ライカレンズの美学

LEICA APO-VARIO-ELMAR-TL F3.5-4.5/55-135mm ASPH.

被写体を選ばない万能さが魅力の望遠ズーム

ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今回はライカTLシリーズおよびライカCLに使用できるAPS-C望遠ズームレンズ、APO-VARIO-ELMAR-TL F3.5-4.5/55-135mm ASPH.(ライカ アポ・バリオ・エルマーTL f3.5-4.5/55-135mm ASPH.)を取り上げたい。

本レンズは35mmフルサイズ換算で80-200mm相当という、望遠ズームとしては定番の焦点域をカバーする1本。開放F値をF3.5-4.5に抑えていることもあって小型軽量に作られており、フィルター径は60mm、重さは500gにまとまっている。本連載の前々回でご紹介した広角ズーム「SUPER-VARIO-ELMAR-TL F3.5-4.5/11-23mm ASPH.」と共に2014年のフォトキナにて発表され、2015年3月に発売開始された。

鏡胴は55mm位置の時に最も短く、望遠側へズーミングすると内筒が前方へ繰り出される。望遠ズームとしては一般的な形式だ。SUPER-VARIO-ELMAR-TL F3.5-4.5/11-23mm ASPH.は鏡胴本体だけでなく繰り出される内筒まですべてアルミ製であることに驚いたが、本レンズは望遠ということもあり内筒を樹脂製にして軽量化が図られている。ただしズームリングの回転品位は実に滑らかで、ズーミング中に回転トルクが変わったりすることは皆無だし、最望遠側の135mmまでズーミングしても、内筒の位置決めにガタつきは一切感じられない。他のライカレンズ同様、非常に精度の高さを感じさせる作りだ。

ズーミングによる全長変化は実測で約43mmほど。

レンズ構成は10群12枚で、そのうちの1枚/1面が非球面となっている。最短撮影距離はズーム全域で1m。フォーカシングは後群の2枚を動かすリアフォーカス式なのでピント合わせに伴う全長変化や前玉回転は生じない。フードは基部のみ金属製で、本体は樹脂製のものが付属する。あえて全体を金属製のフードにしないのは、何かにぶつけたときにフードで衝撃を吸収した方がいいという考え方のためだろう。もちろんフードは逆付け可能なので、携帯時はコンパクトに収納できる。

フードを装着したところ。有効長はしっかりとある。逆付けももちろん可能。

描写は最新レンズとして十分に満足できる解像性能を持っていることを確認できた。絞り開放から合焦部のコントラストは高めで、キリッとした写りが楽しめる。今回はライカCLと組み合わせたが、ボディ側の巧みな画作りもあって、ハイライト側のトーンの残り方も期待通りだ。絞り開放ではわずかに周辺減光があるが、非常に緩やかな落ち方なので、むしろ雰囲気を盛り上げるのに役立つ印象もある。

絞り羽根は9枚で、かなり奥まった位置にある。写真はF11まで絞ったところ。

逆光耐性も抜群で、あえて強い逆光条件で撮影してもコントラスト低下を起こすことはほとんど無かった。今回はスナップ中心で人物は撮らなかったが、ボケ味もクセがなく、決してギスギスしない柔らかな印象なので、ポートレート撮影にも向くだろう。

軽量なライカCLとの組み合わせでもレンズ側がヘビー過ぎることはなく、手持ち撮影のバランスはすこぶる良好。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/320秒 / WB:オート / 65mm
海上は湿度の影響で解像性能がスポイルされる条件だが、それでも遠景の船上で甲板を歩く人がハッキリと確認できる。ライカCL / ISO100 / F4.5 / 1/400秒 / WB:オート / 56mm
合焦部のシャープさはかなりハイレベル。ライカCL / ISO500 / F8 / 1/200秒 / WB:オート / 75mm
画質の均質性が試されるような被写体だが、結果は良好で周辺部でも解像は高い。ライカCL / ISO250 / F8 / 1/160秒 / WB:オート / 55mm

軽量なレンズなので三脚座は用意されていないが、カメラボディ側の三脚穴を使って長秒撮影をしてもブレてしまうことはまったくなかった。夜景撮影ではたとえクルマ移動であっても、撮影ポイントまでは歩いて移動しなくてはならないことが多いが、そんな時でも本レンズなら軽量なカーボン三脚で十分に間に合う。とにかく機動性に優れており、余計なストレスを感じずに撮影に集中できるのはありがたい。風景からスナップ、ポートレートまで活用範囲の広いオールマイティな望遠ズームと言えるだろう。

今回はズーム両端だけではなく、中間の焦点域でもかなり撮影してみたが、特に画質に不満が出る焦点域はなく、ズーム全域で高画質が保たれていると感じた。ライカCL / ISO100 / F5.6 / 1/500秒 / WB:オート / 100mm
どちらかというと線が細い繊細な描写というよりは、力強いリアリスティックな写り方が身上。ライカCL / ISO200 / F5.6 / 1/400秒 / WB:オート / 123mm
前ボケもいたって自然で本当にクセがない。ライカCL / ISO640 / F5.6 / 1/400秒 / WB:オート / 135mm
望遠端、絞り開放のボケ味はこんな感じ。二線ボケ傾向もなく、柔らかなアウトフォーカス描写だ。ライカCL / ISO400 / F4.5 / 1/400秒 / WB:オート / 135mm
望遠ズームとしては軽量でハンドリングもいい。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/6秒 / WB:オート / 135mm
ライカCL側の画像処理性能が高いおかげか、ハイライト部のディテールが想像以上に再現された。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/200秒 / WB:オート / 135mm
光源が多数フレームインする条件でもゴーストの発生はほとんどなかった。ライカCL / ISO100 / F16 / 8秒 / WB:オート / 55mm
長秒露光なのでもちろん三脚使用だが、レンズが軽量なこともあり、それほど大がかりではないミドルサイズ三脚で十分なのはありがたい。ライカCL / ISO100 / F8 / 12秒 / WB:オート / 122mm

協力:ライカカメラジャパン

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。