FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー

Xマウント超広角レンズについて藤村大介さんに聞く

8-16mmF2.8/10-24mmF4/16-55mmF2.8

お話をうかがった写真家の藤村大介さん。世界の風景を撮り歩いている。

2012年、Xシリーズとともに誕生したXマウントレンズは、富士フイルムが誇る「フジノン」の名を冠した最高性能の交換レンズ群である。登場から6年という短期間にもかかわらず着実にラインナップを充実させ、多くの愛好家を魅了しつづけているのはご存知の通りだ。

しかし、ラインナップが充実してくるほどにわれわれユーザーを悩ませるのが「結局どのレンズを買うのが自分にとっての正解なのだろうか?」という問題である。特に、同じ焦点距離でありながら併売されているレンズの場合、どうしてもその真意を尋ねて納得したくなるというものだ。

そこで、スペックシートだけでは分からない特徴を導きたく、それぞれのレンズをリアルに愛用する写真家に聞いてみようというのが、この連載だ。

視角を超える強烈なインパクトの超広角ズーム

今回のテーマは超広角ズームレンズ。目の前に広がる広大な景色を1枚の写真に収めたり、強烈なパースで被写体同士の距離感を強調したりと、視覚を超えた広い画角でインパクトの強い写真を撮ることができる。

ただし、富士フイルムから発売されているXシリーズの超広角ズームレンズは「XF10-24mmF4 R OIS」のみ。上位クラスのレッドバッジシリーズとして「XF8-16mmF2.8 R LM WR」が発売(2018年11月29日)を控えているが、残念なことに取材時点では店頭に並んでいなかった。

そこでまず次の2本を取り上げ、それぞれの特徴と使い分けのポイントを見ていくことにした(緊急で試写してもらったXF8-16mmF2.8 R LM WRのレビューも巻末に記載した)。なお、大口径標準ズームレンズに属するイメージのXF16-55mmF2.8 R LM WRを取りあげた理由は、ワイド端で超広角の入り口となる焦点距離を有するレンズであるためだ。

XF10-24mmF4 R OIS
XF16-55mmF2.8 R LM WR

XF10-24mmF4 R OIS

35mm判換算で焦点距離15-36mm相当となるF4通しの超広角ズームレンズ。ズーム全域で開放F値F4で固定のため、レッドバッジズームレンズシリーズほどではなくとも高性能なラインに位置づけされていることが分かる。15mm相当となるワイド端の画角はかなりの超広角であるが、テレ端は36mnm相当に設定されているため、視覚を超えたアグレッシブな画角と、視覚に近い準標準域の画角を1本で同時に撮影できることが特徴。F4通しながら、長さ約87mm、質量約410gと軽量コンパクトに仕上がっており、さらに光学式の手ブレ補正機構「OIS」も搭載している。

XF16-55mmF2.8 R LM WR

最高品質を誇るレッドバッジシリーズに属するズームレンズ。卓越した描写性能をもつF2.8通しの大口径ズームレンズであるが、描写性能を重視しているためかXマウントのレンズとしては重く大きく高価である。Xマウントの標準ズームレンズの多くがワイド端18mm(35mm判換算27mm相当)でスタートしているのに対して、2mm広い16mm(35mm判換算24mm相当)の画角からはじまっていることも特徴のひとつである。なお、光学式手ブレ補正機構「OIS」は非搭載。

XF10-24mmF4 R OISXF16-55mmF2.8 R LM WRXF8-16mmF2.8 R LM WR
発売年月2014年2月2015年2月2018年11月
実勢価格
(税込)
10万9,900円前後13万9,600円前後27万円前後
レンズ構成10群14枚12群17枚13群20枚
非球面レンズ4枚3枚4枚
異常分散レンズ4枚3枚6枚
焦点距離15-36mm相当24-84mm相当12-24mm相当
最大口径比
(開放絞り)
F4F2.8F2.8
最小絞りF22F22F22
絞り羽根枚数7枚9枚9枚
円形絞り
ステップ段差1/3ステップ1/3ステップ1/3ステップ
撮影距離範囲標準0.5m〜∞
マクロ24cm〜∞
標準0.6m〜∞
マクロ30cm〜10m(広角端)/
400cm〜10m(テレ端)
25cm〜∞
最大撮影倍率0.16倍(テレ端)0.16倍(テレ端)0.1倍(テレ端)
外形寸法78×87mm83.3×106.0mm88×121.5mm
質量(約)410g655g805g
フィルターサイズ72mm77mm

超広角ズームレンズの使いどころは?

今回インタビューをお願いしたのは、“世界の夜景”を撮影し続けている藤村大介さん。夜景だけでなく、分かりやすく心地良い表現と時空や宇宙を感じる心の表現で、世界遺産や世界の街なみ、民族、建築物などの作品も発表している。

藤村さんは今回取りあげた、XF10-24mmF4 R OISとXF16-55mmF2.8 R LM WRの両方をよく使われているとのことだ。

——さっそくですが、超広角ズームレンズのXF10-24mmF4 R OISはどのようなシーンを撮影する時に使われていますか?

藤村:まず、被写体となる景色や建築物が大きければ必然的に超広角レンズを使うことになりますし、夕景や夜景で空を広く入れたい場合などにも積極的に使っています。

XF10-24mmF4 R OIS
撮影:藤村大介
X-T2 / 12.6mm(19mm相当) / 絞り優先AE(20秒・F16.0・-0.3EV) / ISO 200

XF10-24mmF4 R OIS
撮影:藤村大介
X-H1 / 10.0mm(15mm相当) / 絞り優先AE(0.5秒・F7.1・±0EV) / ISO 400

——単焦点レンズ、例えば富士フイルムなら「XF14mmF2.8 R」などは使われないのでしょうか?

藤村:僕の撮影では撮影ポイントが限定されていて、自由に被写体との位置を決められない場合が多いので、単焦点レンズを使う機会があまりありません。超広角域でも、同じ位置で画角を変えられるズームレンズの方がずっと活躍してくれます。

——ずばりお聞きしますけど、XF10-24mmF4 R OISの良さはどこにありますか?

藤村:ずばり、コンパクトで軽く、描写性能も良いところです。広大な景色だけでなく、カメラを持ち歩いて街中を撮影することも多いので、このサイズと軽さはとても助かります。F4通しのレンズでここまでコンパクトなレンズは他にありませんよ。

——描写性能も良いというのは、作品撮りでも満足できる性能ということでしょうか?

藤村:大丈夫、十分に満足できる解像性能がありますね。写真展で大きく伸ばしてプリントしたこともありますけど、ぜんぜん問題ありませんでした。富士フイルムは高性能ラインでなくても、どれも高画質なレンズが揃っているところがいいと思っています。

XF10-24mmF4 R OIS
撮影:藤村大介
X-T2 / 13.8mm(21mm相当) / マニュアル露出(0.5秒・F4.0) / ISO 3200

それでも16-55mmを併用する理由とは?

——そうなるとレッドバッジのXF16-55mmF2.8 R LM WRは出番が少なそうですね。

藤村:うーん……。ところがそうでもなくて、XF16-55mmF2.8 R LM WRもよく使うレンズなのです。XF10-24mmF4 R OISの描写性能が良いという話をしましたが、厳密なことを言えば、やっぱりレッドバッジのXF16-55mmF2.8 R LM WRの方が高画質なのは当然です。

僕が撮る写真ですと、街灯や夜空の星など点光源が画面内にたくさん入ることが多いのですが、XF16-55mmF2.8 R LM WRだと画面の隅々まで乱れることなく、きちんと点が点として写ってくれます。空のグラデーションや暗部の微妙な陰影など、階調表現もやっぱりレッドバッジの方が一枚上手だなと感じています。

XF10-24mmF4 R OIS
撮影:藤村大介
X-T2 / 12.6mm(19mm相当) / 絞り優先AE(18秒・F14.0・-0.7EV) / ISO 200
XF16-55mmF2.8 R LM WR
撮影:藤村大介
X-H1 / 53.3mm(80mm相当) / 絞り優先AE(1.3秒・F6.4・±0EV) / ISO 500

——開放F値が明るいということも夜景撮影では重要ですか?

藤村:夜景撮影をするときは三脚にカメラを固定して、絞りをF8からF11くらいまで絞り込みます。ですから、開放F値の明るさはあまり関係ないのですが、大口径レンズであるということは、そもそもの基本性能が高いということですし、開放から絞り込むまでいくらか余裕のあるほうが撮影結果もよくなります。

——XF10-24mmF4 R OISは手ブレ補正機構を内蔵していますが、XF16-55mmF2.8 R LM WRは手ブレ補正機構がありません。

藤村:三脚を用いて撮影しますので、基本的に手ブレ補正機構はオフにしています。その意味ではせっかくのXF10-24mmF4 R OISの手ブレ補正機構がもったいないですね(笑)。でも、使っているボディがボディ内手ブレ補正機構付きのX-H1なので、どのみち同じかも。X-T3やX-Pro2などで手持ち撮影が多い人にとってはXF10-24mmF4 R OISは利便性が高いといえるでしょうね。

X-H1に装着したXF10-24mmF4 R OIS
X-H1に装着したXF16-55mmF2.8 R LM WR

——するとXF10-24mmF4 R OISとXF16-55mmF2.8 R LM WRの使い分けはどのようにされているのでしょうか?

藤村:旅先でのスナップ撮影や撮影ポイントが山道にあるケースのように少しでも機材を軽くしたい場合は積極的にXF10-24mmF4 R OISを使います。画質は良いですし、何よりも(機材が軽いと)気持ちが楽になるので、快適に撮影ができます。反対に、しっかり腰をすえて撮影したい場合やポスター撮影の依頼など、細部まで画質に気をつかう必要がある場合は、ここぞとばかりにXF16-55mmF2.8 R LM WRを使います。

XF16-55mmF2.8 R LM WR
撮影:藤村大介
X-H1 / 20.6mm(31mm相当) / 絞り優先AE(1/3秒・F4.0・±0EV) / ISO 640
XF16-55mmF2.8 R LM WR
撮影:藤村大介
X-H1 / 48.5mm(73mm相当) / 絞り優先AE(4.5秒・F6.4・±0EV) / ISO 400

緊急試写!XF8-16mmF2.8 R LM WRを使ってみて

編集部注:インタビュー当時、まだ発売されていなかったXF8-16mmF2.8 R LM WR。発売直後、製品版を入手できたので1週間だけ使ってもらいました。

XF8-16mmF2.8 R LM WR。11月29日発売。

——前回お話をうかがってから、良いタイミングでXF8-16mmF2.8 R LM WRを使っていただく機会に恵まれました。

藤村:まだ使い始めたばかりで、詳細な画像の検証などはできていませんが、それでもレッドバッジズームらしい、重厚な手応えはすでに感じています。

XF8-16mmF2.8 R LM WR。X-T3に装着。

——同じ超広角ズームのXF10-24mmF4 R OISと比べて使い勝手はいかがでしたか?

藤村:開放F2.8のレンズだけに、XF10-24mmF4 R OISよりも大きく重いのは仕方ないでしょう。しかしその分だけしっかりとした造りの良さが伝わってきます。今日はたまたまX-T3に付けていますが、これだとちょっとフロントヘビー気味かもしれません。ただ、フルサイズセンサー搭載カメラの超広角ズームレンズに比べると、だいぶ小さくは感じます。

XF8-16mmF2.8 R LM WR
撮影:藤村大介
X-H1 / 8mm(12mm相当) / 絞り優先AE(20秒・F4.0・±0.0EV) / ISO 200

——光学性能はいかがでしたでしょうか?

藤村:モニターやPCで見た限り、解像感が非常に高くスッキリとヌケがよいことはわかりました。収差もかなり抑えられているようで、画面の周辺でも街の灯りが乱れることなく端正に写っています。僕の撮影では街灯や夜空の星など画面内に点光源が入ることが多いので、ここは非常に重要です。

——普段は三脚を使って絞り込むことが多いと聞きましたが、こちらの作品も同じようにして撮られたのですか?

藤村:この写真は展望台から撮影しましたので、三脚を立てることができず手持ちで撮りました。ですので、シャッター速度との兼ね合いから絞りをF4までにしかできませんでしたが、それでも画面全体に高い解像感があって四隅まで綺麗に写ってくれました。画角もワイド端で焦点距離8mmと広いので、展望台のように撮影場所が限定されても構図の自由度が高くて助かります。

XF8-16mmF2.8 R LM WR
撮影:藤村大介
X-H1 / 15.2mm(23mm相当) / 絞り優先AE(0.8秒・F4.0・±0EV) / ISO 500

藤村:あとは、細かいことになりますが、レンズキャップをしっかり固定できたり、信頼性の高い防塵防滴構造になっていたりするところも嬉しいですね。前玉が張り出してフードが固定されている超広角ズームのキャップって、多くの場合簡単なかぶせ式が採用されていますけど、XF8-16mmF2.8 R LM WRは同じかぶせ式でもロック機構が付いているから旅先でなくしてしまう心配が要らない。防塵防滴構造は雨天の撮影でも心強い。

XF8-16mmF2.8 R LM WR
撮影:藤村大介
X-H1 / 10.8mm(16mm相当) / 絞り優先AE(0.5秒・F4.0・-0.7EV) / ISO 400

——今後も作品作りに活躍しそうですか?

藤村:それはもちろん。手応えは十分に感じましたから、今後の撮影では信頼できる相棒として積極的に使っていくことになると思います。重量級のXF8-16mmF2.8 R LM WRは三脚を使い時間をかけた撮影に、XF10-24mmF4 R OISは街をスナップしながら撮り歩く手持ちの撮影にと、もうすでにそれぞれの特徴を活かした使い分けの構想もできています。

まとめ

世界を舞台にした夜景の撮影では「超広角レンズの画角はいくら広くても困ることがない」という藤村さん。Xマウントレンズで広い画角と携行性の高いXF10-24mmF4 R OISを多用していることにも頷けるというものだ。実際に作品を拝見すると、本当にこの小さなレンズから生みだされたのかと驚くほど美しい風景がひろがっていた。

そして、この超広角レンズが描き出す世界に、より広いズーム域と最高品質を備えたレッドバッジシリーズに属するXF8-16mmF2.8 R LM WRが新たに加わった。焦点距離もさらに拡がり、ダイナミックなワイド表現が可能に。Xマウントレンズのさらなる発展から、ますます目が離せなくなりそうだ。

制作協力:富士フイルム株式会社

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。