ミニレポート
FUJIFILM XF10-24mmF4 R OIS WR
2世代目で操作まわりはどのように進化したのか 都市スナップでみえてきたこと
2020年11月11日 00:00
富士フイルムの「フジノンレンズ XF10-24mmF4 R OIS WR」が11月末に発売される。同社APS-CミラーレスカメラXシリーズ用の交換レンズで、XFレンズシリーズとして初めて2世代目に更新されたモデルだ。今回、一足先に製品をお借りする機会を得た。旧モデルとともに持ち歩く中で気づいたことや、スナップメインで使用していった感想をお伝えしていきたい。
X-T4とベストマッチなサイズバランス
外観上の変更点は、おそらく説明されないと気づかないレベルだろう。サイズ感自体も78×87mmで共通。新モデルでは設計の見直しによりスリム化を図ったとしているが、新旧を交互につけかえても、サイズバランスではほとんど違和感を抱くことはなかった。
では、大きな違いとは何か。まずは重量の差があげられる。旧モデルが約410gであるのに対して、新モデルは385gとなっている。数値上はわずかな違いでしかないが、持ち比べてみると、新モデルのほうが同じ力でも勢いよく掴みあげることができる印象だ。
今回はX-T4との組み合わせで通勤時のほか休日も持ち歩いて感触を確かめていったが、PCやその他荷物とともに担いでいても、変に疲れることはなかった。撮影は勤め人の性もあり、休日に集中して確かめていった。筆者は基本的にストラップが嫌い(というよりは邪魔に感じている。かろうじてピークデザインのアンカーリンクスをつけてどうしても両手を空けたい時に備えている程度だ)なので、プライベートの撮影では直接カメラを掴んで歩き回っていることが多い。
そうしたスタイルなので、カメラの持ち重りには敏感な方だと思っている。X-T4はグリップが深くなったこともあり、こうしたストレスが軽減されたことはもちろん、今回の本題である新レンズ自体も軽量化が図られているため、トータルでの重量はボディ約607g+レンズ約385gで約992gとなる計算。グリップとレンズ自体の全長が変化しない特徴が相まって、すっと構えて撮れるというスナップでの使い勝手は良好だという印象を得た。
旧モデルからの進化点
前記したとおり、持ち歩きの観点からみていくと、新旧両モデルにおける違いは重量以外には基本的にないと言える。それだけなら、おそらく旧モデルでも遜色なく使えることだろう。問題は新モデルでの機能的な進化点だ。
新モデルでの進化点と踏襲点を改めて整理してみよう。ざっと書き出すと以下のようなポイントが挙げられる。
[強化ポイント]
・手ブレ補正機構:レンズ単体で3.5段に(旧モデルから1段分向上)
→X-T4との組み合わせ(協調動作)では最大で6.5段の補正効果
・絞りリングにAポジションのロック機構を採用
→GFXシリーズ用レンズで採用されていた機構
・防塵防滴耐低温構造になった:WR
・内部機構の見直し:ズームリングの細径化・重量の軽量化
[旧モデルからの踏襲ポイント]
・光学設計:10群14枚(非球面レンズ4枚、異常分散レンズ4枚を含む)
・F値(開放時F4・最小絞りF22・絞り羽根7枚・円形絞り)
・最短撮影距離(標準50cm、マクロ24cm)
・最大撮影倍率(0.16倍)
・フィルター径:72mm
光学設計が同じということもあり、画質面の違いはなく、レンズ自体のAF速度にも違いはないとのことだ。であれば、余計に新採用の絞りロック機構や手ブレ補正機構の効きが旧モデルユーザーにとっては関心事になってくるだろう。以下、実際の使用感を振り返りながら、感想をお伝えしていきたい。フィルムシミュレーションは基本的にすべてPROVIAを使用している。
撮影時の雑感から
絞りリングは適度な重みがあり、クリック感も柔らかながら手に1/3段の切り替わりがしっかりと伝わってくるつくり。XF50mmF1.0 R WRやXF56mmF1.2 Rなどは少々リングが回りやすすぎる印象をもっていたが、本レンズは意識的に回さなければ動きづらいので、F値が意図せず変わっていたというケースはなかった。旧モデルとの比較でいうと、少し重みが増えた感じだ。
以下のケースでは、ボディを握る手を壁面にくっつけるようにして固定して撮影している。ブレを防ぐために、レンズ側もしっかりと固めているため、ボディ側から絞りの微調整ができるのはありがたい。と言いながらも開放絞り値のF4で撮影。焦点距離はワイド端の10mmだ。
時刻は夕暮れ時。ガラス面に周囲の景色が反射してシンメトリックな構図をつくることができた。露出をマイナス側に大きく振って補正しているが、暗部のねばりが強く、重厚感のあるカットに仕上がった。
シャドウの粘りに気をよくして、ちょっといじわるな条件も試してみた。床面に傾きかけた太陽光が反射して輝度差が大きいシーン。センサーや画像処理の力によるところも大きいのは言うまでもないことだろうが、やはりシャドウ側がよく粘っており、ハイライト側の諧調も仔細にみていくと残っていることがわかる。
最短撮影距離付近の描写をみていった。手前のミシン糸を咥える鳥のあたりにフォーカス。ボケ方がひじょうに上品でなだらかなグラデーションを描いている。決してコントラスト差が大きいとはいえないシーンだが、すっとガラス面に合焦してくれた。最新世代のボディ(X-Trans CMOS 4とX-Processor 4の組み合わせ)ではAF速度が大きく進化しているということもあるだろうが、小気味良いフットワークが得られる。
弱い逆光シーン。枝葉が細かいコスモスだけれども、ボケ方も素直でうるさい感じは抱かない。この程度の逆光であれば、コントラストの低下はみられず、画面全体のトーンバランスも良好だ。
少し暗めのシーンが多かったので、晴天下のカットを。青と緑の色が素直で、花弁のピンクも印象に沿った発色だと感じる。コスモスの群生の中にカメラごと手を突っ込んで撮影しているが、レンズの全長が変わらないため、被写体を傷めたり、干渉してしまうことがない。細かな画角の調整もしやすいのはありがたいポイントだ。
周辺画質の均質性も本レンズのポイントだ。10mm側ではほぼ絞る必要がないのではと感じるほど、シャープな結像が得られる。ほぼ深度のコントロールくらいでしか使う必要はないのでは、と感じるほどだ。
広く空間を切り取っていけるということもあり、建造物や空を多く取り込むのがひじょうに楽しい。日没直前の空だけれども、濃密なグラデーション描写は、この組み合わせで固定していいのでは、と感じるほど。10mmともなると視覚以上のパース効果が得られるため、非日常感がより高まってくる。
陸橋の手すりにカメラを固定して、なめるように奥側の光が一条伸びているビル面をとらえた。先のビルと空を入れ込んだカットでもみてとれるとおり、直線のゆがみはみられない。くりかえし強調してきているとおり、暗部が適度に粘ってくれるおかげもあり、人工物を撮るのが楽しいレンズという印象だ。このカットではETERNA ブリーチバイパスを使用。低彩度を特徴とする画づくりだが、こうした暗い部分が多いシーンにとてもマッチする印象だ。
先ほどは弱い逆光だったが、ここでは目をあけていられないほどの強さだったシーンから。画面内に直接強い光源を入れているため、さすがにゴーストが発生している。しかし、発生量はごく薄いもので、コントラストの低下も見られない。むしろこれくらいのレベルであれば、作画にいかせるのでは、と感じる。風景シーンも印象的に仕上げてくれそうだ。フィルムシミュレーションはクラシックネガを使用。硬調なトーンで冷えはじめた空気感が感じられるカットに仕上げることができた。
防塵防滴に対応したのも本レンズのトピックだ。水しぶきがかかるような場面でもグッと寄っていける安心感は大きい。繰り返しになるが、レンズ全長が変わらないため、画角の微調整がしやすく、広角マクロ的な使い方でも取り回しがしやすいと感じる。この場面ではボディまで水に濡れるほどではなかったが、水濡れの心配がある場面で使うときは、ボディ側が防塵防滴に対応しているかもチェックしておきたい。
定番スポットではあるが、夜景の描写をみていった。長秒露光で撮影しているが、光芒の出方も美しい。さすがにF16まで絞り込んでいるため、構造物の解像感も高い。それでも硬すぎるという印象がないのは、光の受け止め方の良さがあってこそだと思う。
同じく長秒で撮影したカットから。逆光シーンでも見てとれるとおり、強い光を受け止めてもコントラストの低下が感じられないところが本レンズの特徴の一つでもあるだろう。それぞれの光源が滲んでしまうこともなく、キラキラとした光芒が夜の都市を演出してくれる。直線を直線としてしっかりと描いてくれる、という評言は超広角レンズにはつきものだが、こうしたコントラスト描写や光の受け止め方も、評価軸に加えてよいのでは、と感じられた。まさに濃密な夜の景色だ。
まとめ
本レンズの実撮影から感じたことをカットとともに紹介してきた。主に新型をつけっぱなしにして、手持ちで撮り歩くスタイルで感触を確かめていったが、くりかえしお伝えしてきている通り、持ち疲れすることはほとんどなかった。さらにもう一歩グリップが深く厚みもあれば、ほんとうにストラップは要らないだろうと感じたほどだ。
手ブレ補正については、X-T4のショックの少ないシャッター機構と相まって、ほぼブレ知らずといった感じ。そもそも超広角なので、ブレづらいという点も大きなポイントで、ここは旧モデルでもボディだけX-T4など最新世代に変えれば遜色なく使っていけるのでは、と感じた。
絞りロック機構搭載に伴う、絞りリングの仕様変更についても、使うほどに大きな改善点であることが実感された。旧モデルでは絞りリングが回転し続ける仕様となっており、撮影時の絞り値はファインダーかモニターで確認するしかなかった。一方で、新モデルでは絞り値の操作側でも開放側と最小絞り側でリングが止まる仕様となっている。そのため端から数えていまどれくらいの絞りになっているのか、をブラインドで掴んでいくことができるのだ。他の絞り値をきざんでいるタイプと併用していても違和感がないところもポイント。これは富士フイルム機の特徴でもある「カメラを起動しなくても現在の撮影設定が確認できる」操作感を体現するもので、そのまま使いやすさに直結している。風景のように、じっくりとカメラの調整をするシーンでは新旧で大きな違いはないだろうが、スナップや人物撮影シーンでは大きな武器になってくれると感じた。
振り返ってみると旧モデルの発売時期は2014年の2月で、ちょうどX-T1が登場した時期に重なる(2014年2月発売)。この直前ではX-E2が発売(2013年11月)されていた頃のことだ。
X-T1では、現在の操作系にほぼ近い形態が完成しているが、X-E2では、まだボディ側にマクロボタンがあったりするなど、操作系が進化の途中だったように思う。同社製カメラにおける大きな魅力ポイントでもある視認性の高い操作系は、こうした製品進化の流れの中で洗練されてきたものだろう。本レンズはそうした進化や考え方の変化を受けて、あらためて2世代目に進化した製品だとも言えるだろう。Xシリーズの現在の進化点を体現する1本に仕上がっているとすると言い過ぎだろうか。少なくとも、そうした感想を抱くほど、操作系が洗練されたものに進化していると実感できたことは事実だ。季節は、これからさらに空気が澄んでイルミネーションも点灯しはじめる時期を迎える。天体や夜景撮影の強い味方にもなってくれるレンズだといえそうだ。