赤城耕一の「アカギカメラ」
第11回:ハッセルブラッドCFV II 50Cに感動した話
2020年12月5日 09:00
ハッセルブラッドVシステムには特別な思い入れがあって、現在でもバリバリ愛用しています。12月18日(金)から新宿のオリンパスギャラリー東京で始まる写真展「録々」にもハッセルブラッド500CMとか500ELM、553ELXで撮影した「真四角写真」の作品を展示する予定です。あ、ちなみに展示作品ではオリンパスフレックスとか、PEN-Fも使っていますからね、念のため。真面目だよなあオレ(笑)。お時間ありましたらぜひお越しください。
で、最初から余計な宣伝を書いていますが、ハッセルVシステムカメラでの撮影、これは“私事”になります。つまりプライベートな撮影ですね。 最後に“仕事”でVシステムを使ったのはいつだったか、もう記憶がないくらいですわ。
真面目な職業写真家ならばVシステムにデジタルバックを駆使して本業撮影に生かすということも考えるのでしょうが、効率ばかりを重視し、かつ資金繰りも苦しい底辺写真家には、デジタルバックの購入はかなり厳しいよねえ。
これまでも本家ハッセルのみならず、他社からもVシステム用にはデジタルバックが多数用意されていましたけどね、価格も仕様も業務用という側面が強いわけ。仕事がたくさんあったその昔ならともかく、今ではモトを取るのに大変ですぜ。
最新のハッセル、感動の詳細
ところがハッセルブラッドから新登場のデジタルバックCFV II 50Cは素晴らしく洗練され扱いやすくなった印象で、価格も大幅に下がったのでした。いやあ、かなり欲しいですぜこれは。
説明が面倒だけど、このCFV II 50Cは中判デジタルカメラのハッセルブラッド907Xのセンサー部分をマガジンの形にして分離したものです。つまりカメラ部である907Xと組み合わせることで中判AFカメラとして機能し、切り離すとハッセルV用のデジタルバックとして使えます。常人には考えつかない、すごいアイディアですよね。
907XはXCDマウントがくり抜かれた薄い板に、シャッターボタンがついているだけのものという印象ですからねえ。中判カメラボディとしては最小を誇ります。重量はわずか203gです。907Xにレンズを装着しただけではもちろん撮影はできません。XCDレンズと組み合わせたときの画質はX1DIIと同等。44×33サイズ、5,000万画素CMOSセンサーの中判ミラーレスデジタルカメラとなります。
しかし、スタンドアローンのデジタルカメラとして使うこともでき、デジタルバックとしても使えるというハイブリッド感覚、これだけで感動します。新型コロナがなかったら開発者をハグしたいです。でもVシステムに長年お世話になったジジイとしては、CFV II 50Cのみをまず前に押してやりたくなるんですね。
前機種のCFV 50Cの使用経験もあるんだけど、これはバッテリーは本体に内蔵することができなくて、コブのように本体から盛り上がり、スリムさに欠けたわけ。ケーブルを繋いで外部電源をつければいいんだろうけど、なんか違うんだな。ところがCFV II 50CはフィルムのA12マガジンを少し大きくした程度なので、装着してもVシステムカメラの持つ雰囲気を壊さないんですよ。このポイントはものすごく高い。あ、たぶん真面目な職業写真家はそんなことは気にしないんだろうけどね。
CFV II 50Cは1957年以降に発売されたほとんどのVシステムカメラに取り付けられるんですが、Vシステムはメカニカルのレンズシャッターとボディ内蔵のバックシャッターで連動を行い、かつボディから突き出した検知ピンを使用して、マガジン側にボディのセット状態を知らせるわけで、とにかく徹底したメカ連動なんですわ。最終型の555ELDのようにデジタルバックの使用を考慮し電子接点を設けたカメラもありましたけど、基本的にはボディもレンズもフィルムのために考えられたシステムです。だからここに最新のデジタルデバイスを組み合わせるってのは並大抵のことじゃないですね。電気的な通信なら間違いなく単純で、イッパツでできちゃうはず。
CFV II 50Cに伝わる連携装置は、ボディ側のシャッターボタンを押したと同時に飛び出る板状のタイミングピンです、先に述べたようにこれはフィルムマガジンにシャッターチャージを知らせるためのものでした。メカニカル連動だからタイミングが悪ければ未露光などのトラブルが出てきてしまうけど、筆者の手持ちの500C/Mや500EL/Mなど古いハッセルに装着してもまったく問題なく動作したのは嬉しかったですね。ほんとに。
古いハッセルVシステムカメラではメンテナンスを怠っていたなどの理由から、動作連携がうまくいかないこともあるかもしれません。センサー面の位置や規格の厳密さはフィルム時代と比べるとものすごくシビアだから、これも個体によっては相性の良し悪しが出てきそうで大変ですね。
5,000万画素のポテンシャルとVシステム用ツァイスレンズの性能を完全に引き出すには、ボディとレンズのメンテナンスも重要になりますが、撮影者側がしっかりとフォーカシングをするとか、気を抜かない撮影方法を考えねばなりません。それなりの練習、スキルが必要です。ただでさえ被写界深度は浅いし、ちょっとでもフォーカスが外れるとすぐにわかるわけ。ポートレートなんかだとすげーカッコ悪いぜ。モデルさんからもツァイスファンからも糾弾されてしまう可能性がありますから注意が必要です。
それにしてもハッセルVでフルマニュアル撮影していると、顔認識とか瞳認識AFは夢のような技術に思えます。でも、マニュアルフォーカスでキチッとフォーカスが当たりだすと、それなりに撮影に自信がついてくるものです。
デジタルの効力を生かして撮影するとなれば、CFV II 50Cはライブビューも可能なのでシャッターをT位置で開放状態にして、モニターでのフォーカシングも可能です。ピーキングも使えるけど、広角レンズ系では大雑把なので当てにはしない方がいいでしょうねえ。像を拡大すると、これもいい加減にフォーカシングしたことがバレるもん。間違いなくそんな怠惰な撮影したら石をぶつけられますね。
やっぱり真四角?
ハッセルブラッドのフィルム時の画面サイズは56×56mmの正方形。CFV II 50Cはセンサーは約44×33mmの長方形画面。センサーサイズ、アスペクト比に合わせたV専用のファインダースクリーンも用意されているのはいいことです。私はかなり意固地だから、Vシステムで撮影した写真は正方形じゃないとイヤだと考えていました。あくまでも正方形にこだわるなら、もちろん画像はクロップすることになりますね。
けどね、慣れてくると長方形も気にならなくなったりするんですよ。いい加減だぜ。でもね、この違和感を克服できるかがVシステム+CFV II 50C使いこなしのカギとなるんじゃないですかねえ。
500CMなどメカニカルのVシステムのカメラボディには、あたりまえだけどメーターは内蔵されていないし、露出の決定は撮影者が行なう必要があります。それから手動で巻き上げクランク回して、シャッターチャージを行い、フォーカシングして、シャッターボタンを押す手順になります。これはフィルム時代と同じ。だけど、テスト撮影する余裕があれば、軽く試し撮りして、画像やヒストグラムを確認しちゃえば露出に関しては問題ないですね。あーやはり、デジタルは人を怠惰にするんだわ。
でも写真は一期一会です。テスト撮影している間に被写体がいなくなってしまうかもしれません。良い子はきちんと単体露出計を使いましょう。