ミニレポート

動画編集アプリAdobe Premiere Rushを使ってみよう

リッチな動画に手早く編集 スマホだけでの完結も

一眼レフカメラやミラーレスカメラの動画撮影性能の向上に伴い、手軽に動画撮影が楽しめるようになってきた。静止画の撮影とともに動画の撮影もしているという読者も多いのではないだろうか。今回、こうした動画需要の高まりにあわせてアドビより、同社の動画編集アプリ「Adobe Premiere Rush」の使い勝手や位置づけについて、話を伺う機会を得た。同アプリの使い方を軸に活用方法についてお伝えしていきたい。

Premiere Rushとはどのようなアプリなのか

動画編集アプリといえば、主なところでいえば、Adobe Premiere ProやAdobe After Effects、Blackmagic DesignのDaVinci Resolve(最新バージョンは16)、iMovieなどがあげられる。さらに、スマートフォンアプリを含めると、その数は膨大なものになるだろう。

こうした、以前からバージョンを重ねてきている動画編集アプリの中で、2018年11月に登場したのが、今回紹介するAdobe Premiere Rushだ。その名のとおり、映画やアニメーションといった映像制作の現場やプロフェッショナルユースで多く使用されているAdobe Premiere Proと兄弟関係にあるアプリで、同ソフトとのシームレスな連携がとれることや、ファイル互換性能の高さが魅力となっている。

では、その違いはどのような点にあるのかというと、Adobe Premiere Proがプロフェッショナルレベルの細かい編集能力を有しているのに対して、Adobe Premiere Rushでは、とっつきやすいUIデザインによって、手軽に編集作業ができる点が挙げられる。

Adobe Premiere Rushは現在、デスクトップ版のほかモバイル版の展開がある。直感的に操作できるUIを備えているなど、想像以上に手軽に動画の編集が可能となっている。筆者自身、動画編集の経験はほとんどなかったが、少し説明を聞いただけで、すぐに編集作業に慣れることができた。

以下、Adobe Premiere Rushは、どのような編集ができるのかを紹介しながら、動画編集の方法をお伝えしていこう。

動画編集の入り口となるアプリ

Macユーザーの場合、標準で動画編集アプリ「iMovie」がインストールされているので、これを利用して動画編集をしてみた、という方も多いのではないだろうか。Adobe Premiere RushのUIは、比較的iMovieに近い構成となっている。そのため、iMovieを利用したことがあるユーザーは、もっと直感的に利用できることだろう。

はじめ方は、簡単だ。Adobe Premiere Rush(今回はデスクトップ版を使用している)を起動したら、[新規プロジェクトを作成]をクリックして、新しい制作ファイルをつくる。

次に、任意の動画ファイルフォルダを選択し、使用するデータを選択する。選択したデータは青い透過表示になり、番号が付された状態になる。必要なファイルが決まったら、右下の[作成]ボタンをクリックする。ここでは、あらかじめインストールされているサンプル素材を利用している。

選択した動画の読み込みが完了すると、編集画面が表示される。作業の準備が整った状態だ。

無料で利用できるスタータープランでは3回までの書き出しが可能となっている

配置した動画は、タイムライン上に一直線にならんで配置されるが、最大4つまでのレイヤーで配置することができる。タイムライン上で複数の再生コマが重なっている場合は、上側のレイヤーにあるコマが再生される仕組み。このあたりの感覚はPhotoshopやInDesignなどと同じで、同社製アプリに慣れていれば直感的に理解できる操作体系となっている。

編集のために選択したコマはオレンジ色のフチどりで表示される。さらに、コマの画面を選択すると、バウンディングボックスが表示され、コマサイズを調整できるようになる。下層レイヤーに別のコマがある場合は、別画面のように再生コマを配置できるようになる。

レイヤーとコマの変形を利用することで、背景にするコマの上に複数のコマを配置することもできる。もちろん、再生時はすべてのコマが別々に表示されるので、音声やテキスト配置の工夫しだいで、商品の利用シーンをバックで再生しながら、各部の詳細を説明、かつ利用者のコメントを載せる、といった情報量の多いコンテンツをつくることもできそうだ。さすがに、そこまでの情報量だと視点がばらけてしまうことが想像できるので、単一で成立させることは難しいだろうが、この表現力の幅広さは、インパクトのあるコンテンツを手軽に生み出す上で、非常に有利な機能になりそうだ。短時間コンテンツの中に情報量をつめこむ必要がある場合にも便利だろう。

また、各コマには透明効果やクロッピングの設定も可能。画面比率も変えることができるため、見せたい部分を切り出して、ミニ画面として配置するような見せ方を、視覚的に確認しながら操作できる。

テンプレートも充実している。プリインストールされているもののほかに、Adobe Stock上で公開されているコンテンツの利用も可能となっている。

Adobe Stockにある動的なテンプレートは、テンプレート上にカーソルをもっていくことで、ダウンロードする前にどのような動きをするのかを確認することもできる。

このほか、BGMもごく簡単な手順で設定できる。画面左上の[+]ボタンをクリックして、[メディア…]をクリックする。次に[メディアブラウザー]表示にして、BGMを保存してある任意のフォルダを表示する。ここでは、サンプルとして予めインストールされている「Rush Soundtracks」を選択している。

任意の保存フォルダが表示されたら、挿入したいファイルを選択する。複数選択して、挿入することも可能だ。

BGMを挿入したところ。タイムライン上で緑色の表示になっているトラックが挿入したBGMだ。これらのBGMもレイヤーとして配置することができる。

Adobe Premiere Rushには、同社独自のAI技術を活用したAdobe Senseiが組み込まれており、制作をアシストしてくれる。「自動音声分類」や「自動ダッキング」といった機能が、それだ。

自動音声分類は、それぞれの動画に含まれている音声、音楽、その他を自動的に分類する。例えば映像内にある男性の声やBGM、その他の映像内音(風の音や波の音など)を、それぞれ音声、音楽、その他に自動分類することができる。

自動ダッキングは、音声とBGMの音量バランスを自動で調整してくれる機能だ。

なお、Adobe Senseiによる自動音声分類は、音楽と音声、その他に分類するところまでをサポートしてくれるわけだが、その後に自動ダッキング機能をオンにすることで、人物の声を強調し、その他の音を自動的に低く調整する、といった操作も可能となっている。

手動での選択とはなるが、男女の声を分類して、どちらの音声を強調するかを指定することもできる

どちらの調整も、手編集でやろうとすると時間と労力が必要となる内容なだけに、短時間での動画編集をウリとする同アプリの魅力を体現する機能だといえる。複合的に使うことで、かなりの編集作業の負担を減らすことができる補助ツール、というわけだ。

では、実際に自動ダッキングの適用前後の画面を見てみよう。画面下に表示されている緑色のBGMトラックに注目してもらいたい。自動ダッキングにチェックを入れる前は、タイムライン上で均一であった音量レベルが、人物の発話がある場面でボリュームダウンしていることがわかる。

自動ダッキング適用前
自動ダッキング適用後
BGMトラック部分を拡大。左が適用前で、右が適用後の状態。人物の発話のある部分でボリュームが下がっている

編集が完了したら、書き出して完成だ。書き出しは[共有]ボタンをクリックしておこなう。

保存先はローカル保存のほか、YouTubeやFacebook、Instagram、Behanceに直接書き出すことも可能となっている。それぞれの出力先向けの保存プリセットも用意されていて、特に考えなくても、調整して出力・書き出しをしてくれる。なお、ファイル形式は「.mp4」だ。

それぞれ赤枠部分を拡大。左が保存先、右が書き出しプリセット

スマホのみで撮影から公開まで対応

アドビによれば、スマートフォンで様々なコンテンツを消費するユーザー層の拡大に伴い、画質はもちろん重要とはしながらも、それ以上に“いかに早く、効率的にリッチなコンテンツをつくるか”が、コンテンツづくりで大きなウェイトを占めるようになってきているのだという。

確かに高速なネット回線の普及、Wi-Fi接続環境の整備・普及に伴い、あらゆるサービスがスマホを基点としたものになって久しい。クオリティーの高い写真が、料理や衣類のイメージを左右するように、動画コンテンツもまた、商品やサービスの理解や特徴を伝えるための重要な位置を占めているからだ。

そうしたニーズから、1日に5本ないしそれ以上の動画コンテンツを制作して公開することが当たり前になってきているのだという。効率とクオリティーの両立が制作側には求められている、というわけだ。

一方で、Vlog(Video blog)の公開など、個人で動画を撮影し公開することも一般的になって久しい。カメラ製品もまた、こうしたニーズの拡大に応えるようにして、動画撮影性能が強化され、4Kでの撮影はいまや当然の機能といえるまでになってきている。6Kや8Kでの撮影に対応する製品も登場あるいは発売が予定されるなど、より高い画質での撮影に対する需要もまた高まりを見せている。

プロフェッショナルユースから個人ユースに至るまで、動画の制作と公開は当たり前となってきているのだ。気軽に自分たちが発信できる環境も整っている。そうした発信ニーズに対して、より柔軟かつ手軽に利用してもらえる制作アプリとして登場したのが、Adobe Premiere Rushというわけだ。

例えば、スマートフォンで撮影した動画であれば、編集から公開までをワンストップで完了することが可能。Adobe Premiere Rushのみで編集から出力までが完了できるため、6秒ほどで説明内容を伝えるショート動画で特に有効だという。出先で簡単に録画してアップするといった早さを重視したニーズでも有効となる。

また、Adobe Premiere Pro CCとの連携も可能。Adobe Premiere Rushで粗々の編集を行い、作業スペースのひろいデスクトップ版のAdobe Premiere Pro CCで編集。Adobe After EffectsやAdobe Auditionを併用して、さらに細かな調整をしていく、といった使い方にも応える。場合によっては、粗編集でメイキングシーンを一部公開する、といった使い方もできるだろう。

アドビによれば、2019年7月頃から同アプリの利用者が急増してきているとのことで、現今の新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から、外出の自粛要請が各市区町村より打ち出された時期の前後で、ユーザーが増えてきているのだという。こうした背景には、前記したようなVlogを楽しむユーザーの拡大や、動画による情報発信ニーズの高まりがあると言えそうだ。

各種SNSサービスやYouTube、Instagram、TikTokなどへのVlog投稿内容をより簡便な作業でレベルアップすることが期待できる、というのがAdobe Premiere Rushのポイントだと考えていいだろう。スマートフォンやカメラ製品が動画撮影をより身近なものとした今、アプリもより編集環境を身近なものとした。仕事であれ、趣味での使用であれ、動画をどう活用していくのかが、発信のポイントになっていくと言えそうだ。

動画コンテストが開催中

現在、アドビシステムズ株式会社は株式会社TABIPPO(旅に関するWevメディアを展開)と共同で、アプリ「Adobe Premiere Rush」を使用したVlog作品コンテスト「Adobe x TABIPPO Premiere Rush Vlog Contest」を開催している。

コンテスト告知ページ

開催第1回目のテーマは「ENJOY HOME」。Adobe Premiere Rushを使用して制作された動画であること以外に、特に条件は設けられておらず、「家の中で生活する時間が増えた今だからこそ、日常的に楽しんでいることはもちろん、趣味や家の中でできる楽しみ、喜び、興奮をVlogで発信してください。作品は家の中でできることであればどんな題材でもOKです」と作品応募が呼びかけられている。

応募期間は、5月31日23時59分まで。投稿された動画の中から、優れた作品が特別賞として表彰される。発表は、告知サイト:Adobe × TABIPPO Premiere Rush Vlog Contest Vol.1上で、2020年6月1週目を目処に発表される予定だという。

本誌:宮澤孝周