ミニレポート

クロップモードを活用して動体を撮る

(PENTAX K-1)

お世辞にも動体撮影に強いとは言えないK-1で、APS-Cクロップを使ってどのくらいまで撮れるかという無理やりな小ネタです

K-1はPENTAXとして初めて約24×36mmのいわゆる35mmフルサイズ撮像素子を採用したデジタル一眼レフカメラだが、撮像素子の一部だけを使って撮影するクロップモードを備えている。

クロップモードでは撮像素子の有効面積をAPS-C(18×24mm)と1:1(24×24mm)の2種類から選ぶことができる。

APS-CクロップではAPS-C用DAレンズを全て利用できるようになるが、望遠効果以外にもいくつかの撮影上のメリットが生まれる。今回はそういうお話をさせてもらおうと思う。

望遠寄りの画角になる

APS-Cクロップモードで使うK-1は“APS-Cのカメラ”と見なすことができ、画角は使用するレンズの焦点距離の1.53倍相当になる。

手持ちレンズで望遠効果が足りない場合、一般にはテレコンバーターを使って焦点距離を伸ばす。しかしテレコンには露出倍数があり、その分F値が暗くなってしまう。例えば70-200mm F2.8と1.4×テレコンバーターの組み合わせたでは、露出倍数は+1EVなので、98-280mm F4相当のレンズになる。

しかし、テレコンバーターには収差の増大という副作用があるので、十分な画質を得るために開放ではなく、さらに1段ほど絞りたい。すると、実際に撮影に使えるのは開放のF4ではなくF5.6からということになる。

一方、APS-Cクロップには露出倍数はかからず、35mm判換算で107-306mm F2.8相当となり、F2.8のレンズがF2.8として使えるので、実質的に1.4×テレコンバーター使用よりも2段速いシャッターが切れるメリットがある。デメリットは記録画素数が下がることだが、それでもK-1の場合1,536万画素あるので、一般的な撮影には十分な解像度だ。

以下に、HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWによる画角の変化を挙げる。

クロップ不使用時

150mm
300mm
450mm

APS-Cクロップ時

150mm(35mm判換算230mm相当)
300mm(35mm判換算459mm相当)
APS-Cクロップ:450mm(35mm判換算689mm相当)
HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWを装着したK-1

テレコンバーターを併用してさらなる望遠効果を

以上は他社システムでも通用する一般論だ。

以下はPENTAX固有の事情だが、Kマウントのデジタル一眼レフカメラに使用できる唯一のAF対応テレコンバーターであるHD PENTAX-DA AF REAR CONVERTER 1.4X AWはAPS-Cにしか対応していない。そのため、K-1をフルサイズ機として使う場合は、このテレコンは使えない。

しかしAPS-Cクロップモードであれば、このテレコンとクロップモードを併用してさらに大きい望遠効果を得ることが可能になる。APS-Cのクロップ係数1.53倍に、テレコンバーターの1.4倍を掛け合わせれば、35mm判換算でマスターレンズの2.14倍の焦点距離に相当する望遠の画角が得られるわけだ。

早速HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWの望遠端による画角変化を見てみよう。

フルサイズ:450mm
フルサイズ:450mm+DA AFテレコンバーター使用(合成焦点距離630mm)
APS-Cクロップ:450mm+テレコンバーター(合成焦点距離630mm、35mm判換算963mm)
HD DFA 150-450mm F4-5.6 + DA1.4×テレコンバーターを装着したK-1

HD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AW + DA1.4×テレコンバーター使用の作例

例えばHD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWならば35mm判換算321-963mm F5.6-8相当のレンズになり、同様にHD PENTAX-DA 560mmF5.6ED AWならば、1,198mm F8相当のレンズとして使える。

1,000mmクラスの望遠レンズを手持ちで使うことは困難だが、これらの組み合わせならば、ゴリラのような筋力がなくても練習次第で十分扱えるようになるはずだ。

K-1 / 1/1,000秒 / F13 / +0.7EV / ISO500
K-1 / 1/1,000秒 / F13 / +0.7EV / ISO640
K-1 / 1/1,000秒 / F13 / +0.7EV / ISO640
K-1 / 1/1,000秒 / F11 / +0.7EV / ISO800
K-1 / 1/1,000秒 / F18 / 0.0EV / ISO1250

smc PENTAX-DA★60-250mmF4ED[IF] SDM + DA1.4×テレコンバーター使用の作例

クロップモードでDA 1.4×テレコンバーターを併用すれば、300mm辺りのクラスの望遠ズームを超望遠ズームとして活用することもできる。例えばsmc PENTAX-DA★60-250mmF4ED[IF] SDMの場合、85-390mm F5.6相当になり、軽量なので手持ち撮影もしやすい。

K-1 / 1/1,000秒 / F13 / +0.7EV / ISO800
K-1 / 1/1,000秒 / F11 / +0.7EV / ISO1000
K-1 / 1/1,000秒 / F11 / +0.7EV / ISO800
K-1 / 1/1,000秒 / F13 / +0.7EV / ISO800
smc PENTAX-DA★60-250mmF4ED[IF] SDM + DA1.4×テレコンバーターを装着したK-1

このDA AFテレコンの使用には幾つかデメリットもあり、まず1つはボディの収差補正機能が無効になる。しかし望遠レンズで問題になりやすい色収差は画像処理の段階でほぼ完全に補正できるので、実用上あまり気にならない。

むしろ、開放F値がF5.6を超えるマスターレンズとの組み合わせで、AFの精度が低下したり動作不能になる場合があることに注意が必要だ。

連写性能が向上し、チャンスに強くなる

クロップモードでは1コマのデータ量が軽くなるので、連続撮影能力が向上する。90MB/sクラスのUHS-Iカードの使用を前提として、フルサイズの場合は4.4コマ/秒でRAWなら17コマ、JPEGなら70コマまでと公称されるK-1の連続撮影能力だが、APS-Cクロップ時には6.5コマ/秒でRAWなら50コマ、JPEGなら100コマまでに向上する。

画素数もコマ速度も違うので比較しにくいが、K-3 IIは8.3コマ/秒でRAWなら23コマ、JPEGなら60コマまでなので、単純にショット数で言えば、K-3 IIよりもAPS-CクロップモードのK-1のほうが連続撮影に強いということになる。

112枚を連写したところ
連写した中の1枚。K-1 / 1/1,000秒 / F13 / +0.7EV / ISO1600

実際には諸条件によって変動するが、今回実写テストを通じて判断する限りでは、JPEG高画質(画質設定L)で112~114ショット前後の連写が可能だった。

もっとも、K-1はカードへの書き込みが遅いので、バッファフルになるまで連写すると、すべての書き込みが終了するのに1分以上かかり、書き込み終了までは次の連写コマ数が制限されてしまう(今回使用したのは64GBのUHS-I U3、読込95MB/s、書込85MB/s品)。とは言え、6.5コマ/秒の速度でおよそ18秒間連写できるわけで、まずは十分かなと思う。

測距点がフレームのほぼ全面をカバーする

測距点設定「セレクトエリア拡大(L)」をAF-Cと組み合わせると、最初に選択した測距点で捉えれば、その後被写体が移動しても周辺の測距点がそれをフォローするので、実質的にトラッキングAFとして使える。

クロップモードでは測距点の分布がフレームの幅いっぱいに広がるので、被写体が中央付近から外れてもいずれかの測距点が捉え、構図に制約を受けにくい。親指AFも併用すれば更に効果的だ。

K-1の測距点は中央に集まりすぎているが、クロップモード(黒い太線の枠)にすると画面の横幅をほぼカバーするようになる

フレーム外までファインダーで見えるので被写体を捉えやすい

「ファインダーで見えるものがそのまま写る」ことが一眼レフの本質的な美点だが、フレーム外の様子まで広く見えて状況を把握しやすいM型ライカなどのレンジファインダー機のほうがスナップには有利だとも言われる。

その点K-1のクロップモードはフレーム外をマスクしないので、レンジファインダー機同様に被写体の状況を広く観察しながら撮影することができ、フルサイズで使うよりもスナップ撮影には有利だ。

まとめ

ありていに言ってしまえば、フルサイズ用D FAレンズのラインナップが未完成であるからクロップモードが与えられたという面があるのかもしれない。しかし、連続撮影時のバッファ不足やAFターゲット分布の粗さなどのK-1の弱点はクロップモードを使うことである程度カバーできる。

そして周囲の状況が見えるクロップモードのファインダーと性能が向上したAFは、私がプライベートで取り組んでいる群衆のスナップでも、意外な撮りやすさをもたらしてくれた。実際に使ってみないとわかりにくいことだけれども、クロップモードで使うK-1は、現行PENTAXの中では最もスナップ撮影に強いカメラだとも言える。

大高隆

1964年東京生まれ。多摩美大グラフィック卒業後、メディアアート/サブカル系から堅い背広のおじさんまで幅広く撮影して四半世紀に。最近は、レンズシステムにFAレンズやD FAレンズを追加していくためのテストをしたり、建築写真絡みの仕事が増えてきたのでNikonのシステムも細々と増強中。日本荒れ地学会正会員。

http://dannnao.net/