイルムのモノクロモード「ACROS」のフィルター効果を使いこなす

今回はFUJIFILM X-E4にシグマの富士フイルムXマウント用レンズ「16mm F1.4 DC DN」、「30mm F1.4 DC DN」、「56mm F1.4 DC DN」を組み合わせて撮影した。

写真の表現として「カラー写真」と「モノクロ写真」があるのはご存知の通り。おそらくカラーで撮る人の方が多いだろう。しかしモノクロにはカラーとは異なる魅力がある。カラーは主に色を意識させるのに対し、モノクロは白から黒への階調で表現するのが特徴だ。歴史的な名作にもモノクロ写真が多く、現在もモノクロにこだわりを持つ写真家も少なくない。

ちなみに「モノクロ」(モノクローム・Monochrome)とは単色による表現のこと。例えば青の濃淡でもモノクロと言える。白黒(黒白)は「Black and White」であり、モノクロのひとつだ。ここでは白黒も「モノクロ」で統一する。

かつてデジタルカメラに搭載されていたモノクロモードは、カラーから単純に色を抜いただけのような仕上がりが多かった。しかし近年になって、オリンパス(現OM SYSTEM)のモノクロプロファイルや、パナソニックLUMIXのL.モノクローム、リコーGRのハードモノトーンなど、本格的なモノクロモードを備えた機種が増えてきた。

中でも、自社の銀塩フィルムをベースに開発したことで知られるモノクロモードが、富士フイルムのフィルムシミュレーション「ACROS」(アクロス)だ。「ACROS」は、富士フイルムのISO 100のモノクロフィルムの名前。かつては「ネオパン100 ACROS」だったが、2018年に製造終了。だが翌2019年に「ネオパン100 ACROS II」として復活し、現在に至っている。

今回はFUJIFILM X-E4を使い、フィルムシミュレーション「ACROS」のフィルター機能を中心に解説する。

現在、富士フイルム唯一のモノクロフィルムであるネオパン100 ACROS II。富士フイルムXシリーズのフィルムシミュレーション「ACROS」は、このACROSシリーズから名付けられている。

黄色や赤のフィルターは何のため?

そのACROSモードには、通常の「ACROS」の他に「ACROS+Yeフィルター」「ACROS+Rフィルター」「ACROS+Gフィルター」もある。この「フィルター」とは何なのか。それはフィルムでのモノクロ撮影時にレンズに装着する、モノクロ撮影用フィルターをデジタルで再現する機能だ。Yeはイエロー、Rはレッド、Gはグリーンの意味である。

フィルターメーカーのモノクロ撮影用フィルターを見ると、黄色や赤など色が付いたものがラインナップされている。これをレンズに装着するのだが、黄色や赤い写真を撮るのではない。これにより特定の光の波長域をカットし、コントラスト調整を行うのだ。

フィルムシミュレーションのACROSとモノクロ、ACROS+フィルターの違いを見てみよう。これがカラーの状態。ここから、モノクロ化した際にどの色がどのように変化するかがわかる。
フィルムシミュレーションをACROSに設定。モノクロになっても、各色の階調がよく再現されていて、立体感のある仕上がりだ。
フィルムシミュレーションには、もうひとつ通常のモノクロもある。ACROSと比べると、わずかにコントラストが低く、フラットな印象。状況に応じてACROSと使い分けるのがいいだろう。
ACROSにイエローフィルターを加えた。キャップの赤が明るくなったのが目立つ。さらにオレンジやバナナも明るくなった。反対にスニーカーの青は暗くなっている。そのためフィルターなしよりコントラストが高く見える。
レッドフィルター。キャップの赤はさらに明るくなり、元が赤とは思えないほど白っぽい。赤い花やオレンジ、バナナの黄色もより明るくなっている。逆に青いスニーカーはさらに暗く、ネオパン100 ACROS IIのグリーンのパッケージも暗くなった。イエローフィルターよりもコントラストが強い仕上がりになった。
グリーンフィルターは、レッドとは反対に赤が暗くなった。オレンジや黄色系も暗い。しかしスニーカーの青やフィルムのパッケージは明るくなっている。グリーンフィルターはポートレートで使われることが多い。肌は明るく、唇は暗くなることで、健康的な仕上がりが得られる。

人間が感じられる光「可視光線」の波長は、約380〜780nm(ナノメートル)。波長が短い(数字が小さい)と紫色、波長が長いと赤く見える。モノクロフィルターでは、黄色フィルターは約480nm以下をカット、赤フィルターでは約600nm以下をカットする。

例えば赤フィルターは、被写体の赤い部分が明るく、青い部分が暗くなる。青空は暗く落ち、雲や木の枝などがはっきりしてコントラストの高い写真になる。通常のコントラストは、富士フイルムXシリーズに搭載されているトーンカーブで行えるが、「雲を印象的に見せたい」「人物の肌を明るく仕上げたい」など特定の色の調整では、モノクロフィルター機能が効果的だ。こうしたコントラストのコントロールは、カラーにはない、モノクロならではの楽しさと言える。

元となるカラー写真。フィルムシミュレーションはPROVIA/スタンダード。ここからACROSとACROS+フィルターでコントラストの変化を見てみる。
フィルター機能は使用しない通常のACROS。適度なメリハリがあって良好な仕上がりだが、空と木々の階調がやや近いとも感じる。
ACROS+Ye。青空が暗くなり、コントラストのはっきりした写真になった。極端な効果ではなく、さり気なくインパクトを強めたいときに活用できるフィルター機能だ。
ACROS+R。青空がさらに暗くなった。この状況では不自然と感じるほど強い効果だ。Yeでは効果が弱く、物足りないと感じた場合や、非現実感を演出したい場合に有効だ。
ACROS+G。YeやRとは逆に空が明るくなった。ほぼフィルターなしのACROSと同じだが、Gフィルターありの方がわずかに明るい。フィルター機能の違いで、仕上がりの雰囲気が変わるのがよくわかる。

風景などでわずかに空を暗くしたい場合は弱い効果のYe(黄色)、強い効果を狙いたいときはR(赤)、ポートレートで肌が明るいまま唇を暗くしたい場合にG(緑)が有効などと、定番的な使い方が語られる。しかしこうした用途に限定せず、テスト撮影をしながら好みの仕上がりを探してみると、カラーとは異なるモノクロならではのコントラストコントロールが楽しめる。

フィルムを意識した「グレインエフェクト」で質感アップ

さらに富士フイルムXシリーズには、粒状感をプラスする「グレインエフェクト」があり、より銀塩モノクロに近い質感に仕上げられる。Xシリーズは高感度ノイズも粒状に近いため、明るい場所でもあえて高感度に設定することで、フィルムを意識した写真にするのも面白いだろう。富士フイルムXシリーズを持っていてモノクロ写真を撮ってみたい人は、ぜひこれらの機能も活用してみてほしい。

特にモノクロで威力を発揮するグレインエフェクト。フィルムで撮ったような粒状感を加えられる。強度は弱と強の2種類が選択可能。また粒度も小と大が選べる。
強度を弱、粒度を小に設定。拡大すると、うっすら粒状感がある程度だ。さり気なく粒状を加えたい表現に向く(サムネイルは部分拡大)
粒度は小のままだが、強度を強に設定した。弱よりは粒状が目立つ。粒状感を意識させた表現は強が合っている。さらに粒子を目立たせたければ粒度を大にするのがおすすめだ(サムネイルは部分拡大)
グレインエフェクトだけでなく、富士フイルムXシリーズは高感度ノイズも粒状に近い雰囲気が出せると思う。メーカーがアピールしている使い方ではないが、好みで試してみよう。以下はベース感度のISO 160から、ISO 400〜12800まで1段ずつ上げて高感度ノイズを比べてみた。ISO 160は当然ながらノイズ感が全くない。ISO 800から目立ち始める。ISO 12800でも不自然なノイズでないのが驚きだ。筆者自身は、ISO 1600が最も好みだった(以下のサムネイルは部分拡大)。
ISO 160
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
撮影時に、その場に適したフィルター機能をいちいち選択するのは面倒、と思う人もいるだろう。その際はRAWで撮影し、カメラ内RAW現像でフィルターの効果を確認しながら設定すると狙った効果を出しやすい。
カメラ内RAW現像より、もっと大きな画面で作業したいなら、以前取り上げたFUJIFILM RAW STUDIOがおすすめだ。パソコンの画面を見ながらフィルターや粒状などが追い込める。

実際の作品で効果をチェック

ここではレンズにSIGMAのXマウント用単焦点レンズ、16mm F1.4 DC DN、30mm F1.4 DC DN、56mm F1.4 DC DNを使用した。F1.4の大口径ながら小型軽量で、X-E4にもマッチする。


ラベルの金色が明るく、青い部分が暗くなり、フィルター機能なしと比べてくっきりした仕上がりになった。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+Ye

空や水面の青が暗くなり、雲や水面の反射を意識させる写真になった。さらにグレインエフェクトを弱、粒度を小に設定し、滑らかな階調の中にフィルムをイメージさせる粒状感を加えた。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+Ye

黄色い花がフィルター機能なしより明るくなったのがわかる。グレインエフェクトはオフだが、ISO 1600に設定し、ノイズを粒状効果として利用した。X-E4の電子シャッターは1/32,000秒まで選べるので、日中の屋外でも絞り開放で撮影できた。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+Ye

公園に咲いていた河津桜。フィルター機能を使わないACROSではトーンが均一に近く、ややフラットに見える。Rフィルター機能を加えたACROS+Rは空が落ち、花が明るくなったことで、赤外線写真を思わせるインパクトのある写真に仕上がった。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+R

トーンカーブなどは一切調整していないが、Rフィルターを適用するだけで葉のコントラストが上がった。またグレインエフェクトを「強」、粒度を「大」に設定。フィルムで撮ったような雰囲気を出した。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+R

やはり赤フィルターの効果で空が暗くなったのが目立つ。また画面奥の茶色い建物はACROSより明るく、ビルは暗くなり、一層コントラストが強調されている。ISO 1600でノイズを加えたほか、グレインエフェクトを「弱」、粒度を「小」に設定し、ザラっとした仕上がりを狙った。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+R

マネキン人形の唇が暗くなり、ポートレートに向いたフィルターなのがわかる。また背景の赤い部分も暗くなり、フィルター機能なしよりコントラストが高く見える。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+G

壁のレンガや葉の赤が暗くなり、フィルターなしより引き締まった写真になった。レトロな雰囲気が強調された仕上がりだ。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+G

茶色い壁や枯れた芝が暗くなったことで、深みが増した写真になった。ポートレート以外にも、街や風景にも使いたい。建物の古さを強調する表現を意識し、グレインエフェクトを「強」、粒度を「大」に設定した。

カラー
ACROS(フィルターなし)
ACROS+G

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。