インタビュー

"オスカーの遺産"「ライカCL」担当者インタビュー

記者のファーストインプレッションも掲載

ライカCL

ライカカメラ社が11月21日に発表したAPS-Cミラーレスカメラ「ライカCL」について、製品担当者にインタビューを行った。本稿では既報の発表会レポートに続き、その内容をお届けする。

ライカCLは、有効約2,400万画素のAPS-CサイズのCMOSセンサーを搭載するミラーレスカメラ。EVFを内蔵するなど、同じAPS-CフォーマットのライカTL2とは方向性の異なるカメラとしてラインナップに加わった。日本では12月の発売が予定されている。希望小売価格は本体が税込36万7,200円、同時発売の18mmレンズが税込15万6,600円。

インタビュー

話を聞いた、ライカカメラAGのマイケ・ハーバーツ氏

——まず、ファインダーがとても良いと感じました。フレーミングや露出がわかるという機能性だけでなく、接眼レンズの光学的な作りの良さに感心しています。
ファインダーが良いと感じてもらえたなら、このカメラのひとつの目標はクリアしたなと思います。メガネを掛けていてもファインダーの四隅まで見渡せるよう、アイレリーフの長い設計になっています。

ライカは2009年のライカX1からAPS-Cカメラに取り組んでいますが、当時はまだ電子ビューファインダー(EVF)の十分な技術がなく、我々が求めるサイズ、解像度、表示速度を実現できませんでした。やがてライカQやライカSLで高品位なEVFが内蔵されるようになり、最も高いレベルであるライカSLのEVFクオリティをコンパクトにまとめたものが、ライカCLのEVFです。

——同じAPS-CフォーマットのライカTL2とライカCLで、どのように棲み分けていますか?
ライカTL2とライカCLは、基本スタンスも技術的な先進度もほぼ同じで、異なるのは撮影スタイルです。ライカTLはよりスナップ的(snappier)で、ライカCLはファインダーを覗きながらダイヤル操作をするなど、より伝統的なスタイルです。

ライカTL2

スタイリングの面では、ライカTL2は先進的なカメラを目指しましたが、ライカCLはアイコニックなクラシックデザインを意識しています。

カメラ上部に軍艦部を持つライカCLのスタイリングは、いわゆるバルナックライカ的

——「CL」という名前の響きを、ベテランのカメラユーザーは懐かしく感じると思います。
フィルムカメラのライカCL(国内名:ライツミノルタCL)の後継機や進化版といった関係は全くありませんが、コンパクトなレンズ交換式カメラですし、連想される部分もあると思います。他のモデルに比べて価格的に手頃で、ライカの間口を広げるカメラという点でも通じる部分があるかもしれません。

1973年のライカCLには「Compact Leica」という意味がありましたが、新しいライカCLはライカLバヨネットマウントのLに、特定の意味を持たないCを組み合わせました。Cの文字には、コンパクトやクラシックといった響きも思い浮かぶかもしれませんね。

——いわゆるバルナックライカのようなサイズ感と、見た目より軽量に仕上がっている点に魅力を感じる方は多いと思います。
APS-CコンパクトのライカXシリーズは、カメラのサイズ感がとても好まれました。ライカCLもそのサイズをターゲットに開発しています。ライカCLに新しいエルマリートTL 18mm F2.8レンズを組み合わせると、そのライカXシリーズとほぼ同じサイズ感です。さらに、ライカCLには高品位なEVFまで内蔵されているのがポイントです。

参考:ライカ初のAPS-Cカメラ、ライカX1(2009年)

全体的に見て、ライカCLは本体のサイズ感と撮れる写真のクオリティとのバランスが完璧にとれていると思います。価格は他のライカに比べて多少エントリー向けですが、クオリティには遜色ないイコールの仕上がりです。

——ライカCLというカメラの経緯と、ライカが考えるAPS-Cフォーマットの利点を教えてください。
まず最初は、ライカの原点であるスクリューマウントライカ(ライツ社の技師オスカー・バルナックの発明に始まる、いわゆるバルナックライカ)のことを思い浮かべつつ、外観のスタイリングから考えました。それがライカCLを「Oskar's Legacy.」(オスカーの遺産)と表現した理由です。1920年代にライカを作った人々が実現したかったことや、彼らの考えを、もう一度やっているような感覚ですね。

参考:バルナックライカの一例、ライカII型(1932年)

結果として、APS-Cフォーマットのカメラは小型で持ち運びがしやすく、相手に威圧感を与えず撮れるという利点も昔のライカから継承されています。より浅い被写界深度でボケを活かした表現を求める方には、35mmフルサイズのライカMやライカSL、中判のライカSシステムを用意しています。

M型ライカの最新モデル、ライカM10(2017年)

また、ライカTLレンズは評価基準が35mmフルサイズと異なり、APS-Cフォーマットに最適化しています。35mmフルサイズとAPS-Cで同じ画角を撮って同じ鑑賞サイズに拡大した場合、レンズの解像力の評価基準が同じでは、APS-Cのほうはシャープに見えません。そのためどちらも同じシャープさが得られるように、APS-Cレンズの解像力基準を35mmフルサイズの1.5倍に厳しく設定することで、バランスを取っています。なので、APS-Cレンズのほうが作るのが難しいのです。

ライカTLレンズのラインナップ。

——ライカCLの操作性について、ポイントを教えてください。
ライカの目指す操作性は「十分かつ最低限なボタンの数」です。ボタンはできるだけ少なくしたいと考えています。それでいてファインダーを覗いた状態のまま最低限のセッティングできることを意識して採用したのが、ボタンを押すことで機能が切り替わるダイヤルです。これによりファインダーを覗きながら全ての撮影操作ができるようになりました。

シャッタースピードを変更しているところ。
中央のボタンでダイヤル機能が切り替わる。

撮影者は、ファインダーを覗いた状態か、カメラを手に持った状態で上から設定を確認します。スナップ撮影においては、カメラを構える前に設定を済ませるという想定です。この上面の液晶パネルは周囲の明るさに応じてバックライトが点灯しますし、目立たないことが大事なシーンでは完全にオフにもできます。

周囲の明るさによりバックライトが自動点灯する。

——新たに最薄のエルマリートTL 18mmレンズが新登場しましたが、コンパクトな広角レンズに要望があったのですか?
以前からズミクロンTL 23mm F2という小型のレンズがありますが、デイリーユースやスナップショットのためにはもっと小さいレンズがあってもいいのではと考え、18mmの"スーパー・パンケーキ"を開発しました。この画角は28mmに近いです。

ライカ エルマリートTL f2.8/18mm ASPH.

開放F値をF2.8としたのは、ライカX1が搭載していた35mm相当F2.8のレンズがユーザーに受け入れられたためです。これにより開放F値の明るさを追わず、よりコンパクトに仕上げたレンズにもニーズがあるとわかりました。

——ライカでは伝統のM型と先進のAPS-Cカメラをどう棲み分けていますか?
レンジファインダーカメラのM型ライカは「バイオリンを弾くようなもの」だと言われます。ライカといえばMシリーズなので人気がありますが、使いこなすには勉強や習熟が必要で、それも楽しみになっています。また35mmフルサイズミラーレスのライカSLは、プロ向けのワーキングホースと言えるでしょう。

ライカSL

それらは決して万人向けではないため、もっとデイリーユースというか、もう少し簡単で、写真にエントリーしやすいカメラとしてAPS-Cシステムを考えています。ライカCL/TL2は「もっと撮りたい」「もっと上手になりたい」と考えるクリエイティブな人々に向けていて、いつでも気軽にカバンに入れて持ち歩き、AFでスナップするような撮影を楽しんでもらうカメラです。

ライカCLのAFモード設定。タッチパネルを活用したタッチAFもある。
絵作り設定「フィルムモード」。白黒モードも積極的に楽しみたくなる。

——新しいアクセサリーについて聞かせてください。
アクセサリーは、常にカメラのコンセプトに沿うべきと考えています。ライカTL2ではモダンでカラフルな雰囲気のアクセサリーを揃えましたが、ライカCLはカメラの佇まいがクラシックでアイコニックなため、ビンテージルックなレザー素材を使いつつ、しかし古くさくならないようにフレッシュなひねりを加えたケースやストラップに仕上げました。

表面にツヤのある革素材を用いたレザーケース。裏蓋が開閉し、装着したままバッテリーやSDを交換可能。
ビンテージテイストのカメラストラップ。このタータン柄にマイケ氏は「1970年代に母が着ていたスカート」を連想するという。レザーとの組み合わせが新鮮だ。

ライカCLファーストインプレッション

外装と操作性に注目して、短時間ながら試してみた。外装は上下カバーがアルミ削り出しで、本体がマグネシウム。ライカに期待されるような重厚感がありつつ、見た目より軽量に仕上がっている。ライカ製品のパッケージングとしては頑張りが感じられる価格にも、新規ユーザーへのアピールが伺える。

APS-Cサイズ相当のCMOSセンサーを搭載。有効2,424万画素で感度はISO100〜50000。

内蔵EVFは、ライカのAPS-Cミラーレスとして初めての搭載。見え具合がよく、スペック表に現れない接眼レンズの部分にも十分なコストをかけていることが伝わる。ライカの内蔵EVFの中では35mmフルサイズの「ライカSL」に続いて高い品位に感じられ、眼の位置が多少ズレてもファインダー像が歪んだり滲んだりしないのが心地よい。ライカのように必要性を超えて心を満たすカメラにとって、こうしたインターフェイスの気持ちよさは必須の条件だろう。ファインダー上部のでっぱりはバルナックライカと見比べれば気になるが、このクオリティのファインダーを内蔵するためなら十分に納得できるレベルだと思う。

ライカCLの軍艦部
EVFに関する設定。「EVFアドヴァンスド」は、EVFで撮影、背面モニターで再生という挙動になる。上面ディスプレイは、バックライトの点灯について「常時オン/常時オフ/自動点灯(オート)」を決める。

操作ダイヤル類は、最低限かつ十分なもの。タッチ操作がメインのライカTLシリーズとは異なり、レンジファインダーの「ライカM10」に見られるシンプルさを受け継いでいるように感じた。上面に2つ並ぶダイヤルは、ボタンにもなっており、ダイヤルの機能が入れ替わる。通常は左から「シャッター速度/絞り(優先AE時はどちらかが露出補正)」のところ、それぞれボタンを押すと「撮影モード選択/ISO感度(割り当て変更も可能)」に切り替わった。背面Fnボタンにはホワイトバランスの選択などを割り当てられ、わざわざメニュー画面を開く手間が減る。

背面ボタンは、ライカM10に通じるシンプルさ。
バッテリーはBP-DC12。ライカTL2はUSBケーブルでバッテリーの充電と画像転送も可能だったが、ライカCLは非対応になっている。

シャッターは最高1/8,000秒のメカニカルシャッターのほか、最高1/25,000秒の電子シャッターで無音撮影も可能。電子シャッター使用時は、電子音をオンにすると擬似的なシャッター音を鳴らすこともできる。フィルムライカからサンプリングされたと思しき音色で、シャッター幕の走行や特定のシャッタースピードで聞かれる「シャンシャン」という残響音まで再生される。小粋な演出と言えよう。

電子シャッターの設定。「OFF」はメカシャッターのみ、「毎回」は電子シャッターのみ、「追加機能」はメカシャッターの範囲を超えると電子シャッターに切り替わる。

18mmレンズで撮影を試したところ、AFスピードは十分で、絞りやシャッタースピードなどのダイヤル操作への追従性も高い。操作レスポンスに「待たされ感」が少ないカメラは、デジタル機であってもしみじみ長く使えるというのが筆者の考えだ。ライカCLはその条件を満たしている。また、近年のライカはファームウェアアップデートによる機能向上が著しいため、1年、2年と熟成された時、さらに手に馴染むカメラへ進化しているのではないかと期待できる。

動画設定の画面。音声の入出力端子などはないが、カメラ本体での4K/30fps記録に対応している。
MENUボタンを押すと「お気に入り」が開く。よく使う項目を好みで並べておき、必要な時だけ詳細メニューを開くという操作スタイル。
お気に入りの編集画面。

本誌:鈴木誠