交換レンズレビュー
LEICA DG ELMARIT 200mm/F2.8/POWER O.I.S.
マイクロフォーサーズ随一の大口径超望遠レンズを試す
2018年2月13日 07:27
2017年12月に発売したマイクロフォーサーズ用の単焦点200mmレンズで、35mmフルサイズ判換算では400mm相当となる超望遠レンズだ。開放F値2.8の明るさ、最短撮影距離1.15m、撮像センサーによる手ブレ補正とこのレンズの光学手ブレ補正とを組み合わせた「Dual I.S.2」の搭載、防塵防滴仕様に-10度の耐低温性能、そして1.4倍テレコンバーターの付属などが特徴として挙げられる。
マイクロフォーサーズ(MFT)陣営がラインナップするレンズの中では36万2,880円(大手量販店・ポイント付き)と最高値で、オリンパスのM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROに次ぐ2本目の単焦点超望遠となる。受注生産品とのことだが、この原稿執筆時では一部量販店に僅少の在庫が確認できている。
今回のレビューではカメラボディLUMIX G9 PROを使い、手持ちで、スノーボード・アルペン競技、航空機、そして地獄谷野猿公苑の猿たちにレンズを向けた。
G9 PROの発色設定「フォトスタイル」は標準的な「スタンダード」とし、詳細設定も変えていない。ダイナミックレンジが広がったとされるG9。その「スタンダード」では中間部から暗部にかけてを強調しており、メーター基準では明るめの画像となるため、ほとんどのカットにマイナスの露出補正を入れた。ホワイトバランスは晴天を基準に、オート、色温度入力と使い分けた。
発売日:2017年12月14日
実勢価格:税込36万円前後
マウント:マイクロフォーサーズ
焦点距離:400mm相当(35mm判換算)
最短撮影距離:1.15m
フィルター径:77mm
外形寸法:約87.5×174mm
重量:約1,245g
デザイン
パナソニックが揃えるLUMIX GやLEICA DGレンズのデザインコンセプトと同様、つやのある金属質感が先端部からマウント部までを覆う。
フォーカスリングと絞りリングには指かかりが良いよう、金属地にメリハリのある凹凸加工が施され、三脚座の付く回転部を挟み、左手側面に各種スイッチ類が配置される。マウント側上面にLEICA DGレンズの証である、オレンジ色の焦点表記が目立っている。
付属のフードは望遠単焦点用のため深く作られている。これをレンズ本体の先端部分に被せるように着せるが、本体と重なる接触部は幅があり、遊びもないため真直ぐ確実に被せられる。フードを固定するには締め付け用ネジを回すが、形状が小さく手袋をしての固定には向かなかった。
バッテリーグリップ付きLUMIX G9 PROでのホールディングバランスは良く、サイズ感は一眼レフカメラのAPS-C機+バッテリーグリップ+70-200mm 2.8のそれより一回り小さく感じられる。レンズ単体を手に持つと金属鏡筒のためかズッシリするソリッド感がある。重く感じるわけではないが、軽くもない。
360度回転できる三脚座用の環があり、その環に雲台を固定する三脚座がつく。この三脚座を取り付けるネジ穴規格も1/4インチであるため、ここに三脚や一脚を取り付けることができなくもない。
手持ち撮影時でも、三脚座を付けたままで座の底面を左手のひらに乗せ、親指、人差し指の付け根、中指を装着したフードの根元近辺で保持すると収まりが良かった。バッテリーグリップ付きカメラボディならば三脚座を付けっぱなしでも、かさ張りは大して気にならない。
操作性
「スリーマグネットリニアモーター」がこのレンズのフォーカス駆動を担うが、MF時のフォーカシングでもリングの動きに合わせ、このモーターがフォーカス調整レンズを動かすことになる。メカニカルな駆動ではなく、ステッピングモーター採用のレンズでMFを行うのと同等の仕組みのようだ。
MF時は、厳密なピント合わせのためにEVFや背面液晶に部分拡大の表示が可能な他、フォーカス位置が無限遠から最至近のいずれにあるかを示すインジケーターも表示させられる。
そんな気遣いは嬉しいのだが、リングを回し始めてからもピントを合わせるためのレンズがなかなか動き出さず、動き始めてもリングの回転角に対し比例するような動きとはならなった。メカニカルな入力との相性があまり良くないので、ピントの山を掴む動作には慣れが必要だろう。
この拡大表示中、拡大部の画角は超超望遠になるが、「Dual I.S.2」の手ブレ補正がある程度画面を安定させるのは大きな助力になる。
先端部にある絞りリングは、絞り設定の必要なマニュアル露出や絞り優先時に、カメラボディのコマンドダイヤルに代えて使用できる。コマンドダイヤル使用時はAポジションにしておくが、ロックがないため数字部にズレることがあるものの、その場合はカメラボディ側が指示する絞りとなるようだ。
鏡筒にある4つのスイッチのうち、左上がフォーカスリミッターで、フォーカシング可動域をフルレンジ、もしくは「3m~無限遠」で切り替えを行う。〇ボタンの下に「CALL」「MEMORY」「Fn」とあるは、○ボタンを押した際にどう機能させるかを設定するスイッチだ。
MEMORYで任意の位置にあるフォーカスポジションを〇ボタンを押して記憶させ、CALL位置に変えてMEMORYでセットしたポジションを呼び出せる。
一番右のFnはカメラボディのファンクションボタン同様、〇ボタンを押すことで各種の切り替え機能を呼び出す。マウント側にAF/MFの切り替えスイッチ、手ブレ補正のON/OFFスイッチがある。
テレコンバーター
この200mmには1.4倍の専用テレコンバーターが同梱される。35mm判換算で560mm相当、F値は1段落ちてF4となる。
また2月下旬に発売予定で、このレンズ専用となる35mm判換算で800mm相当(F値は2段落ちのF5.6 )となる2倍テレコンバーターも試写したので、作例をお届けする。
AF
AFの動きは素早く、ほとんどの場面で主要被写体を直ぐにキャッチすることができた。
G9 PROのボディは約20コマ/秒連写の電子シャッター使用時でもAF追随を謳うが、カメラを振りながら電子シャッターで撮影するとローリングシャッターによるひずみ(ローリングディストーション)が画像に出ていたため、レンズ評価用の撮影には不向きと判断し、最高約9コマ/秒のメカニカルシャッターを用いた。
AF-Cモードではスノーボード写真のように、まずまずキッチリと追い続ける結果だった。
ただ、1コマ目で被写体をキャッチさせるべくフォーカス駆動を開始させると、稀に何かの拍子で最至近側にフォーカスが移動し、駆動を止めてしまうことが発生した。事前にAFモードなど、場面による向き不向きの設定を追い込んでおけば解決する事案かもしれない。
スノーボードの撮影でも撮影ポイントを大きく変えることなく1.4倍、2倍のテレコンバーターをともに試してみた。
1.4倍テレコンの場合、被写体キャッチの際の初動で若干のスピードダウンを伴うが、晴れ渡ったゲレンデの照度という良い条件の元では追随性も概ね良好と感じた。
2倍テレコンの場合は初動での被写体キャッチの時間がさらに少し伸びる。狭画角の中での被写体フレーミングという難しさも手伝って、使用場面を選ぶこととなった。
作品
スノーボード・アルペン競技のGS種目で滑走するのは佐川佳幸プロ(F2 S-BASE)。ボードが垂直に近い状態まで立ち、エッジを効かせたカービングターンと次のターンへの切り替え、そしてそのライン取りが見どころの競技。旗門でのターンが頂点を超えると、移動方向が急激に変わるため選手を収め続けるフレーミングが難しい。
フォーカス追随はまずまずのできだったが、被写体をで追う際、DFD(空間認識)AF制御のためかシームレスにフォーカスを合わせ続けるのではなく、合わせる→僅かに外す→合わせる→僅かに外す、を高速で繰り返していることがあった。
AFに迷いが生じているのではと、シャッターを押すことを躊躇うが結果的にはほぼほぼ合焦していた。
自身の背中側を地面方向へ倒すバックサイドのターンを決めるのは若林さを理プロ(RABANSER SNOWBORDS S-BASE)。
大胆に旗門を画面中にフレーミングしたが、ここまでAFで追い続けていた若林選手をしっかりとフォローした。カメラ側の設定だが、G9 PROではAFキャッチの際のAF枠や、続くAFの追随性質を細かく設定できるため、他ボディに比べてこのレンズの素質を広げることができるだろう。
アマチュア・オープン部門で参加の平林龍人選手(C-UNISON)は中学2年の14歳。バックサイドのターンを決めながら、ゴーグルの中の眼差しがコースの行く先に注がれているのがハッキリと判る。
晴天に恵まれた今回の一連の撮影では、感度を最低であるISO200から上げることもなく、高速シャッターを躊躇せずに選べ、また一定ではない横方向の動きが激しかったため、手ブレ補正機能はOFFにして臨んだ。
平林龍人選手、2本目の滑走。撮影位置はほぼ変わらないが旗門の位置が1本目と変わり、距離が離れたので1.4倍のテレコンバーターを装着し捉えることにした。
画面内に荒れた雪面を多めに入れ、「カスタムマルチAF」モードでAF枠を画面上へと移動させた。白く輝く雪面にAE制御の影響が出ると思い、露出を-0.3まで補正した。
宮古空港を離陸するJTAの737-400型機を滑走路脇から狙う。機体までの距離はおよそ300m。「フォトスタイル」は「スタンダード」で、露出補正は行わなかった。
機体下面のディテールが黒く潰れていないことで、デフォルト設定では暗部を持ち上げているのが判るだろう。澄み切った空ではなかったが、L1ドアの注意書きで解像具合が判断できる。
この「スタンダード」にもう少しコントラスト重視のガンマカーブを持たせるよう、設定変更を加えていれば、さらに解像感は増したと思う。手ブレ補正はOFFとしている。
同じく宮古空港で夕焼けを背に離陸する737-400型機を同じポイントから。空はもう少し濃く焼けていたが、あっさりした発色となった。これもレンズの発色傾向というわけではなく、「フォトスタイル」の「スタンダード」が出す傾向。
場面によってレンズの持ち味を存分に引き出すよう、「フォトスタイル」の設定を追い込むことも必要に思えた。このカットも手ブレ補正はOFFだ。
宮古空港を離陸のためエプロンエリアを出て滑走路に入る767-300型機。737型など小型機の就航が占める中、その大きさが目立つ機体だ。存在を強調すべく1.4倍テレコンバーターを装着し背景との圧縮効果を用いた。
機体側面の左から入るハイライト部の白飛びを気にし-1段の露出補正を入れたが、AEはその-1段を正確に再現したようで若干暗い。レンズの振りが殆どない状況なので静物用である通常モードの手ブレ補正をONにした。
落日前の西陽を受け宮古空港を離陸するDHC-8-400型機を、2倍テレコンを付けた800mm換算で撮影する。
プロペラ機を撮るにはできるだけシャッタースピードを落としてプロペラを止めない撮影作法があるが、ブレを起こさずに2倍テレコン使用時の解像を見るために1/1,000秒のシャッタースピードとした。流し撮りでも静物撮りでもない状況に手ブレ補正はOFFにした。
737-400型機が宮古空港の滑走路に着陸進入する。数十メートルに機体が近づいた時に機首部がアップとなるよう、また反逆光の光線が側面に入るアングルを選び、リベットや窓枠の凹凸が浮き上がるジュラルミン表面の質感を狙った。斜め上へと微妙に振れ幅がある動きのため手ブレ補正はOFFとした。
宮古空港のスポットからプッシュバックを終え、機体が動き出す前の時間に、スローシャッターを試みた。この日はレンズ横から強い横風が吹いていたが、手ブレ補正を効かせた1/6秒での撮影結果に上々の満足。
だが、この画像のように照度の強い発光体が画面に入ると軒並みAFが迷う現象が出たので、暗い被写体に向けマニュアルでのフォーカス合わせを行っている。
空港外から手ブレ補正の流し撮りモードで到着する737-400型機を、1.4倍のテレコンバーターを装着し撮影する。機体が一番近づく所でカメラから約150mの距離。真横に横切る時は相対スピードも最大となり移動量は大きくなるが、遠目に機体を捉えた際は移動量が小さく、その僅かな動きに合わせてレンズをゆっくり振り始める。
この小さい振れ幅では振り始める前の位置に画面をより戻そうとする、通常の手ブレ補正モードと同様の動きがあった。振り速度が上がれば流し撮り場面と認識するようだが、その境を見極める必要がある。
福岡空港を離陸する767型機を900mほど離れた丘陵から撮影。暗めの露出だが、背景となる街並みの光源を流そうと1/10秒のスローシャッターを使用した。
流し撮りモードの補正では、画面の辺(へん)に対して平行方向の流し撮りを完遂させるようとする補正が働くようなので、その方向性に関わらない通常モードの手ブレ補正に切り替えて撮影した。
スノーボード競技が行われた黒姫高原スキー場から撮った、上がったばかりの陽の光を受け始めた妙高山。カメラ位置から山頂までの距離は約9km。撮影地ではまだ太陽が顔を出さない、
モルゲンロートの妙高山を狙ったが、陽の当らない山の中腹を明るめに立ち上げたローコントラスト、全体としても露出オーバーの再現をしたフォトスタイルの「スタンダード」はここではやや曲者で、-1.7段補正をしている。
妙高山に陽が注がれてからおよそ5分後、志賀高原付近から太陽が上がってきた。うっすら雲のかかる右の山が撮影地点からおよそ37km離れた横手山。大気のよどみもあるのでそれを踏まえた上でご覧いただきたいが、空との境、稜線の針葉樹の再現で遠景描写が判るだろう。
地獄谷野猿公苑に立ち寄り、温泉に浸かるお猿を撮影。比較的暖かい日だったが夕方前には雪がぱらつき始めた。温泉に浸からずとも抱き合って暖を取る親子猿の姿があちこちで見られる。
赤ら顔を覆ううぶ毛、栗色の体毛1本1本の描写を見ると、絞り開放だが近接時の結像具合は見事と言える。以降、猿の写真はすべて絞り開放だ。
最至近での撮影とまでは行かなかったが、毛繕いをする猿の手を近接撮影。より近くに寄れる性能があると、こんなアップを狙う際にも安心してフレーミングに臨める。爪の様相や指紋の存在など、近づいたとしても肉眼では見られないものを、この望遠レンズを用いて再現できた。
陽が暮れる頃、谷の寒さが増して雪も降り始めた。気温低下に伴って温泉に浸かる猿が増え始め、湯の中で寛ぐ表情を見せながらの毛繕いも盛んだった。猿ほどの顔であれば、顔・瞳認識AFも作動したが、顔の前を毛が覆うようなときには、その毛にフォーカスしてしまう事象が多々あり、マニュアルフォーカスも活用した。
7~8m離れた湯の対岸で抱き合う親子。日本各地の猿園では、猿とは目を合わせないように、との注意書きが必ずある。猿は目が合い続ける相手に攻撃の意思があるとみなし、防御のため猿が先制攻撃をしてくるからだ。
しかし、ファインダーを通していても、その先にこんな瞳があればずっと見とれてしまい、吸い込まれる感覚を覚える。猿にとっては寛(くつろ)ぐ中でも、常に人間を見極める視線を持っているのだろう。
まとめ
一眼レフカメラに比べ、コンパクトになるのがマイクロフォーサーズの真骨頂。小ささゆえの「手軽さ」を期待するが、このレンズのように揃い始めた本格レンズをもってし、写真家の「本気度」をどれほど預けられるのかと気になり始めていた。
6kフォトやプリ連写など、ミラーレスならではの動画とのボーダレスコンセプトも面白いが、一眼レフカメラで行うスチール撮影のスタイルに支配されている私は、従来通りの形態で撮影を行い、カメラボディも合わせた200mmレンズの基本性能を見分したかった。
でも、そこはミラーレス。結局はレンズ単体というよりもシステムの中の1本、と終始感じた。
ちょっと砕いて表すと……、
近接描写では「お見事! 値段に見合う」とこれだけでも存在価値を感じるが、
遠景描写に「もう少し刻んでくれ! でもマイクロフォーサーズセンサー由来だからしょうがないか」と少し悔やみ、
AFの追随性では「コントラスAFだけで、ここまでできるか!」と受容しつつも、
「DFDのウォブリングは何とかならない?」と、わざと細かくフォーカスを外す制御には慣れず、
「そこはキャッチしてくれ!」と、発光部など極端な高輝度が入ると捉えないのには黙してしまい、
静止物の手ブレ補正には「さすがのボディ内+レンズ内補正。これは異次元!」と手放しで喜ぶものの、
流し撮り補正には「弱い加速度も、斜めも細かく検知し、補正に反映させて!」と、それぞれで悲喜こもごもな印象を持った。
単焦点200mm F2.8(専用テレコン付き)、そしてG9 PROボディ。パナソニックのミラーレスカメラが打ち出すスチールへの「本気度」に、10年積み上げてきたものを加速させようとするポテンシャルを感じる。
フォーサーズフォーマットというセンサーサイズは動かしようがないが、AFや流し撮り補正に至っては、その気になればソフトウエアの改良で進化が見込める。もう少し、あとちょっと安定感が増せば、私は「本気度」が預けられ「手軽さ」の中で業務が遂行できるかもしれない。
パナソニックが取り組んできた動画ボーダレスの撮影スタイルも、今以上に必然とされる時も来るだろう。
撮影協力:黒姫スノーボーディングスクール
撮影協力:黒姫高原スノーパーク
撮影協力:地獄谷野猿公苑