新製品レビュー

PENTAX K-1(外観・機能編)

待望の35mmフルサイズ 注目機能を詳しくチェック

リコーイメージングが4月28日に発売する「PENTAX K-1」の試作機を1週間ほど手元におく機会を得たので、私なりの感想をお伝えしようと思う。

最初にお断りしておくが、今回試用したK-1はまだ開発中のプロトタイプである。つまり完成したK-1ではない。表示メニューや撮影機能の一部も発売時には変更される可能性があることも御了承願う。

そんな事情から、画質評価は製品版で改めてお伝えすることとして、ひとまず外観と、K-1で導入された新機能について見ていきたい。とはいえ、K-1に興味をお持ちの方はすでに公式サイトなどを熟読のことと思われるので、各機能についてはおさらい程度にとどめ、実際に使ってみてどう感じたかという点に重きを置いて述べていきたいと思う。

スペックの概要

PENTAX K-1は、3,640万画素の35mm判フルサイズ相当の撮像素子を備えるデジタル一眼レフカメラだ。フルサイズ一眼レフ市場は幾つかのセグメントに分けられるが、K-1はニコンD810やキヤノンEOS 5Ds/5Ds R などが占める「高画素機」のマーケットに切り込んでいく形になる。

高画素機に期待される「高画質」を実現するための特徴として、K-1には偽色やモアレがない高精細写真を可能にするリアル・レゾリューション・システム(以下RRSと略)が搭載されている。それに加え、イメージセンサーの微小シフトを応用して、ローパスレス構造に由来するモアレを軽減するローパスセレクターも備えている。ローパスセレクターで物理的にモアレを回避できることを前提に、ローパスレスイメージセンサーから得られる鮮鋭性をフルに引き出していることがPENTAXの画質の基本であり特徴だ。

特殊な撮影機能として、内蔵GPSから得られる情報を元に計算した星空の動きを、撮像素子を動かすことで追尾し、簡易的に赤道儀のような撮影ができるアストロトレーサーも継承する。5軸対応・シャッタースピード5段相当の補正効果を謳う強力なボディ内手ブレ補正、防塵・防滴機構、-10度までの耐寒性能などの耐久性能と、ハイパー操作系などのPENTAXの伝統的な機能も余さず盛り込まれている。

さらに。今回K-1にはWi-Fi機能が搭載され、スマートフォンからのリモート操作や、撮影したファイルの転送・Web公開などの機能が利用できるようになる。今回はテストできなかったが、大きなポイントだろう。

引き締まった小型ボディは健在

K-1の大きさは幅136.5mm×高さ110mm×厚さ85.5mmで、本体内にバッテリーとSDカード1枚を入れた時の重さはおよそ1,010gになる。さすがに重さは他社のフルサイズ並みになっているが、高さが増えた以外、サイズはK-3 IIとほぼ変わらない。ペンタ部を強調したデザインのせいで一見大きく見えるが、実際には他社のAPS-Cフラッグシップより小さいくらいだ。「軽量」とは言い難いが、PENTAXらしく引き締まった小型ボディは健在と言っていいだろう。

バッテリーは従来と同じ「D-LI90P」が採用され、K-7、K-5、K-3系からの移行や併用に好都合だ。撮影可能枚数はCIPA標準条件で760枚となり、720枚であったK-3 IIより向上している。単三型電池の利用にはオプションのバッテリーグリップD-BG6が必要だ。

記録メディアはSDXC/SDHC/SDカードが使えるが、ダブルスロットのSD1/SD2はいずれもUHS-I SDR104対応に対応しており、90MB/秒クラスの高速UHS-Iカードを活用できる。K-3系ではWi-Fi機能付きカードはSD2のみ対応だったが、K-1ではSD1/SD2のいずれでも利用できるようだ。

ボディ左肩には動画撮影の為のマイクロフォン端子/ヘッドフォン端子を備える。K-1の動画機能は、ファイル形式がMPEG-4 AVC/H.264。フレームレートはフルHD(1,920x1,080、 60i/50i/30p/25p/24p)、およびHD(1,280x720、 60p/50p)に対応している。

その下にはUSB2.0/HDMI/DC8.3Vの外部接続端子が並び、ケーブルスイッチ端子はカードスロットの下にある。これらのレイアウトはお馴染みのもので、PENTAXユーザーならば戸惑うところは何もない。

645Z譲りの握りやすいグリップ形状

K-1のグリップは小指と薬指で握るあたりが前に大きく張り出した造形になっている。これは645D/645Zのグリップ形状を取り入れたものだそうだ。

K-1のグリップはK-3 II(写真右)とはかなり形状が違い、むしろ645Zに近い。

K-1よりはるかに重い645系ゆずりのグリップは、K-3 IIより200gほど増えた重量を「軽い」と感じさせる。6×7や645という中判カメラを作ってきたPENTAXの経験が大きくものを言った格好だ。

静粛なシャッター

シャッターは1/8,000秒〜30秒とバルブ撮影が可能な縦走りフォーカルプレーンシャッターを採用する。音質は軽く、小気味好く作動する。K-5 IIsの静かさには及ばないものの、K-3系よりは静かという印象だ。リアル・レゾリューション・システム撮影時には電子シャッターが作動するが、今のところ、電子シャッターを選択的に使用することはできない。

ミラーの大型化で撮影時の動作音が高くなる懸念もあったが、それは杞憂だったといっていい。画素ピッチが広くなり高感度性能に余裕が出たことと相まって、ライブイベントの撮影のような静粛性を求められる現場で相変わらずの強みを発揮できそうだ。

視野率約100%のペンタプリズムファインダー

K-1のファインダー構成図を見ると、ペンタプリズムとフォーカシングスクリーンの間に薄いレンズが1枚追加されている。

通例だと、この位置にあるのはコンデンサレンズである。コンデンサレンズにはファインダーを明るくする働きがあり、各社のフルサイズ一眼レフカメラには標準的に装備されている。しかしK-1のそれは非球面形状をしており、単純なコンデンサレンズではないように思われたので問い合わせをしたところ、「ディストーション補正レンズ」であるという回答を得た。

ペンタプリズムの直下、透過液晶/ファインダースクリーンとの間にディストーション補正レンズが配置されている

なるほど。私がブツ撮り専用に使っている他社フルサイズ機にはコンデンサレンズ由来の糸巻型のディストーションが認められるのに比べ、K-1の視野にはほとんど歪みを感じなかった。ファインダースクリーンのフレネルもごく控えめで、周辺部でもピントの山はつかみやすい。

透過型液晶スクリーン

ファインダー視野にはAFフレーム、スポット測光枠、測距点、方眼グリッド、電子水準器などが透過型液晶を用いてオーバーレイ表示される。

全表示状態。実際の表示は線が細いのでそれほど目障りではないが、少し整理したほうが使いやすい

それぞれの表示は個別にオンオフを設定できるので、MFの精度を重視するなら、不要な表示を消してしまったほうが集中できる。

とりあえず、私はスポット測光フレームを消して、AFフレームと測距点を残して使った。こうしておくと、普段はAFフレームだけが表示されたすっきりしたファインダーになる(私は測距点自動選択を基本にしているので、合焦した測距点以外は表示されない)。

AFフレームと測距点のみ表示した状態。AF作動時は合焦した測距点のみが表示される(測距点自動選択の場合)
通常のファインダー視野
合焦時の表示
設定状況

この設定に加え、スマートファンクションを「Grid」、Raw/fx1を電子水準器にセットしておけば、シンプルなファインダーで使いながら、いざとなれば水準器とグリッドをワンタッチで表示できるので非常に便利だった。

ところで。K-1に限らず、透過型液晶オーバーレイ表示を採用するカメラは、ファインダーの視度調節にあたって注意しなければならないポイントがある。構造的に液晶スクリーンとフォーカシングマット面が少し離れているので、測距点やスポット測光枠がクリアに見えるように視度を調整すると、肝心なマット面のピントが分かりにくくなってしまうのだ。中距離(2m程度)の被写体にAFで合焦させ、その像がクリアに見えるように調節すると、上手くいくはずだ。

フレキシブルチルトモニター

K-1の背面液晶は、上下左右、あるいは斜めにも自在に向きを変え、あらゆる方向からライブビュー撮影を可能にする。一見ギミックのようであるが、アクロバティックなセッティングを強いられることも多いプロの撮影現場では、こういう仕掛けがあるとちょいちょいと役立つ場面に出くわす。意外に実用的な機能だ。

モニターは4本のロッドでボディと連結され、ロッドのボディ側先端がレール上をスライドして、モニターが引き出される
格納状態
横位置の上方向はフレキシブルチルト+補助ヒンジで、90度余り開く。複写台に据えるためには必要な角度だ
下方向は44度まで開く

縦位置のハイアングル/ローアングルでのライブビューという活用はもちろんだが、少し工夫すれば、レンズの光軸とモニター(ライブビューファインダー)の中心軸を一直線に揃えることができる。小型のデジタル一眼レフカメラは背面液晶モニターが左に寄りがちだ。K-1なら背面液晶モニターを引き出して少し光軸側に寄せれば、被写体とレンズ、ファインダー、ライブビューモニターを理想的に配置できる。もちろん縦位置でも可能だ。

通常のティルト機構では、光軸からわずか左にずれた位置にモニターが置かれる(これでもかなりよく一致しているが)
フレキシブルチルト機構ならば、モニターを引き出して右寄りにずらして光軸上に置くことができる
平行に引き出した状態
左振り
右振り

撮影環境に素早く適応できる「アウトドアモニター」設定

十字キーの下ボタン(fx2ボタン)を押すと小さなメニューが開き、背面液晶モニターの明るさを素早く調節できる。-2/-1/ノーマル/+1/+2の5段階で、明るさだけではなくコントラストも変化する。

アウトドアモニター設定OFFの標準状態。
アウトドアモニターを+2設定にするとこんな感じ。ピーカンの晴天屋外に行くと、ちょうどよく見える。
アウトドアモニターの-2設定では、暗幕を引いた室内でようやく見える程度まで暗くなる。
アウトドアモニターの+1設定。通常の屋外にはちょうどいいくらいの明るさだ。
アウトドアモニターを-1に設定。通常のライブやステージ撮影ならこれで十分か。

アウトドアモニターは地味な機能だが。例えば、フレキシブルチルト機構がライブビューの角度に自由度を与えたとしても、液晶モニターがクリアに見えなければ全く意味をなさない。状況に応じた見やすい表示を実現するアウトドアモニターは、フレキシブルチルト機構の前提となる重要な機能なのだ。

暗所撮影を助ける「アシストライト」

照明ボタンを押すと、レンズマウント/カードスロット/背面モニターベース/ケーブルレリーズ端子に仕込まれたLEDと、右肩の情報表示パネル照明が点灯する。

照明ボタンはボディ右肩。ISOボタンの後ろにある
点灯はメニューから個別に設定することができる。

とても実用的な機能だと思うが、レンズマウント部の照明はレンズが外れている時だけ点灯するようにして欲しいと感じた。照明が必要なのはボディにレンズをはめるときだけなので。

その上で明るさもより細かく調節できるといい。白色LEDの眩しさは嫌われることも多いので、淡く点灯できればありがたい。

新搭載の「スマートファンクション」ダイヤル

スマートファンクションは、新たに加えられた2つのダイヤルを使って、撮影設定を直接操作できる機能だ。ペンタ部右側の「機能ダイヤル」で機能を選び、右手親指位置の「設定ダイヤル」でその値を設定する。

機能ダイヤルを「+/-」(露出補正)にセットしておけば、ハイパープログラムモードやTAvモード時に露出補正をダイレクト操作できるし、「ISO」(感度設定)を選んでおけば、オートISOでは不安定と思うときにすばやく感度変更できる。

ユーザー設定可能なコントロールパネル

infoボタンで呼び出されるコントロールパネルに、設定を頻繁に変える機能を置いておけば操作性が上がる。その内容をユーザーが編集できるようになったのも大きなポイントだ。

デフォルトの配置はこうなっているが、右下のAF補助光のオンオフなどは、めったに切り替えないはずだ。自分好みの内容にカスタマイズしてしまおう
コントロールパネル表示中に露出補正ボタンを押すと編集モードに入り、それぞれの位置のパネルの内容を変更できる
例えば私ならこんなセットが考えられる。最低感度の設定と収差補正のオンオフを表に出したかたちだ

ボタンの配置とデザインの変更

操作ボタンの配置が見直され、K-3系とは大きく変わっている。

右親指が自然にかかる特等席に、グリーンボタンと再生ボタンが配置された。使用頻度が低い「静止画/動画切替レバー」は軍艦部上面に移動した。AFボタンとAE-Lボタンは大きさと表面の曲率を変えて、区別しやすい設計に改められた。

K-3系でとても押しにくかった「測距点移動/カードスロット切替ボタン」の位置も改善された。K-1の切替ボタンは十字キーの土手にかかる位置にあるので、指先で見つけやすく、間違って押してしまうことも少ない。

再生ボタンとライブビューボタンの配置がK-3までと逆なので、慣れの問題でまだ間違えるけれど、私にはK-1のレイアウトの方が合理的だと思う。ボディが大きくなったこともボタン配置には有利に働き、左エプロンのAF切り替えスイッチも操作しやすくなっている。

動体補正オフが追加されたリアル・レゾリューション・システム

リアル・レゾリューション・システム(RRS)に、新たに動体補正OFFを選ぶ機能が追加された。

K-3 IIのRRSにも動体補正は組み込まれていたが、オフにする機能はなかった。静物撮影の際に被写体のパターンを動体と誤認識してRRSの効果が得られないケースが報告されたため、オフに設定できるようにしたものだそうだ。

RRS撮影例(動体補正オン)
参考(上のカットから切り出し):左が動体補正をオフにしたRRSショット。右が動体補正オンのRRSショット(K-3 IIと同じモード)

明瞭コントロール/肌色補正

画質設定機能に新しく「明瞭度コントロール」が加わった。画質設定のファインシャープネスなどがピクセル等倍での見えに影響するのに対し、明瞭度はプリンター出力時など、低周波の「シャープさ」に影響する画像処理である。風景写真のディテールをシャープに見せたり、ポートレートで陰影や肌目の荒さなどを抑えることができるそうだ。また、「肌色補正」は低周波のシャープネスを抑制しながら、人肌の色再現を好ましいものに調整するという機能。いずれも今回は十分なテストができなかったが、改めて試してみたい。

画質に余裕をもたらす3,640万画素。素晴らしい高感度性能

フルサイズ3,640万画素の撮像素子はK-3系のセンサーよりも画素ピッチが大きく、広いダイナミックレンジと高感度を可能にする。回折による小絞りボケにも強いので、絞り込んでパンフォーカスを狙うにも有利だ。

K-1はISO100から最高ISO204800相当という超高感度までを選択可能としている。十分なチューニングを受ける前の試作機とはいえ、実機が手元にあれば試してみたいのが人情というものだ。とりあえず操作系を使い慣れたK-3 IIと近いセッティングにして、AFポイントは33点自動選択、ISO自動設定範囲を100-6400にセットして街に出た。

新宿で見かけたストリートライブを撮影しているうちに、ISO6400でもK-3 IIのISO800程度のノイズの少なさであることに気づいた。試しに上限をISO32000に上げて撮影したが、これでようやくK-3 IIのISO1600に近いノイズの出方になった。ISO51200まであげるとそれなりに高感度っぽいノイズが乗ってくるが、十分実用になる。

HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / ISO5000 / F6.3 / 1/100秒 / -1.7EV / 45mm
HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / ISO12800 / F6.3 / 1/125秒 / -1EV / 68mm
HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / ISO51200 / F6.3 / 1/400秒 / -1EV / 68mm
HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / ISO32000 / F7 / 1/400秒 / -1.7EV / 73mm

演奏が終わった後、ゴールデン街に流れてなじみの店で、カウンターの向こうのママを撮影させてもらった。感度はISO6400以上にまで高くなったが、ノイズがほとんど目立たないだけではなく、ディテールが崩れていない事に感心した。

HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / ISO12800 / F6.3 / 1/100秒 / -1EV / 73mm
HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR / ISO6400 / F6.3 / 1/40秒 / -1EV / 88mm

ノイズレスというだけで良いならば、ノイズリダクションで塗りつぶしてしまえばいくらでも感度を上げられる。しかし塗り絵みたいな写真ならiPhoneで十分だ。K-1の高感度はシャープネスや質感描写も犠牲にしない。ISO1600やISO3200といった領域なら「精細」と表現してもいいくらいだ。

5,000万画素ないしは4,200万画素といったライバルの高画素機に比べ、3,600万画素というスペックは時代遅れという声もある。しかしフルサイズ5,000万画素のピッチはおよそ4.1μmでAPS-Cセンサーの2,000万画素クラスに等しく、4.9μmであるK-1のほうがダイナミックレンジや回折に関して有利と考えられる。有り体に言えば「5,000万画素が必要であれば645Zをお使いください」というのがPENTAXのスタンスだろう。

「画素数」は比例的に高画質を保証するものではない。K-1の目指すところは「ノイズリダクションを極力使わず、高い解像感と質感表現を保つ高感度」であり、そのためにあえて3,600万画素クラスに止め、余裕のある画質を求めているのだろう。

レンズシステムの現状

HD PENTAX-D FA 15-30mm F2.8 ED SDM WRを装着

レンズラインナップが貧弱とも言われるPENTAXだが、K-1用フルサイズ用レンズについてはかなり頑張って揃えてきている。とりわけ目を引くのが、70-200/2.8、28-70/2.8、15-30/2.8のいわゆる大三元ズームを最初から用意していることだ。「大三元など要らん」と言わんばかりに、F4通しのいわゆる「小三元」ズームを主力に据えてきた今までとは明らかに違う。

大三元トリオにHD PENTAX-D FA 150-450mm F4.5-5.6 ED DC AWを加えた4本のズームで15mmから450mmを隙間なくカバーし、APS-C用のDA銘ながら問題なくフルサイズに使えるレンズとして DA★200mm/F2.8、DA★300mm/F4、HD DA560mm/F5.6という望遠系単焦点もある。接写用にはD FA50mm/F2.8、D FA100mm/F2.8 WRの2本が用意されており、ほとんどの撮影領域に対して、すでに不足はないはずだ。

私が一番嬉しく思うのは15-30mm超広角ズームがラインナップされたことだ。超広角域ではレンズに対する要求解像力がとても高くなる。撮像素子が大きいフルサイズはAPS-Cよりも要求解像力が低い上に、実焦点距離も長いので超広角レンズの性能が出しやすい。

HD PENTAX-D FA 15-30mm F2.8 ED SDM WR / ISO200 / F7 / 1/250秒 / ±0EV / 26mm

HD PENTAX-D FA 15-30mm F2.8 ED SDM WRは、APS-CのDA12-24mmより画角が広く、明るいF2.8だ。広角レンズのためにフルサイズが欲しいと考えるユーザーにとって、このレンズがK-1と同時にデビューすることは福音だろう。

DAレンズでK-1を使うのはアリか?

既存のPENTAXユーザーの持っているレンズは、ほとんどがAPS-C用のDAレンズのはずだ。そうしたDAレンズのオーナーにとってK-1を使うメリットはあるだろうか。

フルサイズが広角に有利なのと対照的に、APS-Cは望遠撮影に有利だ。K-1と望遠系のDAレンズの組み合わせについて、私が所有するsmc PENTAX DA★ 60-250mm F4で試してみた。

DA★ 60-250mm F4はフルサイズ非対応のレンズだが、短焦点側の60mm域はフルサイズを十分にカバーする。120mm辺りまでは大きな破綻はなく、それを過ぎると徐々に周辺のケラレが出てくる。望遠端250mmでは四隅にケラレが生じ、画角周辺部にはかなり強い流れも見られる。

このレンズのズーム全域をフルレームで使うのは無理のようだ。しかし、被写体が近づいて60mmでも収まらない距離まで来たときに、撮像範囲をフルサイズに切り替えれば画角が広がり、被写体を捉え続けることができる。K-1ならスマートファンクションの機能ダイヤルを「Crop」にセットしておけば、この操作がファインダーを覗いたまま可能だ。

60mm・APS-Cクロップ
60mm・35mmフルサイズ

K-3 IIにつけたDA★ 60-250mmF4の画角は35mm判換算92-383mm相当の4倍ズームだが、K-1につければ35mm判換算60-383mmの6倍ズームのような画角変化を得られるわけだ。妙な理屈だけれども。

APS-Cクロップ・250mm
フルサイズ・250mm
フルサイズ・60mm

次は動体AFを試した。ここではK-1に与えられた事実上のトラッキングAFが威力を発揮してくれた。

AF-Cで1点+補助(全域)にAFターゲットをセットして、測距点をレリーズ開始時に車両の先頭に合わせて追尾を開始すると、リアルタイムシーン解析システムとAFが連携して先頭車両にピントを合わせ続ける。何もしていないのにファインダーに表示される測距点が車両の先頭を追尾していくのには感心した。このように大きくて一方向に動く被写体ならば、トラッキングAFに任せても大丈夫のようだ。

フルサイズ用にデザインされたAFポイントの配列は、クロップされたAPS-Cの画面をほぼ全域カバーしているので動体追尾に有利だ。連続撮影速度もクロップ時には最高6.5コマ/秒まで上がり、実写でも5〜6コマ/秒で作動しており、経験的にはK-3 IIよりも有効打の数はいい。総合的に考えると、PENTAXで動体を撮りたいカメラマンにとって、今までのレンズ資産をクロップで使う事を前提に、ボディだけをK-3 IIからK-1にスイッチする事も十分検討に値しそうだ。

満を持して投入された“フルサイズ”

Kシリーズの開発を通じてAPS-C撮像素子の限界を追求する過程で、PENTAXはフルサイズ機を求める声にあえて目をつぶってきたように思う。そのために、フルサイズ機こそ一流と信じる写真愛好家からは、ブランドイメージを一段低く見られていたことは否めないだろう。しかし一方で、中判デジタル一眼レフとしてPENTAX 645D/645Zを送り出し、プロ写真家から高い評価を受けてきたのもPENTAXの真実だ。その上で満を持して投入されたフルサイズPENTAXがこのK-1である。

フレキシブルチルト機構やスマートファンクション等の、いかにもな新機軸が目立つため、K-1はギミック満載のカメラとして話題になっているようだ。しかし、それらは決して単なるギミックではなく、撮影現場からの要望に応え、問題を解決するために技術者が心血を注いで開発したものであり、悪条件下の撮影で頼もしくカメラマンをサポートしてくれるはずだ。

一方、目立たないけれども着実に進歩している部分もある。例えば、8.6万画素RGBセンサーを利用したシーン解析やトラッキングAFも、K-3系ですでに搭載されたていたものとはレベルが違い、K-1では実用的なトラッキングAFに仕上がっている。また、操作系のボタン/ダイヤル類、グリップなどの手で触れる部分の形状・タッチは、645Zからの知見をもとに徹底的に吟味され、プロ用カメラにふさわしい操作感を実現している。

試作機ということで手心を加えて評価しなければならないかと思っていたが、今回試したベータ機でも十分に納得できる仕上がりであり、K-1がKシリーズのフラッグシップにふさわしいカメラであることを確認できた。

子細な画質評価は製品版を待たねばならないが、発売前に一層ブラッシュアップされることは間違いないだろう。私自身もすでに購入を予約しており、日々の撮影の中で使い込んでいく中で見つけたK-1の魅力や活用法について、折にふれて言葉にしていきたいと考えている。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://dannnao.net/