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【徹底検証 ニコンD6】D5、D850から高感度画質はどう進化したのか

2020年6月、ニコンはフラッグシップ一眼レフカメラ「ニコンD6」を発売した。本機は2016年に発売されたD5の後継機で、スポーツや報道の分野でスチール撮影に取り組むプロユーザーに応える高速連写機能や堅牢性、高ISO時の低ノイズ性能などが期待されている機種だ。発売からだいぶ間があいているが、動体での撮影結果をじっくりと確認してきた。東京オリンピックの開催を目前にひかえ、カメラマン席で、まだまだ一眼レフカメラが並ぶことになるのか、はたまたミラーレス機に塗り替えられることになるのか、カメラ・写真好きの読者諸氏の関心も高まっているものと思う。今、ニコンのフラッグシップ一眼レフの到達点がどこにあるのか。あらためて感想とともに3回にわけてお伝えしていきたい。今回は本機の進化点と描写特性についてまとめていった。

D5からの進化点とは?

2020年夏の開催が予定されていた東京オリンピックは、この新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響をうけて、あえなく延期が決まった。が、いよいよ開催に向けての動きが本格化してきた。オリンピックイヤーといえば、各社フラッグシップ機のモデルチェンジが通例だ。2020年は厳しい状況ながら、キヤノンからEOS-1D X Mark IIIが2月に登場。遅れること6月に本機D6も発売。2大メーカー渾身のモデルが揃った。また、ソニーからもフラッグシップカメラα1が登場。いよいよ面白くなってきた。

キヤノンのEOS-1D X Mark IIIでは各デバイスを刷新して機能・性能ともに大きく様変わりし、静止画連写性能とRAW動画の撮影性能の進化が話題をさらった。一方で、D6は従来モデルのD5から撮像素子を据え置きとしたこともあり、少なからず進化の度合いが小さい印象があった。

前身のD5ではAF性能や高感度時のノイズレベルなど、スポーツ・報道分野の撮影で、特に重要視される描写性能で一定の評価を得ていることもあり、その完成度を継承・前進させるという意味で、AFと画像処理エンジンのデバイス更新に留め、静止画像に磨きをかけることに注力したモデルチェンジ、ということになるだろうか。

以下、主な進化点をおさらいしておこう。

[D5から更新された主要箇所]
・連写速度:秒12コマ→秒14コマ
・AFセンサー:153点→105点(D5は35点ダブルセンサー配列→D6は全105点トリプルセンサー配列)
・画像処理エンジン:EXPEED 5→EXPEED 6
・そのほか:Wi-Fi、Bluetooth、GPSを内蔵

[D5に同じ、据え置かれた主要箇所]
・撮像センサー:有効約2,082万画素

外観

前身のD5とほぼ同じボディ形状を採用しており、操作性は一貫している。ボディサイズや大口径化したマウント径とのバランスなど、同社のミラーレスカメラZシリーズと比べてしまうと、Fマウントのマウント径には目新しさすら感じてしまう。以下の製品写真ではゴムカバーをかけたままだが、Z 7/6で省略された10ピンターミナル(1992年登場のF90シリーズで搭載され、当初は「電子手帳」との通信に割かれていた)やシンクロターミナル(ISO519)は、前面右上に健在である。

ペンタ部にはGPSアンテナを内蔵。Lバンド帯の電波が受信できるように非金属素材が用いられている。

ファインダーアイピースは、ねじ込み式の丸枠ガラスピースの下にスライド式の大枠を備える二重タイプ。D5から採用している形で、レインカバー装着時などでは理に適うスタイルだ。ボディ本体側のファインダーには遮光用シャッターがつく。

露出モードや測光モードボタンがある左肩部のセレクターは、Wi-FiとBluetoothアンテナを内蔵するため背丈が高くなった。下部にあるレリーズモードダイヤルは指をあてる表出部分が小さくなっている。

本体左側面には各種周辺機器とのインターフェースがゴムカバー内に備わる。右上からUSB Type-C、Mini HDMI(タイプC)とその横にガイドピン穴、マイクとヘッドホンのジャック(ステレオミニ3.5mm径)、有線LANコネクタ(RJ-45)、左上は拡張無線LANユニットWT-6専用ソケットとなっている。

本体右側面、グリップ部の下側に盗難防止ワイヤーのケンジントンセキュリティスロット規格の穴が開けられている。大規模スポーツイベントの現場では、リモコン操作による無人運用や、プレスセンターでの作業中にカメラから離れる機会もあり、そうしたシーンでの使用を想定したものだ。

記録メディアはCFexpress Type BとXQDの両対応。D5ではXQDカード対応モデルと、CFカード対応モデルの2モデル展開となっていたが、D6はキヤノンEOS-1D X Mark IIIと同じくCFexpress Type Bのダブルスロット仕様となっている。

EOS-1D X Mark IIIのスロット仕様はCFexpress専用だが、D6ではXQDカードとの互換性を重視した仕様となっている。CFexpressカードは、高速な書き込み性能によりスムーズな書き終わりと素早いバッファメモリーの解放が特徴のメディアであるが、D6ではどの記録モードを使用しても連続撮影コマ数が200カットに制限されることになる。

手元のメディアを利用して実測値をとってみた。使用したカードはプログレードデジタルのCFexpress Type Bカード(COBALTおよびGOLD)と、レキサーのXQDカードだ。

14コマ/秒の連続撮影枚数で得られた結果は、実際の撮影可能枚数と書き込み終了までの時間では、大方の予想どおりSLCメモリーを採用するプログレードデジタルのCFexpress Type B COBALTが勝った。が、書き込み後のバッファメモリー解放時間はほとんど変わらなかった。

カードタイプD6 記録モードシャッター半押し時に液晶画面に表示された撮影可能数14コマ/秒連写で途切れるまで撮影できたカット数書き込みランプ消灯までの時間
プログレードデジタル:CFexpress Type B COBALT 1700R(650GB)CFexpress TypeBRAW+JPEG4587約7.6秒(平均)
JPEG89200
プログレードデジタル:CFexpress Type B COBALT 1600R(325GB)RAW+JPEG4594約7.9秒(平均)
JPEG89200
プログレードデジタル:CFexpress Type B GOLD 1700R(128GB)RAW+JPEG4584約10.1秒(平均)
JPEG89200
レキサー:Lexar Professional 2933x XQD 2.0 Card(128GB)XQDRAW+JPEG4584約7.6秒(平均)
JPEG89200

外観の最後は、底面。D5同様に1/4インチネジ穴とクイックシューなどを装着した際に、ネジ穴を中心に回転することを防ぐガイドピン用の穴が設けられている。

シリアル番号は伏せている

D5/D850との描写の違い

実際の撮影では、D5から踏襲した撮像センサーと、刷新された画像処理エンジンEXPEED
6のコンビネーションがつくりだす画づくりや、新たなAFセンサーが掌る「ニコン史上最強AF」の挙動とはどのようなものであるのかを掴むことに主眼を置いた。昨今の事情も鑑みて、スポーツ撮影は機材試用期間中に協力が得られた自転車競技や、その他公営競技などを対象としている。

先述したように、画像処理エンジンが新たに「EXPEED 6」に進化したことで、高感度時のノイズ低減などの画質向上には期待が持てる。そこで、「EXPEED5」を搭載する前身のD5との同被写体による感度別比較を実施した。また、同時にニコン一眼レフカメラでは最高画素(有効約4,575万画素)となるD850の画像も参考までに掲出している。なお歪み補正機能はD5、D850ともに使用していない。各比較画像に若干の画角変化があることはお許しいただきたい。レンズはAF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED SR VRを装着した。

比較1-1:ISO感度別の画質(D6の場合)

空港内に置かれたボーイング767-300型機にカメラを向け、機首のハイライト部が飽和しない程度に露出値を決めた。ISO感度を1段ずつ上げ、同じEV値となるシャッタースピードで撮影。機体前部から続く白のグラデーションの具合で階調変化も参考にできるだろう。まずはD6の場合をご覧いただきたい。

D6
ISO 100
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200
ISO 102400

比較1-2:機種ごとのISO感度別の違い

続けてD5との比較を見ていこう。参考として最右段にD850も掲出している(ISO 51200、ISO 102400は拡張となるため無し)。一見、大差がないように見える両機の描写だが、いずれの感度でも暗部にかけてやや明るめで、ノイズの発生も抑えられている。機体表面の文字ペイントにシャープさもある。黒文字の回りに若干のハロが出ているため、この鮮鋭感は明瞭度やシャープネスを上げたことによる作用かもしれないが、無理のない素直なメリハリだ。

ISO 100(左からD6、D5、D850。以下同)
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200
ISO 102400

D5との比較においてのノイズ低減や鮮鋭化については、Web上の製品ページを見る限り記載が確認できないが、十分に進化点として挙げて良いと感じる結果が得られた。昨今の一眼レフ機では撮像センサーに位相差AF機能を仕込むことでライブビュー撮影性能の向上をはかるケースが増えてきているが、あえて新画像処理エンジンのみで仕上げていることが奏功しているのだろう。

D6で撮像センサーが刷新されなかったことについて、当初は意気消沈させられたものの、この結果から考えるに、画像の鮮鋭感を優先させる戦略があったのだろうとも納得させられた。同じ20MPの画素数としてみてもEOS-1D X Mark IIIよりもシャープさでは上回っていると感じる。

比較2:拡張ISO感度の相違

常用最高感度であるISO 102400からは+5.0(ISO 3280000相当)までの拡張が可能だ。この上限値はD5と変わらない。掲出している画像は前記同一箇所からの切り出しだ。現在のコンシューマー機で最大となるISO感度設定値ながら、あくまで緊急用の域を出ていないことがわかる。

ISO 102400+1.0(左がD6、右がD5。以下同)
ISO 102400+2.0
ISO 102400+3.0
ISO 102400+4.0
ISO 102400+5.0

比較3:回折補正

絞りを絞り込むに従い解像感が失われる回折現象に対して、回析補正機能が備わった。ニコンではミラーレスのZ 7/6で搭載開始され、一眼レフ機ではD780に次いでの採用となる。

装着レンズ「AF-S NIKKOR 120-300mm f/2.8E FL ED SR VR」の最小絞りF22で回折補正のON/OFFと、F11の補正OFFを比べた。F22の補正ONを見ると、補正OFFに比べてシャープネスを強めにかけたように見える。F11の補正OFFと比較すると、回折現象そのものを消し去るまでではないことがわかる。

F22・回折補正OFF
F22・回折補正ON
F11・回折補正OFF
F22・回折補正OFF
F22・回折補正ON

井上六郎

(いのうえろくろう)1971年東京生まれ。写真家アシスタント、出版社のカメラマンを経てフリーランスに。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。「今すぐ使えるかんたん 飛行機撮影ハンドブック」を技術評論社より刊行中。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。