赤城耕一の「アカギカメラ」
第10回:ソニーα7Cをお迎えしました
2020年11月20日 09:00
ソニーα7Cがうちにいらしてからそれなりの時間が経過しました。つきあうほどに、なかなかいいヤツであることがわかってきたので、今回はその報告をしようかと思います。
私はミノルタ時代からの長きにわたるαユーザーなんですが、α“一眼レフ”が存在していた頃はそれなりのユーザーでした。APS-CミラーレスのNEX-7はアサインメントにも多用し活躍していました。ところが、その後、私的にはしばらくαシステムから縁遠くなっていました。これはαが“一眼レフ”から撤退したのと同じ時期だったように思います。
休刊した『アサヒカメラ』から、新製品レビュー記事の依頼を受けていた時のことです。新登場の機材はカメラは主にメーカーや編集部の備えつけの機材からお借りするのですが、うちにもっとも長く滞在していたカメラはソニーのα7やα9シリーズのいずれかの機種でした。
この理由は単純で、純正、サードパーティにかかわらず、Eマウント互換の交換レンズが毎月のように新登場するので、レビューのためにαシリーズのカメラボディが必要だったわけです。ミラーレスαの人気のほどがうかがえます。私的にはおつきあいはないけど、常にウチに滞在しているカメラはαということになります。
と、なればその都度カメラを借りるのも申し訳ないし、自分で買ってしまった方がラクなんじゃないのかとも思ったのですが、購入のきっかけがつかみづらい。レビューに使うカメラはその時に一番新しい機種を使うのが暗黙の了解だし、レビューのためにカメラを購入するって、本人の意思とは異なるところがあり、どこか思想が揺らぐ感じがしますよね。
もっともα7やα9シリーズは1機種ごとの寿命が素晴らしく長く、新型が登場してもすぐにディスコンにはならず「現行製品」として廉価に販売され、しばらく存続するし、新しいカメラが出ると手持ちのカメラがすぐに陳腐化してしまう他社カメラと異なる印象があります。だから、さっさとその時に一番新しい機種を買えば済むことなんだけど、この寿命の長さがまた購入機種の迷いに繋がります。
賢い人なら旧型を意図的に選択して廉価に購入し、余裕ができた予算を交換レンズに回したりすることもできますよね。確かに良い買い物かもしれませんが、これでも踏ん切りがつかない。レビューにも使いづらいし。
私の場合は常に先立つものがないこともあるけど、「このクソ景気の悪い時に、またキミは新しいカメラ買うんか? モトがとれるんか?」と常識ある私の良性の別人格がココロの中でつぶやき、購入行動を阻止するわけですよ。でも本当のことを言ってしまうとα7や9シリーズは、機能や使い心地に決定的な不満があるわけじゃなくて、デザインがどうも自分には合わない感じがするわけ。これで購入が常に後手に回るわけですな。ああ、我ながら素直じゃないよね(笑)。
α7、α9シリーズは35mmフルサイズセンサーを搭載しているけど小型軽量なのは評価すべき点だし、ご存知のとおり動体撮影にもストレスを感じないAF性能だし。カメラとしてもツッコミどころがないわけですよ。中にはデカい交換レンズもないことはないけど。
もともと仕事用カメラに対する要求とは異なり、私的に使うカメラに関しては数字的なスペックにまったくと言って良いほど興味がない私としては、新型が登場しても全体のイメージの印象がどう変わるかが一番の興味なわけです。つまりモデルチェンジや新たなスペックが備わっても、デザインが決定的に変わらないカメラは物欲が全開状態にならないわけですね。このへんが一番の購入しない言い訳かなあ。
で、35mmフルサイズセンサーを搭載し、かつフラットタイプなデザインで、小型軽量を実現した機種が出たら絶対にαをお迎えすると常に公言していたのだけど、α7Cはこれを実現してきたわけです。自分との約束と責任を果たすため、このたびソニーα7Cをうちにお迎えしたというわけですよ。自分で言うのもなんですけど、こういうところにブレがないよなあ(笑)。もちろん私が何のカメラを導入しようが、周りの誰もが1ミリも気になんかしてはいないことは承知の上です。
"35mm判カメラ"の王道的サイズ感
フラットタイプデザインはご存知のとおり、一眼レフカメラ風スタイルのデザインより売れないとされています。でも個人的には小型軽量を目指し、かつ美しいデザインをひたすら追求するため機能を削ぎ落としたり、凝縮させたりすることは悪くないと考えるわけで、とくにミラーレス機が小型軽量であることはマストであると考えます。
ヘビーユーザーは耐久性とか防塵防滴を求めるんだろうけど、そういう人にはα7Cは向かないですよね。むしろフラットタイプのデザインのカメラに共通した印象としては、少しチャラいところがあるような感じもします。それが逆にいいわけ。もっとも撮影中に壊れてしまっては困るんだけど。
実際の使い心地としては、まだ完全には操作に慣れていないこともあるけど、直感的な設定もできて良い感じです。ただ、背面にはグリグリ(フォーカスセレクター)は欲しかったなあ。配置するスペースはありそうですぜ。フォーカシングのスピードや、やや擦れるような音がするメカシャッターも個人的には好みですね。ダイヤルの感触も良好。
じつはこれまでAPS-Cのα6000シリーズは何度も買いそうになり、思いとどまってきたわけです。これもデザインの魅力からですね。でもいつかは35mmフルサイズのものが出るのではと期待していたこともあるけど。他社のカメラにしても、文句は多々あれど、キヤノンEOS MシリーズもEOS M3まではつきあったし、富士フイルムX-Pro2も、オリンパスPEN-Fも使っているけど、メーカーとしてはいずれの機種もどこか傍流のシリーズとしている感じがします。
それでもソニーがフラットタイプのデザインの35mmフルサイズセンサー搭載ミラーレスを出してきたことは、体力があるというか、余裕があるんだろうなあと。こういうことに敬意を表したくなりませんか。ならないか。
α7CのCの意味は「Compact」(コンパクト)からきているとアナウンスされています。大きさ124×71.1×59.7mm、重量約509g(バッテリー・メモリーカード含)と極端に小さくはないけど存在感を示せる大きさがちょうどいい感じです。個人的には、ただ軽いだけではなく見た目や手にした時の凝縮感やバランスが心地よいことを重視しますから。
フィルムカメラの「ミノルタCLE」になぞらえる人もいますけど、私的にはコンタックスのGシリーズ的なニュアンスを感じてしまうんだけど、どうでしょうか。ライカにも通じるところがあります。このカメラのサイズ感こそ、まさに35mm判カメラの王道という感じがします。
あれもこれもでカメラは太る
α7Cには"妥協のない撮影性能を盛り込んだ"とソニーはアナウンスしています。小型軽量だけど頑張りましたといいたいんでしょう。同性能と言われるα7 IIIとの違いをあえて探してゆくと、いちばんはEVFの性能の差ですかねえ。α7 IIIは0.5型、α7Cは0.39型、ファインダーの倍率はα7 IIIでは約0.78倍、α7Cは約0.59倍。ある意味、カメラの価値はファインダーだとする私の価値観からは外れてしまうことになるけど、これは例外になりますね。
意外といっては失礼だけど、動体を観察しても滑らかな感じに見えます。それでもダメというなら単焦点の広角レンズを装着してライツ製の外付けファインダーをつけちゃうとかね、コーディネイトというかお遊びの方法はありそうですよね。
え? 何ですか? 動体を捕捉しづらい? ですか。誰もα7Cに超望遠レンズをつけて水泳とか陸上競技とか撮らないですよね? 世の中広いから中にはいらっしゃるか。じゃあ、工夫して撮影してください。ちなみにそのテクニックは開示して、みんなで共有しましょう。
フラットタイプのデザインのカメラでは、ライブビューでの撮影の方が多くなりそうですよね。小さくてもファインダーがあると言うことは、明るい場所ではフレーミングを確実に決めることのできるメリットがあるし、撮影画像も背面モニターより確認しやすい。
長焦点レンズを使う場合はファインダーを使用した方が、カメラを顔を支えることになるからホールディングは安定しますよね。つまり、通常ではライブビュー撮影を主に行い、必要な時はファインダーを覗く撮影手法をとればいいんじゃないか。これが私的なα7C撮影術かな。とはいえ、5軸5.0段の手ブレ補正機能を備えているし、撮影スタイルそのものはもっと自由であってもいいかなとも思うんですよね。私みたいなジジイがこうした認識を変えるのは難しいけど、若い人はぜひ挑戦してください。
今でも幕の内弁当みたいな多機能カメラを求めてしまう人もいるし、それは無理もないけど、多機能や万能性は確実にカメラをデブにするかも。このことは意識して考えたいですね。でも、私にとってはα7Cでも十分に多機能であって、一生使わないであろうと思える機能がいっぱい内蔵されているわけで十分に満足しています。
Aマウントレンズの動作をチェック
ところで、α7Cとほぼ同時期に新しいマウントアダプターLA-EA5が登場したのですが、これも入手して今回使用してみました。これはAマウントレンズをEマウントカメラに使用するためのアダプターで、AF駆動ユニットと絞り駆動ユニットを内蔵しているのに、それを感じさせないスマートなデザインなのが特徴ですね。
AFモーター非搭載のカプラータイプのAFレンズでも、カメラによってはAFが使えてしまうという優れものだけど、残念ながらα7CではAFモーター非搭載のカプラー方式のレンズはAF駆動はしません。けれどAFモーター内蔵レンズでは像面位相差AFが使用できます。
で、この時のAFの動きがみてみたいこともあり、Aマウント交換レンズの古典だけど現行品でもある大口径標準ズームレンズ、28-75mm F2.8 SAMをLA-EA5を介して装着してみました。
暗い場所では怪しい挙動をしたりすることがあれど、ほぼ問題なく動作しました。フォーカスがさーっと動き、合焦の直前にスピードが落ち、そこからピタッと決まるさまに開発エンジニアの真面目さが出ているように思います。顔認識、瞳認識AFも機能しますし。見た目の不釣り合いな組み合わせがユーモラスで、撮影時のバランスも今ひとつなんだけど、実使用においてまったく悪い印象はありません。
大きな声では言えませんが、Aマウントレンズは中古ではかなりお買い得に売られていたりしますし、量販店のアウトレットコーナーではデッドストック品に「マジかよ」なお安い値段がつけられていたりすることがあります。これを使うのも楽しいかもしれませんぜ。
ソニーはEマウントを「1 Mount」と称して、35mmフルサイズもAPS-Cも、シネマもスチルもカバーしていることをアピールしていますが、旧来のAマウントユーザーにも実は手厚いのはいいことですね。ミノルタ、コニカミノルタユーザーのことは忘れていませんから、どうぞよろしくお願いしますよということなのでしょう。好感が持てます。
それにしても、α7CでもAFモーター非内蔵のAマウントレンズでもAFが動作する仕様にできませんかねえ。これだけがひたすら残念です。ファームアップでちょいちょいと動くようになるって、これからでも構わないので実現できないのでしょうか。