インタビュー

外観も動作もスムーズになった「ライカTL2」の進化点

スマートフォン並みの快適操作を追求

ライカTL2製品担当者のマイケ・ハルベルツさん。7月21日の製品発表イベントにて

ライカカメラ社が7月10日に発表したAPS-Cミラーレスカメラ「ライカTL2」の製品担当者にインタビューする機会を得たため、日本国内で行われたお披露目イベントの模様と交えてお届けする。

ライカTL2
撮影画面。タッチパネルのほかに、右上のダイヤル2つに絞り値や感度の設定を割り当てられる

ライカTL2は、2014年に登場した「ライカT」から数えて3代目となる、APS-Cフォーマットのミラーレスカメラ。アルミ削り出しのボディシェルや、デジタルカメラとしては大きな3.7型のタッチパネル式モニターが特徴的で、35mmフルサイズの「ライカSL」とレンズマウントを共用している。

その最新モデルとなるライカTL2は7月22日の発売が予告されていたが、外付けEVF使用時に不具合が起きる可能性が見つかったとして延期中。ファームウェアの修正で数日中に改善する見込みで、新しい発売日も追って決まる予定だ。

製品発表イベントでは、独ライカカメラ社でライカTLシステムを含むAPS-Cカメラを担当しているマイケ・ハルベルツさんが登壇。「スペック表の説明は退屈なので」と前置き、自ら撮影した写真を示しながら、カメラとしての進化点や利便性を説明した。製品発表会でメーカー担当者が自ら撮影した写真を示すことは珍しく、印象に残った。

2週間前にマイケさんが友人のウェディングパーティーで撮ったという1枚。階調表現が見どころ
こちらもマイケさんの撮影。暗い場所でもシャープに写せるという例
新搭載の機能である最高1/40,000秒の電子シャッターで噴水を写し止めた

ボディカラーは精悍なブラックが目を引く一方で、シルバーの外装に写り込む光の陰影も美しい。ライカTL2は基本のスタイリングこそ初代のライカTから継承しているが、表面仕上げや各部の操作感触などが細かくリファインされており、外観と機能面の双方がレベルアップしていることがわかる。ライカやカメラのことを知らない人でも気になるようなデザインは、伝統のM型に並ぶ新しいライカの顔として広まっていくかもしれない。

また、会場で手にした実機は、再生画面のスクロールや拡大・縮小の操作など、まさにスマートフォンのようなスムーズさを実現していた。2014年に発表された当時の「ライカT」を触って感じられた"気持ちに体が追いつかない"といった筆者の印象は、ライカTL2を試したことで払拭された。

インタビュー

マイケ・ハルベルツさん

ライカTL2の製品担当者であるマイケさんに、改めてライカTL2のコンセプト、デザインと使い心地、レンズ展開の観点で話を聞いた。

——初代の登場から3年になりますが、ライカTLシステムへの反応はどうですか?

タッチ操作がメインのGUIを気に入っていただき、交換レンズも質が良いという反応でした。ただ、外観は素晴らしいと評価を得る一方で、AFが遅かったり、タッチ操作のレスポンスが良くなかったりという不満点も聞いていたので、そこを向上してきました。ライカTL2は、そうしたフィードバックから作られた最新モデルです。

——ライカTLシステムはどのような方々に使われてきましたか?

すでにM型ライカを持っていて、M型のレンズをアダプターで使う方も多ければ、ライカTLシステムで初めてカメラを買ったという方も多いです。当初はいわゆる"ライカ好き"のユーザーが多かったのですが、やがて認知が広まって、初めてのライカとして手に取る方も増えてきました。

——ライカのカメラには、中判一眼レフのライカS、35mmのライカSLやM型からコンパクトカメラまである中で、ライカTLシステムはどのような位置づけですか?

ライカTLシステムが採用するAPS-Cというフォーマットは、エントリーのシステムカメラとしてパーフェクトな位置づけだと考えています。価格的にもいくらか手にしやすいです。それもあって、ライカではAPS-Cフォーマットのレンズ交換式カメラを重要視しています。

——日本ではライカといえば伝統のM型に思い入れが強いですが、ライカTLシステムはそれ以外の新しいユーザー層をカバーしそうです。国ごとに嗜好の違いはありますか?

国によってはっきりとした違いはありませんが、ライカTLシステムはわずかにアジアでの人気が高いようにも思います。

特徴的なデザインについて

——ライカTLシステムは、アルミ削り出しという外装マテリアルの存在感が強いです。美しい腕時計を身につけるような心地よさがあると思いますが、こうした感覚も当初から狙っていましたか?

はい、外装の質感も大事にしたポイントのひとつでした。人の心理として、まず最初はカメラを目にして、そこで好きか嫌いかが判断されます。その審査をパスすると、ようやく手に取ってもらえて、電源を入れて操作して、シャッターを切って……と親しんでもらえます。なので、カメラは技術的な特徴よりも先に、エモーショナルであることがとても大事です。

——ライカTL2ではボディのエッジやアルミ表面の処理など、より仕上げが洗練されたように思います。金属加工について、新技術の導入や研究がありましたか?

デザインについては、ライカのDNAとして常に向上するよう研究しています。ライカTLに比べて、ライカTL2の表面は手触りがよりスムーズになりました。これは、角のエッジを丸めたこともありますが、アルミ合金自体の素材を変えていることも理由です。ダイヤルやボタンの感触も従来より良くなっています。

——2014年の初代発表時には、作業者がアルミボディを手磨きで仕上げていることがアピールされていました。45分の作業工程をまるまる動画でも見せていましたが、今はどうですか?

全く変わっていません。ただこの3年間で作業者も熟練していますから、実際には39分ぐらいかもしれません(笑)。ライカTLシステムの外装はポルトガル工場でアルミのインゴットから削り出し、人の手で磨き上げています。それをライカカメラ本社のあるドイツのウェッツラーに運んで組み立てています。

——アルミ削り出しのボディには、カメラとしての構造的なメリットもありますか?

はい。削り出しということは、カメラがワンピースのアルミブロックに守られているということなので、とても頑丈です。皆さんにはやってほしくありませんが、(ライカTL2の角を机にコンコンと当てながら)こういうことをするのも抵抗がありません。

——操作性のデザインという意味だと、ライカTLシステムにタッチ操作を大きく取り入れたのは冒険だったと思います。難しさはありましたか?

タッチパネルを採用するにあたっては、"物理ボタンを前提としたメニュー画面にタッチ機能を加える"というよくあるやり方ではなく、「さわれる」感覚を出そうと工夫しました。つまり、タッチパネルの意味があるアイコンベースのGUIにするというチャレンジです。しかし、これ自体はそんなに難しくありませんでした。

もっとも難しかったのは、多くの方々が"タッチ操作"と聞いて連想するiPhoneなどのスマートフォンのスムーズさに近づけることでした。デジタルカメラ用のASIC(集積回路)であのスムーズな操作感を実現するには苦労がありましたが、新ハードウェアでライカTLの最大8倍となるパフォーマンスを実現し、スマートフォンの感覚と遜色ないレベルに仕上がりました。

ほかにパフォーマンス向上という意味では、Wi-Fi接続の安定性や、撮影画像の保存速度など、あらゆる改善があります。カメラの細かな設定を行うメニュー画面にもカテゴリ分けを加えて、より目的のメニューを探しやすくしました。

新設されたカテゴリ分け画面

絵作りや仕様について

——ライカTL2で、画質や絵作りのコンセプトは変わっていますか?

変えていません。ナチュラルな色でシャープな描写があり、JPEGでも誇張しない「ライカルック」と呼ばれる自然な色表現です。もし大きく作風を変えたい場合は、フィルムモードとして白黒やビビッドな色合いも選べます。

手軽なカメラほどJPEG記録の使用比率が高く、詳しい方はJPEG+DNG設定で記録して、DNGをセキュリティとして保存しているようです。ちなみに、スマートフォン用の「Leica TL App」では、転送するJPEG画像の自動リサイズ機能もあります。

——内蔵フラッシュを外したのは、高感度特性が良くなったからですか?電源レバーが扱いやすくなり、ボディ上面の眺めもスッキリしました。

内蔵フラッシュはほとんど使わないという声が多くありました。CMOSセンサーと画像処理エンジンが新しくなり、ISO 50000まで使えるようになったことも内蔵フラッシュの省略を後押ししました。私個人としては内蔵フラッシュも気に入っていましたが、デザイナーはフラッシュ部分の丸いカットがなくなったことで、上面がより美しくなったと話しています。

ライカTL2では中身のハードウェアを一新しつつ、本体サイズはキープしています。なので、フラッシュを取り除いたことで生まれるスペースを、より自由な基板レイアウトや4K動画記録に対応した新しいイメージセンサーの放熱対策などに利用しようと判断しました。

——日本のデジタルカメラは「付けられる機能は付けておく」が何よりの顧客サービスという風潮ですが、こうした割り切った判断ができるのもライカの社風ですか?

はい。ライカは新機能も入れますし、いらないものは勇気を持って取り払います。

——USB充電が可能なのは、レンズ交換式カメラではまだまだ珍しいです。

カメラは常に撮れる状態にあるべきですから、ユーザーがたくさんのことを気にしなくていいように配慮した機能のひとつです。もしバッテリーが切れていても、モバイルバッテリーから数分充電すれば少し撮影できるようになります。ライカTL2では端子がUSB Type-Cになっていて、高速充電には非対応ですが、従来よりは速く充電できるようになっています。

また、32GBの内蔵ストレージを備えているのもユーザーの心配事を減らすためで、もしメモリーカードを忘れても撮影できます。この内蔵ストレージからの画像転送も、インターフェースがUSB 3.0になったことで高速になりました。

レンズやアクセサリーについて

——ライカTLとライカSLは同じライカLバヨネットマウントですが、それらのボディを使い分けているケースはありますか?

ライカSLをメインに、ライカTLをサブに持つというケースがあります。また、APS-Cフォーマットはビデオ用途に親和性が高く、ライカSLにAPS-C用のアポ・マクロ・エルマリートTL 60mm F2.8を組み合わせて使っているカメラマンがいると聞きます。

——TLレンズの性能基準やラインナップについて、コンセプトを教えてください。

ライカはTLレンズで初めてAPS-Cフォーマット用レンズを作りましたが、その時にピーター・カルベ(ライカカメラ社の光学設計部門責任者)と解像性能の基準について研究しました。当時はそのカメラのカテゴリー(システムカメラか、コンパクトカメラか)によって撮影画像の拡大率を想定しながら性能検討していましたが、同じシステムカメラでも35mmフルサイズとAPS-Cでは拡大率が違ってくるので、35mmフルサイズの40本ペア(白黒ペアを1本の線として、1mmの中に何本解像するか)より厳しい60本ペアを基準にしました。レンズは常にシステムの中心(Heart of system)で、イメージセンサーが進化しても耐えうる性能でなければならないからです。

また、量産における性能のばらつきを抑えることにも注力していて、設計値から一定の基準内に個体差が収まるよう、現在でも交換レンズを全数検査しています。ライカの"Made in Germany"とは、全ての商品が最高のクオリティであるという、品質を象徴する意味も持っています。レンズの性能検査は6年前に自動化できましたが、それまでは全ての個体を人が投影検査(撮影レンズで解像チャートを拡大投影する)で端までチェックしていました。

TLレンズのラインナップは、まず最初にあらゆる局面をカバーできる広角・標準・望遠のズームレンズ3本と、コンパクトさを押し出した35mm相当の単焦点レンズ1本の計4本でスタートしました。昨年、より専門的なズミルックスTL 35mm F1.4やアポ・マクロ・エルマリートTL 60mm F2.8を追加した段階です。性能的には妥協せず、できるだけコンパクトなレンズを常に目指しています。

本誌:鈴木誠