特別企画
富士フイルムのモノクロモード「ACROS」のフィルター効果を使いこなす
2023年4月13日 08:00
写真の表現として「カラー写真」と「モノクロ写真」があるのはご存知の通り。おそらくカラーで撮る人の方が多いだろう。しかしモノクロにはカラーとは異なる魅力がある。カラーは主に色を意識させるのに対し、モノクロは白から黒への階調で表現するのが特徴だ。歴史的な名作にもモノクロ写真が多く、現在もモノクロにこだわりを持つ写真家も少なくない。
ちなみに「モノクロ」(モノクローム・Monochrome)とは単色による表現のこと。例えば青の濃淡でもモノクロと言える。白黒(黒白)は「Black and White」であり、モノクロのひとつだ。ここでは白黒も「モノクロ」で統一する。
かつてデジタルカメラに搭載されていたモノクロモードは、カラーから単純に色を抜いただけのような仕上がりが多かった。しかし近年になって、オリンパス(現OM SYSTEM)のモノクロプロファイルや、パナソニックLUMIXのL.モノクローム、リコーGRのハードモノトーンなど、本格的なモノクロモードを備えた機種が増えてきた。
中でも、自社の銀塩フィルムをベースに開発したことで知られるモノクロモードが、富士フイルムのフィルムシミュレーション「ACROS」(アクロス)だ。「ACROS」は、富士フイルムのISO 100のモノクロフィルムの名前。かつては「ネオパン100 ACROS」だったが、2018年に製造終了。だが翌2019年に「ネオパン100 ACROS II」として復活し、現在に至っている。
今回はFUJIFILM X-E4を使い、フィルムシミュレーション「ACROS」のフィルター機能を中心に解説する。
黄色や赤のフィルターは何のため?
そのACROSモードには、通常の「ACROS」の他に「ACROS+Yeフィルター」「ACROS+Rフィルター」「ACROS+Gフィルター」もある。この「フィルター」とは何なのか。それはフィルムでのモノクロ撮影時にレンズに装着する、モノクロ撮影用フィルターをデジタルで再現する機能だ。Yeはイエロー、Rはレッド、Gはグリーンの意味である。
フィルターメーカーのモノクロ撮影用フィルターを見ると、黄色や赤など色が付いたものがラインナップされている。これをレンズに装着するのだが、黄色や赤い写真を撮るのではない。これにより特定の光の波長域をカットし、コントラスト調整を行うのだ。
人間が感じられる光「可視光線」の波長は、約380〜780nm(ナノメートル)。波長が短い(数字が小さい)と紫色、波長が長いと赤く見える。モノクロフィルターでは、黄色フィルターは約480nm以下をカット、赤フィルターでは約600nm以下をカットする。
例えば赤フィルターは、被写体の赤い部分が明るく、青い部分が暗くなる。青空は暗く落ち、雲や木の枝などがはっきりしてコントラストの高い写真になる。通常のコントラストは、富士フイルムXシリーズに搭載されているトーンカーブで行えるが、「雲を印象的に見せたい」「人物の肌を明るく仕上げたい」など特定の色の調整では、モノクロフィルター機能が効果的だ。こうしたコントラストのコントロールは、カラーにはない、モノクロならではの楽しさと言える。
風景などでわずかに空を暗くしたい場合は弱い効果のYe(黄色)、強い効果を狙いたいときはR(赤)、ポートレートで肌が明るいまま唇を暗くしたい場合にG(緑)が有効などと、定番的な使い方が語られる。しかしこうした用途に限定せず、テスト撮影をしながら好みの仕上がりを探してみると、カラーとは異なるモノクロならではのコントラストコントロールが楽しめる。
フィルムを意識した「グレインエフェクト」で質感アップ
さらに富士フイルムXシリーズには、粒状感をプラスする「グレインエフェクト」があり、より銀塩モノクロに近い質感に仕上げられる。Xシリーズは高感度ノイズも粒状に近いため、明るい場所でもあえて高感度に設定することで、フィルムを意識した写真にするのも面白いだろう。富士フイルムXシリーズを持っていてモノクロ写真を撮ってみたい人は、ぜひこれらの機能も活用してみてほしい。
実際の作品で効果をチェック
ここではレンズにSIGMAのXマウント用単焦点レンズ、16mm F1.4 DC DN、30mm F1.4 DC DN、56mm F1.4 DC DNを使用した。F1.4の大口径ながら小型軽量で、X-E4にもマッチする。
ラベルの金色が明るく、青い部分が暗くなり、フィルター機能なしと比べてくっきりした仕上がりになった。
空や水面の青が暗くなり、雲や水面の反射を意識させる写真になった。さらにグレインエフェクトを弱、粒度を小に設定し、滑らかな階調の中にフィルムをイメージさせる粒状感を加えた。
黄色い花がフィルター機能なしより明るくなったのがわかる。グレインエフェクトはオフだが、ISO 1600に設定し、ノイズを粒状効果として利用した。X-E4の電子シャッターは1/32,000秒まで選べるので、日中の屋外でも絞り開放で撮影できた。
公園に咲いていた河津桜。フィルター機能を使わないACROSではトーンが均一に近く、ややフラットに見える。Rフィルター機能を加えたACROS+Rは空が落ち、花が明るくなったことで、赤外線写真を思わせるインパクトのある写真に仕上がった。
トーンカーブなどは一切調整していないが、Rフィルターを適用するだけで葉のコントラストが上がった。またグレインエフェクトを「強」、粒度を「大」に設定。フィルムで撮ったような雰囲気を出した。
やはり赤フィルターの効果で空が暗くなったのが目立つ。また画面奥の茶色い建物はACROSより明るく、ビルは暗くなり、一層コントラストが強調されている。ISO 1600でノイズを加えたほか、グレインエフェクトを「弱」、粒度を「小」に設定し、ザラっとした仕上がりを狙った。
マネキン人形の唇が暗くなり、ポートレートに向いたフィルターなのがわかる。また背景の赤い部分も暗くなり、フィルター機能なしよりコントラストが高く見える。
壁のレンガや葉の赤が暗くなり、フィルターなしより引き締まった写真になった。レトロな雰囲気が強調された仕上がりだ。
茶色い壁や枯れた芝が暗くなったことで、深みが増した写真になった。ポートレート以外にも、街や風景にも使いたい。建物の古さを強調する表現を意識し、グレインエフェクトを「強」、粒度を「大」に設定した。