特別企画
写真家座談会:ソニーのフルサイズミラーレス、あなたは「α7C」派?「α7 III」派?
桃井一至さん・山本まりこさんにそれぞれの魅力を聞いてみました
2020年11月26日 12:00
世界最小最軽量※のフルサイズミラーレス機として颯爽と登場したソニー「α7C」。その人気は高く、発表時のデジカメ Watchの記事でも記録的なPV(ページビュー)を稼ぎ出すほどの衝撃がありました。
※光学式ボディ内手ブレ補正機構搭載のフルサイズセンサー搭載デジタル一眼カメラとして。2020年9月時点。ソニー調べ
一方ソニーのフルサイズミラーレスカメラと言えば、2018年の発売当初から2年半以上もの間、安定して売れ続けているベーシックモデル「α7 III」も健在です。
今回はいち早く「α7C」を使われた写真家・山本まりこさんと、発売から今まで「α7 III」を愛用し続ける写真家・桃井一至さんに対談いただき、それぞれのカメラの特徴と魅力について聞いてみました。「α7C」や「α7 III」での撮り下ろしの作品を解説いただくとともに、それぞれの違いやαの持つカメラシステム全体の魅力について掘り下げていきます。
山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに写真を撮り続けている。撮影、執筆、講演、講師など活動は多岐。写真集「AIRY COLORS」「熊野古道を歩いています。」、著書「エアリーフォトの撮り方レシピ」など出版多数。好きな食べ物は、カレーとイカ。
桃井一至
京都府生まれ。神奈川県在住。 各種雑誌やカタログの撮影をはじめ、カメラ専門誌などで執筆。またテレビ出演、Webレポートなど活動ジャンルは多岐に渡り、丁寧なテクニック解説にも定評がある。公益社団法人 日本写真家協会会員。
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このサイズ・軽さを待っていた!「α7C」
——今回は「α7C」をお使いの山本まりこさんと、「α7 III」をお使いの桃井一至さんに、オンラインで語り合っていただきます。まず山本さんにお聞きしますが、はじめて「α7C」を手にされたとき、どう感じましたか?
山本まりこ(以下、山本):最初に届いた時に感じたのは、「衝撃的に小さくて軽い」ということ。フルサイズセンサー搭載であることを疑うレベルでした。2010年にソニーからミラーレスカメラ「NEX」シリーズ(APS-C機)が出た時の衝撃を思い出すくらい。
——この小ささと軽さはそれほど衝撃的なのですね。
山本:小さくて、軽くて、それで自分の気持ちも含めて、写真を撮る機動力が上がるならありがたいですよね。いくらフルサイズセンサーを搭載していても、重くて移動するのが嫌になって撮影しなくなるより、「いま撮りたいからから行こう」と思える方がまずは大切だと考えています。
桃井一至(桃井):僕もそう思います。軽いことって重要。
山本:本当にそうですよね。「α7C」ならいつもバッグに入れておける重さなので、結果、撮影頻度も上がると思います。つまり、「α7C」が世に出たことで、今より世界に良い写真が増えていくのではないでしょうか。
——小さいといえば「α7C」のキットレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」もかなり小型軽量です。
山本:そうなんです。このレンズ、「α7C」との相性は最高ですね。持ち歩いているのを忘れそうになります。初めてフルサイズのミラーレスカメラに興味を持った方に、最初の組み合わせとしてオススメしたいですね。シンプルですが、小さくて、軽くて、きれいに撮れたら、それに越したことはないですから。
※「FE 28-60mm F4-5.6」は、α7Cズームレンズキットに付属します。
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——では「α7C」で撮影された山本さんの作品を見ていきましょう。
山本:キットレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」で撮りました。どうにかして柔らかい「エアリー」(※)の風を吹かせたいと思っていて、このくらい遠い被写体だと手前も凄く大きくぼけてくれました。大口径とは言えないキットレンズでも奥行きやメインの被写体との距離を考えて撮れば思い描く写真も十分撮ることが出来ます。こういう何の気ないシーンでもフルサイズセンサーならではの利点が出ますね。
※山本さんは、風が通り抜けるという意味を持つ「エアリー」をコンセプトとした写真を撮っています。
桃井:僕の写真とヒストグラム(画像の明暗の分布を示したグラフ。画像処理ソフトやデジタルカメラで確認できる)が全然違いますね(笑)。シャドウ側が少なくて明るい側の階調が豊富。
——順光の空を柔らかい青で表現していますが、どう撮っているのですか?
山本:色を調整した上で明るめの露出で撮影しています。といっても白飛びは厳禁。白飛びさせないギリギリのラインで明るく、爽やかな風を吹かせたいなと思って撮っています。
——こうした表現で白飛びさせないため、ダイナミックレンジは重要な性能になってくると思います。「α7C」はその点、いかがですか?
山本:すごくレンジが広く、使いやすいです。ダイナミックレンジが狭いデジタルカメラの場合は、段階的に露出を変化させて何枚か撮影、それを合成するHDRを利用します。ただしHDRの場合、カメラ内の合成処理で時間が取られます。それが「α7R III」あたりからダイナミックレンジが広くなり、現在はHDRではなく、1回のシャッターで済むDレンジオプティマイザーを愛用しています。
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——次もキットレンズ「 FE 28-60mm F4-5.6」で撮っていただいた作品ですね。望遠端60mmにしてはかなりぼけが大きいですね。
山本:これは撮影時にクロップしているので画角は変えていますが、ぼけ自体は焦点距離60mm時のぼけです。被写体にかなり近づき、遠い背景を選んでぼかすようにしていますが、ぼけの大きさと美しさは、さすがフルサイズセンサーとソニーの純正レンズの組合せ、といった感じです。
——なるほど。クロップをお使いとは意外でした。これなら焦点距離を伸ばせますね。
山本:私は単焦点レンズをよく使いますが、そのときクロップ撮影や全画素超解像ズームを利用して撮影することがよくあります。「α7C」でもコントロールホイールの左にクロップを、削除ボタンに全画素超解像ズームを設定しています。
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——次は水滴を1/1,600秒で撮った作品です。
山本:「α7C」と大好きな「Planar T* FE 50mm F1.4 ZA(SEL50F14Z)」の組み合わせで撮ってみました。お寺の境内にある手水舎で、水が垂れているところを撮影しています。ちょっとだけ滴の形が崩れながら落ちているところを連写で撮ってみました。
——「α7C」のメカシャッターは1/4,000秒が最高です。 1/8,000秒の他機種に比べてどうですか?
山本:明るいレンズで日中に絞り開放でお花を撮る時など、どうしても速いシャッター速度が欲しくなります。その場合は「α7C」の電子シャッター(最高1/8,000秒)で代用可能です。
——山本さんの作品は色が印象的です。撮影時に作り込んでいるのですか?
山本:ホワイトバランスを「電球」に設定して、あとはカメラ内で細かく調整しています。ポートレイトモードのシャープネスやコントラストを下げて眠い絵にして、そこから色を調整していますね。あと、暗いところを起こすため、DレンズオプティマイザーもLv5(強)にしています。こういった設定は、αの他モデルで親しんできた設定を「α7C」でそのまま設定できるので助かりますね。
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——次の作品は木漏れ日、日向と日陰が混在しています。美しいシーンですが、これもダイナミックレンジが求められるシーンですね。
山本:光と影がキレイで、そこにピンクの花びらと緑が落ちている。じゃあ私の赤い靴も入れよう……といった感じでレンズを向けた、何気ない1枚です。
——繊細な色のトーンが失われてしまいやすい環境ですが、しっかり残っていますね。ちなみに、ファインダーと液晶モニター、どちらを使って撮影することが多いのでしょうか。
山本:私の場合は断然、液晶モニターを見ながら撮影することが多いですね。液晶モニターの方が視線に自由度が高いのもあります。ファインダーを使うときは、鳥など遠くで動く被写体を撮るときです。「狙うぞ」っていう意気込みでファインダーを使っています(笑)光量が多くまぶしい場所など、ファインダーはあった方がやはり便利なので、その意味でも「α7C」は小さくても安心です。
——液晶モニターといえば、これまでのフルサイズαはチルト式で、「α7C」はバリアングル式ですね。
山本:私は歴代のフルサイズミラーレスαに慣れてしまっていたので、最初は戸惑ったのですが、すぐ慣れました。バリアングル式ならではの撮りやすさ、例えば縦位置でのローアングル撮影など、自由度は格段に上がりました。
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——次の作品に行きましょう。白猫がこちらをみています。「FE 35mm F1.8」でぼけも大きく、白猫の存在感が際立っていますね。
発売したばかりですが、「α7C」を買おうとする人が周囲に多く、よく聞かれるんですよ、Eマウントの単焦点レンズで何がオススメですかって。そこで写りがキレイで、とろっとぼけるレンズとして「FE 35mm F1.8」に決めました。レンズのサイズも小さく、「α7C」のボディサイズとのバランスも良いです。
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——今度はかなり近づきました。このレンズは結構寄れるんですね。
山本:ええ、最短撮影距離は0.22mです。目の前に猫ちゃんがいて、私も一緒に座りながら撮影しています。カメラも小さいし、電子シャッターでサイレントにして撮影したので、驚かせずに自然な表情とポーズを撮れました。
——動いて演技をしてくれているようですが、動物に対応した「リアルタイム瞳AF」は使っていますか?
山本:もちろん! ソニーのリアルタイム瞳AFは本当に凄いですよね。今までプロが必死にフォーカスを合わせて撮影していたのに、この機能で簡単・キレイに撮影できちゃう。すばらしい効き具合だと思います。もちろん人物でも同じように効きますから、家族のお出かけ写真を撮る方にもお勧めできますね。
——-「α7C」で動画も撮られました? 動画中のAFはいかがだったでしょうか。
山本:リアルタイムトラッキングが動画でも効くのですが、これが静止画の撮影と同じ要領で追いかけてくれます。一度ずれたとしてもタッチトラッキングでフォローできますし、もう本当にずるいです(笑)瞳AFと合わせて、設定さえすれば誰でも簡単に動画もきれいに撮れるカメラだと思います。
——-撮影されていてバッテリーの持ちは気になりましたか?
山本:体感でも他のフルサイズαとほとんど変わらず、スタミナは満足ですね。スペック上は「α7 III」より少し撮れるんですよね? とにかくこれまで通りスタミナを気にせず撮影に臨むことができました。
いまだにフルサイズミラーレスカメラの指針となる「α7 III」
——では「α7 III」を使われている桃井さんの作品を見ながらお話をうかがいしょう。桃井さんはいつから「α7 III」を使われていますか?
桃井:「α7 III」が発売された直後くらいから使いだして、それからほぼずっとメインで仕事に使っています。高画素のα7R系も使いますが、僕の仕事だと「α7 III」で十分こなせますから。ベーシックなモデルですが、いまでもバリバリ仕事で使っています。
——発売から2年半ほど経っているかと思いますが、いまのカメラ業界における「α7 III」の存在感はどのようなものとお考えでしょう。
桃井:バランスが良く、性能も実用的。発売から2年半以上経っていまだにフルサイズミラーレスの基準となるカメラと言って良いでしょう。「α7C」はその流れを組んだ新コンセプトのモデルですね。
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——では作品を見ていきましょう。こちらはモノクロですね。現像時に調整したものでしょうか。
桃井:いえ、クリエイティブスタイル「白黒」にして撮ったものです。その場にいるときに感じたものを再現したいので、現場でなるべく仕上げるようにしています。この場合は露出補正をマイナスにして雲のトーンを出し、全体的にどっしりした重めのトーンにしました。ポストプロダクションで複雑な調整することなく、カメラの設定だけで思い通りの階調が出たと思います。
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——次の作品を見ていきましょう。鮮やかで深い青空と白い鳥が印象的です。
桃井:クリエイティブスタイルを「風景」にして撮った作品です。青や赤が強くなり、コントラストが上がるため、この写真のようにハイライトを作りたいシーンだと「風景」を使うことが多いですね。
——AFは鳥に合わせていますよね。AFの設定はどのようにされていますか?
桃井:僕は大体AFエリアの設定として、フレキシブルスポットSを使っています。ファインダーを見ながら背面のマルチセレクターを動かして、AFエリアを操作しています。マルチセレクターは「α7 II」にはなかったのですが、操作面で役立っています。
——「α7 III」はファインダーがボディ上側中央にありますが、「α7C」はファインダーがセンターではなくサイドに位置しています。桃井さんにとってこの違いは重要ですか?
桃井:人それぞれの好みもあると思いますが……レンズの光軸上にファインダーがあると、超望遠レンズを使ったとき扱いやすい、というのは実際にはあります。私の場合はフィルム一眼レフ時代からすると何十年もセンターファインダーで撮ってきているので、個人的にはこのセンタースタイルが慣れ親しんでいる形状のものですね。
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——次の作品に行きましょう。前後に続く赤い屋根が印象的ですね。
旅先で撮ったものです。2020年現在は「α7C」が小さなフルサイズミラーレスカメラとして話題ですが、以前のフルサイズミラーレスカメラのライバルはデジタル一眼レフカメラでした。一眼レフカメラに比べると「α7 III」は一回りもふた回りも小型。旅先で重宝していました。
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——次の作品です。「FE 24mm F1.4 GM」ですね。広角でもフルサイズF1.4ならこれだけぼけるものですか。
はい。子どもにピントを合わせるという手もありましたが、菊の色が強すぎるため、ぼかしても菊に目が行くのではと思いました。そこで、あえて菊にピントを合わせ、子どもをぼかしています。何枚か撮ったうちの一枚ですね。このレンズも含め、フルサイズαはレンズのラインナップが豊富です。
——「α7 III」で主に使うレンズは何ですか?
桃井:ズームレンズ「FE 24-105mm F4 G OSS」がメインで、それに単焦点レンズ数本を加えることが多いです。どうしても荷物を小さくしたいときは「Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」を持ち出します。。それに短焦点レンズを何かしらプラスするスタイルです。旅行に行くとなると欲張ってしまい、どの焦点域も欲しくなるものですが、かといって単焦点レンズを数多く持つことは現実的ではないので、「FE 24-105mm F4 G OSS」のようなズームレンズは心強いですね。
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——次にいきましょう。これはまたぐっと渋い作品ですね。
桃井:アンティークの椅子の肘掛けですよね。風合いを感じたのでそこにピントを合わせて撮りました。レンズは「FE 85mm F1.8」です。
——黒の階調の出方はいかがでしょう。
桃井:フルサイズの強みの一つだと思うのですが、ディープシャドウがよく出ますね。こういうシーンを撮ると、ダイナミックレンジにゆとりがあることが感じられます。黒の厚みはセンサーサイズの大きい方が有利ですね。逆にシルエットにしたいときにマイナス補正しても階調が残っていたりして……(笑)とはいえ処理を詰めていくことを考えても、残っているに越したことはありません。
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——この作品も黄色のトーンがきれいですね。
桃井:はい、黄色と黒のコントラストに着目して撮りました。これも先ほどと同じ「FE 85mm F1.8」です。暗部にノイズもなくきれいですね。「α7 III」はベーシックモデルなのですが、こういうシーンで特に画素数とダイナミックレンジの、考え抜かれた性能バランスを実感できます。
小型軽量に特化した「α7C」、バランスの良い「α7 III」
——「α7C」にはどのようの撮影シーン、撮影ジャンルに合うのでしょうか。
山本:旅行も含めて、とにかくスナップは相性抜群でしょう。「α7C」が出たことで、これくらい小さくて軽くてフルサイズカメラが、2〜3年後はどのメーカーのカメラでも標準になっていくかも知れませんが、その先頭モデルとしてこの性能、驚きです。
——では桃井さん、「α7 III」に合う被写体は?
桃井:守備範囲が広いので、基本的に何でもいけるでしょうね。まずは「α7 III」を買って物足りなくなってから、本当に困ったシーンや特別な目的に出会ってから「α7S III」「α7R IV」「α9 II」に向かえば良いのではないでしょうか。
——「α7C」「α7 III」の両方を持っていたとして、どのような使い分けの方法が考えられますか?
桃井:小さなバッグで出かけるときは「α7C」ですね。ペンタ部(センターファインダーの突起部分)があるだけでスペースを想像以上に取るので、近場に軽く持っていきたいようなときは「α7C」、確実に何か撮りにいくような時は「α7 III」でしょうか。個人的には「α7 III」の方がグリップが深くて好みなので、過酷な撮影ほど向いている気もします。
山本:同じですね。近場にふらっと出かけるような時は「α7C」で。あと「α7C」は、すでにフルサイズαを持っている人が、サブカメラとして何かもう一台持っていきたいというときもお勧めできます。
——山本さん、「α7C」にキャッチフレーズをつけるとしたら?
山本: 「お散歩も作品もこれ一台」!
——いいですね。こんなカメラがあるとお散歩も楽しくなりますね。桃井さん、「α7 III」のキャッチフレーズは?
桃井: 「オールマイティで何でもできる、フルサイズミラーレスのスタンダード」 ……「α7 III」は出たときも同じようなポジションだったのに、いまも陳腐化せずそれをキープしていることに驚きです。発売時点で現状求められるレベルのデバイスを装備していました。
——そうですね。発表から長い期間をかけてその完成度が評価されてきました。
山本:「α7 III」のキャッチフレーズ、桃井さんの話を聞いていたら思いついたのですが……誰からも好かれ、何でもそつなくこなす優等生ということで…… 「みんなに愛される生徒会長」 !(笑)
——それいいですね!(笑)
提供:ソニーマーケティング株式会社