新製品レビュー

ニコンD5(外観・機能編)

4年ぶりのフラッグシップ その新要素をチェック

ニコンとキヤノン、両社のフラグシップモデルは4年に一度モデルチェンジを行う。それは言うまでもなくオリンピックを見据えてのものだ。オリンピックイヤーである今年もニコンから「D5」、キヤノンから「EOS-1D X Mark II」が新年早々相次いでに発表された。いずれも両メーカーの威信とプライドをかけた意欲作であり、圧倒的なスペックを誇る。

今回、発売前に先がけ実写可能なD5を借りることができたのでここに紹介したい。本モデルの発売開始日は2016年3月26日。本稿執筆時点での量販店店頭価格は、ボディ単体が税込75万600円前後とする。

細かくリファインされた外観

まずは外観を見ていきたい。先代「D4S」と大きく異なる部分といえば、主にトップカバー廻りとなるだろう。先代モデルは曲面部のRが大きいうえにエッジの強く効いた部分があるのに対し、D5は曲面部のRが比較的小さく、エッジの効きも幾分弱いものになった。グリップの赤いラインもD4Sは角のないものとしていたが、D5では「D3」「D3S」などと同様に角の付いたものとなる。ボディシェイプも含めニコンらしいデザインテイストに戻ったと述べてよいだろう。グリップの形状はわずかに細身となり、手の小さい人間でもより持ちやすく感じられる。グリップ上部も右手人差し指がシャッターボタンの上により素直に置けるシェイプとしている。

ふくよかな形状のグリップ。右手手のひらにしっかりとフィットする。縦位置ファンクションボタンには露出補正などを割り当てることができる。
マルチセレクター上部とi(アイ)ボタン下部に配置されるサブセレクターはD4から採用されている操作部材。撮影時はフォーカスポイントの選択を担い、操作感は良好だ。

操作部材の目立った違いといえば、まずトップカバーのボタンとなるだろう。これまでシャッターボタン近くとしていたMODEボタンが、トップカバー左肩の通称“三つ葉ボタン”へ移動。三つ葉ボタンから追い出されたフラッシュボタンはカメラ背面にあるサムネイル/縮小ボタンと兼用となった。

“三つ葉ボタン”には新たにMODEボタンを設置。行き場のなくなったフラッシュボタンはカメラ背面のサムネイル/縮小ボタンと兼用としている。

さらに、MODEボタンの“跡地”には、従来機でカメラ背面の下部にあったISOボタンが移動してきている。一見大きな変化ではないように思えるが、感覚的にボタンの位置や機能を指が憶えていることの多いプロカメラマンをメインターゲットとするカメラであることを考えると、決して小さくない変化と言わざるを得ない。もちろん同社では好き勝手にレイアウトの変更を行ったわけではなく、綿密にリサーチした結果などから今回の変更を決断したと思うので、結果的に操作性は向上するはずだ。

D4Sまでボディ背面にあったISOボタンは、D5ではこの位置とする。さらに、従来この位置にあったMODEボタンはペンタ左側の“三つ葉ボタン”へ移動。

そのほか目立ったところとしては、カメラ前面部エプロンの左側にはFn 2(ファンクション2)ボタンが追加され、Pv(プレビュー)ボタン、Fn 1ボタンとともに3つのボタンが縦に並んだ。使用頻度の高い機能をうまく割り当てれば、操作性はさらに高まることだろう。ただし、縦位置に構えたとき、同じボタンが縦位置用に配置されていないのは些か不便。ライバルのEOS-1D X Mark IIも同じ位置にファンクションボタン等を配置しているが、こちらはさらに縦位置用としても同様のボタンをエプロン下部に備えている。ニコンも見習ってほしいところである。

エプロン部左側面にFn2ボタンを追加。従来からあるPvボタン、Fn1ボタンも含め、好みの機能を割り当てればD5がより自分好みのカメラになるはずだ。
インターフェースの充実はプロ機ならでは。右上から時計回りに、USB端子、マイク端子、HDMI端子、有線LAN端子、ヘッドホン端子、拡張端子。
高級機の証しともいえるアイピースシャッターももちろん装備。リモート撮影のときなど重宝するはずだ。
着脱式となったアイピース部。レインカバーなどの取り付けを可能とする。アイピースのレンズ両面とファインダー接眼レンズには汚れの付着しにくいフッ素コートが施される。
ファンクションの設定画面。PV(プレビュー)ボタンやAF-ONボタンにも機能を割り当てることができる。
+と−の位置が入れ替えられる[インジケーターの+/-方向]。ニコンデジタル一眼レフに伝統的に備わる機能だ。

より広範囲をカバーするAF。AF微調節にライブビューAFを利用

注目のキーデバイスで、大きく進化したのがまずAFシステムだ。99点のクロスセンサーを含むフォーカスポイントは153点! 任意で選択可能なのは55点だが、D4Sにくらべより広い範囲をカバーする。さらに中央のフォーカスポイントは-4EV、他のフォーカスポイントも-3EVに対応し、低輝度下での撮影でも心強い。

AFの食い付き、追従性能もこれまで以上としているのも特徴で、フォーカスポイントと重なった被写体に対し、その動きや障害物などに関係なく粘り強くピントを合わせ続ける。これはAF専用のエンジンを新たに搭載し、それがAF制御の高速可を実現した結果といえるだろう。試写では高速でカメラの直前を横切っていく被写体を連続撮影で追いかけてみたが、希に近づき過ぎた被写体を見失うことがあるものの、その場合もすぐに捕捉し直し、被写体を完全に見逃すようなことはなかった。

ちなみに選択した1点のフォーカスポイントに対し、他のフォーカスポイントのピント情報を応用して被写体を追従し続けるダイナミックAFでは、25点、72点、153点から選択を可能としている。

AF微調節機能のひとつとして、新たに自動設定が搭載されたのもD5の見どころ。これまで同社のAF微調節では設定・撮影・確認を繰り返しながらピント位置を追い込んでいく必要があったが、自動設定ではライブビューにしてAFでピントを合わせ、設定画面で確定するだけと極めてシンプルなワークフローとする。しかも精度の高いコントラスト方式のAFを利用するため、より正確な微差調整が可能だ。ピントの位置が怪しいと思ったらぜひ試してみて欲しい機能である。

AF微調節機能に新たに追加された自動設定のワークフローは次のとおり。ライブビュー画面でピントを合わせた後、AFモードボタンと動画撮影ボタンを同時に2秒以上押す。
そして表示されるメッセージに従いOKボタンを押すとAF微調整が実効となり、同時に個別レンズ登録リストに登録される。なお、ターゲットはコントラストのある被写体が適しており、カメラとの距離は「そのレンズで人物を撮る際にバストアップとなる距離」が適しているという(例えば、掲載した写真ではターゲットまでの距離が近すぎる)。
横位置と縦位置でのフォーカス切換えを備える。フォーカスポイントのみ切り換えるモードと、フォーカスポイントとAFエリアモードの両方を切り換えるモードが選べる。

2,000万画素を超えたセンサー

デジタルカメラの要、イメージセンサーはFXフォーマット(35mm判フルサイズ相当)有効2,082万画素のCMOSセンサーを採用。現在のフルサイズセンサーの常識からいえば、ちょっと物足りなく感じなくもない画素数だが、これは画質とのバランスを考慮した結果。余裕ある画素ピッチであることに加え、画像処理エンジンEXPEED 5との連携で、拡張感度を除いて最高ISO102400を実現している。さらに階調再現性やレタッチ耐性にも秀でており、フラッグシップらしい高い描写力を誇る。

常用での最高感度はISO102400。描写が気になるところだが、それについては次回実写編で!

余談となるが、2013年に登場するやクラシックルックが話題を呼んだ「Df」に、当時のフラッグシップ機「D4」と同じ有効1,600万画素のイメージセンサーが搭載され、意外に思った方もいるかと思う。しかし、それはひとつに画質を優先させたことが大きい。本モデルのイメージセンサーも、もしDf後継モデルが登場するならば、搭載される可能性は高いといえるだろう。なお、拡張設定を使用した際の感度域は、ISO50相当のLo1からISO3280000(328万)相当のHi5までとしている。その描写ついては、次回「実写編」で紹介するので期待して頂きたい。

拡張での最高感度はISO328万相当となる。こちらもどのような描写となるか気になるところである。果たして使えるものなのか…

より高速な連写

フラッグシップモデルで注目されるのは、最高感度とともに連続撮影のコマ速(連写速度)だ。スポーツをはじめとする動体撮影では、いうまでもなくコマ速は速いほど有利で、さらにそうしたカメラはシャッターのキレもよいため、ポートレート撮影などでも雰囲気がつくりやすい。

そのコマ速は、D4Sよりも1コマ速くなった最高12コマ/秒(ミラーアップ時14コマ/秒)を実現。クイックリターンミラーのアップ&ダウンやシャッターの物理的な動きを考慮すると、圧倒的なコマ速と述べてよいだろう。さらに連続撮影時のファインダー像の消失も極めて少ないうえに、像が揺らぐことも少なく、動いている被写体を追い続けることもより容易としている。

ただし、コマ速に関していえばEOS-1D X Mark IIが最高14コマ/秒としているので、些か分が悪く感じないわけでもない。このあたりについてはユーザーがどのように判断するか気になるところである。

最高コマ速は12コマ/秒。ミラーアップした状態なら14コマ/秒を可能とする。ライバルはさらに速いコマ数とするが、それがユーザーの評価にどう結びつくか気になるところである。

なお、作例撮影で「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II」を使って連写した際、VR(手ブレ補正機構)をONにしているとコマ速が低下した。手ブレ補正が必要ない高速シャッターのシーンでは、意識してVRをオフにしたほうがD5の性能をフル活用できるだろう。

XQD×2か、CF×2か。選べるメディアスロット

D5の話題のひとつといえば、購入時にメモリーカードのスロットをXQDもしくはCFのいずれかを選べ、さらに有償ながらサービスセンター対応で換装を可能にしている点がある。スロットはどちらも2基搭載し、これまでどおり順次記録/バックアップ記録/RAW+JPEGの分割記録の使い分けを可能としている。先頃レキサー製XQDカードが大幅な値下げを行ったこともあり、CFを超える高速転送が可能な同カードをこの機会に使ってみるのもよいかもしれない。なお、スロットが異なることによるD5本体の販売価格の違いは、今のところない。

スロットは購入時にXQDもしくはCFのいずれかを選択する(ともにダブルスロット)。購入後サービスセンターなどでスロットの交換は有償で可能としている。写真はXQD。
XQDの場合もスロット2の機能に変更は無い。

ほかにも新要素多数

D5のAUTOホワイトバランスには、従来の[AUTO 1 標準]、[AUTO 2 電球色を残す]に加え、新たに[AUTO 0 白を優先する]が搭載されたことも興味深い。元々はD4Sに搭載された[AUTO 1 標準]に相当するもので、光源の色みに関わらず白い被写体を、より忠実に白く再現する。室内で開催されるスポーツイベントや都市の夜景、披露宴の撮影など、光源の色かぶりを大きく改善するものとして期待できそうである。

新たにオートホワイトバランスに加わったのが[AUTO 0 白を優先する]。光源の色かぶりを可能なかぎり補正するので、室内競技の撮影などでは重宝しそうだ。

3.2型の液晶モニターは236万ドットとする。画像再生時のみならず、ライブビューでのピント位置の確認も快適。ライブビュー画像を拡大し、マニュアルフォーカスによるピント合わせではより緻密に合焦させることができる。さらにこの液晶モニターはタッチパネル式としており、ライブビュー撮影時にはフォーカスポイントの移動のほか、タッチした部分を基準にホワイトバランスを調整するスポットホワイトバランス機能にも対応。画像再生では、画像送りを左右のフリックで、拡大縮小をピンチイン/ピンチアウトで可能としている。

撮影した画像の送りは、画面の左右をフリックするか、画面下部をタッチすると表示するフレームアドバンスバーを左右にスライドさせても可能だ。
画像の拡大縮小はピンチアウト/ピンチインで行う。
拡大箇所の移動はドラッグで可能としている。
D5に限ったことではないが、ニコンデジタル一眼レフの場合デフォルトでは撮影直後のポストビューが表示されない設定となっている。そのため新品で購入した際、ポストビューを表示させたければこのメニューを変更する必要がある。

動画機能としては、いよいよ4K(3,840×2,160)記録に対応した。時代の流れからいえば当然といえるだろう。ただし、パナソニックが提唱する4Kフォトのような新たな静止画撮影の手法については、残念ながらさほど考慮されていない。カメラ内で4K動画から静止画を切り出すことは可能としているが、ガンマを静止画に合わせるような機能や、専用の撮影モード、マーカー機能などは未搭載としている。搭載されていれば、より決定的な瞬間をものにできたと思えるが、そこまで踏み込まなかった理由が気になるところである。

4K(3,840×2,160:30p)による動画撮影に対応する。4K動画から8メガの静止画を抜き出すことも可能としている。ただしガンマは動画のままとなる。

そのほか、比較明合成/比較暗合成の撮影機能、低消費電力設計、着脱式となったアイピースなどが新たな要素。精度、耐久性ともさらに増したシャッター機構や、高い防塵防滴性能の採用など、D5はニコンを代表する特別なデジタル一眼レフに仕上がっている。次回、実写編ではその描写を中心に見ていくことにするので期待していただきたい。

画像編集メニューを備える。一見ハイエンド機では無くてもよいように思えるが、あればあったで便利なことがあるのも事実。
撮像範囲の設定はFXのほか1.2×、DX、5:4から選択が可能。なおDXレンズの装着では自動的に撮像範囲が切り換わり、ファインダーにもマスクが入る。
ライブビューの撮影では無音撮影が可能。静かな場所での撮影などでは活用したい機能である。
バッテリーはD4Sと同じEN-EL18aを採用。ホームページの仕様表を見ると撮影可能枚数は記されていないようであるが、D4Sが約3,020コマ(CIPA規格準拠)とするので、それに近い数字と思われる。
付属するバッテリーチャージャーMH-26a。同時にEN-EL18a が2個充電できる大型のものである。持ち運ぶ際にはちょっとしたスペースを必要とする。

大浦タケシ