ライカレンズの美学

LEICA SUPER-VARIO-ELMAR-TL F3.5-4.5/11-23mm ASPH.

オールマイティに使える広角ズーム

ライカレンズの魅力をお伝えする本連載。今回はライカCLライカTL2などのAPS-Cフォーマットモデル用のズームレンズ、SUPER-VARIO-ELMAR-TL F3.5-4.5/11-23mm ASPH.を取り上げたい。35mm判フルサイズ換算で17-35mm相当となる広角ズームで、開放値はF3.5-4.5。それほど大口径ではないこともあってフィルター径67mm、重さは386gと、なかなか携帯性のいいサイズと重さに仕上がっている。今回はライカCLと組み合わせて試用したが、ボディとのバランスはいたって良好で、必要であれば片手で撮ることも可能だ。

鏡胴は23mm位置のときに最短で、広角側へズーミングすると内筒が前方へ繰り出されるタイプ。一般的にこういうズーム構造の場合、鏡胴の外筒は金属製であっても繰り出される内筒は樹脂製のことが多いが、本レンズでは外筒、内筒共にアルミ製であり、その意味でも外装品位は相当に高い。また、同じライカTLレンズでも単焦点タイプは鏡胴外観がシンプルすぎてやや素っ気なく感じるが、本レンズはズームリング上に白い数字で焦点距離が記されていることもあって、シンプルすぎる印象はなく、個人的にはかなり好みな外観デザインだ。携帯性のよいズームレンズとはいえデザインや外観の仕上げは正にライカクオリティで、ブラックアノダイズ処理が施された鏡胴は機能美に満ちている。

ズーミングは23mm側でレンズ全長が最短となり、広角側へズームするに従って内筒が繰り出されてレンズ全長が伸びる。総繰り出し量は実測で14mmほど。内筒も金属製なのはさすがライカ。
フォーカスリングとズームリングは金属ローレット。ラバーなどは貼り込まれていないため経年劣化の心配はない。
レンズフードは花型で、バヨネット取り付け式。他のTLレンズ、SLレンズと同様に基部は金属製。

レンズ構成は11群14枚で、そのうち2枚4面が非球面となっている。鏡胴は23mm時に最も短く、11mm側になるほど内筒が繰り出されて長くなると前述したが、単純に前群レンズが前方へ移動するだけではなく、広角側へズーミングすると絞り羽根以降の後群のレンズがそれぞれの間隔を微妙に変化させつつ後方へバックする仕組みで、なかなか凝った光学系になっている。フォーカスレンズの移動量もしっかりと確保されているようで、最短撮影距離は20cmと短い。

近接能力は優秀でもう少し寄れる。広角独特のダイナミックな接写が可能。ライカCL / ISO400 / F4.5 / 1/200秒 / WB:オート / 23mm
近接、中距離、遠景といろいろな被写体を撮ってみたが、撮影距離に関わらず描写は常に安定している。ライカCL / ISO200 / F8 / 1/50秒 / WB:オート / 23mm
絞り開放でも周辺光量落ちは比較的少ない。ここでは雰囲気を出すために現像時にあえて周辺を少し落とした。ライカCL / ISO400 / F4.5 / 1/160秒 / WB:オート / 23mm
23mm側、絞り開放のボケ味はこんな感じ。ライカCL / ISO400 / F4.5 / 1/250秒 / WB:オート / 23mm
開放でもF4.5なのでボケ量は小さいが、前ボケはとても素直。ライカCL / ISO125 / F4.5 / 1/50秒 / WB:オート / 23mm

描写は充分な解像性能を出しつつも、ディテール重視のライカらしい写りで、決して解像最優先のカリカリな感じではない。広角レンズで気になる歪曲も少なく、ズーム位置による解像変化も最小限に抑えられている。絞り設定に関わらず合焦部には十分な解像性能とコントラストが出ているのは他のライカTLレンズと同じで、絞り開放から安心して使うことができる。最短撮影距離近くまで寄ったときでも解像性能がほとんど落ちないのも流石だ。

また、広角レンズは画角が広いため太陽や電球等の光源がフレームインすることも多いが、本レンズの逆光耐性はなかなか優秀で、かなり強力な光源が入ってもコントラスト低下は極めて少ない。もちろん、画面内の光源位置、角度によってはゴーストが出てしまうことはあるのだが、そうしたゴーストが出てしまうほどの状態でもコントラストはほとんど下がらず、メリハリのある描写を得られるのだ。

最新設計らしい、スカッとヌケのいい描写を得られる。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/250秒 / WB:オート / 23mm
逆光でもフレアによるコントラスト低下はほぼ感じられない。ライカCL / ISO100 / F16 / 1/25秒 / WB:4,500K / 11mm
F8まで絞った。像の均質性は申し分ない。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/320秒 / WB:オート / 23mm
11mm側ではわずかにタル型の歪曲が残っているが、ご覧の通り直線物の被写体でも気になるほどではない。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/250秒 / WB:オート / 11mm
23mm側では歪曲はほとんど感じられない。ライカCL / ISO100 / F5.6 / 1/80秒 / WB:4,500K / 23mm

繰り返しになるが、鏡胴外観の仕上げの良さと携帯性を妨げない適度なコンパクトネス。そして広角ズームとしてはかなりの近接撮影も可能な最短撮影距離とズーム全域で優れた描写性能を得られる本レンズは、風景からスナップ、ポートレートなど、とにかく被写体を選ばずにオールマイティに使うことが可能だ。ライカAPS-Cシステムカメラ使っている人にとってはぜひとも揃えておきたい1本と言えるだろう。

自転車移動中、信号で停まったときに偶然発見した古い建物。引きがない場所でも広角ズームだと構図の自由度は高い。ライカCL / ISO100 / F4.5 / 1/500秒 / WB:オート / 18mm
深度が欲しかったのでF8で撮影。画面全体で実にキレのいい写りを得られた。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/400秒 / WB:オート / 11mm
個人的に好物な錆びた被写体。錆びのディテールが手に取るように伝わってくる描写だ。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/160秒 / WB:オート / 11mm
金網越しだったのでフードを外して網目から撮影。レンズ径が大きすぎないメリット。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/200秒 / WB:オート / 23mm
このような被写体でも細部まで解像していて描写力はかなり高い。ライカCL / ISO125 / F5.6 / 1/50秒 / WB:オート / 23mm
水平を見失いやすいシーンではライカCLの内蔵水準器が便利だった。ライカCL / ISO100 / F8 / 1/125秒 / WB:オート / 11mm
こうした被写体ではあまり関係ないけれど、AF速度は充分でイライラすることはない。ライカCL / ISO160 / F5.6 / 1/50秒 / WB:オート / 23mm
RAW現像時にモノクロ化した。硬すぎない描写なのでモノクロにしても味わいがある。ライカCL / ISO400 / F10 / 1/250秒 / WB:オート / 11mm
カメラ側の画作りもあるが、質感再現は本当にスゴイ。ライカCL / ISO125 / F8 / 1/125秒 / WB:オート / 23mm

協力:ライカカメラジャパン

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。