FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー

普及タイプ VS レッドバッジ…望遠ズーム選択の基準を風景写真家・辰野清さんに聞く

55-200mmF3.5-4.8/50-140mmF2.8/100-400mmF4.5-5.6

辰野清さん

2012年、Xシリーズの誕生とともに登場したXマウントレンズは、富士フイルムが誇る「フジノン」の名を冠した最高性能の交換レンズ群である。登場から約6年という短期間にもかかわらず、そのラインナップは着実に充実してきており、多くの愛好家を魅了しつづけているのはご存知の通りだ。

しかし、ラインナップが充実してくるほどにわれわれユーザーを悩ませることになるのが、「結局どのレンズを買うのが自分にとっての正解なのだろうか?」という問題である。特に、同じ焦点距離のレンズが併売されている場合、どうしてもその真意を尋ねて納得したくなるというものだ。

そこで、スペックシートだけでは分からない特徴を導きたく、それぞれのレンズをリアルに愛用する写真家に聞いてみよう、というのがこの連載だ。

複数タイプの望遠ズームレンズ3本で比較

今回のテーマは望遠ズームレンズ。遠くの被写体を大きく写す引き寄せ効果と、被写体同士の距離感を縮め画面内のボリュームをアップして写す圧縮効果を表現できる。標準ズームや広角ズームとともに、Xマウントシステムを構成する、定番レンズのひとつである。

人気の焦点距離というだけあって富士フイルムからは焦点距離、F値ちがいで複数タイプの望遠ズームレンズが発売されているが、その中から今回は次の3本を取りあつかう。以下、それぞれの特長と使い分けのポイントを見ていこう。

フジノンレンズ XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
フジノンレンズ XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR
フジノンレンズ XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR

XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS

35mm判に換算すると焦点距離84-305mm相当となる普及タイプの望遠ズームレンズ。開放F値がF3.5-4.8とやや暗めに感じるところだが、ズーム域を考えれば比較的明るいレンズだと言って良いだろう。それでいて長さ約118mm、質量約580gと、軽量コンパクトに抑えられているところに大きな特長がある。リニアモーター駆動による高速AFと、シャッター速度約4.5段分の手ブレ補正機能「OIS」を備えているところもポイントが高い。

XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR

同社の最高品質を誇るレッドバッジシリーズに属する望遠ズームレンズ。35mm判換算で焦点距離76-213mmという常用望遠全域をカバーしたF2.8通しであることから、いわゆる大三元の望遠域を担うレンズであることが分かる。

トップクラスの描写性能であることは言うまでもないが、徹底した防塵・防滴・耐低温設計を備え、トリプル・リニア・モーターによる高速高精度なAFや、シャッター速度約5段分の手ブレ補正機能「OIS」を搭載するなど、あらゆる面で最高峰を目指した超高性能レンズとなっている。

ただしその分、長さ約175.9mm、質量995gとXマウントレンズとしては重く大きく、また高価だ。

XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR

前出のXF50-140mmF2.8 R LM OIS WRと同じくレッドバッジシリーズに属する望遠レンズであるが、こちらは35mm判換算で焦点距離152-609mm相当と、はるかに長い焦点距離をカバーしていることが特長。超望遠ズームレンズと言った方が正しいだろう。

徹底した収差補正による超高画質や、高い防塵・防滴・耐低温設計、リニアモーターによる高速高精度なAF、シャッター速度約5段分の手ブレ補正機能「OIS」の搭載などは、レッドバッジのズームレンズらしい隙のない高性能ぶりであるが、長さは210.5mm、質量は1,375gと、609mm相当の高性能超望遠レンズであることをふまえて考えると、想像以上にコンパクトである。

XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISXF50-140mmF2.8 R LM OIS WRXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR
発売年月2013年5月25日2014年11月20日
2016年2月18日
実勢価格
(税込)
6万6,000円前後16万8,000円前後
21万6,000円前後
レンズ構成10群14枚16群23枚
14群21枚
非球面レンズ1枚-
-
異常分散レンズ2枚6枚
内1枚はスーパーEDレンズ
6枚
内1枚はスーパーEDレンズ
焦点距離84-305mm相当76-213mm相当
152-609mm相当
最大口径比
(開放絞り)
F3.5-F4.8F2.8
F4.5(ワイド端)
F5.6(テレ端)
最小絞りF22F22
F22
絞り羽根枚数7枚7枚
9枚
円形絞り
ステップ段差1/3ステップ1/3ステップ
1/3ステップ
撮影距離範囲標準1.1m〜∞(ズーム全域)
マクロ1.1m〜3.0m (ズーム全域)
標準1m~∞
マクロ1m~3m
1.75m~∞
最大撮影倍率0.18倍(テレ端)0.12倍(テレ端)
0.19倍(テレ端)
外形寸法75.0×118mm(ワイド端)/177mm(テレ端)82.9×175.9mm(ワイド端/テレ端)
94.8×210.5mm(ワイド端)/270mm(テレ端)
質量(約)580g995g
1,375g
フィルターサイズ62mm72mm
77mm

最も汎用性と稼働率の高い望遠ズームは?

今回インタビューをお願いしたのは、詩情溢れる日本の自然風景を捉えた作品で知られている辰野清さん。多数の写真集や著作の出版物を出す一方で、写真教室の主催や講演会、フォトコンテストの審査員を務めるなど、多方面で精力的に活躍している。

――Xマウントレンズのうち、望遠ズームレンズは複数の種類がラインナップにありますが、辰野さんが最もよく使うレンズは何ですか?

辰野:XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISを一番使っていますね。携帯性が良いので気に入っています。

――普及クラスのレンズですか。てっきり、辰野さんでしたらレッドバッジのXF50-140mmF2.8 R LM OIS WRか、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRのどちらかかと思っていました。

辰野:僕はXシリーズだけでなく、中判デジタルカメラのFUJIFILM GFX 50Sも使っていて、常に2台体制で持ち運ぶため、機動力を損なわないことがなによりも大切になるのです。

XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
撮影:辰野清
X-H1 / 164mm(246mm相当) / 絞り優先AE(1/70秒・F5.0・-1.3EV) / ISO 800
撮影:辰野清
X-H1 / 99.8mm(150mm相当) / 絞り優先AE(1/1250秒・F4.0・+0.3EV) / ISO 400
撮影:辰野清
X-H1 / 95mm(143mm相当) / 絞り優先AE(1/750秒・F5.0・-1.7EV) / ISO 100

――風景撮影というと、やはり撮影地へは機材を背負って向かうことになりますよね?

辰野:はい、自動車を降りたら機材を入れたカメラバッグを背負い、長い時間被写体を探し続けることになります。機材がミラーレスカメラになったことで荷物を軽くできるようになりましたけれど、それでも、一瞬の出会いこそが重要な風景写真では、なるべく歩くのに負担の少ない機材選びをすることが必要だと考えています。

辰野さんの使用機材。

――上位シリーズのレッドバッジでなく、普及価格帯のレンズがメインということになりますが、画質などは大丈夫ですか?

辰野:ぜんぜん大丈夫ですよ。富士フイルムはランクに関わらず、どのレンズでも高画質なところがいい。先に標準ズームのXF18-55mmF2.8-4 R LM OISを使ったとき、小さいのによく写る画質の高さに感心して、同じタイプの望遠ズームレンズであるXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISを購入したという経緯があるくらいです。

――高画質というのは解像力が高いということでしょうか?

辰野:はい、解像性能はもちろん、樹木の細部までシャープに描き分けてくれます。それと、階調性も非常に良くて、淡い空や霧の表情を繊細に表現することができます。最近、富士フイルムからX-T3が発売されましたが、そのおかげでXマウントレンズの描写性能の良さがますます引き出せるようになったと感じています。

――いいとこ尽くしですね! XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISにデメリットはないと考えてよいですか?

辰野:いやいや(笑)すべて満点という訳にはいきません。普及価格帯のレンズですから仕方がないですけど、防塵防滴構造ではないなど堅牢性や信頼性の面では、やっぱりレッドバッジのズームに譲ります。分かりやすいところではレンズフードの取り付けがハードな使用条件では弱く感じてしまう点が挙げられます。

しかしながら、システムを組むときのコンパクト性、利便性をトレードすれば、今のところ僕にとって最も出番の多い望遠ズームレンズということになります。

レッドバッジ望遠ズームならではの個性

――そのレッドバッジのズームレンズですが、辰野さんはXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRもよくお使いになると聞きました。

辰野:ええ、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRは最大で605mm相当の超望遠レンズですので、圧縮効果を効かせて被写体を表現したい時に使います。XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISと比べると望遠端の焦点距離に倍の差がありますので、当然、表現の効果にも大きな違いがあります。XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRでしか撮れないものがあるということです。

XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR
撮影:辰野清
X-H1 / 137.7mm(207mm相当) / 絞り優先AE(1/70秒・F11・-0.3EV) / ISO 200
撮影:辰野清
X-H1 / 270.6mm(406mm相当) / 絞り優先AE(1/450秒・F11・-2.3EV) / ISO 400
撮影:辰野清
X-H1 / 226.6mm(340mm相当) / 絞り優先AE(1/70秒・F14・-0.7EV) / ISO 200

――たしかに、他の2本とは同じ望遠ズームでもまったく性格が違っていますね。

辰野:先ほどもお話ししましたが風景写真とは出会いです。その時その時を最も効果的に写すことのできるレンズというのはやっぱり準備しておく必要があるのです。

――でも、XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISに比べれば大きいので、常に持ち歩くというわけにはいきませんよね?

辰野:そのへんは、必要に応じて臨機応変に使えるよう、撮影スタイルを整えています。それに、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRは609mm相当の超望遠レンズとしては非常に小型・軽量に仕上がっていると思いますよ。画質もレッドバッジだけに抜群の超高画質ですし。

――たしかに、高性能ラインの超望遠レンズとは思えない使いやすそうな大きさですね。

辰野:そこは富士フイルムのレンズ設計技術の高さもさることながら、APS-Cサイズ用のレンズだからということもあるでしょう。僕は中判デジタルも積極的に使っていますけれども、機材をコンパクトに抑えられることと高い画質を両立したXシリーズのカメラとレンズは、多くの機材を背負って歩き回る風景写真の撮影スタイルと相性が良いと実感しています。

――XF50-140mmF2.8 R LM OIS WRについては、どのようなシーンで活躍できますか?

辰野:まずは、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRと同じ、レッドバッジのズームレンズということで、最高峰の画質と信頼性の高さで使えるということだと思います。F2.8の大口径レンズであるだけに、大きなボケを活かした個性的な表現ができます。

XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR
撮影:辰野清
X-T3 / 140mm(210mm相当) / 絞り優先AE(1/6400秒・F2.8・-2.7EV) / ISO 400
撮影:辰野清
X-T3 / 115mm(173mm相当) / ノーマルプログラム(1/20秒・F14・±0EV) / ISO 400
撮影:辰野清
X-T3 / 115mm(173mm相当) / 絞り優先AE(1/20秒・F14・±0EV) / ISO 400

――レッドバッジの望遠ズームレンズは、ハイスペックな特長を活かした個性的な表現が可能ということですね。

辰野:そうです。僕はXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISをメインに活用していますが、XF50-140mmF2.8 R LM OIS WRとXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRはレッドバッジシリーズなだけあって、スペックの高さに間違いありません。実際の撮影では、自分の撮影スタイルに合わせてそれぞれの個性を活かして使い分けることが重要です。

まとめ

撮影の際は常にGFX 50SとXシリーズの両方を用意しているという辰野さんであるが、三脚を構えてどっしりと撮ることの多いGFX 50Sに対し、Xシリーズのカメラおよびレンズでは、どちらかといえば機動力を活かした使い方をしているそうだ。

そうなると、3本の望遠ズームのなかでも特にXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISの出番が多くなるというのは必然だろう。比較的手を出しやすい価格のレンズに、画質や使い勝手の良さで、辰野さんからお墨つきをもらえたのだから、既に所有しているユーザーも、これから購入を考えている向きにとっても嬉しい限りである。安心して、自信をもって使っていこう。

しかし、200mmを超えるような超望遠やF2.8のような明るさを活かした表現が必要な場合は、スタンダードなXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISでは荷が重いケースもでてくるだろう。そうした時は、XF50-140mmF2.8 R LM OIS WRやXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRといったレッドバッジシリーズのズームレンズの出番となるわけだ。

制作協力:富士フイルム株式会社

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。