赤城耕一の「アカギカメラ」

第10回:ソニーα7Cをお迎えしました

ソニーα7Cがうちにいらしてからそれなりの時間が経過しました。つきあうほどに、なかなかいいヤツであることがわかってきたので、今回はその報告をしようかと思います。

私はミノルタ時代からの長きにわたるαユーザーなんですが、α“一眼レフ”が存在していた頃はそれなりのユーザーでした。APS-CミラーレスのNEX-7はアサインメントにも多用し活躍していました。ところが、その後、私的にはしばらくαシステムから縁遠くなっていました。これはαが“一眼レフ”から撤退したのと同じ時期だったように思います。

カメラを提げて歩いていて、目の前にちょっとした舞台というかドラマが出現するとすぐにシャッターを切ります。こうした瞬間に躊躇なく撮れるのはコンパクトカメラ感覚に近いですね。
α7C FE 35mm F2.8 ZA(F8・1/1,250秒)ISO 400

休刊した『アサヒカメラ』から、新製品レビュー記事の依頼を受けていた時のことです。新登場の機材はカメラは主にメーカーや編集部の備えつけの機材からお借りするのですが、うちにもっとも長く滞在していたカメラはソニーのα7やα9シリーズのいずれかの機種でした。

この理由は単純で、純正、サードパーティにかかわらず、Eマウント互換の交換レンズが毎月のように新登場するので、レビューのためにαシリーズのカメラボディが必要だったわけです。ミラーレスαの人気のほどがうかがえます。私的にはおつきあいはないけど、常にウチに滞在しているカメラはαということになります。

と、なればその都度カメラを借りるのも申し訳ないし、自分で買ってしまった方がラクなんじゃないのかとも思ったのですが、購入のきっかけがつかみづらい。レビューに使うカメラはその時に一番新しい機種を使うのが暗黙の了解だし、レビューのためにカメラを購入するって、本人の意思とは異なるところがあり、どこか思想が揺らぐ感じがしますよね。

壁に映る道路標識の影。串に刺したおでんの影みたいにも見えてきたので素直にシャッターを押してみましたよ。明暗大きいけど、肉眼での印象に近いですね。
α7C FE 35mm F2.8 ZA(F11・1/250秒)ISO 400

もっともα7やα9シリーズは1機種ごとの寿命が素晴らしく長く、新型が登場してもすぐにディスコンにはならず「現行製品」として廉価に販売され、しばらく存続するし、新しいカメラが出ると手持ちのカメラがすぐに陳腐化してしまう他社カメラと異なる印象があります。だから、さっさとその時に一番新しい機種を買えば済むことなんだけど、この寿命の長さがまた購入機種の迷いに繋がります。

賢い人なら旧型を意図的に選択して廉価に購入し、余裕ができた予算を交換レンズに回したりすることもできますよね。確かに良い買い物かもしれませんが、これでも踏ん切りがつかない。レビューにも使いづらいし。

私の場合は常に先立つものがないこともあるけど、「このクソ景気の悪い時に、またキミは新しいカメラ買うんか? モトがとれるんか?」と常識ある私の良性の別人格がココロの中でつぶやき、購入行動を阻止するわけですよ。でも本当のことを言ってしまうとα7や9シリーズは、機能や使い心地に決定的な不満があるわけじゃなくて、デザインがどうも自分には合わない感じがするわけ。これで購入が常に後手に回るわけですな。ああ、我ながら素直じゃないよね(笑)。

フリードランダーじゃないけど、モニュメントはなんでも好きですね。見つけると撮影しちゃいます。都市の中に溶け込んでいるような存在のものが特に好みです。質感やディテール再現が秀逸ですな。
α7C FE 28-60mm F4-5.6(F8・1/1,000秒)ISO 400 60mm

α7、α9シリーズは35mmフルサイズセンサーを搭載しているけど小型軽量なのは評価すべき点だし、ご存知のとおり動体撮影にもストレスを感じないAF性能だし。カメラとしてもツッコミどころがないわけですよ。中にはデカい交換レンズもないことはないけど。

もともと仕事用カメラに対する要求とは異なり、私的に使うカメラに関しては数字的なスペックにまったくと言って良いほど興味がない私としては、新型が登場しても全体のイメージの印象がどう変わるかが一番の興味なわけです。つまりモデルチェンジや新たなスペックが備わっても、デザインが決定的に変わらないカメラは物欲が全開状態にならないわけですね。このへんが一番の購入しない言い訳かなあ。

で、35mmフルサイズセンサーを搭載し、かつフラットタイプなデザインで、小型軽量を実現した機種が出たら絶対にαをお迎えすると常に公言していたのだけど、α7Cはこれを実現してきたわけです。自分との約束と責任を果たすため、このたびソニーα7Cをうちにお迎えしたというわけですよ。自分で言うのもなんですけど、こういうところにブレがないよなあ(笑)。もちろん私が何のカメラを導入しようが、周りの誰もが1ミリも気になんかしてはいないことは承知の上です。

都市風景って、ある種の冷たさみたいな表現が合っているように思い、そのため画質にも高いレベルを求めてしまうけど、さすが画質的にはツッコミどころがないですね。
α7C FE 28-60mm F4-5.6(F8・1/2,000秒)ISO 400 60mm

"35mm判カメラ"の王道的サイズ感

フラットタイプデザインはご存知のとおり、一眼レフカメラ風スタイルのデザインより売れないとされています。でも個人的には小型軽量を目指し、かつ美しいデザインをひたすら追求するため機能を削ぎ落としたり、凝縮させたりすることは悪くないと考えるわけで、とくにミラーレス機が小型軽量であることはマストであると考えます。

ヘビーユーザーは耐久性とか防塵防滴を求めるんだろうけど、そういう人にはα7Cは向かないですよね。むしろフラットタイプのデザインのカメラに共通した印象としては、少しチャラいところがあるような感じもします。それが逆にいいわけ。もっとも撮影中に壊れてしまっては困るんだけど。

実際の使い心地としては、まだ完全には操作に慣れていないこともあるけど、直感的な設定もできて良い感じです。ただ、背面にはグリグリ(フォーカスセレクター)は欲しかったなあ。配置するスペースはありそうですぜ。フォーカシングのスピードや、やや擦れるような音がするメカシャッターも個人的には好みですね。ダイヤルの感触も良好。

露出補正ダイヤルが外に出ているのは良いかと。使用頻度が多い人には助かりますね。ダイヤルの仕上げもいい感じです。

じつはこれまでAPS-Cのα6000シリーズは何度も買いそうになり、思いとどまってきたわけです。これもデザインの魅力からですね。でもいつかは35mmフルサイズのものが出るのではと期待していたこともあるけど。他社のカメラにしても、文句は多々あれど、キヤノンEOS MシリーズもEOS M3まではつきあったし、富士フイルムX-Pro2も、オリンパスPEN-Fも使っているけど、メーカーとしてはいずれの機種もどこか傍流のシリーズとしている感じがします。

それでもソニーがフラットタイプのデザインの35mmフルサイズセンサー搭載ミラーレスを出してきたことは、体力があるというか、余裕があるんだろうなあと。こういうことに敬意を表したくなりませんか。ならないか。

α7CのCの意味は「Compact」(コンパクト)からきているとアナウンスされています。大きさ124×71.1×59.7mm、重量約509g(バッテリー・メモリーカード含)と極端に小さくはないけど存在感を示せる大きさがちょうどいい感じです。個人的には、ただ軽いだけではなく見た目や手にした時の凝縮感やバランスが心地よいことを重視しますから。

フィルムカメラの「ミノルタCLE」になぞらえる人もいますけど、私的にはコンタックスのGシリーズ的なニュアンスを感じてしまうんだけど、どうでしょうか。ライカにも通じるところがあります。このカメラのサイズ感こそ、まさに35mm判カメラの王道という感じがします。

キットの標準ズームレンズFE 28-60mm F4-5.6は、大きさが45×66.6mm、重量が167g。素晴らしくよく写るけど、専用のレンズフードが用意されていないのはなぜでしょうか。現在サードパーティのフードを頼んでいますが、残念だけどこの記事には間に合いませんでした。
α7C FE 28-60mm F4-5.6(F13・1/2,000秒)ISO 400 60mm
キットレンズのFE 28-60mm F4-5.6を装着して真上から見た図。沈胴式のレンズだから、ここから撮影状態にすると正直カッコ悪いです。

あれもこれもでカメラは太る

α7Cには"妥協のない撮影性能を盛り込んだ"とソニーはアナウンスしています。小型軽量だけど頑張りましたといいたいんでしょう。同性能と言われるα7 IIIとの違いをあえて探してゆくと、いちばんはEVFの性能の差ですかねえ。α7 IIIは0.5型、α7Cは0.39型、ファインダーの倍率はα7 IIIでは約0.78倍、α7Cは約0.59倍。ある意味、カメラの価値はファインダーだとする私の価値観からは外れてしまうことになるけど、これは例外になりますね。

意外といっては失礼だけど、動体を観察しても滑らかな感じに見えます。それでもダメというなら単焦点の広角レンズを装着してライツ製の外付けファインダーをつけちゃうとかね、コーディネイトというかお遊びの方法はありそうですよね。

え? 何ですか? 動体を捕捉しづらい? ですか。誰もα7Cに超望遠レンズをつけて水泳とか陸上競技とか撮らないですよね? 世の中広いから中にはいらっしゃるか。じゃあ、工夫して撮影してください。ちなみにそのテクニックは開示して、みんなで共有しましょう。

ファインダーアイピースは大きくはないけど、実用的には問題ないと思います。むしろよく収めたなあと感心します。

フラットタイプのデザインのカメラでは、ライブビューでの撮影の方が多くなりそうですよね。小さくてもファインダーがあると言うことは、明るい場所ではフレーミングを確実に決めることのできるメリットがあるし、撮影画像も背面モニターより確認しやすい。

長焦点レンズを使う場合はファインダーを使用した方が、カメラを顔を支えることになるからホールディングは安定しますよね。つまり、通常ではライブビュー撮影を主に行い、必要な時はファインダーを覗く撮影手法をとればいいんじゃないか。これが私的なα7C撮影術かな。とはいえ、5軸5.0段の手ブレ補正機能を備えているし、撮影スタイルそのものはもっと自由であってもいいかなとも思うんですよね。私みたいなジジイがこうした認識を変えるのは難しいけど、若い人はぜひ挑戦してください。

今でも幕の内弁当みたいな多機能カメラを求めてしまう人もいるし、それは無理もないけど、多機能や万能性は確実にカメラをデブにするかも。このことは意識して考えたいですね。でも、私にとってはα7Cでも十分に多機能であって、一生使わないであろうと思える機能がいっぱい内蔵されているわけで十分に満足しています。

Aマウントレンズの動作をチェック

最新のマウントアダプターLA-EA5です。AF駆動ユニットと絞り駆動ユニットを内蔵。それを感じさせないスマートなデザイン。素晴らしいです。α7CではAFモーター搭載レンズのみAFが駆動します。制約があるのは少し残念ですね。

ところで、α7Cとほぼ同時期に新しいマウントアダプターLA-EA5が登場したのですが、これも入手して今回使用してみました。これはAマウントレンズをEマウントカメラに使用するためのアダプターで、AF駆動ユニットと絞り駆動ユニットを内蔵しているのに、それを感じさせないスマートなデザインなのが特徴ですね。

AFモーター非搭載のカプラータイプのAFレンズでも、カメラによってはAFが使えてしまうという優れものだけど、残念ながらα7CではAFモーター非搭載のカプラー方式のレンズはAF駆動はしません。けれどAFモーター内蔵レンズでは像面位相差AFが使用できます。

で、この時のAFの動きがみてみたいこともあり、Aマウント交換レンズの古典だけど現行品でもある大口径標準ズームレンズ、28-75mm F2.8 SAMをLA-EA5を介して装着してみました。

28-75mm F2.8 SAMをLA-EA5を介して装着してみました。激しくアンバランスにはなりますが、見苦しくはないです。顔、瞳認識ともに機能します。

暗い場所では怪しい挙動をしたりすることがあれど、ほぼ問題なく動作しました。フォーカスがさーっと動き、合焦の直前にスピードが落ち、そこからピタッと決まるさまに開発エンジニアの真面目さが出ているように思います。顔認識、瞳認識AFも機能しますし。見た目の不釣り合いな組み合わせがユーモラスで、撮影時のバランスも今ひとつなんだけど、実使用においてまったく悪い印象はありません。

自転車の車輪を組み合わせたオブジェ。ズームをテレ端にして絞りを開いて、合焦点を浮き立たせようと考えてみました。画面周辺は少し画質が落ちますが気にならないですね。
α7C 28-75mm F2.8 SAM+LA-EA5(F3.5・1/1,600秒)ISO 200 75mm
画面中心は素晴らしくシャープだけど、絞っても画面四隅は少し画質が落ちます。至近距離での撮影だからでしょうか。開示されているMTFの印象に近いですね。個人的には文献の複写でもしない限りは問題はないと考えます。手ブレ補正はしっかり機能しています。
α7C 28-75mm F2.8 SAM+LA-EA5(F8・1/60秒)ISO 100 75mm
背景に強いハイライトを入れてみました。ゴーストやフレアが出たりコントラストが落ちてしまうかと思ったら踏ん張ってくれています。地味な存在のレンズですが、努力家タイプなのでしょう。
α7C 28-75mm F2.8 SAM+LA-EA5(F3.5・1/3,200秒)ISO 200 75mm
お約束の紅葉。今度の紅葉は例年よりも綺麗だとか。冬は寒くなるという予報が出ているけど、果たしてどうでしょう。合焦点の描写はいいけどボケ味は重たいか。
α7C 28-75mm F2.8 SAM+LA-EA5(F4.5・1/1,000秒)ISO 100 75mm

大きな声では言えませんが、Aマウントレンズは中古ではかなりお買い得に売られていたりしますし、量販店のアウトレットコーナーではデッドストック品に「マジかよ」なお安い値段がつけられていたりすることがあります。これを使うのも楽しいかもしれませんぜ。

ソニーはEマウントを「1 Mount」と称して、35mmフルサイズもAPS-Cも、シネマもスチルもカバーしていることをアピールしていますが、旧来のAマウントユーザーにも実は手厚いのはいいことですね。ミノルタ、コニカミノルタユーザーのことは忘れていませんから、どうぞよろしくお願いしますよということなのでしょう。好感が持てます。

それにしても、α7CでもAFモーター非内蔵のAマウントレンズでもAFが動作する仕様にできませんかねえ。これだけがひたすら残念です。ファームアップでちょいちょいと動くようになるって、これからでも構わないので実現できないのでしょうか。

肉眼では目が痛いくらいの眩しい白い壁なんだけど、それをねじ伏せるような再現がいいです。気に入りました。画面全体均質性が高い描写ですねえ。
α7C FE 28-60mm F4-5.6(F8・1/1,250秒)ISO 400 35mm
窓に映るリフレクションを利用した都市風景。微妙な歪みを利用しようという考え方。しかし、鏡面に映る像以外はとても素直でよい感じですね。
α7C FE 28-60mm F4-5.6(F6.3・1/80秒)ISO 100 60mm
休日の街角。35mmフルサイズのメリットって、個人的には高画質の追求じゃなくて普段持ち歩いているフィルムカメラと感覚的に同じように使えることが一番のメリットかもしれません。
α7C FE 28-60mm F4-5.6(F8・1/1,250秒)ISO 400 39mm
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)