赤城耕一の「アカギカメラ」

第9回:ニコンDfとFマウントニッコールを再検証(実写検証編)

ニコンDfはデジタル一眼レフでは異例ともいえる7年にわたって現役販売されているロングセラーモデルなんだけど、そういうことはあまり評価されないみたい。これ、けっこうかわいそう。爆発的に売れるというより、ずっとDfを気にしている人が、貯金したり余裕ができたところで購入するという感じになるように設定されているのかな。フツーのデジカメだと、貯金しているうちに次機種が出たりして、欲しかったカメラはいきなり古びてしまいますね。

つまり、スマホがあるから本来はカメラなんか不要なんだけど、それでもあえて購入するならコレって感じがするカメラがDfなわけです。そうです、デジタルカメラには珍しく、発売から時間を経ても存在感はそのままですからね。

Ai Nikkor 35mm F2S
ニコンFマウントの35mmレンズはコンプリートしているはずだけど、本レンズが一番好きかなあ。ソツないですよね、写り。でもフィルム時代にはあまり気にしてなかったけど、こういう被写体ではタル型の歪曲があることが今回わかりました。直そうかなあと思ったんだけど、そのままにしておきました。
Df Ai Nikkor 35mm F2S(F11・1/500秒)ISO 400
Nikkor Auto 50mm F2(Ai改造)
©️と呼ばれるマルチコートが施されたニコンFマウントの伝統的な標準レンズですね。小型軽量です。個人的にすごく気に入っていて、各時代ごとに持ってます。開放から実用性能ありますけどね、絞りを開いている時の線の太さと、絞り込んだ時の線の細い感じが好きですね。モノクロフィルムでの描写も好きですな。
Df Nikkor Auto 50mm F2(F8・1/1,250秒)ISO 400

周りの一部の同業者がDfをみてマイナスの要素をあげることがあるんだけど、いちばん多い意見は有効1,625万画素では足りないってこと。もうそんなセンサーは古臭いんだそうだ。7年経つものなんか使いものにならんと。そうなの? あなた、そんなに良い仕事してるんですか? うちの仕事では、Dfの画質で十分すぎてお釣りがきそうです。

ま、あとからいろいろと画像をいぢくりたい人には高画素の方が確実に有利だし、将来の展開としては足りないという考え方なんだろうけど、感覚的にはDfの画質は高品位かつ、フツーによく写ると思うわけですよ。少なくとも古臭い写りという感覚は個人的には持たないわけです。あ、本機が得意とするお古ニッコール装着時の描写はまた別の話ですからね。

それにDfは設計の思想がはっきりしてますね。今のデジタルカメラって、主軸の撮影機能が動画撮影にシフトしているようなところがあるので、いちおう写真(静止画)も撮れますって感じになりつつあるのだけれど、Dfは逆立ちしても動画は撮れませんもん。これはいいですね。ずいぶんと潔い考え方で、こういうカメラは二度と出てこないんだろうなあと思うわけです。

Nikkor Auto 55mm F1.2(Ai改造)
以前Ai Noct Nikkor 58mm F1.2を所有していたけど、その効力がよく分からず手放したわけ。でも寂しくなり本レンズで撮影した写真を見直したら、個性的で良かったわけです。で、別に非球面じゃなくてもいいじゃんと。開放では作例のようにまとわりつくようなフレアとグザグザの二線ボケ(笑)が楽しめます。この個体はモノコート。
Df Nikkor Auto 55mm F1.2(F1.2・1/1,250秒)ISO 100
Nikkor Auto 35mm F1.4(Ai改造)
発売当時は大口径の広角レンズとして存在感を示しました。少し太くて重たいけど、デザインも美しいし。高屈折ガラスの経年変化か、うちの個体は黄変してコダックのゼラチンフィルターでいうと81Cくらいをかけた雰囲気。ハマるといい感じ。逆にAWBの設定だと勝手に補正され、作例のようにニュートラルな色再現になることがあり。
Df Nikkor Auto 35mm F1.4(F2・1/200秒)ISO 400

私がDfで少し気になるのは、ボディが少し厚いことですかね。内蔵脂肪があるのかなあ。自分を見ている感じがするからかなあ。とくに底部がキラいですね。デザイン的な処理でエプロン部を少し前に出したり、それに合わせて、レンズ着脱ボタンを前に出すとか、高さを少し上げるとか、ライカM10あたりもそうなんだけど、涙ぐましい努力でボディ本体を薄く見せようとしているわけですね。

でも、いかんせん、他社の一眼レフと比較して、少し長めのフランジバックの距離はニコンFマウントカメラなら我慢せねばならない部分なわけですよ。ただ、Df誕生に深く関わった元ニコンフェローの後藤哲朗さんによれば、あと2mmは薄くできるのではないかとおっしゃっていましたねえ。これはどうなんですかねえ。もし次機種があったら実現できたんだろうなあ。Mr.ニコンと呼ばれた後藤さんなら絶対やったろうなあ。

Nikkor Auto 85mm F1.8(Ai改造)。
ある時に知人から借りてとても気に入り、探し回ってやっと見つけました。この個体はモノコート。外は雨で窓際で、光線状態としては良くないし明暗差が少し大きく。シャドー側に振った露光でコントラストは少々弱めだがポートレートにはいいですね。階調の繋がりもよく線の細い描写をします。モデルは後藤哲朗さん。
Df Nikkor Auto 85mm F1.8(F2.8・1/640秒)ISO 800

銘板部分の「Nikon」のロゴが直線なのは、もう気合いとしか言いようがないですね。このロゴは懐かしい感じすらしちゃいますからねえ。ニコンFM3Aなんか、現代の横倒しロゴになってましたからね。私はFM3Aが出た時に、「アサヒカメラ」のインタビューで後藤さんにロゴについてイチャモンをつけたのですが、後藤さんは「大丈夫、見慣れますから」と回答されました。今でも覚えておりますよ。それにしてもDfにこのロゴとは話が違うよなあ(笑)。

ペンタプリズム部が上部に少し飛び出て見えるのもデザインの特徴なんだけど、これは直線を基調としていることもあるのかな。あとはそんなに気になることはないかな。メディアスロットがバッテリー室と同じことぐらいかな。最近人気のダブルスロットじゃないけど、それは別にいいですよね。前人未到の地に行く旅行にはDfを持ってかねえし。

Nikonの旧ロゴを採用してきたことが、個人的には一番感慨深いことかもしれぬ。これを見て、またNew FM2とか使いたくなったりしている私がいます。

使用感としては上部の各ダイヤルの動きがわずかにグラグラ感じたり、クリックのカチカチ感が弱いことが少しだけイヤかなあ。とはいえ文句があるのは家の中であれこれ触っている時だけであって、外で撮影していると気にならないし、不満なんかほとんどないんだけどね。こういう感想が出てきちゃうのもDfの特徴かもしれないですね。

基本的にFXフォーマット(35mmフルサイズ)のニコン一眼レフではDfは最も小型軽量ですよね。EN-EL14aバッテリーを採用していて、これが小型軽量で大容量のため、Dfでは約1,400コマ撮影できるってのもいいですね。

それにしてもデジタル一眼レフでこれだけ大きなシャッターダイヤルを見たことがなかったので、最初にDfを見たときは本当に感激しました。

シャッタースピードダイヤルが必要以上にデカくて存在感あるか。ライカR8とかR9よりは小さいかな。1/3 STEPの刻印が緑色ってのは、FE2あたりを思い出してしまうわけです。

シャッターダイヤルは1/3STEPポジションに設定すると、メインコマンドダイヤルでシャッタースピードを設定できるのもいいですね。こうなるとフツーのデジタル一眼レフカメラのUIなんだけど、アナログとデジタルの折衷案を採用しているのはうまいよなあ。今見てもさすがだと思いますもん。こういうのは好きですね。常人には考えつきません。

そういやDfのfって精密機械の感触と高品位画質の融合(fusion)の意味でしたね。最初はD(デジタル)とf(フィルム)がケンカしたのかと思ったけど。はい、これはまったく違いましたね。

ISO感度ダイヤルと露出補正ダイヤルはボディ左袖。その下の「MADE IN JAPAN」の文字も大きい。ISO感度ダイヤルをちょこっとズラして露出補正してますぜ、っていうF3のような安易なことをしなかったことも高く評価。

大きめのシャッタースピードダイヤルがあるから、モードダイヤルは小さくなって、シャッターボタンの隣に位置してます。普段はモードダイヤルがデカいカメラを操作することが多いので、Dfをしばらく使うと撮影モードがどこにあるのか探したりすることがあります。逆に今のカメラを使う場合はシャッタースピードをどう設定するのか悩むことがありますね。トシ食ってくると臨機応変に使いこなせなくなってくるのかな。困ったね。

MFニッコールを使う場合は、個人的にはA(絞り優先AE)モードで使うことが多くなるのですが、そうなるとシャッターダイヤルには一切触らずに遊んでしまうことになります。ギミックとしてみればそれはそれでいいけどね。時間的に余裕がある時、たまには露出もフォーカシングもフルマニュアルで撮影してみるのもいいかもしれないですね。デジタルだから、仮に撮影をしくじってもすぐにわかるから撮り直せばいいし。そんなお気楽な考え方でマニュアル撮影するのも間違いなく楽しいですよね。

各種メニューに関しては個人的にはお腹いっぱいです。Dfでもこんなに細かく設定が出来ちゃうのかとか、個人的にはほとんど使わない項目ばかり、何が便利なのかはよくわからんのです。CPUを内蔵していない使用頻度の高いMFニッコールのレンズ登録をDfにするのは楽しいですね。たまにレンズ交換した時に設定を忘れちゃうけど、それでも問題なく写るしね。各種のボタンやダイヤルはおそらくデフォルトのまま使っているんじゃないのかなあ。Fnボタンに何を設定したか忘れちゃったりするのは玉にキズ。

マウント部分のAi連動ピンを跳ね上げることができるので、非Aiニッコール、すなわちニッコールオートレンズが装着できたりするんだけど、これもかなり親切な思想です。でもウチにあるニッコールオートレンズとかNewニッコールレンズとかは、ほとんど純正でAi改造してあるから、ピンを跳ね上げる必要ないんだけどね。あ、余談ですけど、先日のことですが、私よりも年上の熱烈なニコンファンにとある場所でお会いしたんですよ。

私はDfをたまたまぶら下げていたので話が弾むかなあと期待したら、私のDfに純正のAi改造されたニッコールオートレンズが装着されているのを見て、顔を曇らせるわけ。「美しくない」とはっきり言われましたねえ。「こんなことしたらオリジナルのニッコールのデザインが損なわれてしまうではないですか」と真剣な顔をして言うわけ。まぢかよ。“純正”改造なんだからいいじゃねえのか。という理屈はまったく通じませんでした。ニッコールオートレンズをDfに使うならAi連動ピンを跳ね上げて装着して使うのがスジだとコンコンと説かれましたわ。怖いです。ニコ爺さん。

跳ね上げ式のAi連動ピン。写真で見るニコンDfより

Dfの使い心地はたとえばフィルムニコン一眼レフのそれとも違うんですね、やっぱり。それはそれでかまわないけど、考えてみればフィルムニコン一眼レフのフラッグシップでは1996年に登場したF5の時点で、シャッタースピードダイヤルがカメラの上部からなくなっていたわけですわ。シャッタースピードダイヤルが最後まで存在したニコン一眼レフはFM3Aということになりますね。もしDfがこのことを意識していたとすると、このあたりにも“融合”の感覚があるわけです。

とても良いのは先に述べたように、シャッタースピードはシャッタースピードダイヤルでもメインコマンドダイヤルでも好きな方をお使いくださいね、という選択肢があることですよね。絞りは基本的にCPU内蔵のレンズならばボディ前面のダイヤルを使用し、非内蔵のMFレンズなどは絞り環を使うことになるわけですな。絞り環のあるAiAFニッコールやAi-Pタイプのレンズでは絞り環は最小絞りに設定し、カメラ前面のサブコマンドダイヤルを使用するわけですね。

コシナ・フォクトレンダーNOKTON 58mm F1.4 SL II Sを装着したDf
かつてのNikkor Auto 50mm F1.4に似た外観は意図的のようだ。鏡胴の先端をシルバーとブラックから選べるというこだわりようがすごい。ニコンでいえばPタイプの電気接点つきなので、Dfをはじめとするニコンデジタル一眼レフではAF以外の全ての機能が使える。またカニのハサミも付いているから、ニコンフォトミックFTNなどではガチャガチャできます。かつてニコンS3やSPが復刻された時にコシナは急遽フォクトレンダーブランドのニコンSマウント交換レンズを加えたことがあるが、それを思い出した。描写は“絞りの効く”タイプで設定絞りで異なる顔をみせる。ここでは絞り込んでディテールの細かな描写に期待したが、これに応えてくれた。
Df NOKTON 58mm F1.4 SL II S(F14・1/500秒)ISO 400

えーと、あと連写速度とかはどうでしたっけか。最高5.5コマ秒ですか。足りませんか? 私には十分なんだけど。シャッターの押し心地や動作音は好みもあるでしょうけど、嫌いじゃないですね。シャキシャキした動作感があります。うちのDfにはMFニッコールがついていることが圧倒的に多いので、AFのスピードについては正直気にしていないけど、問題ないんじゃないかなあ。

動画撮影は捨てたけど、ライブビューがきちんと残されていることは評価したいですね。大口径の広角レンズで絞り開放近辺にて撮影、なんていう条件では間違いなくライブビュー撮影の方がAFの精度的にも安心だと思いますよ。また古い大口径のニッコールレンズの中には残存収差のためかフォーカシングしづらいものもあるので、この場合にも役立ちます。このほうがフォーカスエイドよりも精度的にも高いですから。ニコンDfはレトロな雰囲気を残しつつも誕生した2013年時点では最新の機能が積まれていたわけです。どうやらベース機はニコンD600らしいですけど、べつにいいんじゃないですか。

ニコンDfはMFのニッコールオートやNewニッコールやAiニッコールなどを装着しても、ストレスなく楽しく使用してほしいという願いが込められて設計されているように思います。画質も個人的には満足していますけど。階調再現がとても秀逸だし。お古ニッコールレンズの特徴もよく引き出せていると思いますね。これはやはりFX(35mmフルサイズ)の余裕というやつでしょうか。

Ai Nikkor 135mm F3.5
現代ではスペック的に不人気なレンズです。Aiニッコールの時代になっても生き残っていたのが謎ですねえ。ただ描写力は見事ですわ。コントラスト低めなのは天気のせいかな。調整しちゃおうかと思ったんだけどそのままにします。本レンズはフードが組み込まれていて、これがあまり役に立たず天空光が少し悪さをしたのかもしれません。
Df Ai Nikkor 135mm F3.5(F5.6・1/800秒)ISO 400
New NIKKOR 24mm F2.8(Ai改造)
ニッコールでフローティング機構を最初に採用したのは、Nikkor Auto 24mm F2.8だったかなあ。本レンズはその直系なんだけど、現代でも通用する、かなりよく写るレンズなので気に入ってます。レトロフォーカスの泣き所とされた歪曲収差もよく補正されてますし、天気がいまいちですがコントラスト高いし。
Df New NIKKOR 24mm F2.8(F8・1/800秒)ISO 400

前回にも述べた通り、MFのAiニッコール、AiAFニッコールがすべてディスコンになった今だからこそ言いますが、それらを使用しても楽しめるようにDfは押さえておくべきニコン一眼レフカメラの筆頭格になったような気がしますね。正直、私の目があまりよろしくないせいか、フォーカスを追い込むには苦労するレンズも中にはあるけど、プライベートな撮影ではむしろフォーカスを追い込む練習になるしね。

お古なニッコールをマウントアダプターFTZを使ってミラーレスのZ系カメラに使用したり、あるいは他社のミラーレス機にサードパーティのマウントアダプターで使うということも今ではごく当たり前の楽しみとして定着しているし、否定すべきものでもないけど、ニコンFマウントの一眼レフカメラにダイレクトに装着することができるって、気持ち良さが違うわけです、メンタル的にもね。Dfにお古ニッコールを装着した瞬間、ニコンは偉大だなあと思うわけですよ。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「銀塩カメラ辞典」(平凡社)