特別企画

【徹底検証 ニコンD6】自転車レース・ボートレース・乗馬シーンでAFの進化点を探る

2020年6月、ニコンはフラッグシップ一眼レフカメラ「ニコンD6」を発売した。本機は2016年に発売されたD5の後継機で、スポーツや報道の分野でスチール撮影に取り組むプロユーザーに応える高速連写機能や堅牢性、高ISO時の低ノイズ性能などが期待されている機種だ。発売からだいぶ間があいているが、動体での撮影結果をじっくりと確認してきた。東京オリンピックの開催を目前にひかえ、カメラマン席で、まだまだ一眼レフカメラが並ぶことになるのか、はたまたミラーレス機に塗り替えられることになるのか、カメラ・写真好きの読者諸氏の関心も高まっているものと思う。今、ニコンのフラッグシップ一眼レフの到達点がどこにあるのか。今回は乗馬や自転車レース、ボートレースでAFの徹底検証を進めていった。

AFの精度をとことん検証

D6の測距範囲は、一眼レフ機ゆえに画面中央部に寄っている。測距点(AFポイント)の数自体はD5の153点から105点に減ってはいるものの、フォーカスポイント1点に配されているセンサーは縦横各3列ずつとなっており、1点内にクロスカ所が9つ存在する「トリプルセンサー配列」を掲げている。全体の測距点数はD5比で減っているものの、1点内の密度が向上(約1.6倍)しており、水平・垂直に重なる線状の被写体(コントラストの境)への合焦精度が向上している、というわけだ。

D6
D5

これら105点のフォーカスポイントが全てクロス測距に対応しているわけだが、その威力が発揮されるのはF4より明るいレンズを装着した場合に限られる。が、500mm F4や600mm F4といった超望遠レンズとの組み合わせは例外となる。

各AFエリアモードも既存のパターンから横列、縦列等で使えるような新グループエリアAFが搭載されている。2018年に行われたD5のファームウェアアップデートで追加された機能を応用したものだ。

測距エリアのパターンは全部で17パターンが選べる。今回試したのは横方向1列全部に縦1段分と、縦3段分となる2パターンである。他のグループエリアパターンは、別のAFエリアモードであるダイナミックモードに似るため、この2つに絞っている。

なお、AFエリアの選択など、数あるAF機能の設定に関して、ニコンは一般的なスポーツ撮影の場合はダイナミック9点のAFエリアモードを推奨している。私も測距点が全51点となったD3、D300から、153点のD5、D500に至るまで、この9点や25点(D3/D4/D300は21点)のモードを多用し、あらかじめ被写体を画面内のどこに置くかを決めた上で使うことが多かった。

以下の作例では測距点選択をカメラ任せとするダイナミックAF、グループエリアAF、3D-トラッキング、オートエリアAFのそれぞれにおいて、測距点がどう動いたかを示す動画も合わせて掲載している。フォーカスポイントも重ねて表示しているのでフォーカスポイントがどのように動いているかの参考にしてもらいたい。ただし、グループエリアAFの場合は選んだパターンのみが表示されるため、実際に働いた測距点まではわからない。

自転車レース:ダイナミック9点AF

ニコンの推奨設定と同様、ニコン機で動きものを撮る際に多用したダイナミック9点を使って、実業団の自転車レースが行われる群馬のサーキットコースで、その競技シーンを撮影した。

E1クラスで先頭集団をコントロールし、トップを走るのは高岡亮寛選手(Roppongi Express)。東京・目黒区内で自転車店を営みながら、この11日後に鹿児島県佐多岬から北海道宗谷岬までの約2,600Kmを6日と13時間28分で走破。ギネス記録を更新した日本最強のホビーレーサーだ。当日は時折雨が降り、コースは木々の生い茂る森林内にあるため、輝度は照明に照らされる屋内競技にも近い状態だった。

下り左カーブの外でカメラを構え、飛び込んで来る高岡選手の顔をすかさず追う。このダイナミック9点AFは被写体認識まではされず、任意の位置で固定した9点の測距点に重なる被写体に対してAF追随を行う。そのため、画面右側にそのエリアを持ってくれば遠目にいる高岡選手も背景が左に寄る不安定な構図にならざるを得ない。

しかし、測距点を固定する古典的なAFというだけあって合焦率は見事だ。14コマ/秒での連写で最至近となる6〜7m先を横切るまでの全カットでAF追随・合焦が見られた。

D6 / AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VR(290mm) / シャッター優先AE(1/1,250秒・F4・±0EV) / ISO 5600

D5では太鼓を叩くような音を発していた連写音も、シャッターショックの低減とともに小さくなったように思える。ブレによる結像不足を避けるため、シャッタースピードは1/1,250秒にして、ISO感度はオートとした。結果としてISO 5600まで上がったので多少ノイズは見られるものの、画像のキレには満足できる結果となった。この露出値から、撮影現場の暗さを想像して欲しい。

決めカット

ダイナミック9点AFを何度か試し、いずれも好印象を得た。以降は新しく開始点が設けられたグループエリアAF、3DトラッキングAF、オートエリアAFなど、主に測距点を固定しないAFエリア設定を試したシーンをご覧いたただこう。

自転車レース:グループエリアAF

先のレースシーンと同じイベントの別クラス、E2カテゴリー72kmのゴールに飛び込んできたのは、鳥倉必勝選手(SBC Vertex Racing)。フィニッシュライン手前の数百メートルでライバルを引き離し、勝利のガッツポーズを決める。

D6 / AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VR(400mm) / シャッター優先AE(1/1,600秒・F4・±0EV) / ISO 500

測距エリア横は幅いっぱいの15点、縦は3列分を使うグループエリアAF(C1/C2)で設定する「15-3」を使った。

グループエリアAFは、基本的に測距点内に重なる被写体の中でもカメラ側に最至近となる所に合焦させるアルゴリズムを採用しているとのこと。しかし、以下の連写カットを見てもらえればわかるとおり、最至近となる鳥倉選手ではなく、後続から追う選手に合焦しているカットが見うけられる。

白いユニフォームの選手に合焦する様子から、恐らくコントラストの高い部分、もしくは輝度の高いところに影響を受けたと想像する。最終的には至近となる鳥倉選手へ合焦が戻り、彼を追った。

決めカット

ボートレース:3DトラッキングAFの精度は?

公営競技のモーターボートレース場に足を運んだ。色とりどりのウェアを着こむ選手に対して3DトラッキングAF(2007年にD3/D300で搭載されたモードだ)を試した。その仕組みは、測光用センサーで色情報を探り、狙った被写体の色を元にしてAF追随させる、というもの。初搭載のD3/D300では、明度や色相が近い別箇所を追ったりと不安定さが否めなかったため、以来あまり使っていなかったが、実用化から13年が経過したこのD6で、その進化具合を確かめた。

ボートレースの醍醐味は各選手が見せるターンでのライン取り。そしてそこでの接近戦だ。当然、舟券を買っていればフライング式スタートとこのシーンは見過ごせない。

ここでは目的の選手が着るユニフォームの色を認識し、光軸方向で重なり合う他選手に惑わされることなく目的選手を確実に追えるかどうかを試した。

撮影当日は雨こそ降らなかったが雲が低く垂れこめる空模様で、輝度もコントラストも低い状況であった。ターン標識となるコーン外側から、目当てとなる青の4号艇、吉田慎二郎選手のユニフォームを捉えてAF追随を開始。途中、ターン標識のコーンそのものや他選手が重なり合うが、コーンをクリアし直線へと立ち上がるまでの間、AFポイントとしては吉田選手のユニホーム、時に船首を追い続けた。使用したレンズは超望遠のAF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR。船首をAFで追っているが、焦点距離の関係から被写界深度が浅いため厳密には合焦の甘さが懸念された。しかし結果はご覧の通り、まずまずの結果が得られた。

D6 / AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR / シャッター優先AE(1/2,000秒・F5.6・±0EV) / ISO 640

3DトラッキングAFのメリットは、AFエリア内の全測距点を使って被写体を自動で追うため、測距点が固定されず自由な構図を随時選べることにある。そして近年の3Dトラッキングは顔認識にも対応するようになった。

だが、今や認識系のAFはミラーレスや一眼レフといった機構の垣根をまたぐほどの進化をみせている。同じく35mm判フルサイズ機のフラッグシップモデルであるキヤノンEOS-1D X Mark IIIがファインダー撮影時であっても瞳・顔認識、頭部認識AFに対応(iTR AF)していることをふまえると、位相差AFをいかしきるミラーレス機なみとはいえないまでも、その形状認識機能への期待を抱いてしまうことも確かだ。

決めカット

撮影に協力頂いた東京のボートレース平和島など、全国のボートレース場では一般入場者によるレース光景の撮影が許されているので、撮影技術やカメラの実力試しに足を運んでみてはいかがだろうか。その際は、申請も忘れずに。撮影前に場内にある「ファン相談室」等で書類記入の上、渡される腕章を着用しておこう。SNSなどへの投稿は「選手の肖像権もあるので常識の範囲で行って欲しい」(統括するボートレース振興会の弁)とのことだ。

競走馬:オートエリアAFは?

次に、AF開始点が新たに設けられた全105点から自動で被写体を追うオートエリアAFを、競走馬シーンで試した。撮影は東京・大井競馬場で、重賞のナイトレースとなる第27回マイルグランプリだ。

時計回りの最終コーナーから立ち上がり、ストレート勝負となるフィニッシュラインまでの数百メートル。画面内で先頭馬を捉えた段階で、御神本訓史ジョッキーが騎乗するミューチャリー号が先頭争いから抜け出していた。フィニッシュに近づくまでの連写中、御神本ジョッキーが勝利を確信して左手を上げた。

D6 / AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VR(300mm) / シャッター優先AE(1/1,600秒・F4・-0.7EV) / ISO 5600

このオートエリアAFは色情報で追う3Dトラッキングとは違い、エリア内の被写体を自動選択するというもの。3Dトラッキング同様に顔認識をさせるか、させないかが選べる。モードの名称からして、ミラーレス機Zシリーズの「ターゲット追尾AF」での形状認識とまではいかないだろうが、ある程度の形状認識を見込んで試写した。

全105点のうち任意の1点を開始点としてAFを開始させる。このAF開始点が設定出来ることで、3Dトラッキング同様に、追いたい被写体をその開始点で合焦・認識させ、測距エリア内でAF追尾させれば、構図の自由度が得られる。

動画でAFポイントの移動具合を見ると、途中、矢野貴之騎手の11番リッカルド号に合焦させたり、その間の本田正重騎手の7番グレンチェント号に合焦させたりしていることがわかる。形が変わりながら動く被写体を形状認識させるのは、やはり厳しいのだろう。このオートエリアAFを選んだ場合に、例えば、開始点で狙った被写体だけではなく、その後に最至近となる被写体を優先させるなどのモードがあれば、より良い結果になっていたかもしれない。

決めカット

なお、地方競馬であるこの大井競馬場でも競走馬に向けての撮影は可能だ。が、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から、無観客でのレース実施となっていたりなど、各競馬場では引き続き制限がかけられているところもあるため、事前に調べてから出向いて欲しい。

乗馬:オートエリアAFをチェック(その)

次に乗馬クラブにお邪魔した際に、子どもが乗るポニーにカメラを向けた。AFエリアをオートエリアAFとし、AF開始点を騎乗する子どもの顔に合わせる。顔認識AFをONとしたため、カメラ側に至近となるポニーの顔等にAFが引っぱられることなく人物を追うかどうかを試した。

D6 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(98mm) / シャッター優先AE(1/1,600秒・F2.8・-0.3EV) / ISO 400

ポニーの連写画像の動画、連写開始から最終カット分まで顔を中心とした上半身に対してエリアを定めて追っている。人物に対してAFを追わせる撮影意図があれば、この結果には満足だ。

このように、人物の顔認識AFをONにしていても人物を追わずに至近となるポニーにAFを合わせることもあった。顔認識をさせるにも顔が画面内で占める割合が小さいとその認識も難しいのかもしれない。

決めカット

乗馬:オートエリアAFチェック(その2)

こちらの動画では、開始から7カット目までは1と同様に顔を含めた上半身を中心に追う。しかし途中からポニーの顔周辺にAF対象が変わり、以降はそちらを追い続けけた。

D6 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(190mm) / シャッター優先AE(1/1,600秒・F2.8・-0.3EV) / ISO 320
決めカット

撮影:2020年7月

井上六郎

(いのうえろくろう)1971年東京生まれ。写真家アシスタント、出版社のカメラマンを経てフリーランスに。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。「今すぐ使えるかんたん 飛行機撮影ハンドブック」を技術評論社より刊行中。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。